平成19年度旧司法試験論文式
刑訴法第二問参考答案

第1.訴因は,犯罪の日時場所を特定して記載しなければならない(256条3項)。
 本問の起訴状の訴因の記載は,共謀の日時場所の記載を欠いている。訴因の特定性を欠いて違法ではないか。
 そもそも,訴因特定が必要とされた趣旨は,裁判所に事件を識別させると共に,被告人に防御範囲を告知する点にある。
 共謀の日時場所については,その記載がなくとも,実行行為の日時場所が特定されることにより他の事件と区別でき,裁判所は事件を識別しうる。
 また,少なくとも本問のような実行共同正犯においては,被告人の防御は実行行為への関与の有無が中心となるから,防御範囲の告知として十分といえる。
 よって,本問で,共謀の日時場所の記載がなくても,訴因の特定性を欠くものではない。
第2.では,裁判所の認定は適法だろうか。
1.まず,共謀者を氏名不詳者とし,実行行為者を「被告人又は氏名不詳者あるいはその両名」のように概括的に認定することは,罪となるべき事実(335条1項)の特定として十分といえるか。
 そもそも,罪となるべき事実の特定が要求される趣旨は,「犯罪の証明があつた」(333条1項)ことを明らかにする点にある。
 そうであるとすれば,犯罪成立が認められる程度の明示がなされていれば,足りるというべきである。 
 よって,実行行為者については,構成要件該当性を判定するに足りる程度の具体的明示があると認められれば,概括的な認定も許される。
 本問では,共謀の事実と,被告人・共謀者の少なくともいずれかの実行行為による殺害結果の発生が認定されており,殺人罪の構成要件該当性を判定するに足りる程度の具体的明示がある。
 よって,罪となるべき事実の特定として十分といえる。
2.そうであるとしても,訴因変更を経ることなく,かかる認定をすることはできるか。
(1) そもそも,当事者主義を重視する現行法においては,審判対象は検察官の主張する具体的事実たる訴因である。
 従って,事実に変化が生じれば,審判対象が異なることになる。
 もっとも,訴訟遅延回避のため,重要な事実変化がある場合に訴因変更をすれば足りる。
 そして,重要な事実変化とは,訴因の被告人に対する防御範囲告知機能を重視し,被告人の防御に支障をきたす事実の変化をいうと考える。
 その判断基準としては,予め一般的枠を設定する事が防御権保障に資するから,一般的抽象的にみて防御上支障があれば訴因変更を要すると考える。
(2) 本問で,共謀相手を氏名不詳者とすれば,訴因に記載された特定人との共謀不存在の立証が無意味となるし,実行行為者を概括的に変更すれば,被告人単独実行の否認に専念した被告人に不意打ちとなる。
 よって,一般的抽象的にみて防御上支障が生じるから,訴因変更が必要である。
(3) もっとも,甲は,自身と乙の犯行関与を否定し,甲乙以外の氏名不詳者の犯行を主張している。そうすると,その主張を一部いれて,本問のような認定をすることも,例外的に訴因変更なく可能と考えることはできないか。
 思うに,訴因の特定に必ずしも必要でない事項については,防御権の保障の必要性は相対的に低く,重大な不意打ちを招くことはないから,訴訟の弾力性を重視して一種の主張共通を認め,例外的に被告人の主張事実を訴因変更手続を経ずに認定する事も許される。
 しかし,訴因の特定に必要な事項については,被告人の防御権の保障上重要であり,訴因変更なく事実を認定することは,重大な不意打ちを招く。よって,このような例外を認めることは許されないと考える。
 本問において,訴因と認定事実とを対比すると,単に実行行為者が共謀者中の誰かという点が変更されたのではなく,共謀をした共犯者の範囲と実行行為者の双方が変更されている。共同正犯においては,一部実行全部責任が認められるから,共同正犯関係の認定があれば,実行行為者が共同者中の誰であるかは,罪となるべき事実として訴因に記載することを必ずしも要しない。しかし,共同正犯関係自体を構成する人的範囲は,罪となるべき事実として,訴因の特定に必要であるというべきである。
 そうすると,本問では共同正犯関係を構成する人的範囲に変更が生じており,訴因特定に必要な事項における事実の変化であるから,例外は認められない。
(4) 以上から,訴因変更手続を経ることなくした裁判所の認定は,違法である。

以上

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