平成19年度旧司法試験論文式
商法第二問参考答案

第1.A社の責任
1.A社はDとの契約当事者ではないので,何ら責任を追及されることはないのが原則である。
2.もっとも,B社は事務所にA社の商号を表示した看板も掲げて事業を行っており,Dは相手方をA社と誤認していることから,A社は名板貸に基づく責任(9条)を負わないか。
 名板貸の責任が認められるためには,@商号使用許諾があること,A相手方の誤信に加えて,商号が事業上の同一性を示すものであることから,B事業の同種性も必要である。
 本問では,@A社は明示の使用許諾はしていないが,B社の商号使用を知りながら放置していた場合は,黙示の承諾があるといえ,ADの誤信があり,BA社もB社も同じ運送業を営む会社であるから,事業の同種性もある。
 よって,A社がB社の商号使用を知って放置していた場合,DはAに対し,名板貸の責任を追及して代金100万円を請求できる。
3.また,A社は,Cに対し,「A社副社長」の肩書を付した名刺の使用を許諾し,Cは,その名刺を用いてDと取引したことから,354条に基づき,A社は責任を負うのではないか。
(1) まず,CはA社の取締役ではないから,直接適用はできない。
(2) もっとも,代表取締役らしい外観を信頼した点を重視して,同条の類推適用をすることはできないか。
 そもそも,同条の趣旨は,代表取締役らしい外観を付与した帰責性ある株式会社の静的安全よりも,外観を信頼した相手方の取引安全を優先する点にある。
 そうだとすれば,@代表取締役らしい外観があり,A会社がその外観を付与し,B相手方が外観を信頼して取引をした場合には,同条の類推適用を肯定すべきである。
 本問では,確かに,CはA社の従業員でもなく,名刺のみでA社の代表取締役らしい外観がただちに生じるとはいえない。しかし,B社は,事務所にA社の商号を表示し,取引はその事務所において行われ,その際に名刺が使用されたのである。さらに,A社は現実にB社に自らの業務の一部を委託しており,A社とB社の関係は密接である。以上を考慮すると,@代表取締役らしい外観が生じていたというべきである。
 また,AA社は名刺の使用を許諾することにより外観の付与に加功しており,BDは相手方をA社と誤認して取引をしている。
(3) 以上から,354条の類推適用に基づき,DはAに対して代金100万円を請求できる。
(4) なお,代表取締役の氏名は登記事項であり(911条3項14号),悪意が擬制(908条1項)されないか問題となるが,354条は取引の相手方に登記参照義務を免除する特則と考えられるから,908条1項は適用されない。
第2.B社の責任
1.DはB社に対して代金100万円の支払いを請求することが考えられる。そのためには,Cの代表行為の効果がB社に帰属していなければならない。
2.代表行為の効果帰属の要件として,顕名と,代表権の存在が必要であることが原則である(民法99条1項)。もっとも,本問の売買は商行為にあたる(商法503条1項)から,顕名は不要である(同法504条本文)。
 そして,CはB社の代表取締役であるから,代表権を有する。
3.以上から,Cの代表行為はB社に帰属する。よって,DはB社に対して代金100万円の支払いを請求することができる。
4.この点,名板貸や354条の類推適用により,Aが責任を負う場合,B社は責任を回避できないか問題となるが,名板貸は連帯責任であり,また,354条は専ら相手方保護の規定であることから,B社の責任回避は認められない。
第3.Cの責任
1.Cは代表者として売買契約をしたにすぎず,契約の効果帰属主体ではないから,Dに対して契約責任を負わないのが原則である。
 もっとも,B社がCと別個の法人格を認めるに耐えない程形骸化し,又は,B社の法人格が濫用されていると認められる場合には,当該売買契約についてはB社の法人格を否認し,Cを契約主体とみなすことができる(法人格否認の法理,民法1条3項)。
 この場合は,DはCに対して,売買代金100万円を請求する事ができる。
2.また,CがA社の商号を利用した行為は,取引主体を偽る目的であるから,不正の目的といえる。
 よって,DはCに対して刑事責任(8条1項,978条3号)を追及できる。
3.そして,Dが代金回収不可能となった場合,Cの違法な商号利用によるものであるから,DはCに対して,取締役の対第三者責任を追及できる(429条1項)。

以上

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