平成19年度新司法試験論文式
民事系第ニ問参考答案

第1.設問1について
1.まず,Xが,自分はYの申し込みに対して,確定的な返事をしておらず,そもそも契約は不成立であるとし,支払済みの200万円につき不当利得返還請求(703条,704条)を主張することが考えられる。
 しかし,Xは納品時期について言及しており,黙示の承諾を認定できるから,契約成立を否定することは出来ない。Yはその旨反論すべきである。
2.次に,Xは履行遅滞に基づく解除(541条)による原状回復請求(545条1項)・損害賠償請求(同条3項)を主張することが考えられる。Yは履行遅滞に陥っているか,催告はあるか,解除の意思表示はあるか,18万円が賠償の範囲に含まれるかを,順に検討する。
(1) 履行遅滞の検討
ア.履行提供の有無
 本問において,Aの作品は,独自の工夫が凝らされ,その大きさ・装飾・塗り等も一つ一つ異なる上,作者の銘・完成年月日・作品番号などが刻印されている。従って,Aの作品たる甲は,XYがその個性に注目したものというべきであるから,特定物である。特定物は現状で引き渡せば足りるとされている(483条)。
 Xは,特定物売買といえども瑕疵なき物を引き渡すべき義務を債務者は負っているとして,Yの引渡しは本旨に従った履行の提供ではないと主張する事が考えられる。
 これは,瑕疵担保責任の法的性質を契約責任と解する近時の有力説に従ったものである。
 Yとしては,判例・多数説の法定責任説に従い,特定物は瑕疵無き状態を観念できず,その対価的均衡を確保する瑕疵担保責任(570条)の趣旨から,Yの引渡しは本旨に従った有効な履行の提供であると反論すべきである。
イ.帰責性の有無
 Xは,そもそも帰責性は履行遅滞の要件として不要であること,また,仮に必要であるとしても,甲の瑕疵は運送中に起きたものであるが,これは運送業者Bの帰責事由によるものであり,BはYの履行補助者であるから,Bの帰責性はYの帰責性と信義則上同視すべきであると主張すると思われる。
 Yとしては,過失責任の原則から,帰責性は必要であること,Bは増価運賃を自己負担するなど,信頼のおける大企業であり,Yの指揮監督に服さない独立性を有するから,履行補助者に当たらない,または,仮に履行補助者に当たるとしても,瑕疵は不可抗力によって生じたものであり,Bの帰責事由も存在しないと反論すべきである。
ウ.遅滞の違法性の有無
 Xは,本問契約はYの先履行であるから,同時履行の抗弁権(533条)はYにない,または,仮に同時履行が認められたとしても,Yは甲の瑕疵についての鑑定結果をXに伏せたまま中間金を請求するなど,背信性があることから信義則上これを主張できる地位にないと主張する事が考えられる。
 Yとしては,中間金支払日(平成17年12月7日)以降は,公平の観点から,Yには同時履行の抗弁権があり,鑑定結果につきXに報告義務はないことから,信義則上これを主張することも妨げないと主張し,Xの残代金の履行提供が無い以上,遅滞の違法性は存在しないと反論すべきである。
(2) 催告の有無の検討
 Xは,2月末日までには必ず納品すべき旨繰り返しYに言っているから,「当事者の意思表示」による定期行為(542条)にあたり,催告不要である,または,平成17年12月12日に,「どれだけ遅くても来年2月末までに,傷を修理した甲を持ってこなければ,支払済みの200万円は返してもらうし,損害賠償も払ってもらうから覚悟しておけ。」と述べており,これが催告にあたる,と主張する事が考えられる。
 Yとしては,2月末日以降の履行では無意味であることは,黙示にも示されていないから,「当事者の意思表示」に当たらない,また,平成17年12月12日のXの発言は,中間金支払・修理費前払いの拒絶の趣旨でしかなく,催告には当たらないと反論すべきである。
(3) 解除の意思表示の有無の検討
 Xは,平成18年1月25日において,「それなら結構だ。」と述べて,契約の打ち切りを明示したから,これが解除の意思表示にあたると主張する事が考えられる。
 Yとしては,当該発言は,単に航空便の費用負担の拒絶の趣旨に過ぎず,解除の意思表示ではないと反論すべきである。
(4) 損害賠償の範囲の検討
 Xは,Eとの契約の合意解除による損害8万円と,Dに貸していたら得られたはずの賃料相当額10万円は,いずれも通常事情または予見可能な特別事情による通常損害であるから,416条の定める損害の範囲に含まれると主張する事が考えられる。
 Yとしては,「特注の」アクリルケースなどを注文することは予見不能な特別事情であること,Dへの賃貸による賃料は,甲の使用利益に他ならないから,575条1項により,賠償範囲に含まれないと反論すべきである。
 また,甲の瑕疵は,Xが扉を開けようとして支持部分を折ったことにより拡大したのであるから,過失相殺(418条)されるとの反論も伴わせてすべきである。
3.また,Xは,瑕疵担保責任による解除・損害賠償請求(570条・566条1項)を主張する事も考えられる。この場合,「隠れたる」の判断時期と損害賠償の範囲が問題となる。
(1) 「隠れたる」の判断時期の検討
 「隠れたる」とは,相手方が瑕疵につき善意無過失であることをいう。
 Xは,契約成立時にこれを判断すべきであり,契約時は善意無過失であったと主張すると思われる。
 Yとしては,引渡し時にこれを判断すべきであり,引渡し時には,Xはこれを認識していたから,悪意であると反論すべきである。
(2) 賠償の範囲の検討
 Xは,契約責任説の立場から,履行利益まで含むと主張すると思われる。
 Yとしては,法定責任説の立場から,信頼利益に限られ,少なくともDへの賃料相当額はこれに含まれないと反論すべきである。
4.さらに,仮に,Yの帰責性が否定された場合,Xは,危険負担の債務者主義(536条1項)の適用により,200万円の返還を請求することが考えられる。
