最新下級審裁判例

函館地裁平成19年03月29日

【事案】

1 被告人は,平成13年8月ころA(以下「被害者」と略記することがある。)と知り合い,平成14年6月ころから,被告人方で同棲を始めた。
 暴力団構成員であった被害者は,被告人や同人の長男であるBに対して暴力を振るったり,脅迫的な言動に及んだりすることがあり,さらに,平成18年5月ころからは,被告人の長女(当時中学3年生)に対して性的虐待を繰り返すようになった。
 被告人は,同年7月ころ,長女から,被害者によって何回も性的虐待を受けていることを打ち明けられたことから,同年8月下旬ころ,その点を被害者に追及したが,被害者は,被告人や同人の長女らが言うことを聞かないのが悪いなどと開き直る態度を取り,同年9月ころには,両名に対して,同時に口淫するように強いた上,今後も長女に対して繰り返し性的虐待を行うという態度を明らかにした。
2 被告人は,このような暴力行為や性的虐待に憤ったものの,被害者のことが怖かったということもあって,警察などに相談することにもためらいを覚え,同年10月10日,Bに対し,長女が被害者にレイプされてもう我慢できない,もうやるしかないなどと被害者を殺す意思があることを告げ,同月11日,再び,被害者を今週中にやるなどと言ったところ,Bも,被告人とともに被害者を殺害することを決意した。
 そこで,被告人とBは,同月12日に被害者の殺害方法等について話し合い,被害者に睡眠薬を服用させて,眠らせた上で殺害すること,犯行に気付かれないように,同居していた被害者の長男や被告人の長女にも睡眠薬を服用させること,凶器として自宅の小刀を使うこと,殺害後,被害者の死体を公園に遺棄することなどを取り決めた。
 被告人は,同月15日,長女から,同月14日にも被害者によって性的虐待を受けた旨を聞いて被害者を殺害する意思を強くし,夕食のカレーに精神安定剤を混ぜて被害者らに与えたが,薬が効かなかったことから,その日は,殺害を実行するには至らなかった。被告人は,同月16日及び17日にも,夕食のみそ汁に精神安定剤を混ぜて被害者らに与えたが,やはり薬の効き目が弱かったことから,被害者の殺害を実行するには至らなかった。
3 そうしたところ,被告人の長女は,同月16日,在籍している中学校の教諭に被害者から性的虐待を受けた旨を相談し,同月18日,児童相談所に保護された。被告人は,長女が児童相談所に保護されたことを被害者が知れば,被告人らに対してより激しい暴力を振るうのではないかなどと考え,同日,児童相談所に長女の保護をやめるように掛け合ったものの,保護が解かれなかったことから,この日のうちに被害者を殺害しようと決意し,自宅でBに「今日やるからね。」などと告げた。Bもこれに同調し,被告人とともに,小刀で被害者を刺し,公園に死体を遺棄することなど,被害者の殺害方法等を再度確認した。
4 被告人は,同日午後6時ころ,被害者に,夕食のみそ汁に睡眠薬8錠を混ぜてこれを服用させ,その後,同人の長男に対しても,清涼飲料水に睡眠薬を混ぜてこれを服用させたところ,被害者は同日午後9時ころに,被害者の長男は同日午後10時ころまでには,それぞれ眠りに就いた。Bは,同日午後10時過ぎに帰宅したが,被告人の指示を受けて,いったん裏口から入った後,被害者の長男に対し被害者が外出したように見せ掛けるため玄関から外出し,その約5分後に,今帰ってきたように見せ掛けるため再び玄関から入った。
 その後,被告人とBは凶器の小刀や軍手などを準備したが,すぐに被害者を殺害すると,解剖の際に睡眠薬の成分が検出されて自分達に嫌疑が掛かるのではないかと考え,服用させた睡眠薬の消化を待つために被害者殺害を翌19日午前零時ころに実行することとし,被害者が就寝していた和室の隣の部屋で被害者の様子をうかがいながら時間をつぶした。被告人は,同日午前零時15分ころ,Bとともに被害者が就寝している上記和室に入り,小刀を両手で逆手に握って被害者を刺す構えをしたが,怖くなって殺害をためらい,Bから促されて隣の部屋に戻った。Bは,被告人に「俺も持つから。」などと言って,殺害実行を促し,被告人及びBは,同日午前零時30分ころ,後記「罪となるべき事実」第1記載の殺害行為に及んだ。
5 殺害後,被告人とBは,室内に付いた血を拭いたり,被害者が外出時に殺害されたと見せ掛けるために同人の服を取り替えたりした上で,死体を公園に遺棄するため,Bがこれを背負って自宅を出たが,運ぶのに疲れて公園に遺棄することを断念し,途中の空き地に死体を放置して,後記「罪となるべき事実」第2記載の死体遺棄行為に及んだ。
 被告人とBは,帰宅後,畳の血を拭いたり,血の付いた被害者の服やタオル等をごみ袋に入れて隠したり,小刀を隠すなどした。

