平成18年度新司法試験短答式
刑事系第1〜10問解説

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【第1問】

アについて

成立しない。
「他人の」に当たらないからである。

イについて

成立する。
「公務所のように供する文書」の範囲はかなり広い。
公文書か私文書かを問わず、公務所において使用目的で保管されているものをいう。
偽造文書・未完成文書・保存期限を経過した文書なども含む。
昭和時代の旧試験においてさえ、やや細かい部分といえたところである。
個別正誤でこれを訊いてくるのは厳しい。
新司法試験では、昭和時代の刑法過去問もやっておくべきといえるだろう。

ウについて

成立する。
説明不要だろう。

エについて

成立しない。
公然性を欠いている。

オについて

成立する。
犯人の親族への蔵匿教唆という論点である。
判例は一貫して肯定説に立つ。
また、暴行は「罰金以上の刑に当たる罪」である以上、乙の錯誤の問題は生じない。

【第2問】

Aの採る見解について

正当防衛は正対不正の場合に成立する。
従って、緊急避難が違法性を阻却すれば、正当防衛は成立しない。
よって、正当防衛を否定するAは違法性阻却説に立つ。

1について

Aに関する記述として正しい。
制限従属説からは、違法が連帯し、責任は個別的となる。
よって、正犯が違法でなければ、従犯も違法でないことになる。

2について

Aに関する記述として正しくない。
違法阻却を結果無価値から説明する場合、優越的利益の保護に求めることが一般である。
よって、矛盾しない。

3について

Aに関する記述として正しくない。
他人のための緊急避難については、動揺狼狽といった責任減少を認めにくい。
よって、これは責任減少説に対する批判である。

【第3問】

Cについて

「意思決定過程に瑕疵があるとはいえ・・・自殺関与罪が成立する」という文脈からは、「自ら死を望んでいる」しか入らない。
よって、Fが入る。

Bの肢について

「一時仮死状態にはなるが蘇生する」ということは、死亡の認識が無いということである。
よって、Aではなく、@に入る。

以上から、正解は5となる。

【第4問】

イについて

「違法の連帯性、責任の個別性」というキーワードから、Uが入る。

Aについて

「違法身分・責任身分」というキーワードから、aが入る。

アについて

「共犯の従属性を徹底」=罪名従属性重視=団藤大塚説となる。
よって、Vが入る。

@について

団藤大塚説に対する批判であるcが入る。

ウについて

ア・イが確定しているので、残るT説となる。

Cについて

ウ=T説(判例通説)からは、dの結論となる。

以上から、正解は5となる。

【第5問】

アについて

横領罪となる。
代金受領後であるので、「他人の物」といえる。
抵当権設定は、所有者にしか出来ない処分行為である。
よって、不法領得意思の発現行為たる「横領」といえる。

イについて

背任罪が成立する。
Aへの返還は、不法領得意思の発現とはいえず、横領は成立しない。
他方、甲は乙の事務処理者といえ、Aへの返還は乙に財産上の損害(質権の対抗力喪失)を与える任務違背行為といえる。
甲の図利加害目的は若干不明の感もあるが、肯定するのが自然だろう。

ウについて

業務上横領罪・背任罪のいずれが成立するか明確でない。
判例はこのような事案につき、明確な判断をしていない。
新薬産業スパイ事件・新潟鉄工事件・綜合コンピューター事件などは、いずれも地裁裁判例に過ぎない。
最も事案が近いのは綜合コンピューター事件であり、出題者はこの事件を念頭においていたかもしれない。
この事件で、東京地裁は背任罪を成立させている。
しかし、本肢と事案が同じとは言い切れないので、業務上横領の余地も残されていると思う。
財物性については、情報の化体したCD−ROMについては肯定することで問題ないだろう。
主な問題点としては、甲の不法領得の意思と占有の有無である。
いずれについても、肯定する余地は十分ある。
よって、本肢は保留した方が無難と思われる。

エについて

背任も横領も成立しない。
甲は乙の事務処理者でなく、乙から占有を委託されたというわけでもないからである。
また、本肢のような未必的認識程度では、Aとの横領の共犯も無理である。

