平成19年度新司法試験論文式
民事系第ニ問参考答案(その2)

第1.設問1の課題(a)について
1.Xとしては,債務不履行解除(541条)を主張してくることが予想される。支払済み代金200万円の返還については,原状回復(545条1項),18万円の損害賠償については,解除に伴うもの(同条3項)として請求してくるものと思われる。
2.契約解除に債務者の帰責事由が必要であるとする立場を前提とする場合,Xとしては,Yの帰責事由を主張する必要がある。
 この点,甲の瑕疵は,弁護士間で確認された事実(以下,「事実」とする)7,8から,Bの運送中に生じている。Yの帰責事由は存在しないのではないかが問題となる。
 履行補助者の故意過失は,信義則上,債務者の故意過失と同視される。なぜなら,債務者は履行補助者を利用することで,利益を享受している以上,そのリスクも負担すべきだからである。
 よって,Xとしては,Bの帰責事由を主張する事が考えられる。
 しかし,鯨が輸送船にぶつかるというこれまでに経験のない事故があったため甲が破損したと推測されるとのBの説明があるにとどまり,甲の破損の経緯は未だ不明である(事実12)。すなわち,帰責事由の存否につき立証は困難な状態である。そこで,帰責事由の立証責任の帰属が問題となる。
 思うに,「債務は履行されるべきである」との原則から,信義則上,債務者に帰責事由の立証責任があるというべきである。
 以上から,Xは,Yの方で,Bの帰責事由無きことを立証せよと主張してくることが予想される。
3.次に,解除には催告が必要であるが,本問でこれが存在するかが問題となる。
 この点,当事者の意思表示による相対的定期行為(542条)として催告は不要でないかとも思える。
 しかし,Xは2月末日までの履行を求めてはいるが,それ以降の履行では目的達成不可能である旨,Yに伝えていない(事実4,11)。よって,相対的定期行為にはあたらないというべきである。
 そこで,Xとしては,事実11における意思表示が,催告にあたると主張することになる。
4.もっとも,Xはその後,解除の意思表示をしていない。そこで,事実11における意思表示は,停止条件または停止期限付の解除の意思表示を含むと主張することが考えられる。
5.解除が認められた場合,Xは18万円について,通常事情による通常損害であるとして,416条の損害の範囲に含まれると主張することが予想される。
第2.設問1の課題(b)について
1.帰責事由について,検討する。
 思うに,履行補助者の故意過失を債務者のそれと同視できるのは,個人責任の原則からして,債務者の手足と同視できる場合である。そのような場合とは,債務者が直接指揮・監督できる場合(被用者的補助者)に限られるというべきである。
 これに対し,債務者の指揮監督から独立的地位を有する独立的履行補助者については,債務者の選任が不適切であった場合に限り,責任を負うものというべきである。
 本問では,Bは運送業者であり,Yの直接の指揮監督に服するものではない。そして,甲の破損についての事後の対応(事実12)をみても,Yの選任が不適切であったともいえない。
 以上から,Yは,仮にBに帰責事由があるとしても,Yには帰責事由はないと反論すべきである。
2.裁判所に,Yの帰責事由がないとはいえないと判断された場合,または,解除に帰責性は不要であるとする見解が採用された場合,その他の点で争うことになる。
 まず,事実2から,XとYは甲の個性に着目しており,甲は特定物であると考えられることから,事実8における引渡しは,現状による引渡し(483条)として,有効な弁済であると反論できないか。
 思うに,483条の趣旨は,特定物につき瑕疵無き代替物が存在しないことにある。すなわち,同条は原始的一部無効の場合についての規定である。
 そうである以上,契約後に債務者の帰責事由によって瑕疵が生じた場合,債務者の帰責事由による後発的瑕疵であって,同条によって有効な弁済となるものではないと解する。
 本問で,甲の瑕疵は契約後に生じており(事実7,8),Yの債務不履行となる。Yとしては,有効な弁済であると反論することは適切でない。
3.次に,事実11のXの意思表示が催告にあたるとの主張に対しいかなる反論をすべきか。
 催告は履行を促すものである以上,履行期を徒過してからなされるべきものである。
 では,本問において,履行期はいつか。
 Xに交付されたメモには,納品日は平成17年12月7日と記載されている(事実3)。しかし,メモを交付する際,Yは,「船便の状況によっては,1か月程度は遅れるかもしれない。」と申し向け,Xは,「どんなに遅くとも来年(平成18年)2月末日までに甲を納品して欲しい」と応じている(事実4)。また,12月8日の時点で,Yは甲の修理が可能かどうかをAに尋ねてみるので待って欲しい旨を依頼し,この点でXの同意を得ている(事実9)。
 以上からすると,Yとしては,履行期は早くとも12月7日から一ヶ月後の1月7日前後であって,12月12日時点でなされた事実11におけるXの意思表示は,有効な催告ではないと反論すべきである。
4.仮に,事実11のXの意思表示が有効な催告にあたるとされた場合,Yとしては,法定解除のような単独行為には,条件・期限は付けることができない(506条1項参照)として,事実11における意思表示が,停止条件または停止期限付の解除の意思表示とはなりえないと反論することも考えられる。
 しかし,単独行為に条件・期限をつけることができないのは,相手方の地位を不安定にさせる点にある。条件・期限付解除については,債務者は相当期間内に履行をすれば足り,地位が不安定となることはないから,停止条件または停止期限付の解除の意思表示は可能と解される。