【判旨】

 被害者は,被告人らの刺突行為の3時間以上前から眠り続けていたのであるから,およそ,被告人らが被害者の殺害に及んだ際に被害者による急迫不正の侵害があったといえる状況にはなく,被告人に過剰防衛が成立する余地はない。

 弁護人は,同月17日午後10時ころ,被害者が包丁を持ち出して被告人及び長女に対し性交を迫ったことは強姦の実行の着手に当たる上,その後被害者が被告人らを姦淫することなく眠りに就き,同月18日になっても断続的に眠っていたのは被告人が数回にわたり密かに被害者に服用させた睡眠薬の作用によるものであるから,この間,一時的に侵害行為が停止していたとしても,被告人らに対する急迫不正の侵害は,本件殺害行為の時点でもなお継続していたと評価すべきであると主張する。この点,同月17日夜の被害者の行為が被告人や長女らに対する侵害行為にあたるとしても,その後,被害者は本件被害に遭うまで1日以上の間,被告人やその長女らに何らの侵害行為を行っておらず,その素振りさえも見せていないのであり,これが被害者の意思によるものか被告人の投与した睡眠薬の影響によるものかにかかわらず,被害者による侵害行為が継続していたとみる余地は全くなく,弁護人の主張は採用できない。

 

札幌高裁平成19年03月30日

【事案】

 大学在学中に疾病・受傷によって障害を負った控訴人らが,障害基礎年金の支給裁定を求めたところ,北海道知事から,支給要件を認定すべき日において国民年金に任意加入しておらず,被保険者に当たらないとして,障害基礎年金を支給しない旨の決定を受けたため,機関委任事務制度の廃止により障害基礎年金の裁定に関する権限者となった被控訴人社会保険庁長官に対し,学生を国民年金の強制適用の対象から除外した国民年金法の規定が憲法に違反する等と主張して,各不支給決定の取消しを求めるとともに,被控訴人国に対し,適切な立法措置を講ずることを怠った違法があるとして,国家賠償法1条1項に基づき,各2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案

【判旨】

 憲法14条1項は法の下の平等を定めているが,この規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理的な根拠に基づくものである限り,何らこの規定に違反するものではないと解するのが相当である。そして,法的取扱いに区別を設けた立法が憲法14条1項に違反するか否かについては,その立法理由に合理的な根拠があり,かつ,その区別がその立法理由との関連で著しく不合理なものでなく,いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り,合理的理由のない差別とはいえず,これを憲法14条1項に反するということはできないというべきである。
 これに対し,控訴人らは,合理的な理由の有無につき,@立法目的が重要なものであるか,Aその目的と規制手段との間に事実上の実質的関連性があるか否かの審査をすべきであり,本件に即して言えば,20歳以上の学生を被保険者から除外した立法目的を検討し,その立法目的を実現するための手段として20歳以上の学生を被保険者から除外し,任意加入制度の下においた手段が立法目的と実質的な関連を持つのかを審査しなければならない(いわゆる厳格な合理性の基準によるべきである)と主張する。そして,このような控訴人らの主張に沿う学説があり,この学説には傾聴すべき点もあるけれども,最高裁平成7年7月5日決定の判旨に従う限り,最高裁判所は,「厳格な合理性基準」を採用していないことは明白であって,当裁判所も,この最高裁判所の判旨に従うので,上記控訴人らの主張は採用できない。

 立法理由は,必ずしも法律が制定された当時に議論されたものに限定する必要はなく,立法者が認識でき,当然考慮すべき理由についても合憲性の判断の際には考慮できると解するのが相当である。そして,上記立法理由は,立法者である国会及び法律の所管官庁である厚生省(当時の名称)において,認識でき,かつ,当然考慮すべき理由であって,現に考慮した理由であると推認できる

 国民年金法は,憲法25条の趣旨に基づく立法であるところ,憲法25条1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」とは,極めて抽象的・相対的な概念であって,同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用と見ざるを得ないような場合を除き,違憲となるものでないというべきである。

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