平成19年度旧司法試験論文式
刑法第二問参考答案

第1.甲の罪責
1.まず,うそをついて制帽と業務日誌を持ち出した行為について検討する。
(1) これによりXの公務執行が害されているが,公務執行妨害罪(95条1項)は成立しえない。なぜなら,甲はXに対して暴行脅迫をしていないからである。
(2) では,偽計業務妨害罪(233条1項前段)は成立するか。
ア.甲のXに対するうそは,「偽計」にあたる。
イ.もっとも,公務は「業務」にあたらないのではないか。
 権力的公務は「業務」にあたらない。なぜなら,妨害を排除する実力がある以上重ねて保護する必要がないからである。他方非権力的公務には,そのような実力がなく,民間業務と同様に保護すべきであるから,「業務」にあたる。
 本問で,Xは警察官であり,権力的公務にあたる。よって,「業務」にあたらない。
ウ.以上から,偽計業務妨害罪は成立しない。
(3) また,制帽と日誌の占有侵害につき,窃盗(235条)又は詐欺(246条1項)の成否も問題となる。
ア.まず,詐欺罪は成立しない。なぜなら,甲のうそは,制帽・日誌の交付の動機付けとなるものでなく,Xの処分行為に向けられていないからである。
イ.では,窃盗罪は成立するか。
(ア) 甲への占有移転は,Xの意思に反するものであり,「窃取」にあたる。
(イ) もっとも,窃盗罪の成立には,窃盗罪の領得罪としての本質から,権利者を排除して所有権者として振舞う意思(権利者排除意思)と,利欲犯的性格から,経済的用法に従い利用処分する意思(利用処分意思)が必要である。
(ウ) 本問で,甲は翌日にはXに返却するつもりであるが,その間のXの利用を排除する意思である以上,権利者排除意思は肯定できる。
 しかし,甲は制帽・日誌を利用する意思は全くなく,専ら隠匿の意思である以上,利用処分意思は認められない。
 よって,甲には不法領得の意思は認められない。
(エ) 以上から,窃盗罪は成立しない。
(4) ただ,隠匿も効用を害する行為に他ならないから,制帽につき器物損壊罪(261条)が,業務日誌につき公用文書毀棄罪(258条)が成立する。
2.その後,制帽をXに返すのをやめ,後に売るために自宅に保管しておくことにした点につき,占有離脱物横領罪(254条)は成立するか。
(1) 制帽は,占有を離れたXの物であるから,「占有を離れた他人の物」である。
(2) そして,横領とは不法領得意思の発現行為をいう。
 甲は権利者排除意思はもちろん,売るつもりだったことから,利用処分意思もある。
 よって,横領といえる。
(3) 以上から,占有離脱物横領罪が成立する。
(4) もっとも,制帽につき既に器物損壊罪が成立している。毀棄と横領は,本来の権利者から物の利用可能性を奪うという点で法益の共通性がある。
 よって,重い器物損壊罪に占有離脱物横領罪は吸収されると考える。
3.以上より,甲には器物損壊罪と公用文書毀棄罪が成立し,一個の行為によりなされたことから,観念的競合(54条1項前段)となる。
第2.乙の罪責
1.甲に対し,制帽を返却せずに売却するよう唆しているので,占有離脱物横領教唆(254条,61条1項)が成立する。
2.業務日誌を甲から譲り受けた点,盗品等無償譲受罪(256条1項)は成立しない。なぜなら,日誌は財産罪によって領得された物ではないからである。
3.Xに対し,マスコミに日誌を渡す旨脅迫し,10万円を要求したが,支払を拒まれた点,恐喝未遂罪(249条1項,250条)が成立する。
 また,脅迫による公務執行の妨害でもあるから,公務執行妨害罪も成立する。
 恐喝は個々の財産権,公務執行妨害は公務を保護法益とし,両者は別個の法益を侵害する以上,別個に成立する。
4.なお,甲の委託の趣旨に背いて,日誌を恐喝の手段に利用した点,背任ないし横領は成立しない。なぜなら,甲に財産上の損害が生じない以上,背任は成立しえず,また,横領の保護法益は単なる委託信任関係ではなく,物に対する所有権その他の本権を基礎とするものである以上,日誌の本権者ではない甲に対しては,横領罪は成立し得ないからである。
5.以上より,乙は占有離脱物横領教唆,恐喝未遂罪,そして,公務執行妨害罪の罪責を負う。
 後2者は一つの行為によることから観念的競合となり,残る1罪とは併合罪となる。

以上

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