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最高裁判所第二小法廷決定平成19年08月23日

【事案】

 本件の本案訴訟(佐賀地方裁判所唐津支部平成17年(ワ)第2号損害賠償請求事件)は,抗告人が,相手方の代表者であるAを被告として,同人は抗告人の取締役であったのに,競業避止義務に違反して,相手方を設立して抗告人の営む事業と同じ介護サービス事業を開始し,抗告人の従業員を違法に引き抜くとともに,抗告人の顧客名簿を利用し,抗告人に関する虚偽の風説を流布するなどして不正に顧客を奪ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。
 本件は,抗告人が,奪われた顧客の特定及び損害額の確定のために必要があるとして,相手方が所持する下記の文書について,文書提出命令を申し立てた事案であり,相手方は,同文書は民訴法220条4号ハ又はニ所定の文書に当たる旨主張した。

【判旨】

 ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。
 これを本件についてみると,前記のとおり,本件リストは,相手方が指定居宅サービス事業者として介護給付費等を審査支払機関に請求するために必要な情報をコンピューターに入力することに伴って,自動的に作成されるものであり,その内容も,介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送される情報から利用者の生年月日,性別等の個人情報を除いたものにすぎず,審査支払機関に伝送された情報とは別の新たな情報が付加されているものではなく,介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送した情報の請求者側の控えというべき性質のものにほかならない。そうすると,本件リストに記載された内容は第三者への開示が予定されていたものということができ,本件リストは,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないというべきである。
 なお,相手方は,本件対象文書は同法197条1項3号所定の「職業の秘密」に関する事項が記載されているものであって同法220条4号ハに該当するとも主張しているが,本件対象文書は本案訴訟において取調べの必要性の高い証拠であると解される一方,本件対象文書に係る上記96名の顧客はいずれも抗告人において介護サービスの利用者として現に認識されている者であり,本件対象文書を提出させた場合に相手方の業務に与える影響はさほど大きなものとはいえないと解されること等を考えると,相手方の上記主張を採用することはできない。

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