最新下級審裁判例

東京地裁判決平成19年06月27日

【事案】

 A(以下「亡A」という。)が,被告国が設置運営するB病院(以下「被告病院」という。)において、被告C医師(以下「被告C医師」という。)の執刀により肝切除手術を受けたものの,その後退院できないまま死亡したことに関し、手術適応がないのに手術した過失、手術による合併症や死亡率などを伝えずに手術をした説明義務違反等を主張して、亡Aの子である原告が,被告国に対しては、診療契約の債務不履行又は民法715条の使用者責任に基づき、被告C医師に対しては、民法709条不法行為に基づき、連帯して損害賠償金の支払を求め、併せて不法行為又は債務不履行がなされた日である手術時から支払済みまで民法所定年5分の割合による損害金の支払を請求した事案。

【判旨】

 良性か悪性か鑑別が難しい腫瘍の場合,仮に,医療機関が良性腫瘍として取り扱い良性腫瘍として治療方針を立てて治療したが後になって悪性腫瘍であることが判明した場合,手術の切除範囲が狭かったことあるいは手術が可能であるのにそのまま経過を観察して時を過ごしたこと等が原因で,最初に悪性腫瘍と同じ扱いをして広範囲に切除しておけば避けられたのに再発や転移を生じて死亡するに至るという取り返しのつかない結果が生じる危険性がある。
 したがって,良性か悪性か鑑別の難しい腫瘍の場合,悪性腫瘍として取り扱うことの方が最も患者の利益に合致するもので,悪性腫瘍と同じ扱いをすることもやむを得ない。

 ある疾患について複数の治療法が存在する場合において,患者が第1選択(標準的治療法)とされている治療法(複数の場合もある)とは異なる治療法を選択した場合,標準的治療法(第1選択)とされた治療法は,他の治療法と比較した場合に患者のメリットとデメリットを対比して最も患者の受ける利益が大きいことから標準的治療法とされているのであって,患者は,通常の場合,患者が選択した治療法が標準的治療法よりもメリットが少ないかあるいはデメリットが多く治療成績あるいは合併症という点で劣った治療法であることを理解していないことが少なくないことに照らすと,医師は,患者に対して,標準的治療法と患者が選択した治療法の利害得失を比較対照できるように,なぜ患者が選択した治療法が標準的治療法となっていないかを患者が理解できるように具体的に説明すべき法律上の義務を負っているものというべきである。医師は,標準的治療法を拒否している患者を翻意させる義務までを負うものではないが,少なくとも患者に誤解がないかどうか確認し再検討する機会を与える義務を負っているのである。したがって,医師が上記説明を怠ったまま患者が選択した治療法を実施した場合,医師は,少なくとも説明義務違反として損害賠償責任を負うことを免れない。
 他方,患者が標準的治療法を選択している場合には,もとより患者の自己決定権の実質的な確保との観点から,標準的治療法以外の治療法の存在,そのメリット及びデメリットについても説明すべきではあるが,いやしくも医師がそれよりも治療成績あるいは合併症といった点で劣った標準的治療法とは異なる治療法を説明して患者を翻意させ,当該標準的治療法とは異なる治療法を受けさせるようなことがあってはならないことはいうまでもないところである。

 

東京地裁判決平成19年06月28日(ブルドックソースとスティール・パートナーズの事件)

【事案】

 債務者の株主である債権者が,債務者が平成19年6月24日の株主総会決議(第7号議案)に基づいて現に手続中の新株予約権の無償割当て(以下,この新株予約権を「本件新株予約権」といい,この無償割当てを「本件新株予約権無償割当て」という。)について,@新株予約権の内容が株主平等原則(会社法109条1項)に反し,法令に違反すること,A上記の株主総会決議(第7号議案)は無効又は取り消されるべきものであるから,一定の新株予約権無償割当てに株主総会決議を求める定款(第6号議案の決議に基づいて変更された第19条)に違反すること,B債権者関係者の持株比率を大幅に希釈化させることのみを目的とするもので,著しく不公正な方法によるものであることを理由として,会社法247条の類推適用に基づき,これを仮に差し止めることを求めた事案。

【判旨】

 会社法247条は,第4款「募集新株予約権の発行をやめることの請求」中に置かれ,株主が株式会社に対し,同法238条1項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる旨を規定しているものであるから,同法277条の規定する新株予約権無償割当てについて同法247条の規定を直接適用することができないことは明らかである。

