平成19年度旧司法試験論文式
民法第一問参考答案

第1.設問1の(1)について
1.XはBに対して甲土地の所有権を対抗できないのが原則である。なぜなら,甲土地はXとBに二重譲渡されているところ,Bが先に登記を具備しているからである(177条)。
 もっとも,同条の「第三者」とは,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。従って,Bが背信的悪意者にあたる場合,登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないから「第三者」にあたらず,XはBに対して所有権を対抗できる。
 この場合,XはBに対して移転登記の抹消を請求できるが,直接自己への移転登記までも請求できるか。
 思うに,抹消と新たな移転登記を行う事は,手続・費用の面で迂遠である。そこで,現在の権利関係が正確に反映されていれば,公示として十分と考え,抹消に代わる直接の権利者への移転登記を肯定すべきと解する。
 よって,XはBに対して,甲土地の所有権に基づき,抹消登記に代えて直接自己へ移転登記するよう請求できる。
2.また,甲土地をBに贈与すると,Aは無資力となるため,Xは,Aに対する債権を保全するために,AB間の贈与を詐害行為として取り消す(424条1項)ことが考えられる。
(1) Xの被保全債権は甲土地の引渡し・登記移転請求債権と考えられる。このような特定債権を被保全債権とする詐害行為取消権は認められるか。
 思うに,特定債権も不履行により単純な金銭債権たる損害賠償請求権に転化するから,被保全債権たりうる。
 従って,特定債権を被保全債権とする詐害行為取消権も認められる。
(2) そして,唯一の財産を贈与する行為は客観的詐害性が強いから,AB間に通謀等がなくても,詐害行為となる。
(3) よって,BがAの無資力について悪意であれば,Xは詐害行為取消権を行使しうる。
 この場合,Xは詐害行為取消権に基づき,Bに対して,Aへ登記を戻すよう請求できる。もっとも,取消しは共同担保の保全の限度でのみ認められる(425条)から,自己への移転登記を求めることはできない。
 また,Xは,Aへの債権が損害賠償請求権に転化したことを前提として,詐害行為取消しをする以上,Aに登記を戻した後,さらに自己への移転登記をAに請求することはできない。
3.さらに,XはBに対して,債権侵害を理由とする不法行為(709条)に基づく損害賠償請求をすることも考えられるが,否定すべきである。なぜなら,対抗要件主義を採用する現行法上,単なる悪意では違法性は認められず,他方,背信的悪意ある場合には,侵害者の所有権取得は否定され,損害が生じないからである。
第2.設問1の(2)について
1.AB間の登記が虚偽である以上,登記は無効である。
 そして,Bは無権利者である以上,登記の欠缺を主張する正当な利益を有さず,「第三者」にあたらない。
 従って,Xは登記無しに甲土地所有権をBに対抗できる。
 よって,Xは甲土地所有権に基づき,Bに対して,抹消登記に代えて自己への移転登記を請求できる。
2.なお,現実の贈与が無い以上,詐害行為が存在しないから,詐害行為取消しはなしえず,また,債権侵害を理由とする不法行為も成立し得ない。
第3.設問2の(1)について
1.Cが先に登記を具備しているから,XはCに甲土地所有権を対抗できないのが原則である。
 そして,仮にBが背信的悪意者であっても,所有権の移転自体は有効であるから,Cは所有権を取得できる。
 もっとも,C自身が背信的悪意者に該当する場合は,XはCに甲土地所有権を対抗でき,甲土地所有権に基づき,抹消登記に代えて自らに移転登記するよう請求できる。
2.また,CがAの無資力につき悪意であれば,Xは詐害行為取消権に基づき,Cに対して,登記をAに戻すよう請求できる。
 この場合,Xは直接自己へ移転登記することは請求できず,Aに登記を戻した後,自らへ移転登記するようAに請求する事もできない。
3.さらに,XはCに対して,債権侵害を理由とする不法行為(709条)に基づく損害賠償請求をすることも考えられるが,否定すべきである。
第4.設問2の(2)について
1.虚偽の登記には公信力が無い以上,Cは無権利者であり,Xは登記なくしてCに甲土地所有権を対抗できるのが原則である。
 よって,Xは甲土地所有権に基づき,Cに対して抹消登記に代えて自己への移転登記を請求できる。
2.もっとも,虚偽の登記を信頼したCを保護するため,94条2項を類推適用する余地はある。
 すなわち,Aの虚偽登記作出の帰責性,Cの善意が認められれば,Cは94条2項類推適用により保護され,この場合,Xは甲土地所有権を対抗できなくなる。

以上

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