平成19年度新司法試験論文式
公法系第一問参考答案

1.設問1について
(1) 資料3に基づくB教団側の主張を憲法的主張として構成する。
 まず,「信者である乙が所有する土地に教団本部施設を建設したい。教団本部施設は,我々の信仰生活の拠点となるものであり,正に我々の信仰を実践する場所である。」「我々が建設する施設は,教団と信者にとって神聖な場所である。信者は集団で居住し,代表である甲に従って修行に励む。このような形態が,我々B教団の信仰の在り方である。したがって,この施設は,我々教団の信仰にとって絶対に欠くことのできないものである。」と主張している。
 これは,本件開発事業がB教団の信教の自由(20条1項)で保障されるべき宗教活動であることを示している。従って,C市長のB教団の開発事業計画を不許可とする処分は,施設建設を妨げ,B教団の信仰を著しく困難にするものといえ,B教団の信教の自由(20条1項)に違反して違憲無効であるとの主張をする事が考えられる。
(2) B教団は,「周辺住民は,我々の教団とA教団との関係を疑い,A教団当時の事件と同じようなことが起きるのではないかと思っているようである。それは,根拠のない憶測である。根拠のない憶測によって,住民は我々を危険視し,敵視している。そのような状況で,周辺住民の過半数から同意を取りつけることは,極めて困難である。」「そもそも,周辺住民の同意がなければ,我々が真摯な信仰の実践活動をできないということに,問題がある。」とも主張する。
 これは,C市まちづくり条例16条2項が,周辺住民の過半数の同意を要求することの不当性をいうものである。そこで,同条項の当該要件が,B教団の信教の自由を侵害して違憲無効であると主張することになる。
 また,同条例の当該要件は,都市計画法上の許可制とは別に導入されたものである。これは,法律よりも加重した要件を設けるものである。このような条例は,「法律の範囲」(94条)を超えるものである疑いがある。そこで,条例は違憲無効であって,それに基づく処分も無効となるとの主張が考えられる。
(3) さらに,B教団は,「我々は,A教団とは別個の,独立した宗教団体である。A教団当時に起きた爆弾テロ行為は,A教団の活動として行われたものではなく,A教団の教典や教義から逸脱した一部の者が実行したにすぎない。我々の教団は,A教団の一部の信者が犯した重大な犯罪行為を真摯に反省し,A教団と決別して結成された,新たな宗教団体である。教団代表である甲は,A教団当時の犯罪行為には一切かかわっていない。甲は,この2年間真摯に修行に励み,新たな悟りを開いた。悟りの境地に達した甲代表のもとで,我々信者は真面目に信仰生活を送りたいだけである。我々の教義は,信者の内面的救済のみを求めるものである。現在のB教団が周辺住民に危害を与える危険性など,全くない。」と主張する。
 これは,A教団が条例第18条第2項が定める「市民生活の安全に支障が生ずるおそれ」にあたらないことをいうものと解することが出来る。しかし,これ自体は憲法上の主張ではない。むしろ,「市民生活の安全に支障が生ずるおそれ」との文言があいまい不明確であり,このような文言によって信教の自由が制約されることは許されないから,同条項は違憲無効であると主張すべきである。
2.設問2について
(1) 不許可処分の合憲性について
 C市側は,資料3において,「市としては,「まちづくり条例」が定める要件を満たすことを求めている。市は,どのような方が開発事業者であっても変わりなく,同じように条例を執行している。」「市には,あなた方の信仰自体を否定するつもりなど毛頭ない。ただ,条例が定める条件を満たすことを求めているだけである。問題の一つは,周辺住民の同意が全く得られていないことである。」と主張している。
 そこで,C市側は,本件不許可処分は,C市まちづくり条例に基づくものであり,B教団の宗教活動を直接規制する意図によるものではないとの反論が考えられる。
 思うに,本件の不許可処分につき,C市側の恣意的・濫用的意図を推測させる事情は無く,条例に基づいた処分であることは明らかであるといえる。
 従って,この点はC市側の反論が妥当である。不許可処分自体には違憲性は無い。
(2) 条例16条2項の合憲性について
ア. C市側は,資料3において,「C市では,古くから,宅地乱開発問題やマンション建設問題等から住民による景観論争や環境保全のための開発反対運動が展開されてきた。そのような住民による運動から,良好な住環境を守ろうとする住民の高い意識が醸成されてきたし,行政もそれに積極的に対応してきた。安心して暮らせる,良好な住環境を守ろうとする市民のコンセンサスが,「まちづくり条例」を制定させた。そのような歴史から,C市は住民の意向を尊重している。周辺住民が抱く不安は,あなた方自らが払拭すべき問題であって,市が周辺住民を説得する問題ではない。条例の要求する条件を満たすことは,あなた方の主体的な努力にかかっている。」「既に述べたように,住民の意思の尊重は,C市における良好な住環境を求める運動の歴史の反映である。」と主張している。
 これは,住民の住環境保全の利益が,新規開発事業者の利益に優越する事を主張するものといえる。従って,C市側としては,条例16条2項がB教団の信教の自由の制約になるとしても,それは,住民の住環境保全という「公共の福祉」(13条後段)による内在的制約であると反論する事が考えられる。
 思うに,住民の住環境保全の利益は,争いあるも,13条,29条により,憲法上保障の対象になると解する。もっとも,信教の自由と同様,絶対無制約ではない。そこで,住民の住環境保全の利益と,B教団の信教の自由を衡量して,同条の合憲性を決すべきと考える。
