最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成19年08月03日

【事案】

 平成18年6月8日,控訴人の前方不注視の過失により,控訴人が運転する車両(以下「控訴人車両」という。)が,被控訴人所有の車両(以下「本件車両」という。)に衝突する事故が起きた(以下「本件事故」という。)。本件事故につき控訴人に過失があり被控訴人に対し不法行為責任を負うこと,本件車両の損害のうち修理代金103万1016円及び代車料金64万0500円については当事者間に争いはなく,既に控訴人の保険会社から弁済が済んでいる。
 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,本件事故により生じた本件車両の評価損75万円及びそれに対する平成18年6月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。評価損の算定方法は被控訴人の主張とは異なるものの,評価損を損害とすることを認めて,控訴人に10万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じた原判決に対し,これを不服とする控訴人が本件控訴をした。

【判旨】

 損害賠償の考え方の基本は,ある行為と相当因果関係のある損害を全て填補するということである。したがって,事故により,車両に修理をしてもなお外観や機能に欠陥が生じている場合には,損害が残存しているため,その損害を填補するため,金銭による賠償がなされるべきである。一方,修理により外観や機能の欠陥が消滅した場合には,社会生活上事故歴や修理歴があるというだけで車両の売買価格が安くなるため,かかる商品価値の減価分の損害を賠償すべきであるが,車両の使用状況等から将来車両を売買することが見込まれない特段の事情がある場合には,商品価値の減価が現実化せず,使用・収益上の不都合も存在しないことから,損害がないものとするのが相当であると解する。

 

京都地裁判決平成19年08月09日

【事案】

 原告Aは,原告車両を運転して本件事故現場付近の道路を進行し,被告宅前付近に差し掛かったところ,被告宅の勝手口から鎖をつけたCが突然道路に飛び出してきたため,原告Aは,驚いてバランスを崩し,上記道路の左脇のガードレールに原告車両の側部を,また,電柱に原告車両の前部を,それぞれ衝突させ,その結果,原告Aは原告車両もろとも転倒した。

【判旨】

 被告は,動物の占有者として,民法718条1項に基づく損害賠償責任を負うとともに,Cの飼主としてCが被告宅前の道路を走行する車両の運転者を驚かせるなどしてその進行を妨げないようにするための配慮(被告宅の勝手口を閉めておくなど)を欠いた過失が認められるから,民法709条に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。

 

さいたま地裁判決平成19年08月29日

【事案】

 原告が,離婚した前夫との間のトラブルに起因して,110番通報した際,現場に赴いた被告の公務員である埼玉県春日部警察署の女性警察官に対し,刑事事件として扱ってほしい旨の被害申告(以下「本件被害申告」という)をしたにもかかわらず,同人がその場で刑事事件として取り扱わず,かつ原告に対し侮辱的な言動をしたことによって,精神的苦痛を被ったと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料50万円の支払を求める事案。

【判旨】

 刑事訴訟法189条2項は「司法警察職員は,犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとする」と定め,犯罪捜査規範77条は「捜査の着手については,犯罪の軽重および情状,犯人の性格,事件の波及性および模倣性,捜査の緩急等諸般の事情を判断し,捜査の時期または方法を誤らないように注意しなければならない」と定めており,これらによれば,被害申告の受理の許否や,受理の時期は,警察官の合理的判断に委ねられていると解するのが相当であり,現に春日部警察署においても,現場での被害申告の受理については,現場に赴いた警察官が,各事件の個別の状況により判断するとされていたものである(証人B)。そうすると,原告が本件被害申告をした際の具体的状況に照らし,Bがこれを直ちに刑事事件として受理しなかったことが合理的判断を逸脱したものと認められる場合に限り,この行為は違法となり得るというべきである。

 

札幌地裁判決平成19年08月31日

【事案】

 被告人は,平成18年11月19日午後5時45分ころ,北海道新冠郡A町字B町C番地のD被告人方において,E(当時66歳)に対し,殺意をもって両手で同人の頸部を圧迫するなどした上,同人が死亡したと考え,救命しようと同人の胸部を両手で強く叩いたり押したりするなどして,よって,そのころ,同所において,同人を胸部打撲又は圧迫による心挫裂により死亡させて殺害した。

【判旨】

 被告人は,捜査,公判を通じて,被害者の頸部を圧迫した結果,被害者が動かなくなったのを見て窒息死したと思い,心臓マッサージのつもりで両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりしたなどと供述している。
 ・・・被告人は,被害者の胸部を強く叩いたり押したりした回数やそれにかけた時間などについてはあいまいな供述をするも,被告人の上記供述内容自体は特に不自然なものとはいえない。他に被告人の供述を排斥する証拠が見あたらない以上,被告人は,救命行為のつもりで,両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりしたと認定するほかない。被害者の死亡結果は,直接的には,被告人が両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりした過失行為に起因するものといえる。

 そこで,上記被告人による過失行為が介在したことにより,因果関係が否定されるかにつき,更に検討を進める。
 被告人の公判供述を含む関係各証拠によれば,被害者には,被告人による頸部を圧迫する行為により,死亡の可能性があるほどの窒息が生じていて,このことは被告人も認識していたことが認められる。このような事態に直面した行為者が,救命行為に関する知識も経験も不足しているにもかかわらず,119番通報などをすれば犯行が発覚することを危惧し,自ら救命行為を行うことは経験則上あり得る事柄である。そして,心臓マッサージに代表される救命行為は,その性質上,知識も経験も不十分な者が不適切に行えば,むしろ生命の危険を生じさせるといえるのであって,被告人がなした心臓マッサージ類似の行為も,まさにそのような不適切なものであった。その結果として,被害者に「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」が生じたのだから,被害者が「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」で死亡したのは,被告人が被害者の頸部を圧迫したという殺人の実行行為に起因すると評価できる。
 そうすると,上記被告人の過失行為の介在によっても,被告人のした殺人の実行行為と被害者の死亡との間の因果関係は否定されない。

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