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最高裁判所第一小法廷決定平成19年07月02日

【判旨】

 被告人らは,現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で,現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり,そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから,その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立するものというべきである。
 また,被告人らは,盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣に位置する現金自動預払機の前の床にビデオカメラが盗撮した映像を受信する受信機等の入った紙袋が置いてあるのを不審に思われないようにするとともに,盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機に客を誘導する意図であるのに,その情を秘し,あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い,適当な操作を繰り返しながら,1時間30分間以上,あるいは約1時間50分間にわたって,受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機を占拠し続け,他の客が利用できないようにしたものであって,その行為は,偽計を用いて銀行が同現金自動預払機を客の利用に供して入出金や振込等をさせる業務を妨害するものとして,偽計業務妨害罪に当たるというべきである。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成19年07月05日

【事案】

 被上告人は,平成5年7月16日,Aとの間で,同人が株式会社B銀行から600万円を借り入れるにつき信用保証委託契約を締結し,これに基づき,そのころ,B銀行との間で,Aの同銀行に対する上記600万円の債務を保証する旨約した。
 Cは,前同日,被上告人に対し,Aが上記信用保証委託契約に基づき被上告人に対して負担する一切の債務を連帯保証する旨約した(以下,この契約を「本件連帯保証契約」という。)。
 Cは,平成7年6月ころ,D信用金庫から1300万円を借り入れるにつき,被上告人との間で信用保証委託契約を締結した。そして,Cは,同月29日,被上告人との間で,当時所有していた原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき,以下の内容の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定契約を締結し,これに基づき,同日付けで,債権の範囲を「保証委託取引」とする根抵当権設定登記(以下「本件根抵当権設定登記」という。)がされた。

根抵当権者被上告人
債務者C
極度額1560万円
債権の範囲保証委託取引による一切の債権

 被上告人は,Aとの間の信用保証委託契約に基づき,平成10年9月24日,B銀行に対し,保証債務の履行として703万2033円を支払い,Aに対し同額の求償債権(以下「本件求償債権」という。)を取得した。
 Cは,平成13年9月までに,上記(2)記載のD信用金庫からの借入金債務をすべて弁済した。
 上告人は,売買により本件建物の所有権を取得し,平成17年5月16日,被上告人に対し,本件訴訟における準備書面により本件根抵当権の元本の確定を請求した。同日から2週間の経過により,本件根抵当権の元本は確定した。
 本件は,上告人が,本件根抵当権の被担保債権は存在しないとして,被上告人に対し,本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権に基づき,本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた事案である。これに対し,被上告人は,本件連帯保証契約に基づいて被上告人がCに対して有する本件求償債権に係る保証債権(以下「本件保証債権」という。)が本件根抵当権の被担保債権に含まれると主張し,上告人の請求を争っている。

【判旨】

 民法398条の2第2項は,根抵当権の担保すべき債権の範囲は債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して定めなければならない旨規定しており,前記事実関係によれば,本件根抵当権は,同項に基づき,担保すべき債権の範囲を根抵当債務者であるCとの「保証委託取引」によって生ずるものに限定するものであることが明らかである。そして,信用保証協会と根抵当債務者との保証委託取引とは,信用保証協会が根抵当債務者の依頼を受けて同人を主債務者とする債務について保証人となる(保証契約を締結する)こと,それに伴って信用保証協会が根抵当債務者に対して委託を受けた保証人として求償権を取得すること等を主たる内容とする取引を指すものと理解され,根抵当債務者でない者が信用保証協会に対して負担する債務についての根抵当債務者の保証債務は,上記取引とは関係のないものといわなければならない。同項の規定する「一定の種類の取引」は,被担保債権の具体的範囲を画すべき基準として第三者に対する関係においても明確なものであることを要するものであり,「保証委託取引」という表示が,法定された信用保証協会の業務に関するすべての取引を意味するものと解することもできない。
 以上によれば,被担保債権の範囲を保証委託取引により生ずる債権として設定された根抵当権の被担保債権に,信用保証協会の根抵当債務者に対する保証債権は含まれないと解すべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成19年07月06日

【事案】

 9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物をその建築主から購入した上告人らが,当該建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して,上記建築の設計及び工事監理をしたY1(以下「Y1」という。)に対しては,不法行為に基づく損害賠償を請求し,その施工をしたY2(以下「Y2」という。)に対しては,請負契約上の地位の譲受けを前提として瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補費用又は損害賠償を請求するとともに,不法行為に基づく損害賠償を請求する事案。

【判旨】

 建物は,そこに居住する者,そこで働く者,そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに,当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建物は,これらの建物利用者や隣人,通行人等(以下,併せて「居住者等」という。)の生命,身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず,このような安全性は,建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者(以下,併せて「設計・施工者等」という。)は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして,設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成19年07月06日

