最新下級審裁判例

京都地裁判決平成19年06月29日

【事案】

 被控訴人が,父である訴外Aが墓地を経営する宗教法人である控訴人との間で墓地使用契約を締結し,墓地使用料として65万円を支払っていたところ,Aの相続人として,控訴人に対し,同契約を解約するとの申入れをした上で,不当利得返還請求権に基づき,上記墓地使用料及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成18年7月14日以降の遅延損害金の支払いを求めた事案。

【判旨】

 本件墓地使用規則の内容によれば,本件墓地使用契約は,墓地の使用期間の定めはなく,使用者の死亡にかかわらず,相続人又は控訴人から認められた祭祀承継者に引き続き墓地の使用を許諾するものであるから,賃借権又は使用借権のように一定期間の使用権を設定するものではなく,永続的ないし永代的な使用権を設定するものということができる。
 本件墓地使用契約の上記性質に加えて,本件墓地使用料は使用開始時に一括払いが予定されていること(本件墓地使用規則第5条及びAは契約締結時に一括払いしていることからそのように解される。)及び本件墓地使用規則には本件墓地使用料の返還についての規定はないことを考慮すれば,本件墓地使用料は使用期間に対応した使用の対価とはいえず,墓地使用権の設定に対する対価と解するのが相当である。
 本件墓地使用契約の本質は墓地使用権設定契約であり,本件墓地使用料の支払いによって契約当事者の双方の債務は履行済みある。
 したがって,被控訴人が本件墓地使用契約の解約を申し入れ,爾後墓地を使用しないこととなっても,それは墓地使用権の放棄であって,支払済みの本件墓地使用料の全部又は一部について不当利得返還請求権が発生するとはいえない。
 以上によれば,解約後の期間に対応する本件墓地使用料が不当利得となるとの被控訴人の主張は採用できない。
 もっとも,被控訴人の解約申入れによって,控訴人は,他の檀徒に対して新たに墓地使用権を設定し,その対価として本件墓地使用料を収受することができるから,この点において,解約申入れによって控訴人に利得が生じるといえる。
 しかし,控訴人の新たな墓地使用権の設定は,墓地の土地所有権に基づくものであるから,上記利得が法律上の原因を欠くということはできず,このような利得を生じるからといって,本件墓地使用料の全部又は一部を返還しないことが不当利得になるとはいえない。

 

さいたま地裁判決平成19年06月29日

【事案】

 原告は,原告が勤務していた学童保育所(以下「本件保育所」という。)での勤務中,本件保育所の生徒であるA(以下「A」という。)と接触し,転倒して頭を打った(以下「第1事件」という。)。原告は,同日,B外科胃腸科医院にて第1事件による負傷について頚椎捻挫と診断され,治療を受けた。原告は,第1事件による負傷について治療を継続したものの症状が回復しなかったため,C総合病院へ転院し,頭部のMRIの撮影を受けたところ,外傷性硬膜外血腫と診断され,頭部の手術を受けた。その後,原告は,D大学医学部脳外科において診断を受けたところ,前頭葉に水が溜まっており,事故後40日以内に手術していれば後遺症は残らなかったと診断された。このため,原告は,B外科胃腸科医院の頚椎捻挫という診断及び治療が誤っていた(以下「第2事件」という。)ために原告に後遺症が残ったと考えた。そこで,原告は,弁護士である被告に対し,第1事件についてAの両親から損害賠償金の支払を受けることを依頼し(以下「本件委任契約a」という。),第2事件についてB外科胃腸科から損害賠償金の支払を受けることを依頼した(以下「本件委任契約b」という。以下,本件委任契約aと本件委任契約b を併せて「本件各委任契約」という。)。
 本件は,被告が本件各委任契約に基づく第1事件及び第2事件(以下「本件各事件」という)の解決に向けた措置を執らなかったためにいずれも消滅時効が完成してしまった(以下「本件弁護過誤事件」という。)として,原告が,被告に対し,債務不履行に基づき,本件各事件について原告が得られたであろう金員相当額等の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【判旨】

