問題は、何故バレたか
今年の新司法試験の行政法の出題論点が事実上、漏洩していたことが明らかになった。
詳細は、朝日、読売、毎日、産経の各マスコミのWEB上で確認して欲しい。
旧司法試験時代から、司法試験考査委員のゼミ生は有利であるという話は言われていた。
従って、試験委員が情報提供をしていたという点それ自体は、新しい話ではない。
しかし、これが表沙汰になったという点は新しい。
そこで、何故新司法試験になって、このような話が表沙汰になってしまったのかを考える必要がある。
新しい制度になって注目度が高かった、ネットのせいで話が表に出やすくなったということは考えられよう。
しかし、それだけだろうか。
ゼミという共同体
かつての情報提供というのは、主として試験委員が自己のゼミ生に対して行っていたと言われている。
大学のゼミは、一種の村社会である。
学生の帰属意識が強い。
サークルと同じか、それ以上の「居場所」である。
卒業後も、OB会などがあるから、関係は継続する。
また、教授も、学生の就職等を含めて面倒をみたりするなど、他の学生とは異なる扱いをする。このような環境の下で情報提供がなされるとすれば、それは主として「かわいい学生のため」に行われる。
就職の世話と同次元と考えていい。
当然そのように、自分のために世話をしてくれる恩師に対して、学生は恩義を感じるだろう。
これを公表して、「恩を仇で返す」ようなことはしない。
そんなことをすれば、自分の居場所が壊れてしまう。
通過点としてのロー
他方、法科大学院は、様相を異にする。
ロー生にとって、ローは新司法試験受験のための前提に過ぎない。
自分のローに帰属意識を持つロー生は、あまりいないだろう。そして、ローの教官も、個々のロー生の世話を焼く事はあまりない。
教官の関心は、いかに合格者数を増やせるかという事にある。
個々の学生をゼミ生のように可愛がることはない。そのような状況では、ローの教官がする情報提供は、「合格者数を増やすため」に行われる。
これは、いわばローの教官自身の利益のために行うに等しい。
ロー生の利益は、二次的な効果ということになる。このことは、受益者であるロー生にも、容易に感じとることができるはずだ。
「ああ、自分のことを思ってやってくれているのではなく、数を増やしたいのだな」と、なる。
そうなると、自ら受益者でありながら、これを公表してしまう者が出てきても、不思議ではない。
行政法だということ
また、問題の科目が、行政法だということも、ポイントかもしれない。
行政法は、旧司法試験において、かつて選択科目として存在していた。
しかし、選択科目が廃止された後、長らく司法試験科目ではなかった。
新司法試験になって、久しぶりに試験科目に返り咲いたのである。そのため、どの程度までなら、やってもセーフかという境界線のようなものが、わかっていなかったということもあるだろう。
今回の件を見ると、事前の答練や、一斉のメール配信など、あまりにやり方がお粗末である。
特にメールは、記録が残るし、他校の学生に転送される危険もある。そういう意味では、これまでのノウハウの蓄積が無かったことが災いしたとも言える。
不正を生みやすい新司法試験制度
ただ、これを個々の教官のみの責任にするだけでは、問題は解決しない。
その根幹には、合格者数を確保しなければ廃校になりかねないという法科大学院の事情がある。
廃校が目前に迫れば、「背に腹は代えられない」と考え、不正に走ることは、ある種やむを得ない。
合格者数確保を強いられるローの現状を変えなければ、今回のようなことはなくならない。
規制を強化しても、手口が巧妙になるだけである。
(もっとも、下位ローは漏洩すべき情報すら入手できないという、より深刻な問題がある)。そして、新司法試験制度は、受験生にも、無理を強いる面がある。
それは、三振制度だ。
今はまだ、本格的に三振対象者は出ていないが、今後その数は増える。
そうなると、今度は学生の側に、「背に腹は代えられない」現象が起こる可能性が高い。
それは、カンニング等の不正である。
かつては、司法試験におけるカンニングは効率性の問題からほとんど不可能だった。
しかし、それも変わりつつある。
一つ挙げれば、かつては将来の受験資格剥奪のデメリットは大きかった。
だが、今年で三振という受験生にとっては、これはもうデメリットではない。
また、技術的な面でも変化は大きい。
これについては、またいつか書きたいと思う。