【事案】

 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)は上告人Y が,その上に存する同物1 件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)はAが,それぞれ所有していたところ,昭和44年5月29日,本件土地及び本件建物について,Aを債務者,Bを根抵当権者とする共同根抵当権(以下「本件1番抵当権」という。)が設定され,同月30日その旨の登記がされた。
 Aは昭和53年9月26日に死亡し,妻である上告人Y1及び子であるその余の上告人らがこれを相続して本件建物の共有者となった。
 平成4年10月12日,本件土地について,Cを債務者,Dを根抵当権者とする根抵当権(以下「本件2番抵当権」という。)が設定され,同月15日その旨の登記がされた。
 本件1番抵当権の設定契約は,平成4年10月30日に解除され,同年11月4日に根抵当権設定登記の抹消登記がされた。
 その後,本件2番抵当権が実行され,平成16年7月2日,被上告人が本件土地を競売により買い受けてその所有権を取得した。
 本件は,競売により土地を買い受けた被上告人が,その上に存する建物の共有者である上告人らに対し,建物収去土地明渡しを求める事案であり,同建物のための法定地上権の成否が争われている。

【判旨】

 土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後,甲抵当権が設定契約の解除により消滅し,その後,乙抵当権の実行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において,当該土地と建物が,甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても,乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは,法定地上権が成立するというべきである。その理由は,次のとおりである。
 上記のような場合,乙抵当権者の抵当権設定時における認識としては,仮に,甲抵当権が存続したままの状態で目的土地が競売されたとすれば,法定地上権は成立しない結果となる(前掲平成2年1月22日第二小法廷判決参照)ものと予測していたということはできる。しかし,抵当権は,被担保債権の担保という目的の存する限度でのみ存続が予定されているものであって,甲抵当権が被担保債権の弁済,設定契約の解除等により消滅することもあることは抵当権の性質上当然のことであるから,乙抵当権者としては,そのことを予測した上,その場合における順位上昇の利益と法定地上権成立の不利益とを考慮して担保余力を把握すべきものであったというべきである。したがって,甲抵当権が消滅した後に行われる競売によって,法定地上権が成立することを認めても,乙抵当権者に不測の損害を与えるものとはいえない。そして,甲抵当権は競売前に既に消滅しているのであるから,競売による法定地上権の成否を判断するに当たり,甲抵当権者の利益を考慮する必要がないことは明らかである。そうすると,民法388条が規定する「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する」旨の要件(以下「同一所有者要件」という。)の充足性を,甲抵当権の設定時にさかのぼって判断すべき理由はない。
 民法388条は,土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その抵当権の実行により所有者を異にするに至ったときに法定地上権が設定されたものとみなす旨定めており,競売前に消滅していた甲抵当権ではなく,競売により消滅する最先順位の抵当権である乙抵当権の設定時において同一所有者要件が充足していることを法定地上権の成立要件としているものと理解することができる。原判決が引用する前掲平成2年1月22日第二小法廷判決は,競売により消滅する抵当権が複数存在する場合に,その中の最先順位の抵当権の設定時を基準として同一所有者要件の充足性を判断すべきことをいうものであり,競売前に消滅した抵当権をこれと同列に考えることはできない。
 これを本件についてみるに,同一所有者要件の充足性の判断は,本件2番抵当権の設定時を基準とすべきであり,この時点では,本件建物の共有者の一人である上告人Y が本件土地を単独で所1 有していたのであるから,本件では法定地上権の要件を充足している(最高裁昭和46年(オ)第844号同年12月21日第三小法廷判決・民集25巻9号1610頁参照)。よって,本件建物のために法定地上権が成立しているというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成19年07月06日

【事案】

 上告人が従業員として勤務していた会社の親会社である米国法人から付与されたストックオプションを行使して得た権利行使益について,これが所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとして被上告人が上告人に対してした平成12年分の所得税に係る課税処分等が争われている事案。

【判旨】

 過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁参照)。
 前記事実関係等によれば,課税庁は,外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係る課税上の所得区分に関して,かつてはこれを一時所得として取り扱っており,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたが,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,その取扱いを変更し,給与所得として統一的に取り扱うようになったものである。この所得区分に関する所得税法の解釈問題については,一時所得とする見解にも相応の論拠があり,最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁によってこれを給与所得とする当審の判断が示されるまでは,下級審の裁判例においてその判断が分かれていたのである。このような問題について,課税庁が従来の取扱いを変更しようとする場合には,法令の改正によることが望ましく,仮に法令の改正によらないとしても,通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ,これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである。ところが,前記事実関係等によれば,課税庁は,上記のとおり課税上の取扱いを変更したにもかかわらず,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したというのである。そうすると,少なくともそれまでの間は,納税者において,外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使益が一時所得に当たるものと解し,その見解に従って上記権利行使益を一時所得として申告したとしても,それをもって納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。
 以上のような事情の下においては,本件申告において,上告人が本件権利行使益を一時所得として申告し,本件権利行使益が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,真に上告人の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお上告人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというのが相当であるから,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものというべきである。

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