 一般的に弁護士が委任契約に基づき負う債務の内容について述べると,弁護士は依頼者に比して高度な法的専門知識・技能を有しているのだから,受任した業務について,善良なる管理者としての注意を払い,専門家として通常有する水準以上の事務処理を行うとともに,その過程で依頼者に対し適切に説明・助言・報告等を行うべき債務を負っていると解される。

 前記の本件委任契約aの内容からすれば,被告が行うべき主たる業務は,原告が症状固定してからのAら加害者側の者との交渉ということであるが,本件委任契約a締結前に被告は第1事件加害者側弁護士と交渉をしたが原告の症状が固定しないと話はまとまりそうもなかったこと,被告は解任されるまで原告の症状が固定したことを知らなかったこと,原告から被告の事務所へは定期的に民間療法のパンフレットや領収証等が送られてきていたことなどの事情に照らすと,本件委任契約a締結後解任までは時間的に10年近く経過していることや解任前に原告の症状は既に固定していたこと,被告は原告に症状固定の見込みについて頻繁には尋ねていないことなどの事情があるとしても,本件委任契約a締結後,被告が解任されるまでの間に,被告がAら加害者側の者と交渉すべきであったとまではいえない。
 また,本件委任契約aの内容としては,原告に対し助言するということも含まれているが,被告は本件委任契約a締結前から損害賠償責任保険や労災保険について原告に対し必要な助言していること,本件委任契約a締結後にも電話で対応することがあったこと,被告の知る限り原告の症状は固定していなかったことなどの事情に照らすと,原告に対する助言としては十分すべきことをなしていたというべきである。なお,原告から電話がかかってきても被告が出ないことや原告からの内容証明郵便に答えないことがあったとしても,既に当時の状態の原告に対して行える助言は一通り尽くされているといえるし,原告の内容証明郵便を受けて被告は労基署を訪問するなどの行動をしているから,被告に債務不履行があることにはならないというべきである。また,損害賠償責任保険や労災保険の手続を被告が行わなかったことについては,そもそも被告が負っている債務は助言にとどまるというべきであるから,債務不履行とはならない。

 本件委任契約b の内容からすれば,被告が行うべき業務は,B外科胃腸科医院の責任が認められそうであるなど,必要性があると被告が判断したときには適切な時期・対象等に証拠保全を申し立てるというものである。そして,本件委任契約b 締結時から本件各委任契約が解約されるまでの間,原告が申し述べる症状が拡大している点や原告がいろいろな民間療法を受けている点から被告としては原告の症状が本件各事件とどこまで因果関係があるか疑念を抱いていたこと,かかる疑念は弁護士として本件各事件について調査をした上で抱いていること,2週間の休養加療を要する見込みの頚椎捻挫とのB外科胃腸科医院の医師の診断書が存在していたこと,被告はこの診断書があるのだから重ねて証拠保全をしてB外科胃腸科医院の医師が頸椎捻挫と診断したことの証拠を保全する必要はないと考えていたことなどの事情からすれば,必要性があると判断せずに証拠保全を申し立てなかったとしても,債務不履行があるとはいえないというべきである。

 

広島地裁判決平成19年07月06日

【事案】

 右下腿挫滅創及び足関節部知覚障害の傷病により障害の状態にあるとする原告が,障害者特例の適用を請求したものの,社会保険庁長官が障害者特例を適用しない旨の決定をしたとして,この本件却下処分の取消しを求めるとともに,障害者特例の適用を決定すべき旨を社会保険庁長官に対して命ずることを求めた事案。

【判旨】

 障害者特例の適用は,その権利を有する者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定することとされ(厚年法33条),その特例を請求する者に申請権が認められているから,本件訴えのうち障害者特例を適用する処分をせよと社会保険庁長官に命ずることを求める部分は,いわゆる申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)である。
 棄却処分について申請型義務付けの訴えを提起するときは,当該処分に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならず(行政事件訴訟法37条の3第3項2号),さらに,その義務付けの訴えは,当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であることを訴訟要件とする(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)。
 本件却下処分は,前記2において説示したとおり適法であり,取り消されるべきものではないところ,本件訴えのうち上記義務付けに係る部分は,上述の訴訟要件を満たさず,不適法というべきである。

