最新地裁公法判例

東京地裁判決平成19年03月23日

【事案】

 被告法務大臣が,平成16年1月20日付けで,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。ただし,条文を伴う場合は,特記しない限り,平成16年法律第73号による改正前のものをいう。)49条1項に基づく原告らの異議の申出は理由がない旨の裁決を行い,続いて,被告東京入国管理局主任審査官が,同各裁決に基づいて原告らに対し,平成16年1月28日付けで退去強制令書の発付処分を行ったところ,原告らが,自分らに在留特別許可を与えないでした上記各裁決には裁量権の範囲の逸脱・濫用があること等を理由に,上記各裁決及びこれに基づく上記各退去強制令書の発付処分は違法であるとして,上記各裁決及び各処分の取消しを求めている事案。

【判旨】

 国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは,専ら当該国家の立法政策にゆだねられており,当該国家が自由に決定することができるものとされているところであって,我が国の憲法上も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利(又は引き続き在留することを要求し得る権利)を保障したり,我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けたりしている規定は存在しない。
 また,入管法50条1項3号も,「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と規定するだけであって,考慮すべき事項を掲げるなど,その判断を羈束するような定めは置かれていない。そして,こうした判断の対象となる外国人は,同法24条各号が規定する退去強制事由のいずれかに該当し,既に本来的には我が国から退去を強制されるべき地位にある。さらに,外国人の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持を目的として行われるものであって,その性質上,広く情報を収集し,その分析を踏まえて,時宜に応じた的確な判断を行うことが必要であり,高度な政治的判断を要求される場合もあり得るところである。
 以上の点を総合考慮すれば,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられているのであって,法務大臣は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。そして,在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した場合に限られるものと解するのが相当である。

 原告らは,原告A及び同Bは本邦に5年以上平穏に生活しており,また,原告Cは,本邦で出生し,一貫して本邦内で生活を送っているものであって,日本社会との結び付きは極めて強いものがあるから,「定住外国人」としての地位を有しており,また,原告Aは,兵役忌避者として迫害を受けるおそれがあることから難民の地位にあるとした上,こうした地位にある者については,一般外国人と異なり,本件各裁決によって達成される利益が,原告らの被侵害利益を上回るものであることが明白であることを被告らにおいて主張立証すべきであると主張している。
 しかし,不法滞在を続けた場合に,生活の必要その他の事情から,日本社会との様々な結び付きが生ずることは当然のことであり,その期間が長くなればなるほど,その結び付きが強まることも一般的に起こり得ることといえるが,そうした状況は不法滞在という違法状態の上に築かれたものであることは否定できないのであって,それだけで法的保護の対象となり得るものではない。少なくとも,外国人の在留を認めるか否かについて法務大臣が行使する裁量権の範囲を制限するような,特別な基準を設ける根拠にはなり得ないというべきである。

 法務大臣が在留特別許可を付与するかどうかを判断する際,家族の統合や未成年者の家族からの保護,児童の最善の利益,親子が分離されないことの確保の要請が,考慮要素となり得ることを踏まえたとしても,本件各裁決において,その判断が事実の基礎を欠いたとか,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえず,裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとはいえないから,これを違法ということはできない。

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