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最高裁判所第三小法廷判決平成19年09月18日

【事案】

 被告人は,観音連合などの暴走族構成員約40名と共謀の上,平成14年11月23日午後10時31分ころから,広島市が管理する公共の場所である広島市中区所在の「広島市西新天地公共広場」において,広島市長の許可を得ないで,所属する暴走族のグループ名を刺しゅうした「特攻服」と呼ばれる服を着用し,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,旗を立てる等威勢を示して,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるような集会を行い,同日午後10時35分ころ,同所において,本条例による広島市長の権限を代行する広島市職員から,上記集会を中止して上記広場から退去するよう命令を受けたが,これに従わず,引き続き同所において,同日午後10時41分ころまで本件集会を継続し,もって,上記命令に違反したものである。
 本条例は,16条1項において,「何人も,次に掲げる行為をしてはならない。」と定め,その1号として「公共の場所において,当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと」を掲げる。そして,本条例17条は,「前条第1項第1号の行為が,本市の管理する公共の場所において,特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは,市長は,当該行為者に対し,当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。」とし,本条例19条は,この市長の命令に違反した者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処するものと規定している。
 第1審判決は,被告人の行為が上記の本条例19条,16条1項1号,17条に該当するとして,被告人に懲役4月,3年間刑執行猶予の有罪判決を言い渡した。
 なお,本条例2条7号は,暴走族につき,「暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。」と定義しているところ,記録によれば,上記観音連合など本件集会参加者が所属する暴走族は,いずれも暴走行為をすることを目的として結成された集団,すなわち社会通念上の暴走族にほかならず,暴力団の準構成員である被告人は,これら暴走族の後ろ盾となることにより事実上これを支配する「面倒見」と呼ばれる地位にあって,本件集会を主宰し,これを指揮していたものと認められる。

【判旨】

 本条例19条が処罰の対象としているのは,同17条の市長の中止・退去命令に違反する行為に限られる。そして,本条例の目的規定である1条は,「暴走行為,い集,集会及び祭礼等における示威行為が,市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず,国際平和文化都市の印象を著しく傷つけている」存在としての「暴走族」を本条例が規定する諸対策の対象として想定するものと解され,本条例5条,6条も,少年が加入する対象としての「暴走族」を想定しているほか,本条例には,暴走行為自体の抑止を眼目としている規定も数多く含まれている。また,本条例の委任規則である本条例施行規則3条は,「暴走,騒音,暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた服装等」の着用者の存在(1号),「暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた旗等」の存在(4号),「暴走族であることを強調するような大声の掛合い等」(5号)を本条例17条の中止命令等を発する際の判断基準として挙げている。このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨,さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば,本条例が規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,したがって,市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も,被告人に適用されている「集会」との関係では,本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が,本条例16条1項1号,17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される。
 そして,このように限定的に解釈すれば,本条例16条1項1号,17条,19条の規定による規制は,広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと,規制に係る集会であっても,これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると,その弊害を防止しようとする規制目的の正当性,弊害防止手段としての合理性,この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし,いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえないことは,最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成19年09月28日

【事案】

 海運業を営む内国法人である上告人が,パナマ共和国(以下「パナマ」という。)において設立した子会社であるA社に生じた欠損が実質的には親会社である上告人に帰属するとして,これを上告人の損金に算入して平成6年8月1日から同7年7月31日まで,同年8月1日から同8年7月31日まで及び同年8月1日から同9年7月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)に係る法人税等の申告をしたところ,被上告人から,A社の欠損を上告人の損金に算入することは措置法66条の6の規定の認めるところではないなどとして,法人税等の更正及び過少申告加算税賦課決定を受けたので,これを争っている事案。

【判旨】

 措置法66条の6第1項は,同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係会社(外国法人で,その発行済株式等のうちに内国法人等の有する直接及び間接保有の株式等の総数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるもの等をいう。同条2項1号)のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が,各事業年度においてその未処分所得の金額から留保したものとして所定の調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合に,その金額のうちその内国法人の有する株式等に対応するものとして所定の方法により計算された金額に相当する金額をその内国法人の所得の計算上益金の額に算入する旨規定する。上記の未処分所得の金額の意義について,同条2項2号は,特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき所定の基準により計算した金額を基礎として政令で定めるところにより当該各事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額をいうものと規定する。
 同条1項の規定は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保することによって,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから,課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し,これが適用対象留保金額を有する場合に,その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。
 他方において,特定外国子会社等に生じた欠損の金額は,法人税法22条3項により内国法人の損金の額に算入されないことは明らかである。以上からすれば,措置法66条の6第2項2号は,上記のように特定外国子会社等の留保所得について内国法人の益金の額に算入すべきものとしたこととの均衡等に配慮して,当該特定外国子会社等に生じた欠損の金額についてその未処分所得の金額の計算上5年間の繰越控除を認めることとしたものと解される。そうすると,内国法人に係る特定外国子会社等に欠損が生じた場合には,これを翌事業年度以降の当該特定外国子会社等における未処分所得の金額の算定に当たり5年を限度として繰り越して控除することが認められているにとどまるものというべきであって,当該特定外国子会社等の所得について,同条1項の規定により当該特定外国子会社等に係る内国法人に対し上記の益金算入がされる関係にあることをもって,当該内国法人の所得を計算するに当たり,上記の欠損の金額を損金の額に算入することができると解することはできないというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成19年09月28日