 

東京高裁決定平成19年07月09日(ブルドックソースとスティールパートナーズの事件)

【事案】

 証券取引法(以下「証取法」という。)に基づき相手方の全株式の公開買付けを行った外資系投資ファンドが,相手方が防衛策として導入した会社法に基づく新株予約権発行に対し,その差止めを求めた事案。

【判旨】

 買収防衛策の発動自体は,明文の根拠規定を有しないものであるが,証取法,会社法はこれを排斥するものとは解されず,合理的な事情がある場合には是認されるべきものであり,また,その手段としての新株予約権無償割当てが株主平等原則に違反する,あるいは新株予約権の不公正発行に当たるかどうか等の具体的判断は,買収者及び被買収者の属性も考慮の上,公開買付けの態様と対比し,買収防衛策を導入すべき必要性の存否,買収防衛策としての相当性の存否について検討の上,相対的に判断すべきものと考える。そして,本件においては,抗告人関係者は後記認定のとおりいわゆる濫用的買収者であって,抗告人関係者による本件公開買付けは,相手方の企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するものであり,このような株式公開買付けに際しては買収防衛策を導入すべき必要性が認められ,また,同防衛策の手段としての本件新株予約権無償割当ては相当性を有するものであるから,同無償割当てが株主平等原則に違反するとも,あるいは著しく不公正な方法によるものともいえず,また,同無償割当てを承認した株主総会の特別決議が,無効又は取り消されるべきものとはいえないから同無償割当てが上記特別決議を要する相手方の定款に違反するとはいえないと判断する。

 会社法109条は,株式会社は,株主をその有する株式の内容及び数に応じて,平等に取り扱わなければならない旨を規定するところ,この規定は,株主としての資格に基づく法律関係については,株主を,その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないという,いわゆる株主平等原則を定めるものと解されている。
 しかし,会社法の定めるこのような株主平等原則は,あくまでも原則であって,会社法自体においてその例外を定めたと解される規定が存在する(募集株式又は募集新株予約権の募集事項の決定等に関し同法201条1項,240条1項,吸収合併及び株式交換を行う場合の株主等に対して交付する対価に関して749条1項2号,751条1項3号,768条1項2号,770条1項3号,749条3項,751条3項,768条3項,770条3項,783条1項,309条2項12号,譲渡制限株式の買取り等に関して140条2項,5項,309条2項1号,特定の株主からの自己株式の取得に関して156条1項,160条1項,309条2項2号,現物配当に関して454条4項,309条2項10号であり,その具体的内容は原決定21頁13行目から22頁9行目までに記載のとおりである。)こと,株主平等原則が,法の理念たる衡平に根拠を有するものであって,同法109条はそのことを上記の解釈に係るものとして明文化したものにすぎないといえることからすると,株主であれば,法に定める以外はその有する株式の内容及び数に応じて形式的(平均的)にすべて平等に扱われるべきことを定めているものと解することは相当ではなく,株主間に差別的な取扱いがなされたとしても,関連する会社法の諸規定等も考慮した上で,上記差別的な取扱いに合理的な理由があれば,それは株主平等原則ないしその趣旨に違反するものではないというべきである。
 本件新株予約権無償割当てについてみると,新株予約権について,株式会社は,一定の行使条件を付すことができ,また,取得条項を定めることができるところ,このような行使条件又は取得条項の定めは,新株予約権の内容に係ることであって,株式の内容や株主としての資格自体に直接関係するものではない。したがって,行使条件や取得条項について新株予約権者間で差別的取扱いを行うことを内容とする新株予約権が発行されたとしても,これをもって,当該新株予約権が直ちに株主平等原則に違反するということはできないと解するのが基本的な論理帰結である。
 確かに,本件新株予約権無償割当ては,株主に対して新たに払込みをさせないで新株予約権を割り当てるもの(会社法277条)であるから,株主は,当該新株予約権の割当てを株主としての資格に基づいて受けるということができ,また,差別的な取扱いがされる新株予約権者は抗告人関係者のみであるから,このような特定の株主を標的にして差別的な取扱いをする行使条件及び取得条項は,上記株主平等原則の理念ないし趣旨に反することになるものではないかとの疑問が生じないではない。
 しかし,会社法は,株主総会の特別決議を要件として,一部の株主に対する新株及び新株予約権の有利発行を行うことができるものとしており(同法199条2項,201条1項,238条2項,240条1項),また,多数の株主の意思をもって少数の株主の有する議決権を現金等の対価を供することにより,他のものに代えることも制度上許容している(同法768条1項)。そうすると,会社法は,一部の株主を経済的にも,また,議決権比率の変動の面においても,差別的に取り扱うことを制度上否定はしていないということができる。
 また,会社法に定める株主の権利行使は当然のことながら,信義誠実等の基本的な法規範の規律の下にあり,権利の濫用にわたるような行使は許されないのであるから,他者の権利との相対的関係において一定の場合には制約を受けることがあるのである。したがって,株主平等原則は,会社法の原則の一つであるが,株主の属性によって差異を設けることが当該会社の企業価値の毀損を防止するために必要かつ相当で合理的なものである場合には,それは株主平等原則に反するものではないというべきである。本件新株予約権無償割当ては,いわゆる買収防衛策として導入されたものであり,後記認定,判断のとおり,同無償割当てについては,買収防衛策としてその必要性及び相当性を肯定することができ,抗告人関係者に過度ないし不合理に財産的損害を与えないように配慮もされているから,株主間の上記差別的な取扱いについても合理的なものといえるのであって,上記無償割当てが株主平等原則に反する違法なものということはできない。

