最新地裁公法裁判例

京都地裁判決平成19年03月23日

【事案】

 原告らが,被告が「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(平成15年法律第137号。以下「イラク特措法」という。)及び同法第4条に基づいて定められた「イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画」に基づき,自衛隊をイラク共和国(以下「イラク」という。)並びにその周辺地域及び海域に派遣することは,原告らの「平和を求める良心」(憲法前文,9条,13条,19条)を違憲,違法に侵害するものであることを前提に,被告に対し,@平和を求める良心の有する人格権的効力に基づく妨害予防請求権として自衛隊のイラク等への将来の派遣禁止を,平和を求める良心の有する人格権的効力に基づく妨害排除請求権として,自衛隊のイラク等からの撤退をそれぞれ求める(以下,これらの請求を「本件差止請求等」という。)とともに,A国家賠償法1条1項に基づき,平和を求める良心を侵害された精神的苦痛に対する慰謝料としてそれぞれ1万円宛及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

【判旨】

 イラク特措法の各規定に照らすと,イラク特措法による自衛隊のイラク等への派遣は,イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限で公権力の行使を本質的内容とするものと解されるから,自衛隊のイラク等への将来の派遣禁止及びイラク等からの自衛隊の撤退を求める本件差止請求等は,必然的に,防衛大臣の上記行政権の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものといわなければならない。そうすると,原告らは,被告に対し,上記のような私法上の給付請求権を有するものではないから,本件差止請求等の訴えは不適法である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。

 平和を求める良心につき検討するに,確かに,憲法は,前文において,恒久の平和を念願し,全世界の国民が平和のうちに生存する権利を確認することをうたい,9条において国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を放棄し,戦力を保持せず,国の交戦権を認めない旨規定しているが,憲法前文は,憲法の基本的精神や理念を表明したものであって,それ自体が国民の具体的権利を定めたものではなく,また,憲法9条も,国家の統治機構ないし統治活動についての規範を定めたものであって国民の具体的権利を定めたものではない上,平和とは理念ないし目的としての抽象的概念であり,一義的なものではないことに照らすと,国民が被告に対し平和の実現を求める具体的権利を有しているとか,国民が被告に対し平和を実現することを信頼する具体的権利を有しているとはいえない。したがって,平和を求める良心は,具体的権利ないし法的保護に値する利益ではない。

 イラク特措法に基づくイラク等への自衛隊の派遣により,原告らが具体的権利ないし法的保護に値する利益を侵害されたか否かにつき検討するに,イラク特措法に基づくイラク等への自衛隊の派遣により,原告らの生命・身体に対する危険が具体的に生じていると認めるに足りる証拠はない。また,イラク特措法に基づくイラク等への自衛隊の派遣により原告らが,不快感,嫌悪感を感じたとしても,間接民主制の下においては,国家の措置・施策が個々の国民の信条,信念,憲法解釈等と相反する事態が生じることは当然に予定されているから,国家の措置・施策に対する国民の内心的感情が国家賠償法により保護に値する利益であるということもできない。

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