平成19年度新司法試験論文式
民事系第一問参考答案

第1.設問1について
1.既に募集株式発行が行われた後に執り得る措置として,B1としては,甲会社に対し,新株発行無効の訴え(828条1項2号)をすることが考えられる。
2.会社法は,無効事由を法定していない。そこで,B1は@募集株式発行を決定した取締役会決議の瑕疵があること,A著しく不公正な方法によっていること,B株主総会決議を欠く有利発行(199条3項)である点が新株発行の無効事由に当たると主張する事になる。
3.@について
(1) まず,取締役会決議の瑕疵の有無を検討する。
 本問では,定款所定の期間に招集通知が発せられており,内容についても,電子メールで確認可能な状態となっている。よって,形式的には,法の規定(368条1項)を遵守している。しかし,2日前という期間は,海外出張中のB1及びB2にとっては,およそ出席不可能なものである。この場合も,適法な招集通知がなされたといえるだろうか。
 思うに,法が招集通知を要求した趣旨は,取締役の出席の機会を確保するためである。そうである以上,およそ出席不可能な期間を設定して招集通知をしても,適法な招集通知とは認められないと解する。
 従って,本問では,B1及びB2に対する適法な招集通知を欠いていることになる。
(2) では,招集通知の欠缺は取締役会決議の効力に影響するか。
 思うに,取締役会制度の趣旨は,経営に通じた者達の英知を結集して経営判断をなさしめる点にある。
 そうである以上,原則として,招集通知を欠いて出席できない取締役がいた場合は,決議が無効となると解する。
 もっとも,その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは,無効とすべき実益が無く,法的安定性を優先すべきであるから,決議は有効であると解する。
 本問では,A1・A2・Dの出席取締役を含む全員の了承によって決議されており,たとえB1及びB2が出席して反対しても,過半数(369条1項)に及ばないから,決議の結果に影響がないとも思える。
 しかし,A1及びA2は夫婦であり,その意思は不動であるとしても,Dは取引金融機関からの出向者であり,B1及びB2の反対意見いかんによっては,反対に回る可能性もないわけではない。従って,決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとまではいえないと解する。
 よって,本問の取締役会決議は,無効である。
(3) そこで,取締役会決議の欠缺が,新株発行無効事由となるかを検討する。
 思うに,新株発行は,割当てを受ける第三者の取引の安全を考慮すべきである。他方で,株主は差止め(210条1号)の機会が認められている。
 よって,差止めがなされずに,発行に至った場合,無効事由とはならないと解する。別途役員等の責任(423条1項)や解任の正当事由(339条2項)となりうるにとどまる。
(4) 以上から,本問で,取締役会決議の無効は新株発行の無効事由にはならない。
4.Aについて
(1) 本問の新株発行は,B1及びB2の出席不可能な取締役会で決定され,その後,A1は,ゲームソフト開発部門の事業譲渡等によるB1の独立を提案してB1と交渉しながら,その途中に,新株発行を強行した。そして結局,B1の独立は実現しなかった。
 以上のような新株発行を巡る一連の方法は,主としてB1及びB2の支配権を不当に奪う目的でなされたものである。従って,このような方法は,著しく不公正な方法によるものということができる。
(2) もっとも,前述の如く,新株発行は,割当てを受ける第三者の取引の安全を考慮すべきであり,他方で,株主は差止め(210条2号)の機会が認められているのであるから,新株発行の無効事由とはならないというべきである。
5.Bについて
(1) 本問の募集株式の払込価額は,「特に有利な金額」にあたるか。
 思うに,有利か否かは一義的には判断しにくいが,上場企業においては,概ね時価の一割以上の割引をした場合は,社会観念上,「特に有利な金額」に当たると解する。
 本問で,甲会社は東証マザーズ上場の企業であり,乙会社がこの募集株式に対して払い込んだ金額は,平成17年12月7日から平成18年6月6日までの6か月間の甲会社の株価の平均額に90パーセントを掛け合わせたものとして算定されているというのであるから,概ね時価の一割以上の割引をした場合といえ,「特に有利な金額」にあたる。
(2) 本問では,有利発行につき株主総会決議(201条1項・199条3項)を経ていない。では,株主総会決議欠缺による有利発行は,新株発行無効事由に当たるか。
 この点,特定第三者に対する有利発行である場合,相手方が悪意であれば,取引安全を考慮する必要がないから,無効事由としてもよさそうに思える。
 しかし,新株発行無効判決には対世効がある(838条)。そうである以上,直接割当てを受ける第三者のみならず,それを前提として取引に入る多くの者への影響も考慮しなければならない。相手方の主観で効力を左右する事は,妥当でない。
 そして,前述の如く,差止めの機会が事前に準備されている。
 よって,株主総会決議の欠缺は,無効事由とはならないと解する。
(3) 以上から,本問で,株主総会決議の欠缺は,新株発行の無効事由とはならない。
6.以上の検討から,B1の新株発行無効の訴えは,認められない。
第2.設問2について
1.Y1及びY2の乙会社に対する責任としては,役員等の会社に対する損害賠償責任(423条1項)が考えられる。
 その成立要件としては,任務懈怠と故意過失(428条1項反対解釈),損害の発生と両者の相当因果関係(民法416条)が必要である。
2.まず,任務懈怠と故意過失の有無を検討する。
(1) Y1及びY2が,甲会社の株式の引受けを決定した経営判断は,結果的に,保有する甲会社株式の評価額について1株当たり300円から140円にする減損処理を行わざるを得ない事態となった。これをもって任務懈怠と故意過失を認めうるか。いわゆる経営判断原則が問題となる。
 経営判断には,常にリスクが伴う。リスクが現実化した場合にすべて役員責任が問われるのでは,経営が著しく萎縮する。もっとも,漫然とした経営を免責してはならない。重要な事は,必要な情報から合理的に判断したかという点である。そこで,@客観的な情報収集を怠っておらず,A当該情報に基づく判断が,一般的な経営者の視点から観て,合理性を欠くものでなかった場合には,任務懈怠と故意過失は否定すべきと解する。
 本問では,@法律事務所の意見書や監査法人の報告書など,必要な資料を収集している。
 では,A判断の合理性は認められるか。
 この点,確かに,法律事務所の意見書では,Cと下請けSEは人的結合に依存しており,経営陣交代がソフト開発部門に大きなマイナス要因となることが示唆されている。
 しかし,これはソフト開発部門についてのことにすぎない。乙会社にとって,甲会社との提携の主眼は,自動車電子部品製造部門における提携にある。
 監査法人の報告書からは,甲会社との経営統合に基づく経済的な相乗効果を約24億円と考えることは,不合理であるとはいえないとの結論を得ている。他方,これに対する出資額は,1株当たり300円の払込み価額に引受株式数550万株を乗じた16億5千万円である。このことは,仮に出資が株式資産としては無価値と評価されたとしても,乙会社にとっては総合的にプラスであるということを示す。
 以上を考慮すると,Y1及びY2の判断は,A一般的な経営者の視点から観て,合理性を欠くものではないということができる。
 よって,任務懈怠・故意過失は認められない。
3. 以上から,その余の要件を検討するまでもなく,Y1及びY2の会社に対する損害賠償責任は認められない。
4. なお,損害と相当因果関係も認められないというべきである。
 なぜなら,評価損の計上自体だけでは未だ損害が現実化したとは認められないし,また,株式時価の増減には,様々な要因がありうるからである。

以上

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