 本件新株予約権無償割当ては,抗告人関係者が,相手方の発行済株式の全株式を取得することを目的とする本件公開買付けを実施したのに対し,相手方が,本件公開買付けは相手方の企業価値ひいては株主の共同の利益の毀損につながるとして,いわゆる買収防衛策として,株主総会の特別決議による承認を得て導入した制度である。そして,その目的は,本件公開買付けを行う抗告人関係者の持株比率を低下させることにある。
 株式会社は,理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが,同時にそのような株式会社も,単独で営利追求活動ができるわけではなく,1個の社会的存在であり,対内的には従業員を抱え,対外的には取引先,消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であることは明らかであるから,従業員,取引先など多種多様な利害関係人(ステークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり,企業価値について,専ら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界があり採用することができない。
 真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行うなどのいわゆる濫用的買収者が,株式を買い占め,多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うないし支配することは,会社の健全な運営などという観点を欠くのであるから,結局はその株式会社の企業価値を損ない,ひいては株主共同の利益を害することにつながるものであり,このような濫用的買収者は株主として,差別的な取扱いを受けることがあったとしてもやむを得ないものである。それゆえ,そのようなおそれがある場合において,株式会社が,特定の株主による支配権の取得について制限を加えるなどして,企業価値を確保又は向上させることを内容とする買収防衛策を導入することは,対抗手段として必要性,相当性が認められる限りにおいて株式会社の存立目的に照らして適法かつ合理的なものといえる。したがって,買収防衛策が上記のようなものであれば,本件新株予約権無償割当ての結果として買収者の持株比率の低下等の事態が生じたとしても,それをもって著しく不公正な方法により行われる場合に当たるということはできない。

