平成19年度新司法試験出題趣旨検討
(民事系第2問設問1)

評価対象の総論部分について

出題趣旨は冒頭でこのように言う。

 本問は,売買契約締結後・引渡し前にその目的物(特定物)に瑕疵が生じた場面において,民法上の様々な法的構成と争点,民事訴訟における訴訟行為をめぐる諸問題についての基本的な理解を問う総合問題である。本問は,比較的長文の事実及び当事者の主張から法的な問題点を発見する能力,当事者の望むところを的確に法的に構成する能力,そうした法的構成にとって意味のある事実を過不足なく拾い出す能力,相手方の主張の問題点や中心的な争点を明らかにする能力,具体的な事実に即して抽象的な法原則や法制度を正確に理解し法規定を解釈・適用する能力などを多面的に問うている。これらに加えて,論じるべきことを論理的かつ明快に構成した文章で表現する能力が備わっているかについても評価の対象としている。

非常に多くの能力を要求しているように見える。
箇条書きにすると、以下の6つの能力である。

1.法的な問題点を発見する能力
2.当事者の望むところを的確に法的に構成する能力
3.意味のある事実を過不足なく拾い出す能力
4.相手方の主張の問題点や中心的な争点を明らかにする能力
5.具体的な事実に即して抽象的な法原則や法制度を正確に理解し法規定を解釈・適用する能力
6.論じるべきことを論理的かつ明快に構成した文章で表現する能力

しかし、実際にはそれほど特別なことを要求しているわけではない。
論文を書く際に必要なプロセスは、以下のようになる。

(a)事例から、論点を拾う(論点落ちをしない)。
(b)書くべき論点を絞る(関連性の低い論点は敢えて書かない)。
(c)自説の規範を確認する(論証は正確に)。
(d)あてはめに使う事実を選定し、価値評価をつける(あてはめを丁寧に)。
(e)規範にあてはめ、妥当な結論を導く(結論を明示&妥当性に配慮)。

1.は、(a)にあたる。
2.と4.は(b)にあたる。
3.は(d)にあたる。
5.は(c)(e)にあたる。
6.は全体的な読みやすさであり、印象点にあたる部分といえよう。

結局、答練などで普通に評価の対象とされている部分である。
従って、本問でのみ要求されるような特別な能力ではない。
民事系に限らず、全科目で必要な能力といえる。
これらは、普段の論文の訓練で自然に身につけることができる。
今回、出題趣旨で特に列挙されたのは、確認的なものと理解していいだろう。

ただ、注意すべき点がある。
論証する際に理由すら書いていない人が多いようだ。
たとえ判例であっても、その理由付けがなくては、「理解」したと評価されない。
もちろん、理由付けも最終的には記憶して書くことはある。
しかし、評価としては、規範定立には理由を書いて初めて「理解」となる。
この点は、旧司法試験組は当然理解していると思う。
だが、新司法試験から参戦した人は意識が足りないようだ。
確かに、判例自身が何らの理由付けも付していない場合はある。
しかし、そのような判例を既存の法の趣旨との関係でどう位置づけるか。
この部分も問われていると考えた方がよい。
逆に、反対説批判は不要な場合が多い。
論証は、理由付け+結論というセットで押えておこう。

それから、論点や、あてはめに使う事実は、絞り込む必要がある。
「的確に」とか「過不足なく」という文言はそれを示している。
的を射ていない、又は、過ぎたる論点・事実の列挙は、評価を下げる。
旧司法試験では、これが難しかった。
しかし、新司法試験では、当事者の主張が資料にあるので、わかりやすくなっている。
予備校問題はどちらかというと網羅的に拾わせるような出題が多い。
従って、予備校答練の解答例をみる場合、落とせる部分はないかという視点も持った方がよい。

設問1の課題aについて

出題趣旨は以下のようになっている。

 設問1は,課題(a)として,買主Xが支払済みの代金200万円の返還と18万円の損害賠償を請求するために,どのような法的構成で主張してくるかを検討するよう求めている。代金返還を主張する法的構成として中心となるのは,履行遅滞を理由とする解除に基づく原状回復請求(民法第541条)であるが,定期行為の履行遅滞による解除(民法第542条)や瑕疵担保を理由とする解除(民法第570条)の構成も考えられる。損害賠償については,一般の債務不履行に基づく損害賠償(民法第415条)と瑕疵担保を理由とする損害賠償(民法第570条)が考えられる。このうち解除に関しては,解除の対象となる売買契約の締結・解除権を発生させる要件・解除権行使について,損害賠償に関しては,損害の発生とその数額について,【弁護士間で確認された事実】から,過不足なく事実を指摘して主張を構成することが求められる。