 この場合,Xは534条の適用につき,目的物が債権者支配下に置かれたときにのみ適用されるとする見解(制限説)に立ち,本問では甲の占有を取得していないとして,同条の適用は否定されると主張すると思われる。
 Yとしては,必要あれば,特約で排除できる以上,同条をそのように制限解釈する必要はないとして,原則通り債権者主義が採られるべきとの反論をすべきである。
第2.設問2について
1.(1)について
(1) 陳述@は,「『覚えがない』と言っているFがこのような文書を作成したとは考えられない」旨の否認理由(規則145条)を明らかにした上で,甲4号証の成立を否認するものである。
 従って,書証として提出するXは甲4号証の成立の真正を証明する必要がある(228条1項)。もっとも,甲4号証にはFの署名があることから,成立の真正が推定される(228条4項)。よって,Yの反証ない限り,成立の真正が認められることになる。
(2) 他方,Yが甲4号証の成立について認否をしなかった場合はどうか。相手方当事者が積極的に争わない場合にも,文書成立の証明が必要かが問題となる。
 思うに,規則145条が否認に積極的な理由を要求した趣旨は,成立の真正自体の積極的立証の困難性から,これを争う者に一定の争点形成責任を負わせる点にある。
 よって,相手方当事者に積極的に争う意思が無い場合は,文書成立の真正の立証は不要であると解する。
 従って,本問で,裁判所としては,Yに釈明(149条1項)して積極的に争う意思がないことを確認した上,成立の真正を認めてよいと考える。
2.(2)について
(1) 陳述Aの訴訟上の効果について
 Yは,第1回口頭弁論期日において,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言があったことを認める陳述をしている。これは,自白(179条)にあたり,陳述Aは訴訟上の効力を認められないのではないか。
 自白とは,自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。そして,「不利益な事実」とは,自白の不要証効に鑑み,相手方が証明責任を負う事実をいうと解する。
 本問で,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言は,解除の意思表示を基礎付ける事実である。解除を主張するのはXであるから,Xに証明責任がある。
 よって,Yにとって「不利益な事実」にあたり,自白が成立する。
 従って,原則として,Yは「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言があったことを争うことができない。
 もっとも,自白の拘束力は,不要証となったことへの相手方の信頼保護のためである。従って,相手方の同意がある場合,自白が真実に反し錯誤に基づく場合,刑事上罰すべき他人の行為による場合には,自白した者の利益を優先して,自白の撤回を認めるべきである。
 以上から,本問で,Xの同意がある場合,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言が存在せず,かつ,Yの錯誤があった場合,刑事上罰すべき他人の行為によりYの自白がなされた場合を除き,陳述Aは訴訟法上,効力を生じない。
(2) 陳述Bの訴訟上の効果について
 陳述Bは,Xの発言内容自体は認めつつ,それが解除の意思表示に該当することを争うものである。
 解除の意思表示の存在全体については争うのであり,新たな抗弁を主張するものではない以上,理由付否認(一部否認一部自白)である。
 よって,Xは請求原因5記載のとおりのXの発言の存在については立証の負担を免れるが,それが解除の意思表示に該当することについては,なお立証責任を負担することになる。
(3) 陳述ABの攻撃防御方法としての許容性について
 陳述ABは共に,第1回口頭弁論期日の後,弁論準備手続を終了した後の,Fの証人尋問並びにX及びYの当事者本人尋問を行うために開かれた第2回口頭弁論期日になって主張されている。従って,Yが説明義務(174条・167条)に基づき,合理的な理由を説明しない限り,時機に後れた攻撃防御方法として却下(157条1項)されるべきものである。
第3.設問3について
1.@の方法について
 まず,訴え取下げ契約の有効性が問題となるが,処分権主義の観点から,認められると解する。
 もっとも,訴えの取下げでは訴訟係属が遡及的に消滅(262条1項)し,既判力は生じないことから,紛争の蒸し返しの危険がある。
 よって,この方法は適切ではない。
2.Aの方法について
 請求放棄の調書の記載は,「確定判決と同一の効力を有する」(267条)。従って,既判力も認められると解する。
 既判力の範囲は,請求の趣旨と対応すると解する。請求の趣旨は,既判力の客観的範囲である主文(114条1項)と対応するからである。この点で,次に述べるBの方法よりも,紛争解決の範囲が狭いといえる。
3.Bの方法について
 和解調書の記載も,「確定判決と同一の効力を有する」(267条)から,Aの方法と同様,既判力が認められると解する。
 既判力の範囲は,請求放棄の場合と異なり,調書に記載された両当事者の合意事項に生じると解する。当事者の合意を尊重すべきだからである。
 従って,本問では,「YがXの請求債権を認め,これが代物弁済によって消滅したこと及びXとYの間に本件に関し一切の債権債務が存在しないこと」について,既判力が生じる。
 よって,紛争解決の範囲がAよりも広い。
4.以上から,K弁護士の立場からは,Bの方法をXの側に求めるべきである。

以上

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