最新民事法判例

最判平成19年04月03日

【事案】

 統合失調症により上告人の開設する精神科病院であるA療養園(以下「療養園」という。)に入院していたBが,消化管出血により多量の吐血,嘔吐をした際に吐物を誤嚥して死亡したことについて,Bの両親であり,相続人である被上告人らが,療養園の医師にはBを適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った過失があるなどと主張して,上告人に対し,債務不履行に基づく損害賠償を求める事案

【判旨】

 Bは,平成13年▲月▲日午後3時30分の時点で,発熱,脈微弱,酸素飽和度の低下,唇色不良といった呼吸不全の症状を呈していたが,心拍数は78であって頻脈とはいえず,酸素吸入等が行われた後の同日午後4時30分の時点では口唇及び爪のチアノーゼや四肢冷感はなく,体動も見られたというのである。また,記録によれば,同日午後3時30分ころのBの収縮期血圧は96であって,この時点で血圧が急激に低下したような形跡はなく,嘔吐,吐血,下血,激しい腹痛といった,循環血液量減少性ショックの原因になるような多量の消化管出血を疑わせる症状があったこともうかがわれない。さらに,前記事実関係によれば,病理解剖の結果,空腸に穿孔が見られたが腹膜炎等の所見はなかったというのであるから,上記の時点でBが胃の内容物で腹腔内が汚染されたことによる感染性ショックに陥っていたとも考え難い。これらの事実に照らすと,同日午後3時30分の時点でBが発熱等の症状を呈していたというだけで,Bの意識レベルを含む全身状態等について審理判断することなく,この時点でBがショックに陥り自ら気道を確保することができない状態にあったとして,このことを前提に,療養園の医師に転送義務又は気道確保義務に違反した過失があるとした原審の判断は,経験則に反するものといわざるを得ない。
 以上によれば,療養園の医師に転送義務又は気道確保義務に違反した過失があるとした原審の判断には,経験則に反する違法があり,この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨のうちこの趣旨をいう点は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は,その余の点につき判断するまでもなく,破棄を免れない。そこで,Bが平成13年▲月▲日午後3時30分の時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否か等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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