最新地裁民事判例

東京地裁判決平成19年03月26日

【事案】

 被告の開設する歯科医院において歯の補綴治療を受けた原告が,被告に対し,@原告の要望どおりの形状の補綴物を製作する旨の合意があったにもかかわらず,その債務の不履行(不完全履行)があったと主張して,診療契約の解除による原状回復請求権に基づき,既払いの補綴治療費の返還を求め,また,A診療契約の締結に際し,原告の要望どおりの形状の補綴物の製作は不可能であることなどを説明すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったと主張して,債務不履行又は不法行為に基づき,上記補綴治療費相当額の損害の賠償を求めている事案。

【判旨】

 いわゆる診療契約は,歯科に係るものも含めて,一般に,その性質上,医師ないし歯科医師が結果の達成(仕事の完成)を請け負う契約ではなく,医師ないし歯科医師が医学的な知見及び技術に基づき最善を尽くして診療を行うことを委託されるという準委任契約であると解される。そして,医師ないし歯科医師は,専門家として,患者の要望が医学的に相当でない場合には,これに従ってはならないというべきである。
 本件のような歯の補綴治療に係る診療契約についても,程度の差はあっても,事は同様である。すなわち,歯の補綴治療においては,失われた歯質ないし歯を人工物(補綴物)によって補う治療であるがゆえに,医学的見地からして,食物を摂取するための咀嚼等の機能の回復ということが重視されなければならないし,他の疾患を惹起させないようにすることも重視されなければならないのであって,歯科医師としては,患者から審美的な観点等での要望があったときでも,それが上記のような医学的見地からして相当でない場合には,これに従ってはならないというべきである。また,上記のような重視すべき点を考慮して補綴治療を行わなければならないことから,単に物を作るのとは異なって,あらかじめ補綴物の形状等の結果の達成を約束することができるような性質のものではない。
 以上のとおりであるし,B医師は,本件診療契約締結の際,原告からの要望に対し「歯科技工士と相談, しながら,できる限り要望に沿うように努める。」旨を述べたというのである・・から,本件診療契約においては,原告主張の如く原告の要望どおりの補綴物を製作する旨が合意されたとは認められず,被告において,医学的に相当な範囲で,できる限り原告の要望に沿うような補綴物を製作することに努める(最善の努力をする。)という債務を負っていたにすぎないというべきである。
 上記のとおりであるから,本件において,原告の要望どおりの補綴物が製作されなかったとしても,そのことから直ちに被告に債務不履行があるということはできない。

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