要するに、解除・損害賠償の要件事実を検討すれば良かった。
ただ、要件事実の全てを網羅的に検討すべきではない。
当事者間に特に争いのありそうなところを取り上げて検討すべきである。
これは裏を返せば、要件事実の全てを丸暗記していなくてもよいということである。
問題文と条文を参照して、そこから芋づる的に記憶喚起できる程度に頭に入っていれば足りる。
従って、勉強法として、抽象的に要件事実を項目ごとに覚えようとするのは良くない。
事例問題を多くこなし、その中で、問題文から連想的に検討すべき事柄が浮かぶような訓練をすべきである。
素材は旧司法試験向けの論文問題でも構わない。

設問1の課題bについて

出題趣旨は以下の通り。

 Yの側からの反論を考えるよう求める課題(b)では,解除の主張に対し,定期行為性の否定,制度の趣旨による瑕疵担保規定の不適用・契約目的不達成要件の不充足,12月7日の適法な提供,履行期の延期合意の成立あるいは相当期間内の履行による履行遅滞自体の否定,履行補助者性の否定と選任・監督上の無過失・不可抗力,解除の意思表示の否定などが,反論として考えられる。なお,解除権の行使について権利濫用・信義則違反という反論を評価しないわけではないが,一般条項に頼る前に検討すべきことが少なくない。損害賠償請求に対しては,特別事情の予見不能(民法第416条第2項),信頼利益と履行利益の同時請求の矛盾,債権者の損害軽減義務違反等による過失相殺などが反論として考えられる。答案では,これらの反論をXの主張と対比させ,やはり事実を的確に指摘しつつ,説得力をもって論じることが求められる。

検討すべき論点はたくさんある。
これらは、問題文で誘導されているかどうか。
個別にみていく。

定期行為性の否定については、美術展への出品について、XYの言い分で繰り返し出ているので、気付く事ができる。

瑕疵担保規定の不適用・契約目的不達成要件の不充足・12月7日の適法な提供については、Yの言い分の中に誘導がある。

 私としては,本来なら甲をそのままでXに渡せば十分だったはずで,私が航空運賃や修理代金50万円を取りあえず立て替えてまでAに修理を依頼したのは,修理を求めるXの指示に従ってそれに誠実に応えたためである。

履行期の延期合意の成立あるいは相当期間内の履行による履行遅滞自体の否定については、全体的なやりとりから窺われるものの、明示的な誘導は無いように思う。

履行補助者性の否定と選任・監督上の無過失・不可抗力については、Yの言い分に明確な誘導がある。

 甲に傷が付いたことについて,私には責任がない。甲の破損は不可抗力によるものである。仮にBに過失があったとしても,私は甲が壊れやすい高価品であることをBに示してきちんとした梱包の依頼をしていたのだから,専門家のBを信頼して任せた私のどこに落ち度があるというのか。だからこそ,甲の破損についてBは,日本とp国の間の往復の船便の輸送料及び甲の修理代金50万円を支払うと言っている。Bは大企業であって,事後処理についての交渉態度も誠実で,Xの言うようないい加減な業者ではない。

解除の意思表示の否定についても、Yの言い分に明示の誘導がある。
ただ、これは、解除の権利濫用とも取れる。
出題趣旨は「評価しないわけではない」と言っているので、それでも構わないだろう。

 3月7日に至るまで,Xは,一度も契約を解除すると明言したことがない。3月7日になって唐突に解除を主張するのは,私が努力してきたことを無意味にしてしまうもので,全く理不尽である。

特別事情の予見不能(民法第416条第2項)については、特に誘導らしいものはない。
だが、損害額の検討にあたり、416条を検討するのは当然であるから、ここは気付きたい。

信頼利益と履行利益の同時請求の矛盾については、マイナー論点である。
損害論が専門の潮見佳男考査委員の趣味的な部分ではないかと疑われる。
しかも、明示の誘導はない。
書けなくても仕方が無いだろう。

債権者の損害軽減義務違反等による過失相殺についても、明示の誘導はない。
内田教授の教科書にも触れてあり、それなりに有名論点ではある。
ただ、気付くのは難しい。
気付いても、本問で問われていると断定する事はさらに難しい。
もっとも、Yの言い分で、「身勝手」「理不尽」「不当」という実質的不当性を表すキーワードが何度か出てくる。
この部分を捉えれば、損害軽減義務としてでなくても、信義則という形で類似の検討をすることは可能だったろう。

全体的に、問題文の誘導で分かる部分とそうでない部分がある。
来年以降も、ある程度の誘導をするという傾向は続くと思われる。
そこで、今後の対策としては、誘導部分をしっかり書くという訓練がまず必要だろう。
そして、誘導の無い部分は気付いたら短く書く訓練をする。
なぜ、短くかというと、誘導が無い以上、本当に書くべきか現場では断定しにくいからだ。
短く書いておけば、外した時の傷が少なくて済む。

戻る