平成19年度新司法試験論文式
公法系第ニ問参考答案

1.設問1(1)について
(1) 退去強制令書に基づくAの収容の継続及び送還を阻止するためには,執行停止(25条2項)の申立てをすべきである。
 執行停止が認められるためには,@処分取消の訴えの提起があった場合であること,A重大な損害を避けるための緊急の必要性があることが必要である。
(2) @について,退去強制令書の発付の取消訴訟を提起することが考えられる。
 取消訴訟は,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(3条2項)に対して認められる。退去強制令書の発付はこれにあたるか。処分性の有無が問題となる。
 処分性が認められるためには,公権力性と,直接的法的効果の発生が必要である。
 本問で,退去強制は国家権力によってのみ,なしうるものである以上,公権力性が認められ,また,退去強制令書の発付によって,収容の継続及び送還が基礎付けられるのであるから,直接的法的効果の発生も認められる。
 よって,処分性が認められる。
 以上から,退去強制令書の発付の取消訴訟を提起することは可能である。
(3) Aについて,重大な損害を避けるための緊急の必要性の判断にあたっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされる(同条3項)。
 本問では,Aは,主任審査官より退去強制令書の執行を受けて,入国者収容所入国管理センターに収容されており,このままでは,大学に通うこともできず,本国に送還されてしまうというのであるから,人身の自由が著しく制約されており,損害の性質及び程度は重大で,損害の回復が困難であると認められる。
 よって,重大な損害を避けるための緊急の必要性があるといえる。
(4) 以上から,執行停止は認められる。
2.設問1(2)について
(1) 違法性の承継が認められないことを仮に前提とすると,退去強制令書の発付の取消訴訟において,退去強制事由該当の判断を争う事はできないことになるから,認定又は裁決の取消訴訟を提起する必要がある。
 では,その場合,認定と裁決のいずれを対象として取消訴訟を提起すべきか。
 思うに,本問の裁決を行訴法3条3項の「裁決」にあたるとする以上,裁決を対象とすることはできない。なぜなら,裁決の取消しの訴えは,原処分の違法を理由とすることが出来ないのが原則だからである(10条2項,原処分主義)。
 この点,本問の認定・判定・裁決は,退去強制という同一の行政目的を達成するための一連の手続を構成する処分であり,3日間という短期の不服申立期間(入管法48条1項,49条1項)など,最終判断までの迅速化を図った諸規定を重視すべきとして,認定・判定・裁決を一体として考えるべきとする見解がある。このように考えると,その一体性から,10条2項の適用がないと解することができる。
 しかし,入管法上,労組法27条の19第2項のような裁決主義を採る明文規定が無い以上,そのような解釈は無理がある。原則通り,裁決の取消しは認められないと解する。
 以上から,認定を対象として,取消訴訟を提起すべきである。
3.設問2について
(1) 退去強制事由とは,本問では,入管法24条4号のイに該当する事実である。具体的には,第19条第1項の規定に違反していること(前段要件),収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められること(後段要件)である。よって,Aとしては,その該当事実にあたらないことを主張すべきである。以下,具体的に検討する。
(2) 前段要件について
ア 19条1項は,不許可の資格外活動を禁じている。そこで,資格外活動許可要件の有無を検討する。
 資格外活動許可(入管法19条2項)の要件は,@1週に28時間以内,A勉強状況・在留状況に問題がなく,B稼働目的が学費その他の必要経費を賄うものであり,C申請の活動が社会通念上学生の通常行うアルバイトの範囲内であることである。
イ まず,AはレストランP店でも,R店でも,週21時間の勤務であるから,@を満たす。
ウ また,大学におけるAの講義出席率は平均約80パーセントであり,3年次までで,卒業必要単位124のうち100単位を既に取得している。単位取得した45科目の成績は,優(評点100点から80点)が10科目,良(評点79点から70点)が10科目,可(評点69点から60点)が25科目である(不可は一つもない)。以上を考慮すれば,勉強状況・在留状況に問題がないといえ,Aを満たす。
エ 次に,Bを検討する。
 確かに,AがR店に勤務先を変更したのは,滞在経費(1か月当たり約14万円)の不足を補うためであり,必要経費を賄う範囲を超える部分もある。
 しかし,そもそも,Bの要件の趣旨は,留学の在留資格で在留しようとする者に対しては,上陸時に,在留期間中生活するのに十分な資産等の保有が要求されるため,滞在費を専ら稼ぐ就労を否定する点にある。よって,専ら滞在費を賄う就労でなければ,Bの要件は充足されると解すべきである。
 Aは,アルバイトで得られる月額10万円余りと奨学金月額3万円を生活費,教科書代等に充て,授業料は一部免除を受け,不足分は親戚からの仕送りに頼っているという状況である。滞在経費の全てを専ら賄うものではない。また,R店でのアルバイトは,父親の会社が倒産したことによる仕送りの不足を補うものであるから,当初からの事情変更によるやむを得ない対応である。
 以上から,専ら滞在費を賄うための就労ではないから,Bの要件を満たす。
オ では,Cはどうか。
 入管当局は,風俗店での就労は,学業と両立しないもので,留学生が通常行うアルバイトの範囲外であるとし,一律にこの要件を満たさないとする。
 しかし,風俗店といえどもその活動は多種多様である。具体的な労務がいかなるものかを実質的に判断すべきである。
 本問で,R店の営業は「キヤバレーその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客の接待をして客に飲食をさせる営業」(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第1項第1号)に該当するが,同法の営業許可を受けていなかったという。しかし,Aは接客には一切関与せず,アルバイトの内容は,テーブル等のセット,厨房手伝い,掃除,買い物といった作業内容であり,Aの友人らによれば,ファミリーレストランにおけるアルバイトと実質的に変わらないというのであるから,社会通念上学生の通常行うアルバイトの範囲内にとどまるということができる。
 よって,Cを満たす。
 以上から,Aは資格外活動の要件を満たしている。よって,19条1項には違反しない。
(3) 後段要件について
ア 入管当局は,在留資格制度の趣旨から,滞在経費を専ら賄うアルバイトは第19条第2項の許可対象ではなく,それがされれば,在留目的が実質的に変更され,後段要件に該当することになるとする。また,風営店でのアルバイトは,およそ学業と両立せず,したがって,そのようなアルバイトは在留目的変更の有力な証拠であるとする。
 すなわち,入管当局は,前段と後段を区別せず,前段要件が備われば,後段要件も具備するかのように解している。
 しかし,入管法24条4号イが,「第19条第1項の規定に違反して… 報酬を受ける活動を行っている」という定め方をせず,「… 報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる」と定めていることからすれば, 許可を得ずに資格外活動である報酬を受ける活動を行ったというだけでは退去強制事由とはせず,73条等による規制をするにとどめるものとする趣旨と解すべきである。
 従って,両要件は,独立に検討されるべきものである。Aとしては,まずこの点を主張すべきである。
イ では,Aは後段要件に該当するか。
 本問で,Aは生活費の捻出に手一杯で,預金をするゆとりはないのであり,遊興費,事業資金,蓄財のためにアルバイトをしていたものでないことは明らかである。また,前述の如く,Aの出席率,取得単位,成績は良好であり,学業に専念していたと認められる。また,弁護士依頼の動機も,留学の在留資格をもって日本で勉学を継続できるようにすることにあった。
 以上を考慮するなら,在留目的に何らの変更もみられない。よって,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行つているとは,認められない。
 以上から,Aは後段要件に該当しない。
(4) 以上から,Aは前段要件も後段要件も満たさないから,その旨主張すべきである。

以上

戻る