平成19年度新司法試験出題趣旨検討
(刑事系第1問)

総論部分について

出題趣旨は総論で以下のように述べている。

 本問は,具体的事例を素材として,そこに現れた具体的事実に基づいて甲乙の罪責を問うことにより,刑事実体法の正確な理解,具体的事実に法規範を適用する能力及び論理的思考力を試すものである。小問1及び2は,甲乙の罪責を論じる上でポイントとなる問題点であり,これらの点について十分な検討をした上で,甲乙の罪責を罪数評価を含めて論述することが求められている。

特に注意すべきところは無い。
旧司法試験で要求されていたことと同様の能力が要求されている。
「罪数評価を含めて」という点も、旧司法試験と同様である。
裏を返せば、刑の量定までは必要ないということである。
もっとも、中止犯や心神耗弱などの実体法上の減軽事由があれば、書くというのが旧司法試験以来のしきたりである。

小問1について

出題趣旨はかなり詳細である。

 小問1においては,詐欺罪及び恐喝罪の成否を検討するに当たり,構成要件該当性等犯罪の成立に必要な要件を念頭において具体的事実を抽出し,要件への当てはめをすることが求められている。その際,「錯誤に基づく財産的処分行為」ないし「畏怖に基づく財産的処分行為」という構成要件要素への該当性を判断するに当たっては,Aが現金を交付しようと考えるに至った理由に関し,Aが,Bから120万円の損害賠償を求められた際,事故の全責任が自らにあることは認めながら,損害金の支払には応じなかったこと,Aが甲乙両名と面談し,甲から「Bは現在も仕事を休んで治療を続けており,追加の治療費と休業補償分を加えると,未払分は120万円にとどまらず,既に200万円になっている。」と言われた時にも,Aは,200万円の支払要求には応じなかったこと,甲が,「あんたにも家族がいるだろう。家族が事故に遭えば,被害に遭った者の気持ちが分かるかもしれんな。家族が事故に遭ってから,あの時200万円払っておけば良かったと悔やんでも遅いぞ。」と申し向けて,200万円の支払を強く要求したところ,Aは,200万円支払わなければならないと考え,とりあえず,手持ちの現金20万円を甲乙に手渡したこと等の具体的事実を示した上で,これらの事実が持つ意味を的確に評価し,要件への当てはめという思考過程を論述することが必要である。
 また,甲がBから損害金120万円の取立を委任されていることと恐喝罪等の成否との関係についても,甲が自己の取り分を上乗せして120万円を大きく超える200万円を請求していること,Aの家族の生命・身体に危害を加えることをほのめかして脅迫するという手段を用いていること等の具体的事実を示した上で論述することが必要である。

わざわざ発言内容まで引用しているところからして、最大のテーマは詐欺と恐喝の区別である。
ここをいい加減に書いてしまった答案は、相当厳しい評価になったはずである。
問題文にわざわざ「Aが現金を交付しようと考えるに至った理由に留意しつつ」とまで書いてある。
にもかかわらず、この部分を落としたのでは、低い評価になっても仕方が無い。
刑法各論は構成要件を全部書いて一つ一つあてはめさえすればいいと思われている面がある。
しかし、本問でそれをやると、出題趣旨からは外れていく事になる。
問題文の特別注文がある場合は、そちらを優先すべきである。

内容面については、出題趣旨にほとんど書いてある。
出題趣旨の書きぶり、また、「恐喝罪等」としていることから、出題者側は恐喝を本筋と考えていると思われる。
詐欺で書いた人は、より説得的に書かなければ厳しいことになる。

「甲がBから損害金120万円の取立を委任されていることと恐喝罪等の成否との関係」がもう一つの論点である。
いわゆる、権利行使と恐喝という論点である。

それから、直接触れられていないが、総論部分にある通り、罪数評価も論点だと思ってよいだろう。

小問2について

出題趣旨は非常に具体的である。

 小問2においては,最高裁判所決定理由の中で,共犯関係の解消が認められないとの帰結に至る過程で着目された事実及びこれらの事実の評価から結論が導かれた過程を検討した上で,本事例を分析することが求められている。その際,最高裁判所決定の事案と本事例との類似点,相違点に留意しつつ,甲乙の人的関係,甲乙間に共犯関係が成立した経緯,甲乙の共謀の内容,Aから20万円の交付を受ける際に甲乙それぞれが果たした役割,甲乙の行為がAに与えた影響,乙がこれ以上の支払要求をやめようとした際の甲に対する乙の言動,これに対する甲の対応,その後の甲の行動とこれに対する乙の予測可能性等に関する具体的事実を示し,これらの事実を評価して結論を導く思考過程を論述することが必要である。