 次に新株予約権無償割当てについての同法247条の類推適用の可否について検討する。
 会社法は,同法238条1項の募集に係る新株予約権の発行が法令若しくは定款に違反する場合,又は当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,その株主に株式会社に対する当該新株予約権発行の差止請求権を認めている(同法247条)。その趣旨は,募集新株予約権の発行については,新株予約権の割当てを受ける権利が無視されたり,第三者への新株予約権の発行がされ,その行使としての株式の交付により持株比率が低下したり,又は第三者に有利な価額で新株予約権が発行され,その行使としての株式の交付により株価の低下に伴う損害を受けるなど株主が不利益を受けるおそれがあるため,法令若しくは定款違反又は不公正な方法による発行により不利益を受けるおそれがある株主を事前に救済するということにある。一方,新株予約権無償割当ては,既存株主の株式の保有数に応じて新株予約権を割り当てるにすぎず,二つ以上の種類の株式を発行している場合を除けば,株主にとっては,新株予約権の行使により発行済株式数が増えても,従来の保有株式と新たに交付された株式を合計すれば,持株比率や株式の総体的な経済的価値に変更はないから,通常は,株主が不利益を受けるおそれを想定することができない。そのため,新株予約権無償割当てについては,募集新株予約権の発行と同様の差止請求権が規定されなかったものと解される。
 これに対し,本件新株予約権無償割当てにより割り当てられる本件新株予約権には,債権者関係者は非適格者として新株予約権を行使することができないとするなど新株予約権者を差別的に取り扱う行使条件(以下「差別的行使条件」という。)が付されており,債権者関係者は,本件新株予約権の割当ては受けるものの,本件新株予約権を行使して株式の交付を受けることができず,その結果,既存株主としての地位に実質的な変動が生じ,持株比率及び保有株式の経済的価値の低下という不利益を受けるおそれが生じることになる。このようなおそれは,募集新株予約権の発行が法令若しくは定款に違反する場合又は当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合に既存株主に生ずる不利益のおそれと本質的に異なる性質のものではない。
 また,このような差別的行使条件を付した新株予約権無償割当ては,債権者関係者を除く株主に対する募集新株予約権の発行と実質的には異なるところがないが,後者の場合には差止請求権の行使が可能であるのに,前者の場合には差止請求権の行使ができない結果となることに合理的な理由を見出すことは困難である。
 さらに,平成17年法律第87号による改正前の商法においては,株主に対して無償で新株予約権を発行する場合についても新株予約権発行の差止請求権が認められていたところ(同法280条の39第4項,280条の10),会社法においては,新株予約権無償割当てが原則として既存株主に不利益を及ぼすものでないため差止請求権を規定しなかったものであって,新株予約権無償割当てが既存株主の地位に実質的な変動を及ぼす場合にまで差止請求権を排除する趣旨であるとは解し難い。
 したがって,新株予約権無償割当てについても,それが株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には,会社法247条の規定が類推適用されると解すべきであって,本件新株予約権無償割当てが債権者の地位に実質的変動を及ぼすものであることは前判示のとおりであるから,本件新株発行無償割当てについては,同条の規定が類推適用されるというべきである。