【事案】

 国民年金法(平成元年法律第86号による改正前のもの)が,所定の学生等につき国民年金に強制加入させず,保険料納付義務の免除規定の適用を伴わない任意加入のみを認めるものとした措置等・平成元年法律第86号による国民年金法の改正前において,初診日に同改正前の同法所定の学生等であり国民年金に任意加入していなかった障害者に対し無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの立法措置を講じなかったことが、憲法25条,14条1項に違反しないか争われた事案。

【判旨】

 国民年金制度は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ,同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも,同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲,支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。
 国民年金制度は,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし,被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行う保険方式を制度の基本とするものであり(法(管理人注※国民年金法を指す、以下同じ)1条,87条),雇用関係等を前提とする厚生年金保険法等の被用者年金各法の適用対象となっていない者(農林漁業従事者,自営業者等)を対象とする年金制度として創設されたことから,強制加入被保険者の範囲を,就労し保険料負担能力があると一般に考えられる年齢によって定めることとし,他の公的年金制度との均衡等をも考慮して,原則として20歳以上60歳未満の者としたものである(昭和60年改正前の法7条1項)。そして,国民共通の基礎年金制度を導入し被用者年金各法の被保険者等をも国民年金の強制加入被保険者とすることとした昭和60年改正においても,第1号被保険者(平成元年改正前の法7条1項1号)の範囲を原則として上記の年齢によって定めることとしたものである。
 学生(高等学校等の生徒を含む。以下同じ。)は,夜間の学部等に在学し就労しながら教育を受ける者を除き,一般的には,20歳に達した後も稼得活動に従事せず,収入がなく,保険料負担能力を有していない。また,20歳以上の者が学生である期間は,多くの場合,数年間と短く,その間の傷病により重い障害の状態にあることとなる一般的な確率は低い上に,多くの者は卒業後は就労し,これに伴い,平成元年改正前の法の下においても,被用者年金各法等による公的年金の保障を受けることとなっていたものである。一方,国民年金の保険料は,老齢年金(昭和60年改正後は老齢基礎年金)に重きを置いて,その適正な給付と保険料負担を考慮して設定されており,被保険者が納付した保険料のうち障害年金(昭和60年改正後は障害基礎年金)の給付費用に充てられることとなる部分はわずかであるところ,20歳以上の学生にとって学生のうちから老齢,死亡に備える必要性はそれほど高くはなく,専ら障害による稼得能力の減損の危険に備えるために国民年金の被保険者となることについては,保険料納付の負担に見合う程度の実益が常にあるとまではいい難い。さらに,保険料納付義務の免除の可否は連帯納付義務者である被保険者の属する世帯の世帯主等(法88条2項)による保険料の納付が著しく困難かどうかをも考慮して判断すべきものとされていること(平成12年改正前の法90条1項ただし書)などからすれば,平成元年改正前の法の下において,学生を強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を負わせ他の強制加入被保険者と同様に免除の可否を判断することとした場合,親などの世帯主に相応の所得がある限り,学生は免除を受けることができず,世帯主が学生の学費,生活費等の負担に加えて保険料納付の負担を負うこととなる。
 他方,障害者については障害者基本法等による諸施策が講じられており,生活保護法に基づく生活保護制度も存在している。
 これらの事情からすれば,平成元年改正前の法が,20歳以上の学生の保険料負担能力,国民年金に加入する必要性ないし実益の程度,加入に伴い学生及び学生の属する世帯の世帯主等が負うこととなる経済的な負担等を考慮し,保険方式を基本とする国民年金制度の趣旨を踏まえて,20歳以上の学生を国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を課すのではなく,任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを20歳以上の学生の意思にゆだねることとした措置は,著しく合理性を欠くということはできず,加入等に関する区別が何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
 確かに,加入等に関する区別によって,前記のとおり,保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金等の受給に関し差異が生じていたところではあるが,いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか,どの程度緩和するかは,国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって,立法府は,これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきであるから,上記の点は上記判断を左右するものとはいえない。
 そうすると,平成元年改正前の法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの所論の措置を講じなかったことは,憲法25条,14条1項に違反しない。

 無拠出制の年金給付の実現は,国民年金事業の財政及び国の財政事情に左右されるところが大きいこと等にかんがみると,立法府は,保険方式を基本とする国民年金制度において補完的に無拠出制の年金を設けるかどうか,その受給権者の範囲,支給要件等をどうするかの決定について,拠出制の年金の場合に比べて更に広範な裁量を有しているというべきである。また,20歳前障害者は,傷病により障害の状態にあることとなり稼得能力,保険料負担能力が失われ又は著しく低下する前は,20歳未満であったため任意加入も含めおよそ国民年金の被保険者となることのできない地位にあったのに対し,初診日において20歳以上の学生である者は,傷病により障害の状態にあることとなる前に任意加入によって国民年金の被保険者となる機会を付与されていたものである。これに加えて,前記のとおり,障害者基本法,生活保護法等による諸施策が講じられていること等をも勘案すると,平成元年改正前の法の下において,傷病により障害の状態にあることとなったが初診日において20歳以上の学生であり国民年金に任意加入していなかったために障害基礎年金等を受給することができない者に対し,無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの所論の措置を講じるかどうかは,立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであって,そのような立法措置を講じなかったことが,著しく合理性を欠くということはできない。また,無拠出制の年金の受給に関し上記のような20歳以上の学生と20歳前障害者との間に差異が生じるとしても,両者の取扱いの区別が,何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
 そうすると,上記の立法不作為が憲法25条,14条1項に違反するということはできない。

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