平成19年度旧司法試験論文式
民法第二問参考答案

第1.本問では,AB間の合意内容をCにも対抗できるかが問題となる。
 AB間の合意内容には,AB間の賃貸借の合意解約,転貸人の地位の移転,敷金債務の債務引受,賃料債権の譲渡という複数の法律行為が含まれている。
 しかし,これらは,Bが賃貸借関係から離脱するための一連のものであり,相互に密接な関連性がある。従って,個々の法律行為ごとに考えるのではなく,合意全体を一括して,Cに対抗できるか否かを考えるべきである。
第2.まず,Cには合意を対抗できないとする法律構成が考えられる。
1.その根拠は,他人の権利の目的となっている権利の放棄は許されないとの法理(398条),信義則(1条2項)から,賃貸借の合意解除は,転貸人に対抗できないという点にある。
2.この場合,AB間においては,Bは賃貸関係から離脱し,賃貸人はA,賃借人がCとなり,敷金関係もAに移転する(従たる権利義務,87条2項類推)。
 これに対し,Cとの関係においては,従前の法律関係が継続していることになる。
 その結果,BがCに対してする転貸人としての債務の履行や債権の行使は,Aとの関係では事務管理となる。
3.そのため,BC間の法律関係は次のようになる。
 Cは依然,Bに対して賃料を支払えばよく,その金額は月額120万円である。
 また,期間満了等で転貸借が終了する場合,CはBに対して600万円から残債務を差し引いた残額につき敷金返還請求をすることができる。
4.また,AC間の法律関係は次のようになる。
 AはCに対して,月額120万円の賃料を請求する事はできない。原賃貸借に基づく100万円に限られる(613条1項)。
 他方,CはAに対して,転貸借終了時に敷金返還請求をすることはできないことになる。
5.なお,AB間の法律関係は次のようになる。
 Bは,Cから受領した月額120万円の賃料を事務管理に基づき,Aに引き渡す義務を負う(701条・646条1項)。
 また,転貸借終了時にCに支払った敷金返還相当額につき,Aに対して事務管理に基づく費用償還請求をなしうる(702条1項)。
第3.また,合意はCにも対抗できるとする法律構成も考えられる。
1.その根拠は,賃貸人の地位の移転は,賃貸人の債務が非個性的であることから,賃借人の同意を要しないとする法理である。
2.この場合,Cとの関係でも,賃貸人はA,賃借人はCとなり,敷金関係もAに移転する。
 その結果,Bは完全に賃貸関係から離脱することになる。
3.そのため,BC間には,未払賃料等を除き,何ら債権債務関係は残らない。
4.他方,AC間には,BC間の法律関係がそのまま移転する。
 すなわち,AはCに対して,月額120万円の賃料を請求できる。
 他方,CはAに対して,賃貸借終了後,600万円から残債務を差し引いた残額につき敷金返還請求をすることができる。
第4.以上の二つの法律構成のうち,いずれが妥当であろうか。
1. 合意をCに対抗できないとする場合,Bは結局Cとの関係で賃料の受領や敷金返還等に関わることとなり,Bが賃貸借関係から離脱したいという合意の趣旨と合致しない。そればかりか,Aに対して,Cから受領した賃料月額120万円全額を引き渡さねばならなくなり,従来の賃貸借関係では100万円を賃料として支払えば足りた事と比較すると,不均衡である。結果,Bには不利益しかなく,Bの合理的意思に反する。
 また,賃貸借の合意解除が転貸人に対抗できないのは,転貸人の使用収益が一方的に奪われることの不当性にあるが,本問のように,原賃貸人との関係で賃貸関係が維持されるのであれば,そのような不当性はない。よって,法律構成の根拠も妥当とはいえない。
 他方,合意をCに対抗できるとする法律構成では,Bは賃貸借関係から離脱でき,合意の趣旨に合致する。また,Cは合意を対抗されても,本件建物の使用収益を継続できるから,不利益は少ない。
 以上から,合意をCに対抗できるという法律構成の方が妥当であると考える。

以上

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