 抗告人は,日本株への投資を目的とする英領ケイマン諸島法に基づいて設立された米国系投資ファンドであり,抗告人関係者は,その実態は明らかではないものの,日本企業30社以上に対し,総額40億ドル以上投資してきたこと,日本企業に投資するとともに,対象企業に対し,経営陣による企業買収を持ちかけたり,株式の公開買付けを行うなどし,最終的には保有する株式を売却して高額の利益を得たことがあること,相手方に対しても,多数の株式を保有した後,経営陣による企業買収を持ちかけたが拒否された後,株式を買い進め,相手方の発行済株式の全株式を取得することを目的として本件公開買付けを行うに至ったこと,本件公開買付けの開始届出書においても,あくまでも証券売買による利益を得ることを目的とし,将来相手方の株式を市場内外で売却することがあり,相手方が完全子会社化したときはその資産を処分することを見込んでいることを表明したこと,抗告人関係者は,相手方からの質問に対し,日本において会社を経営したことはなく現在その予定もないこと,相手方を自ら経営するつもりがないこと,企業価値を向上させることができる提案等をどのように経営陣に提供できるか想定しているものはないこと,相手方の支配権を取得した場合における事業計画や経営計画を現在のところ有していないこと等が記載されていたこと,相手方の行うソース類の製造販売事業について質問の大部分については,現在のところ相手方の日常的な業務の経営を行うことを意図していないため回答する必要がないと考えるとの回答が記載されていたことが認められる。これらの事実に疎明資料(乙12,13,15,23,42)及び審尋の全趣旨を総合すると,抗告人関係者は,投資ファンドという組織の性格上,当然に顧客利益優先の受託責任を負い,成功報酬の動機付けに支えられ,それを最優先にして行動する法人であり,買収対象企業についても,対象企業の経営には特に関心を示したり,関与したりすることもなく,当該会社の株式を取得後,経営陣による買収を求める一方で突然株式の公開買付けの手続に出るなど,様々な策を弄して,専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようとし,最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益を追求しようとする存在といわざるを得ない。そして,抗告人関係者は,相手方の全株式を取得するといいつつ本来協働し合うべき企業の経営面を顧慮せず,いたずらに相手方に不安を与えている。
 すると,このような抗告人関係者がした前記の経緯,態様による本件公開買付け等は,前記の企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するものとして信義誠実の原則に抵触する不当なものであり,これを行う抗告人関係者は本件については濫用的買収者であると認めるのが相当というべきである。

 本件は,前記認定のとおりの属性を有し濫用的買収者と認められる抗告人が,日本国内で創業以来100年余の歴史を有し,堅調にソースの販売製造事業を行っている相手方を本件公開買付けによって買収しようというものである。相手方は,このような買収行為によって,場合によって解体にまで追い込まれなければならない理由はないのであって,このような事態に直面した相手方が自らの企業価値ひいては株主共同の利益を守るために自己防衛手段を採ることは理由のあることである。そして,会社法及び証券取引法もこのような防衛手段を禁じてはいないと解されることからすると,相手方が採った買収防衛策,その手段としての本件新株予約権無償割当てについてはこれを導入すべき必要性(目的の正当性)が認められるというべきである。

 濫用的買収に対する防衛策といえども,防衛策である以上当然に防衛の限度にとどまることが要請されるのであり,濫用的買収者に対する差別的取扱は無限定なものであってはならず,また,買収者以外の株主に不測の損害を与えてはならないから,買収防衛策として相当なものであることが必要である。この相当性を検討するに当たっては,買収防衛策を導入するに至った経緯及び手続,濫用的買収者あるいはその他の株主に与える不利益の程度,当該買収に及ぼす効果等に買収行為の不当性の程度等を総合的に考慮すべきところ,前記認定のとおり,前記認定に係る抗告人関係者による本件公開買付けは容認し難い不当なものと評価すべきであって,これに対抗する本件新株予約権無償割当てはやむを得ない手段であり,手続的な観点からも少なくとも株主総会の特別決議を経て導入されたものであること,本件新株予約権無償割当ては,抗告人関係者の持株比率を10.25パーセントから2.82パーセントまで低下させるものではあるが,抗告人関係者は,相手方による新株予約権の取得又は新株予約権の譲渡により,新株予約権1個につき396円の交付を受けることが予定されており,本件新株予約権無償割当ては抗告人関係者に対し,その不当性の程度との相関関係からすると過度の財産的損害を与えるものとはいえないこと,後記認定のとおり,抗告人関係者以外の株主の利益という観点からみても,同株主がこれを受忍することを了承したと解されるのであり,同株主に本件新株予約権無償割当てを違法とするような不利益を与えるものとはいえないことなどを考慮すると,本件新株予約権無償割当ては相当性を有する対抗策であるというべきである。

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