平成19年度新司法試験論文式
刑事系第ニ問参考答案

第1.設問1について
1.本問のビデオ撮影・録画は強制処分か,任意処分か。強制処分ならば法定の方法しか認められない(強制処分法定主義,197条1項ただし書)ことから問題となる。
 強制処分法定主義の趣旨は,捜査機関による不当な人権侵害を抑止する点にある。よって,同意なく人権制約をする処分は強制処分となる。
(1) まず,S,T及びU駐車場付近の各電柱に設置されたビデオカメラによる撮影・録画について検討する。当該ビデオ撮影・録画は,各駐車場の管理人及び電柱を管理する電力会社の承諾を得ている。しかし,駐車場利用者の承諾は得ていなかった。そこで,駐車場利用者の肖像権・プライバシー権(憲法13条)を制約するものとして,強制処分とならないか。
 当該ビデオカメラによる撮影は,公道から見える同駐車場出入口を画面の中心に捉えたものと,公道から見えるC社製高級外車を画面の中心に捉えたものである。
 公道は,誰もが自由に通行できる。従って,公道上では常に他人の視線に晒される。そうである以上,肖像権・プライバシー権は放棄されたものというべきである。
 本問のS,T及びU駐車場は,いずれも管理人が常駐していない屋根のない駐車場であり,だれでも自由に駐車場内に出入りすることが可能であった。さらに,撮影範囲は公道から見える部分に限られる。従って,公道に準じて考えることができる。
 よって,駐車場利用者の肖像権・プライバシー権は放棄されている。
 以上から,S,T及びU駐車場付近の各電柱に設置されたビデオカメラによる撮影・録画は,任意処分である。
(2) では,F方2階のベランダに設置したビデオカメラによる撮影・録画はどうか。Fの承諾は得ているが,甲の承諾も,Dアパートの他の住人や付近住人の承諾も得ていないので,これらの者の肖像権・プライバシー権を制約するものとして,強制処分とならないか。
 同ビデオカメラは,画面の中心に,Dアパートの甲方玄関ドアから出た直後又は同方に入る直前の人物の公道上の姿を捉えるものである。
 確かに,その撮影範囲には,甲方玄関ドア等は含まれていない。公道上の姿を撮影するに過ぎない。よって,肖像権・プライバシー権の放棄を認めることが出来そうである。
 しかし,甲方玄関ドアから出た直後又は同方に入る直前の姿を撮影する点で,一般の公道の撮影と異なる。玄関の周囲は依然生活空間に含まれるというべきである。よって,少なくとも,居住者である甲の肖像権・プライバシー権の放棄は認めることができない。
 以上から,F方2階のベランダに設置したビデオカメラによる撮影・録画は,強制処分である。
2.では,それぞれの撮影・録画は適法か。
(1) まず,S,T及びU駐車場付近の各電柱に設置されたビデオカメラによる撮影・録画は,任意処分である。もっとも,任意処分といえども,無制限に行うことは出来ない。比例原則から,必要かつ相当な限度でのみ認められる(196条,197条1項本文)。
 本問では,S,T及びU駐車場は,夜間の人通りが極めて少ない上,出入口を除く三方を,隣接する多数の木造住宅に囲まれていて,出入口に面した各公道の幅員は5メートル程度であり,犯人に気付かれることなく各駐車場付近に警察官を張り込ませることは極めて困難であった。従って,ビデオカメラの設置によって,警察官の張り込みに代えることは,必要であった。
 また,P,Q及びR駐車上での不審火は全てC社製高級外車を対象とするものであった。よって,同じくC社製高級外車の駐車されていたS,T及びU駐車場に犯人が現れる可能性が高い。さらに,そのビデオテープを次の撮影に使用して上書き録画することで,不要な映像は消去されていた。従って,不要な撮影・録画は最小限度にとどまっており,相当性を認めることが出来る。
 以上から,S,T及びU駐車場付近の各電柱に設置されたビデオカメラによる撮影・録画は,適法である。