 会社法109条は,株式会社は,株主をその有する株式の内容及び数に応じて,平等に取り扱わなければならない旨を規定するところ,この規定は,株主としての資格に基づく法律関係については,株主を,その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないといういわゆる株主平等原則を定めるものと解されている。
 他方,新株予約権について,株式会社は,一定の行使条件を付すことができ,また,株式会社が一定の事由が生じたことを条件として当該新株予約権を取得することができる旨(以下「取得条項」という。)を定めることができるところ,このような行使条件又は取得条項の定めは,新株予約権の内容に係ることであって,株式の内容や株主としての資格自体に直接関係するものではない。したがって,行使条件や取得条項について新株予約権者間で差別的取扱いを行うことを内容とする新株予約権が発行されたとしても,これをもって,当該新株予約権が直ちに株主平等原則に違反するということはできない。
 しかしながら,新株予約権が,第三者に対する割当てではなく,株主に対する無償割当ての方法で発行される場合には,以下の理由から,当該新株予約権についても,株主平等原則の趣旨が及ぶと解すべきである。
 まず,新株予約権無償割当ては,株主に対して新たに払込みをさせないで新株予約権を割り当てるものであるから(会社法277条),株主は,当該新株予約権の割当てを,株主としての資格に基づいて受けているものというべきであって,当該新株予約権の内容が株主平等原則と関係しないとは解し難い。
 また,新株予約権無償割当ての制度は,株式無償割当ての制度とともに,会社法制定に伴い新たに導入されたものであるところ,株式無償割当てと株式分割を比較すると,異なる種類の株式の交付が可能な点,自己株式に効力が及ばない点,自己株式の交付が可能な点などのほかは,株式無償割当ては株式分割と基本的に同様の機能を有するものとされている。そうすると,株式無償割当てについて,会社法186条2項は,株主に割り当てる株式の数又はその数の算定方法についての定めは,当該株式会社以外の株主の有する株式の数に応じて株式を割り当てることを内容とするものでなければならない旨を規定するところ,この規定は,株主に割り当てられる株式は,株式分割と同様に,実質的に同一の内容であることを前提とするものと解される。そして,同法278条2項は,株主に割り当てられる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは,当該株式会社以外の株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないことを定めており,これは上記186条2項とほぼ同一の規定であるから,新株予約権無償割当ても,株主に割り当てられる新株予約権が実質的に同一の内容であることを前提とするものと解するのが自然である。
 さらに,会社法において,新株予約権無償割当てについては,募集新株予約権の発行と同様の差止請求権の規定が設けられていないが,その趣旨は,新株予約権無償割当ては,既存株主の株式の保有数に応じて新株予約権を割り当てるにすぎず,株主にとっては,新株予約権の行使により発行済株式数が増えても,従来の保有株式と新たに交付された株式とを合計すれば,持株比率や株式の総体的な経済的価値に変更がなく,通常は株主が不利益を受けるおそれを想定できないことにあると解されることは前判示のとおりである。
 本件新株予約権無償割当てにおいては,債権者関係者を含む株主全員に,同一内容の新株予約権の割当てが行われるため,形式的には平等な取扱いがなされるといい得るものの,当該新株予約権の内容として差別的な行使条件及び取得条項が定められているため,債権者関係者以外の株主が新株予約権を全部行使した場合,又は,債務者が取得条項に基づき債権者関係者以外の株主の新株予約権を全部取得して,これに対応する株式が交付された場合には,債権者関係者の持株比率は大幅に希釈化されるという不利益を受けることになる。
 もっとも,株主平等原則について,会社法は一定の場合に例外的な取扱いを行う余地を認めているのであって,同法の規律に基づき,本件新株予約権無償割当ての定める差別的な行使条件及び取得条項に基づく債権者関係者の不利益が許容されるものか否かを検討する。
 まず,募集株式又は募集新株予約権の募集事項の決定について,公開会社においては,募集株式の払込金額が株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(この場合には株主総会の特別決議により決定することが必要である。)等を除き,取締役会の決議によるものとされている(201条1項,240条1項)。そうであれば,会社法は,既存株主の持株比率の維持の要請は,株式の経済的価値の平等の要請より劣後するものとして扱っているということができる。
 また,株式会社が,吸収合併及び株式交換を行う場合において,消滅会社の株主等に対して交付する対価については,金銭その他の財産であれば足り(749条1項2号,751条1項3号,768条1項2号,770条1項3号),その対価は,消滅会社の株主等の有する株式の数に応じて交付しなければならないものとされている(749条3項,751条3項,768条3項,770条3項)。そうであれば,会社法は,株主の有する株式の数に応じて金銭その他の対価が交付され,経済的利益が確保される限り,株主総会の特別決議によって(783条1項,309条2項12号),少数株主の株主としての地位を強制的に失わせることを許容しているということができる。
 さらに,譲渡制限株式の買取り等(140条2項,5項,309条2項1号),特定の株主からの自己株式取得(156条1項,160条1項,309条2項2号),現物配当(454条4項,309条2項10号)といった,支配株主等一部の株主のみが利益を受けるおそれがあり,株主平等原則の上から株主の利害に関わる事項も,会社法は,株主総会の特別決議の下に許容しているということができる。
 このような会社法の規律の内容に照らすと,株主に無償で割り当てられた新株予約権について定められた差別的な行使条件又は取得条項のために,特定の株主が持株比率の低下という不利益を受けるとしても,少なくとも株主総会の特別決議に基づき当該新株予約権無償割当てが行われた場合であって,当該株主の有する株式の数に応じて適正な対価が交付され,株主としての経済的利益が平等に確保されているときには,当該新株予約権無償割当ては,株主平等原則や会社法278条2項の規定に違反するものではないと解するのが相当である。

