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最高裁判所第三小法廷判決平成19年05月29日

【事案】

 上告人が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づきアメリカ合衆国に対して同国軍隊(以下「米軍」という。)の使用する施設及び区域として提供している横田飛行場の周辺に居住する被上告人らが,横田飛行場において離着陸する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害等を被っていると主張して,上告人に対し,夜間の航空機の飛行差止め及び損害賠償等を請求する事案。

【判旨】

 継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。そして,飛行場等において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものであることは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁,最高裁昭和62年(オ)第58号平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁,最高裁昭和63年(オ)第611号平成5年2月25日第一小法廷判決・裁判集民事167号下359頁)。
 したがって,横田飛行場において離着陸する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする被上告人らの上告人に対する損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものであるから,これを認容する余地はないものというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成19年05月29日

【事案】

 滋賀県の住民である被上告人が,滋賀県情報公開条例(平成12年滋賀県条例第113号。平成16年滋賀県条例第30号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,上告人に対し,滋賀県警察本部(以下「滋賀県警」という。)が平成10年度ないし同15年度に支出した捜査費又は捜査報償費(以下,これらを併せて「捜査費等」という。)に係る個人名義の領収書のうち実名ではない名義で作成されたもの(以下「本件領収書」という。)等の公開を請求したところ,上告人から,本件領収書には本件条例6条1号又は3号所定の非公開情報が記録されていることなどを理由として,平成16年7月14日付けで公文書非公開決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定のうち本件領収書に係る部分の取消しを求める事案。

 本件条例6条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。」と定め,その1号本文及び3号において,以下のとおり規定している。

1号本文「個人に関する情報(中略)であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)または特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」

3号「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧または捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」

【判旨】

 事実関係等によれば,@ 本件領収書は,いずれも,滋賀県警において,情報提供者等から犯罪捜査に関連する情報の提供や種々の協力を受け,その対価として捜査費等を支払った際に作成されたものである,A 本件領収書中の氏名及び住所の記載は,事件関係者等の周辺に存在する情報提供者等が何らかの事情で情報提供者等として特定されることを危ぐし,真実とは異なる記載をしたものである,B 本件領収書中の氏名,住所,受領年月日及び受領金額の記載は,上記情報提供者等がすべて自筆で記載したものである,C 本件領収書には,例えば,作成者の特異な筆跡の現れたたぐいのもの,偽名を実名と1字しか違えていないたぐいのもの,住所の記載を作成者の住所の近隣としているたぐいのものなど多種多様な記載がされている可能性があるというのである。
 これらの事実を前提とすると,仮に,本件条例に基づき本件領収書の記載が公にされることになれば,情報提供者等に対して自己が情報提供者等であることが事件関係者等に明らかになるのではないかとの危ぐを抱かせ,その結果,滋賀県警において情報提供者等から捜査協力を受けることが困難になる可能性を否定することはできない。また,事件関係者等において,本件領収書の記載の内容やその筆跡等を手掛りとして,内情等を捜査機関に提供し得る立場にある者に関する知識や犯罪捜査等に関して知り得る情報等を総合することにより,本件領収書の作成者を特定することが容易になる可能性も否定することができない。そうすると,本件領収書の記載が公にされた場合,犯罪の捜査,予防等に支障を及ぼすおそれがあると認めた上告人の判断が合理性を欠くということはできないから,本件領収書には本件条例6条3号所定の非公開情報が記録されているというべきである。

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