最新下級審裁判例

大分地裁判決平成19年05月21日

【事案】

 平成11年法律第133号によって改正された住民基本台帳法(以下「住基法」あるいは単に「法」という。)に基づき設置された住民基本台帳ネットワーク(以下「住基ネット」という。)が,原告のプライバシー権,氏名権,公権力による包括的管理からの自由を侵害し,あるいは侵害する危険性を有するものであるとして,大分県別府市に居住する原告が,被告に対し,自己に対する住民票コード付与行為(以下「本件行為」という。)の取消しを求めた事案。

【判旨】

 行政事件訴訟法3条2項に基づく取消訴訟において対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
 ところで,住基法の目的は,市町村において,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め,もって住民の利便を増進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資することであり(法1条参照),住基ネットは,この目的の下に導入されたものである。そして,住民票コードは,無作為に作成された10桁の数字及び1桁の検査数字からなる11桁の符号にすぎず,市町村長が市町村の住民につきこれを選択しその住民票に記載したからといって,直接その住民についての権利義務を形成し又はその範囲を確定する効果が生じるわけではない。
 以上によれば,被告による本件行為は,行政事件訴訟法3条2項に定める「行政の処分その他公権力の行使に当たる行為」には該当しないというべきである。

 

青森地裁判決平成19年05月25日

【事案】

 本件は,青森県弘前市の住民である原告らが,平成16年度当時の同市議会議員であったAら22名が同市から同年度分として交付を受けた政務調査費の全部又は一部を違法に支出したなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告弘前市長に対し,違法に支出された額と同額の不当利得の返還及び遅延損害金の支払をAら22名に対してそれぞれ請求することを求めたところ,Aら22名に対して交付された各政務調査費が違法に支出されたことはないなどと被告が反論して争っている事案である。
 その中心的な争点は,(1) 政務調査費の支出の違法性,(2) 被告の調査義務の有無及び不当利得返還請求の懈怠の違法性,(3) 附帯請求の起算日である。

【判旨】

 地方自治法が,議員の調査研究に資するため必要な経費として政務調査費を交付することとした反面において,交付を受けた議員に対して収支報告書の提出を義務付けていること(同法100条13項,14項),本件条例6条及び本件規則5条が政務調査費の細目にわたる本件使途基準を定めていること,本件規則7条が政務調査費の交付を受けた議員に対し,政務調査費に係る会計帳簿の調整や領収書等の支出を明らかにする書類の整理を義務付け,当該会計帳簿及び書類の保管を義務付けていることや,政務調査費の具体的な使途や金額について最もよく把握しているのは,政務調査費の交付を受けてこれを支出した当該議員自身であることからすると,議員が政務調査研究活動に資する費用として支出したことについて本件規則7条により整理保管を義務付けられている領収書等を保管提出しない場合には,原則として,これを正当な政務調査費の支出であると認めることはできない。また,当該支出に係る領収書等の提出がされたとしても,その領収書の作成者の住所を欠いていて第三者による事後的な検証が困難であるような領収書に係る支出や,領収書の記載からは政務調査との関連性が明らかでなく,これを補足する説明もされていないような支出については,これを正当な政務調査費の支出であると認めることができない。さらに,同一名目の相当額の支出について政務調査費の本件使途基準に合致する部分(議員としての調査研究活動に資する部分)とそうでない部分とを合理的に区分することが可能であるにもかかわらずそれをしておらず,その金額や使途等からみてその大半が政務調査以外の活動に使用されていると社会通念上推認されるような場合においては,当該同一名目の支出額全体が政務調査費の本件使途基準に合致しないものであると認めるのが相当である。他方,政務調査費の本件使途基準に合致する部分(議員としての調査研究活動に資する部分)とそうでない部分が混在しており,その合理的な区分が困難な場合には,社会通念上相当な割合による案分をして政務調査活動に資する費用の金額を確定するのが相当である。
 なお,当該支出が政務調査費の使途基準に合致するかどうかを判断するに当たっては,各議員活動の自主性を尊重する観点から,できる限り調査研究活動の内容に立ち入ることがないように,本件規則7条により整理保管を義務付けられているところの会計帳簿及び領収書の記載事項を基礎的な判断材料として,可能な限り一般的,外形的に判断をするのが相当である。

 政務調査費としての支出は適正でなければならず,政務調査費については,収支報告書の提出,会計帳簿の調整,領収書等の整理保管が議員に義務付けられていることからすると,議員が政務調査費として支出したものが本件使途基準等に照らして適正なものであるか否かについては,公金たる政務調査費を交付する者の審査を受けることが予定されているものといわざるを得ない。本件条例や本件規則には,被告(市長)の調査権限を定めた規定はないけれども,公金を管理する者として,その公金の支出が適正であったか否かを被告(市長)が審査し得ることは当然であり,また,会計帳簿の調整や領収書等の整理保管を義務付けていることからすると,それらによって支出が適正か否かを調査することは,議員や議会の自律性を侵害するものとはいえない。
 そして,整理保管が義務付けられた領収書等の資料に照らし,社会通念上市政に関する調査研究に資する適正な支出と認めることができない支出や政務調査活動に必要な支出をしたことを裏付ける資料がない支出があることが本件訴訟の弁論終結時までに判明した以上,被告が不当利得返還請求をしないことは違法な懈怠に当たるものというべきである(仙台高裁平成18 年(行コ)第20 号同19 年4 月26 日判決)。

 本件条例には,交付を受けた政務調査費に残余がある場合の返還義務を定めた規定(5条,8条)はあるものの,その返還時期について明確に定めた規定はない。
 しかしながら,本件条例によると,政務調査費の額は月6万円の割合で計算した額であり(3条),この割合に6を乗じた額を4月及び10月の第2金曜日に交付するとされている(4条1項)。そして,政務調査費の交付を受けた議員が当該年度の中途において議員でなくなったときは,当該年度において交付を受けた政務調査費の総額から当該年度において市政に関する調査研究に資するため必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合は当該残金を返還しなければならないとし(5条),また,それ以外の場合も,当該年度において交付を受けた政務調査費の総額から当該年度において市政に関する調査研究に資するため必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合は当該残金を返還しなければならないとしている(8条)。そうすると,政務調査費は,毎年4月1日から翌年3月31日までを1年度とし,ある年度に交付を受けた政務調査費は,翌年3月31日までに支出し,同日終了の時点で残余があれば,これを返還しなければならないものと定められているものと解される。

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