法務省の対応策について

法務省対策公表

法務省の司法試験委員会が、13日、今回の漏洩問題の対応策を公表した。
読売新聞2007年9月13日23時27分配信記事によると、内容は以下の通りである。

・法科大学院教員と考査委員との兼任を、現在の156人中74人から、38人程度まで、ほぼ半減させる。

・採点段階では、追加して考査委員を任命する。

・出題関与教員の大学院最終学年や修了生に対する指導を一切禁止する。

・今後当分の間、慶応大の教員を考査委員に任命しない。

権威の配分問題の回避

全体として、ある程度評価しうる対応策といえる。
兼任者の数を減らせば、出題内容を知っている法科大学院教員数が減る。
情報源が減れば、自動的に漏洩は起こりにくくなる。

ただ、兼任を完全に否定するのではなく、半減させたにとどまる。
これは、法学という世界の大半が権威で正当化されている事に原因がある。
法学の世界での正しさは、その主張内容もさることながら、誰が言っているかが重要な要素となっている。
司法試験にもこれは投影されている。

論文試験において、出題が不適切と考えられる場合がある。
しかし、「深い考えがあってこういう出題になっているのだろう、さすが本試験だ。」と解説される。
また、ほとんど同じ内容の再現答案にもかかわらず評価が不自然に違う場合がある。
この場合も、「考査委員には我々には気付かない本質的部分が見えるのだ。それが評価につながっているのだ。さすが答練とは違う。」と説明される。
受験生ですら、このような神の視点の導入に若干の疑問を持ちながらも、納得してしまっている。
この納得は、考査委員の権威によって裏付けられている。

そうなると、権威ある学者・実務家を司法試験の出題・採点に携わらせることは必要なこととなる。
一方で、法科大学院としても、そのような教員が教えて初めて、教育内容が正当化される。
無名学者が教えたのでは、その内容がたとえ非常に良かったとしても、評価されにくい。

しかしながら、そのような権威ある学者・実務家の数は少ない。
兼任は、そのような権威をシェアする仕組みとして機能していたことになる。
兼任を完全に禁止してしまうと、権威の配分を巡って困難な問題に直面する。
そういうことがあって、半減が限界と判断されたのだろう。

副次的作用

ただ、この対応策によると、出題まで担当する考査委員と、採点のみの考査委員とが生じる事になる。
そうすると、考査委員の中で序列が生じる。
出題は、創造的側面がある一方、採点は単純作業の色彩が濃い。
しかも、採点は考査委員にとって、最も辛い仕事とされる。
採点限定の考査委員に任命されることは、肩書の名誉は別にして、苦役に近いものがある。
出題担当考査委員と採点限定考査委員とでは、当事者意識として案外に差が出てくるような気がする。

また、出題関与教員の数が減るということは、裏を返せば情報の偏在はより顕著になるということである。
今後、出題担当考査委員の奪い合いが、法科大学院間で激化する可能性がある。

漏洩問題は収束か

今回の漏洩問題は、結局植村元教授の問題だけで処理された。
しかし、疑惑としてはその他にも様々なものがある。
詳しくは、まとめサイトを参照して欲しい。
漏洩が認められた行政法にしても、得点調整等の結果への対応は何ら行われなかった。
この問題は、収束させるには早いように感じられる。

だが、法務省としては、今回の対応策で、漏洩問題に対する対応は終わりにするだろう。
今後、多少のことがあっても、「対応策はすでに出した。漏洩問題は解決済みだ」と、北朝鮮のような態度に出ると思われる。
また、受験生としても、合格発表という今年度最大のイベントを終え、既に関心は来年度に向かっている。
その結果、漏洩問題は過去の事となっていきそうだ。

渦中の慶應法科大学院はこの状況を把握しているようである。
HPにおいて、以下のような文章(下線は筆者)を掲載し、その他の疑惑を一切否定するだけでなく、逆ギレとさえ見える態度を見せている。

【一部マスコミの疑惑報道について】

 一部の新聞紙上およびネット上で、本件以外にも慶應義塾において本年度の新司法試験の問題が漏洩されたのではないかとのいくつかの疑惑があるようですが、本研究科において調査しました結果、いずれもまったく事実無根であり、漏洩その他不適正な行為は一切ありませんでしたので、ここにご報告します。
 特に平成19年8月23日東京新聞朝刊において、法務研究科教授(刑事法担当・法務省派遣検察官)について、本年5月に実施された新司法試験の刑事系科目の論文試験(第2問)で出題された事案や設例が同教授が学内で本年2月末に出題した問題と「酷似している」ことが判明し、「その的中ぶりに他大学の教員からは不信の声がくすぶっている」との内容の記事が掲載されておりますが、事案も設例も全く異なる上、同教授は捜査と証拠法にわたる問題点を多岐にわたって出題したところ、新司法試験で出題された論点が含まれていたにすぎないこと、しかも、これら的中したといわれる論点は法科大学院の学生であれば当然学習しているはずの重要論点であること、出題者は司法試験委員ではなく、学内および学外の司法試験委員から問題を知りうる立場ではないことから、全くの事実無根であり、法務研究科として強い憤りを感じています。その後もネット上で同教授を誹謗中傷する書き込み等が続いており、さらには、平成19年9月6日読売新聞朝刊において、「これほどの類似を簡単に偶然の一致だとするのは甚だ説得力に欠ける」旨あたかも漏洩があったことを前提とするかのような記事が掲載されていますので、同教授および法務研究科の名誉回復のためにも、ここに改めて、この件については事実無根であることを確認します。
 在学生の皆さんにおいては、かかる報道に動揺することなく、学業に専念し、秋学期の授業に臨んでください。

植村元教授の不祥事は実際にあったのである。
そうである以上、多少過剰な疑いを持たれてもやむを得ない立場にある。
従って、「事実無根ではあるが、信頼を損ねた点はお詫びする」的な書き方をするのが筋である。
それを、ここまで強気に出ることができるということには、もうこれ以上はお咎めなしという確信があるのだろう。

受験生らにとって不満は残るだろうが、おそらく漏洩問題は、収束に向かうと思われる。

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