最新下級審裁判例(民法)

青森地裁判決平成19年03月30日

【事案】

被告D市(以下「被告市」という。)が設置するD病院(以下「被告病院」という。)において出生した原告A並びにその両親である原告B及び同Cが,原告Aが脳性麻痺に罹患したのは,診療契約上の善管注意義務違反又は診療における過失が原因であると主張して,@原告Aは,被告市に対しては債務不履行責任又は不法行為責任に基づき,被告病院における担当医師であった被告Eに対しては不法行為責任に基づき,A原告B及び同Cは,被告市及び同Eの双方に対して不法行為責任に基づき,それぞれが被った損害の賠償及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成16年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

 本件胎児(すなわち原告A)は,出生前には,当日午前のモニタリングの段階での状態は良好であり,また,本件モニタリングの段階でも,軽度頻脈を呈し,低酸素状態に至っていた可能性が否定できないとはいえ,基線細変動は減少,消失しておらず,また,変動一過性徐脈の程度が中等度で,必ずしも頻発しておらず,低酸素症・代謝性アシドーシスには陥っていなかったというのに,出生後には,低酸素性虚血性脳症に陥って脳性麻痺に至ったというのである。以上の経過にかんがみれば,原告Cが分娩室に入室した午後3時から分娩に至った午後5時までの間に,本件胎児が低酸素症・代謝性アシドーシスに陥ったことは明らかである。したがって,被告Eは,午後3時以降直ちに本件胎児に対するモニタリングを再開して本件胎児の状態を注意深く観察していたならば,その間に本件胎児の状態が悪化していることを認識することができたものと推認される。

 原告Aは40週6日で出生した体重3488gの成熟児で,分娩時間も20時間4分にとどまっており,分娩前の母体及び胎児のリスク因子は全く認められず,さらには,分娩直前又は分娩中に子宮破裂,常位胎盤早期はく離,臍帯脱出,母体心肺停止,大量出血を伴う前置血管又は胎児母体間輸血など急性低酸素状態を来すような事象も起こらなかったことに加え,本件モニタリングの計測結果によれば,本件胎児の中枢に障害が生じるまでには至っていなかったものの,午後3時前から本件胎児が低酸素状態に陥っていたという可能性が否定できず,その後,その状態が更に悪化するおそれがあったこと,及び,原告Cの子宮口全開大から分娩までに約2時間を要したことに照らすと,原告Aの脳性麻痺の原因となった低酸素状態が相当な長時間にわたって継続した可能性が高いというべきであるから,被告Eが,モニタリングにより本件胎児の状態が悪化していることを認識した時点で,速やかに吸引・鉗子分娩あるいは帝王切開術等の急速遂娩術を施行して,本件胎児を早急に娩出させていたならば,原告Aが脳性麻痺を発症しなかったという高度の蓋然性があったものと推認するのが相当である。

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