 企業の経営支配権の争いがある場合に,現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきかの判断は,株主によってされるべきである。
 すなわち,会社の経営支配権に現に争いが生じている場合に,株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営陣の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として取締役会が新株予約権の発行をした場合には,取締役会がその権限を濫用したものとして,原則として不公正な発行として差止請求が認められるべきである。もっとも,株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権の発行を正当化する特段の事情のある場合,具体的には,敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく,敵対的買収者による経営支配権の取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情がある場合には,取締役会は一種の緊急避難的行為として相当な対抗手段を講ずることが許容されるというべきであり,こうした事情を会社が主張,疎明した場合には,例外的に,手段の相当性が認められる限り,株主構成を変更すること自体を主要な目的とする新株予約権であっても,その発行を差し止めることはできない。
 これに対し,本件新株予約権無償割当ては,債権者関係者による本件公開買付けが開始された後という,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において実施されたものであるが,その手続をみると,株主総会において,第6号議案の決議により債務者の定款を変更して,一定の場合の新株予約権無償割当てを株主総会の権限とした上で,第7号議案において,当該定款の規定に基づき,株主総会の権限の行使として特別決議に基づき実施されたものである。そうであれば,本件新株予約権無償割当ては,取締役会の提案に係るものではあるが,その実施は,株主総会の権限に基づきされているから,取締役会の権限に基づき新株予約権の発行がされた場合についての上記の法理は,本件について妥当するものではない。また,本件新株予約権無償割当ては,債権者関係者による経営支配権の取得を防止することを目的とするものであるが,誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは,株主総会における資本多数決によって決すべき事柄であるから,定款に定められた株主総会の権限の行使として特別決議に基づき実施された本件新株予約権無償割当てについて,その目的が債権者関係者による経営支配権の取得を防止することにあることをもって,直ちに株主総会がその権限を濫用したものと認めることもできない。

 そもそも,現経営陣と買収者のいずれに経営を委ねるべきかの判断は,双方の提案に係る事業計画,従業員等利害関係人の意見,アナリスト等の市場関係者の評価を踏まえながら,最終的には株主によってされるべきものであって,株主総会は,その株主によって構成される株式会社の最高意思決定機関であるから,特定の買収者による経営支配権の取得が企業価値を損なうおそれがあるという対抗手段の必要性の判断については,原則として株主総会に委ねられるべきであり,当該株主総会の判断が明らかに合理性を欠く場合に限って,対抗手段の必要性が否定されるものというべきである。
 他方,株主総会の特別決議による対抗手段であっても,特定の買収者による経営支配権の取得を妨げるという目的に必要な範囲を超えて,当該買収者又はその他の株主の利益を損なうことは許されないのであって,株主総会が採った対抗手段の相当性については,こうした観点から,株主総会が当該対抗手段を採るに至った経緯,当該対抗手段が既存株主に与える不利益の有無及び程度,当該対抗手段が当該買収に及ぼす阻害効果等を総合的に考慮して判断すべきである。

 債権者関係者は,債務者の発行済株式の全部の取得を目的とする本件公開買付けを通じて債務者の経営支配権の取得を目指しているにもかかわらず,経営権取得後の経営方針については,これを具体的に明らかにせず,また,債権者関係者は,投資ファンドという性質から最終的には投資資本を回収して投資家への利益還元をしなければならないにもかかわらず,投下資本の回収方針を明らかにしていないといわざるを得ず,このような態度は,投資家としては必ずしも不合理ではないとしても,事業会社である債務者の株主の多くに対して,債権者関係者による債務者の経営支配権の取得が債務者の企業価値を損なうのではないかという疑念を抱かせるのも無理からぬものというほかない。加えて,債務者の株主構成は,平成18年9月30日現在の数字ではあるが,発行済株式の総数に対する上位10名の大株主の保有株式数の割合は約33パーセントにとどまり,債権者以外の大株主はいずれも4パーセント以下というのであって,債権者以外の特定の大株主の意向によって株主総会における特別決議の成否が左右されるような状況にもなかったことが認められる。
 これらの事情に照らすと,債権者関係者による本件公開買付けが債務者の企業価値ひいては株主の共同の利益を損なうおそれがあり,本件公開買付けに対する対抗手段を採ることが必要であるとした株主総会の判断が,明らかに合理性を欠くものということはできない。

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