オについて

背任罪が成立する。
典型的な二重抵当の事案である。
横領については、「他人の物」にあたらない(乙は抵当権者にすぎず、所有権者でない)から、成立し得ない。

以上から、正解は5となる。

【第6問】

Dについて

入りうるのは、eかfである。
そして、刑の時効というのは、有罪判決確定後の話である(刑法32条)。
よって、f公訴時効が入る。

Fについて

「後者の考え方」とは、「法益侵害を基準にする考え方」である。
そうすると、移動の自由という法益侵害の継続を理由とするjが入る。

@について

「一回の暴行によって傷害を発生させたような一般的な態様の場合」というところから、b状態犯が入る。

Bについて

@が状態犯であることから、状態犯であるc窃盗罪が入る。

Aについて

@に状態犯が入ることから、Aには残るa継続犯が入る。

Gについて

Aの継続犯が入ることから、kが入る。

以上から、4が正解となる。

【第7問】

Cについて

文書偽造罪が成立しない場合として、オとカのどちらが適切か。
肩書きが重要でない場合は要保護性が少ないから、カが適切である。
よって、カが入る。

Aについて

Cにカが入ると、自動的にAにオが入る。

@とBについて

アイウエを肩書きの重要性で@とBに選別することになる。
選択肢から、アがBに、エが@に入るのは明らかである。
そして、イの売買契約書作成は、一般私人でも行いうる行為である。
これに対し、ウの弁護士を装ってした法律相談報酬は弁護士でないと請求できない性質のものである。
よって、イがBに、ウが@に入る。

以上から、2が正解となる。

【第8問】

見解について

法定的符合説である。
もっとも、重なり合いの基準、故意の個数については言及されていない。

1について

誤り。
単純遺棄と死体遺棄の重なり合いは認めないのが一般である。
単に客体が違うだけというようにも見える。
しかし、生命身体と公共の風俗という保護法益の違いが大きすぎるからである。

2について

誤り。
数故意説を採る余地がある。

3について

誤り。
具体的符合説に立っても殺人を肯定する事例である。
因果関係の錯誤が生じるに過ぎない。

4について

正しい。
殺人と器物損壊では法益が異なる。
重なり合いは認められない。

5について

誤りである。
V宅への空き巣に入ることをあきらめた時点で、物的心理的因果性が断絶している。
万引きは「たまたま」「自分で食べるために」したのであって、乙の自発的犯意形成がなされたと評価すべきである。
従って、因果的共犯論からも、責任共犯論からも、甲の教唆ゆえに乙の万引きが生じたということは無理がある。
そうすると、たとえ同一構成要件内の錯誤として、窃盗既遂教唆の故意が認められても、因果関係を欠くから、窃盗教唆は成立し得ない。

【第9問】

A、Bの見解について

占有説からは、いずれの事例でも窃盗罪の構成要件に該当する。
他方、本権説からは、Tでは不該当、Uでは該当となる。
よって、Aが本権説、Bが占有説を採る。

1について

誤り。
占有説は自己物の取り戻しも構成要件該当性を認めるため、自救行為論が必要となる。
他方、本権説では、そもそも構成要件該当性を否定するので、自救行為論は不要である。
本肢はABが逆である。

2について

誤り。
占有説が、「事実としての財産秩序」を保護し、本権説が「私法上の正当な権利関係」を保護する。
本肢はABが逆である。

3について

正しい。
本権説からは242条は例外規定となり、占有説からは注意規定となる。

4について

誤り。
占有説からは、窃盗犯人からの窃取は、窃盗犯人の占有を侵害するから当然に構成要件に該当することになる。
他方、本権説からは、説明が難しいとされる。
窃盗犯人には本権がないからである。
しかし、本権説の論者は、所有権者の本権が再度侵害されるとして、構成要件該当性を肯定する。
本肢では、ABが逆である。

5について

誤り。
判例は現在占有説で固まっている。
本肢はABが逆である。

【第10問】

アについて

bが正しい(刑法9条)。

イについて

dが正しい(刑法9条)。

ウのついて

fが正しい(刑法12条1項、14条2項)。

エについて

gが正しい(刑法25条1項柱書)。

オについて

iが正しい(刑法25条の2第1項後段)。

以上から、正解は5である。

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