 確かに,宗教施設の建設に住民の過半数までの同意が必要であるとすると,少数派の宗教を信仰する者が,一方的に信仰の場を失う結果となる可能性がある。従って,住民の同意を絶対的要件とすることは,少数者の信教の自由を侵害し,違憲であるというべきである。
 もっとも,宗教活動といえども,周囲の住民との調和を保ってなされるべきことは,社会が一定の秩序の下で成り立ちうることからして,当然のことである。13条の「公共の福祉に反しない限り」とは,このような人権相互の衝突を調整する原理である。そうである以上,一定の規模を超える宗教施設の建設など,住民生活に大きな影響を与えうる場合に限っては,住民の反対の意思が,宗教活動の制約となる場合も,否定すべきでないと解する。
 本件では,住民の同意を必要とする場合は,開発事業に係る土地の面積が1000平方メートル以上の大規模開発事業に限られており(15条・16条),また,住民の同意が得られず,開発事業協定が締結に至らなかった場合でも,不許可事由は,18条2項各号所定の場合に限定されている。
 以上を考慮すると,本件条例は,住民生活に大きな影響を与えうる場合に限定し,また,住民の同意が絶対的要件となっているわけでもない。よって,条例16条2項は,信教の自由を侵害するものではなく,合憲である。
イ. また,同条例が「法律の範囲」(94条)を超えるとの主張については,市側は,住民の住環境保全の意識向上に対応するもので,法律の趣旨に反しないから,「法律の範囲」にとどまると反論すると考えられる。
 思うに,「法律の範囲」にあたるかは,規定文言のみにとらわれることなく,その趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者に矛盾抵触がないかによって決するのが相当である(徳島市公安条例事件に同旨)。
 本問では,都市計画法が国土の均衡ある発展を目的(同法1条)とするのに対し,条例は,個性豊かで住み良い都市環境の形成に寄与することを目的とする(同条例1条)。すなわち,前者が希少な土地の効率利用を図ろうとしているのに対し,後者は,住民の住環境保全を図ろうとしている。このように,両者は目的を異にする以上,両立可能性がある。よって,矛盾抵触はないというべきである。
 よって,同条例は「法律の範囲内」といえ,合憲である。
(3) 条例第18条第2項の合憲性について
 C市側は,資料3において,「市としては,A教団の幹部らが2年前に起こした同時爆弾テロ事件を無視することはできない。あなた方の教典はA教団と同一であり,A教団の元幹部があなた方の教団の幹部になっている。したがって,A教団があなた方の教団の母体といえる。そして,あなた方は,A教団と同様に,集団で居住する。A教団当時,集団居住施設の中で爆弾が製造されていた。A教団は各地の教団施設の近隣に住む住民と様々なトラブルを起こしていたし,多くの訴訟も提起されている。集団居住の実態が分からない。集団居住施設の中で何をしているか,見えない。仮に教典自体は平和的なものであるとしても,教典から再び逸脱しないという保証はどこにもない。あなた方が,他の都市で本部施設を建設しようとしたときも,住民の反対運動にあって断念せざるを得なかったではないか。本市における事前説明会でも,あなた方の信者が威圧的な発言をしている。このような事実が,あなた方への周辺住民の不安を高めている。この不安は,周辺住民だけのものではない。それは,市の相談窓口に多くの市民から不安の声が寄せられていることにも示されている。A教団当時の同時爆弾テロ事件から得た一つの教訓は,近隣住民との間でトラブルが発生したときに,市がきちんと対応することである。市としては,あなた方の教団に関する諸々の事実を踏まえて,あなた方の開発事業計画には,条例第18条第2項が定める「市民生活の安全に支障が生ずるおそれ」があると判断している。」と主張している。
 これは,本件において,条例第18条第2項が定める「市民生活の安全に支障が生ずるおそれ」の該当性があることの主張である。
 そこで,C市側は,訴訟において,同文言は,本件において適用があることは明確であると反論をする事が考えられる。
 思うに,信教の自由のような精神的自由権は,あいまい不明確な文言で規制された場合の萎縮的効果が大きい。また,一度不当に制約されると,民主制の過程での瑕疵是正が困難である。
 従って,精神的自由権に対するあいまい不明確な制約立法は,文面上違憲であると解される。そして,その判断は,通常の判断能力を有する一般人の理解に立って,具体的な場合に当該行為がその適用を受けるかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかによって決すべきである(徳島市公安条例事件判例に同旨)。
 本件では,B教団は,過去に爆弾テロを起こしたA教団の幹部が代表であり,逮捕されなかったA教団の元幹部が全員B教団の幹部となっている。また,教典も同一である。しかも,事前説明会でも,住民に対し威圧的な発言をしている。これは,A教団とB教団との同質性を示している。
 以上のような事情の下では,たとえ,B教団がA教団当時に行われたテロ行為について深い反省の意思を表明し,A教団との決別を宣言しているとしても,通常の判断能力を有する一般人の理解に立てば,再度何らかの重大なトラブルを引き起こす蓋然性が高いと判断すると思われ,これが,条例第18条第2項が定める「市民生活の安全に支障が生ずるおそれ」に該当する事は容易に想定することができる。
 従って,同条項は,あいまい不明確ゆえに違憲であるとは,いうことができない。
 以上から,条例第18条第2項は,合憲である。

以上

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