最新下級審裁判例(民法)

札幌地裁判決平成19年04月12日

【事案】

 原告は,商品先物取引の受託を業とする会員業者(商品取引員)である被告との間で,商品先物取引の委託契約を締結したうえ,およそ6か月にわたりガソリン及び灯油の先物取引を行った。本件は,原告が,被告の従業員である外務員らによる勧誘から取引終了に至るまでの一連の行為が,商品取引所法に定める顧客に対する誠実公正義務に著しく違反することにより,被告が債務不履行責任を負い,また,被告の業務執行につき行われた従業員の不法行為に基づく使用者責任による損害賠償請求について,原告の請求を認容した事案である。

【判旨】

 先物取引の会員業者は,委託者に対する誠実公正義務を負う・・・基本となるのは,適合性原則と,説明義務である。
 すなわち,委託者は自己の責任において取引を行うべきであるにもかかわらず,会員業者が,委託者に対する誠実公正義務,すなわち,委託者を保護する義務を負うとされるのは,先物取引は大きな危険性を有し,かつ,高度で困難な判断を要する取引であること,にもかからず,事実として,会員業者と顧客の知識・経験・能力に圧倒的な差があり,これを前提として顧客は会員業者の助言・勧誘を信頼していること,会員業者には,法によって一定の営業について特権的な地位が与えられており,その反面として投資家の保護・育成を図るべき立場にあることにある。

 誠実公正義務ないし適合性原則及び説明義務については,商品取引所法にも規定があるが(商品取引所法136条の17,136条の25第1項4号,但し,平成16年法律第43号による改正前のもの。),このような義務は,私法上,被告のような会員業者に課せられる義務であり,その根拠は,被告と原告のような専門家と専門知識を有しない顧客という関係にある契約当事者間において信義則に基づいて認められる契約上の義務ということができる。

 先物取引の会員業者の適合性原則の遵守については,具体的な委託者と,なされるべき具体的な取引を前提として,判断される必要がある。すなわち・・・委託者が,投資する資金については,先物取引という危険性の高い取引に,どの程度の金員を準備しているか,その資金の原資はどのようなもので,先物取引という危険な商品に投資されるに相応しい余裕資金か,また,金額について委託者の全体の資産との関係でバランスを失したものではないかといった点,また,委託者については,先物取引を自らの判断で行うに足る判断能力を有しているか,また,判断能力を有しているとしても,判断を行う前提となる取引に対する理解はどの程度進んでいるかといった点が具体的に審査されるべきである。

 説明義務についても,単に,抽象的に先物取引の危険性を説明するのみで,説明義務が果たされたとは考えることはできない。むしろ,委託者が行おうとしている具体的な取引との関係で,その具体的な危険性を指摘する義務があるというべきである。なお,このような義務を果たす上でも,取引を開始する時点において,委託者が,先物取引という危険性の高い取引に,どの程度の金員を投資する準備があるのか,その金員の原資はどんなもので,先物取引に投資されるに相応しい余裕資金か,また,金額について委託者の全体の資産との関係でバランスを失したものではないかといった点,また,委託者については,先物取引を自らの判断で行う能力を有しているか,また,能力を有しているとしても,その理解はどの程度進んでいるかといった点が,会員業者において把握されていなければならないというべきである。

 被告の外務員らは,原告の財産を抽象的・形式的に調べた後は,具体的な適合性原則の審査,また,取引の危険性について具体的な説明,あるいは,適切な助言を与えずに,被告からの情報以外に,投資判断のための自分自身の特段の情報を有しない原告に,先物取引の中でも,危険性の大きく,判断が困難な取引を行わせたというべきである。したがって,被告には適合性原則ないし説明義務の違反があり,債務不履行に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
 本件においては,委託契約の当初から,適合性原則の実質的な審査がなされず,また,当初の取引から説明義務が果たされていないことからすると,原告が取引によって被った損失すべてについて,損害として被告の債務不履行との間で因果関係を有するというべきである。

 上記の認定を前提としても,原告には,被告の外務員らのいうがままに,取引を続けた点について,軽率であったとの非難もあり得,このことから過失相殺をすべきであるとも考えられるところである。しかし,被告の外務員らは,基本委託契約締結の際に,適合性原則の実質的な審査をせず,また,当初の取引から説明義務を果たさずに原告と取引を続けており,原告は,専門家たる会員業者である被告の外務員らから,実質的な適合性原則の審査を前提とした適切な説明義務の履行がなされれば,適切な投資行動を取り得たともいえるのである。その意味で,原告に対して,被告が過失相殺を主張することは,自ら外務員らの義務違反を有利に援用することにほかならない。以上によれば,信義則の観点から,被告は原告に対して過失相殺を主張し得ないと考えるのが相当である。

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