(2) 他方,F方2階のベランダに設置したビデオカメラによる撮影・録画は強制処分である。強制処分は,法定の方法しか認められない。撮影・録画は検証にあたり,検証令状を要するのが原則である(218条1項)。
 もっとも,現行犯・準現行犯については,無令状で身柄拘束まで認められる(212条,213条)。従って,現行犯的状況,すなわち,現に犯罪が行なわれ,もしくは行なわれたのち間がないと認められる場合で,証拠保全の必要性および緊急性があり,かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法で行なわれるときは,例外的に無令状での撮影が認められると解する。
 本問では,確かに,火元の前部バンパー付近からベンジンの成分が検出され,甲がアルバイトしているクリーニング店で同年2月中旬以降,染み抜き剤として用いているベンジン500ミリリットル入り瓶数本を紛失していたこと,3月21日の出火直後に,R駐車場から約200メートル離れた路上で,甲とよく似た人物が,右手にその容量が500ミリリットル程度の瓶を持ち,R駐車場方向からその反対方向に向かって走り去ったとの目撃情報があること,甲が友人Eに対し,「確か,R駐車場にはC社製の車があったよね。」などと話していたことから,甲の挙動について,証拠保全の必要性が高かったといえる。しかし,本問のビデオカメラ設置の状況が,現に犯罪が行なわれ,もしくは行なわれたのち間がないと認められる場合でないことは明らかである。
 よって,無令状の撮影が例外的に許容されうる場合にあたらない。
 以上から,F方2階のベランダに設置したビデオカメラによる撮影・録画は,無令状の検証にあたる行為であり,不適法である。
第2.設問2について
1.事例8記載の事実は,器物損壊事件であるが,公共の危険の発生という事実の認定の点が異なるだけであり,実質的には本問の建造物等以外放火被告事件と同種の前科という事ができる。
2.では,このような同種前科でもって,甲が犯人であること,すなわち,犯人と被告人の同一性を認定する証拠とすることができるか。
 思うに,以前に同種の犯罪を犯したことと,今回の犯罪の犯人であることには,合理的関連は薄い。従って,最低限の証明力としての自然的関連性を認めるに足りない。また,同種前科は,裁判官に「またやったのだろう」との予断を抱かせる。従って,裁判官の判断を誤らせる類型的な危険があり,法律的関連性も認められない。
 よって,原則として,同種前科で犯人と被告人の同一性を認定することは許されない。
 もっとも,犯行手口に際立った特徴がある場合,そのような犯行をなす者の範囲が限定される。従って,犯人との同一性につき合理的関連を認めうる場合がある。この場合は,最低限度の証明力たる自然的関連性を認めてよい。また,同種前科のみで犯人との同一性を認定せず,客観的な補強証拠を要求すれば,裁判官の判断を誤らせる危険を減少させることができ,法律的関連性も認めうる。
 よって,犯行手口に際立った特徴がある場合は,客観的な補強証拠の存在を要件として,犯人と被告人の同一性を認定する証拠として同種前科を用いうると解する。
3.本問では,屋根のない駐車場という犯行現場の状況,無関係の第三者が所有するC社製高級外車という客体,ドアに折りたたみ式ナイフで複数のひっかき傷を付けた上,同車両の前部バンパー付近にベンジンを散布してこれに火をつけ,同バンパー付近を焼損するという行為態様など,際立った特徴がある。
 そして,帽子,黒色ジャンパー,紺色ズボン,白色マスク,500ミリリットルのベンジン空き瓶,折りたたみ式ナイフ及びライター各1点など,客観的な補強証拠も存在する。
 よって,例外的に同種前科で犯人と被告人の同一性を認定しうる場合にあたる。
4.以上から,甲を被告人とする建造物等以外放火被告事件の公判において,事例の8記載の事実を,同被告事件の犯人は甲であるとの認定に用いることは,許される。

以上

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