 よって,この反論は適切ではない。
5.裁判所により解除が認められるに至った場合,損害賠償の範囲について争うことになる。
 まず,Eとの合意解除に要した8万円については,20万円という高額な特注アクリルケースを注文するなどということは,予見不能な特別事情によるものであり,損害の範囲に含まれない(416条2項)ことを反論すべきである。
 また,Dへの賃貸料相当額については,解除は契約を遡及的に消滅させるものである(直接効果説)以上,解除に伴う損害賠償には履行利益は含まれないと反論することが考えられる。しかし、解除に伴う損害賠償も履行に代わる賠償と考えられており、履行利益の賠償が含まれると一般に解されている。従って、この反論は適切でないと考える。
第3.設問2(1)について
1.陳述@は,甲4号証の成立を否認するものである。
 よって,Xは甲4号証の成立を証明する必要が生じる(228条1項)。
2.では,Yが認否をしなかった場合,Xは証明する必要はあるか。文書の真正に擬制自白(159条1項)が成立するかが問題となる。
 思うに,文書の真正は文書の証拠力に関わる補助事実である。補助事実は,証拠と同様の役割を果たすから,これに自白を成立させるならば,自由心証主義と抵触する。よって,補助事実には,擬制自白は成立しない。
 この点,文書の成立の真正については,これが肯定されると,文書の記載内容について強い証拠力を有することになるとして,例外的に自白の成立を認める見解もある。しかし,やはり主要事実とはその重要性に差があるというべきであるから,採用できない。
 以上から,文書の真正に擬制自白は成立しない。
 よって,Yが認否をしなかった場合も,依然,Xは甲4号証の成立を証明する必要がある。
3.以上のように,Yが甲4号証の成立の認否をしたか否かは,訴訟上の効果において差が無い。この場合,本問では,Fの署名があることから,成立の真正は推定される(228条4項)。その結果,Xは積極的な立証活動をしなくても,甲4号証の成立の真正は認められることになる。
第4.設問2(2)について
1.陳述Aについて
  Yの,第1回口頭弁論期日における,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言があったことを認める陳述は,自白(179条)にあたり,陳述Aは訴訟上の効力を認められないのではないか。
 自白とは,自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。そして,「不利益な事実」とは,訴訟経済の観点から,広く敗訴可能性のある事実をいうと解する。
 本問で,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言は,解除の意思表示を基礎付ける事実である。解除が認められると,Yは敗訴する可能性がある。
 よって,Yにとって「不利益な事実」にあたり,自白が成立する。
 従って,原則として,Yは「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言があったことを争うことができない。
 もっとも,自白の拘束力は,不要証となったことへの相手方の信頼保護のためである。従って,相手方の同意がある場合,自白が真実に反し錯誤に基づく場合,刑事上罰すべき他人の行為による場合には,自白した者の利益を優先して,自白の撤回を認めるべきである。
 以上から,本問で,Xの同意がある場合,「支払済みの200万円は返してもらう」旨の発言が存在せず,かつ,Yの錯誤があった場合,刑事上罰すべき他人の行為によりYの自白がなされた場合を除き,陳述Aは訴訟法上,効力を生じない。
 また,陳述Aは,第1回口頭弁論期日の後,弁論準備手続を終了した後の,Fの証人尋問並びにX及びYの当事者本人尋問を行うために開かれた第2回口頭弁論期日になって主張されている。従って,Yが説明義務(174条・167条)に基づき,合理的な理由を説明しない限り,時機に後れた攻撃防御方法として却下(157条1項)されるべきものである。
2.陳述Bについて
 陳述Bは,解除の意思表示に該当することを争うものである。
 この点,解除の意思表示の存在自体が主要事実であると解すると,Xの発言は全体として否認となる。
 しかし,何が解除の意思表示にあたるかは,裁判所の法的評価を伴う。従って,解除の意思表示の有無それ自体は主要事実ではなく,その基礎となる具体的事実が主要事実であると解する。
 よって,解除の意思表示にあたること自体について否認する陳述は,訴訟上効力を生じないと考える。
 以上から,陳述Bは訴訟上何らの効果も生じない。
第5.設問3について
1.@の手段では,訴えが遡及的に消滅してしまい(262条1項)。紛争解決が図れない。
 よって,K弁護士の立場で@の方法をXの側に求めるべきではない。
2.A,Bの手段をとる場合,請求の放棄・訴訟上の和解に既判力が生じるかが問題となる。
 思うに,紛争解決の観点から,既判力を認める事が望ましい。
 もっとも,法的安定性・明確性の観点から,既判力を認めるには,客観的範囲が明確でなければならない。
 この点,請求の放棄についてはその生じる範囲も請求の趣旨に限定され,明確である。
 他方,訴訟上の和解については,主文に相当する部分がなく,既判力の生じる限界を画する事が困難である。
 よって,請求の放棄には既判力は生じるが,訴訟上の和解には既判力は生じないと解する。
3.以上から,K弁護士の立場では,既判力の生じるAの方法をXの側に求めるべきである。

以上

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