平成19年度旧司法試験論文式
憲法第二問参考答案

第1.本問法律は,条約について最高裁の合憲性判断を参照するものである。
1.そこで,そもそも条約は憲法に適合していなければならないか,すなわち,憲法と条約の優劣が問題となる。
 内閣の条約締結権は,憲法に由来する(73条3号本文)。従って,条約は憲法を基礎とする。そうである以上,憲法が条約に優位する。
2.そうであるとしても,81条には条約が列挙されていない。条約の合憲性判断を裁判所が行うことは出来ないのではないか。
 81条は法の支配の原則の現われである。従って,憲法の下位にある全ての法規範は違憲審査の対象となるというべきである。
 よって,同条の列挙は例示列挙に過ぎず,条約も憲法の下位規範である以上,当然に違憲審査の対象となる。
第2.条約について最高裁が合憲性判断をすることが許されるとしても,事件性なしに合憲性判断をすることは出来るか。
1.81条は第六章「司法」の章にある。このことから,違憲審査権は司法の一作用であると考えられる。
 司法とは具体的な争訟について,法を適用し,宣言することにより,これを裁定する国家作用をいう。従って,具体的争訟性,すなわち事件性無しに司法権を行使することは出来ない。
 そうすると,司法の一作用たる違憲審査権も,事件性無しに行使できず,具体的事件の解決に必要な限度で付随的に行使し得るに過ぎないということになる(付随的審査制)。
2.本問法律は,条約締結以前に内閣の求めに応じて最高裁が合憲性判断を行うことになるから,付随的審査制には適合的でない。少なくとも,司法権の行使としては,認めることが出来ない。
3.もっとも,裁判所法3条1項は,裁判所に対し,法律上の争訟以外にも「法律において特に定める権限」を与えうるとする。そして,住民訴訟などの事件性のない客観訴訟や行政作用としての非訟事件たる家事審判手続などにつき,裁判所の権限が認められている。特に,前者については違憲審査権の行使が現実に行われている(愛媛玉ぐし料訴訟判決参照)。このような点につき,一般に違憲とはされていない。
 これは,権力分立に反しない限度において,司法権以外の権限を裁判所に与えることも,直ちに違憲とはならないことを意味すると理解する事が可能である。本問法律も,権力分立に反しないならば,裁判所法3条1項の「法律において特に定める権限」として憲法上許容される余地がある。
第3.では,本問法律は,権力分立に反しないか。
 この点,国会の承認以外に制約のない内閣の条約締結権(73条3号)に最高裁の事前の違憲判断による制約を加える事は,内閣の行政権を侵害して権力分立に反するようにも思える。
 しかし,そもそも,権力分立原理は公権力の濫用を相互の抑制と均衡により防ぐという自由主義的機能に本来的目的がある。
 今日では,福祉主義実現の必要性から,行政の役割が増大し,その権限領域が極めて広範にわたるという,行政国家現象が生じている。従って,行政権の濫用による人権侵害を統制する必要性が大きい。しかし,立法府たる国会は形骸化しており,行政を統制する機能を十分に果たしていない。
 このような状況においては,司法が積極的に憲法保障機能を果たすことで,抑制均衡を図るべきである。
 とりわけ,条約は,相手国との合意であるために,一度締結が完了してしまうと,我が国の意思のみで一方的に解消することは困難であること,従って,条約を違憲無効としても,国際法的効力を否定しがたいことなどの特殊性がある。従って,事後的な合憲性審査では,実効性を図る事が困難である。よって,締結前の段階での合憲性判断は,条約による人権侵害防止の観点から,その実効性確保のために重要であるということができる。
 その意味で,本問法律が最高裁に条約の事前的違憲審査を認めることは,権力分立の趣旨に合致するものである。
 以上から,本問法律は権力分立に反しない。
第4.よって,本問法律は,合憲である。

以上

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