書くべき論点は、共犯の解消、いわゆる離脱の肯否である。
これを落とすということは考えられないだろう。
問題は、どのようにこれを検討するかである。
出題趣旨は、参考判例との比較の視点を具体的に列挙している。
箇条書きにすると以下のようになる。

1.甲乙の人的関係
2.甲乙間に共犯関係が成立した経緯
3.甲乙の共謀の内容
4.Aから20万円の交付を受ける際に甲乙それぞれが果たした役割
5.甲乙の行為がAに与えた影響
6.乙がこれ以上の支払要求をやめようとした際の甲に対する乙の言動
7.これに対する甲の対応
8.その後の甲の行動とこれに対する乙の予測可能性

着手後離脱の事例であるという点を類似点として捉えた場合、因果性除去の有無を検討する事になる。
そのための材料が、上記の8つのポイントということになるだろう。
これに対応した問題文該当箇所は以下の通りとなる。

1.かつての不良仲間で先輩格であった乙
2.前記の事情を話し、・・・協力を求め,乙の同意を得た。
3.「Bの損害額の残りは実際には120万円だけですが,これに我々の取り分として80万円を上乗せした200万円が残っているということにしてAに請求し,うまく支払わせたらBに120万円を渡して,取り分の80万円を40万円ずつ山分けしましょう。Aは支払を拒んでいるそうなので,脅かしてでも金を出させましょう。」
4.甲が・・嘘を言った上,乙が・・200万円の支払を要求・・甲は,Aの態度を変えさせるためにはやはり脅す必要があると考え,語気を強めながら・・200万円の支払を強く要求
5.Aは,甲乙両名との面談の前までは,Bに対して損害金を支払う意思は全くなかったが,面談の結果,甲の言うとおり,Bがいまだに仕事を休んで治療を続けており,その損害額の残りが120万円にとどまらずに200万円に及んでいるものと誤信した上,このまま損害金の支払を拒否していると,甲乙両名らによって自己の家族に危害を加えられるのではないかと畏怖したことから,200万円を支払わなければならないと考えた。
6.甲に対し,・・・と強い口調で告げた。
7.甲は,乙からやめろと言われたため,やむなく・・乙の言葉に従う態度を示したが,同時に,・・,若干未練を抱いている様子だった。
8.甲は,その後間もなく,・・単独でAと面談し,・・100万円の支払を要求した。甲は・・Bに対しては・・と嘘を言って現金50万円のみを手渡し,残金50万円を自己のものとして費消した。乙は,甲から何の連絡もなかったことから,甲が乙の言葉に従って,Aに対し現金20万円を返還し,Aに支払を約束させていた残金180万円の受取も断念したものと考えていた。

1.は、乙の甲に対する影響力の強さを示す。
後にやめろ発言の評価に関わる。
2.は、乙が後から補助的に関与したことを示す。
離脱を認めやすい要素といえる。
3.は、当初から脅す事も共謀内容に含まれていたことを示す。
乙に因果性の積極除去を要求する根拠になる。
4.は、実行行為の比重は甲の方が重いことを示す。
離脱を認めやすい要素である。
5.は、甲の嘘と脅迫の影響があること、乙も危害を加えるのに加担すると思われていたことを示す。
甲の影響力が強い反面、乙も同席しただけでそれなりに影響力があったと評価できる。
6.と7.は、乙がそれなりに甲の犯行継続に待ったをかける力があったこと反面、中断を決意させるに至っていないことを示す。
因果性除去の評価において重要な要素である。
8.結局甲が犯行に及んだこと、さらに、Bに嘘までついていること、乙はそれを予見していなかったことを示す。
甲の行動が当初の共謀からやや逸脱しており、乙の因果性とは異なる動機に起因しているとも評価できる。

以上の部分を抜き出して適切に評価すれば、その分だけ評価されると考えていいだろう。
逆に、それ以外の部分を無理矢理あてはめに使っても、評価されにくい。
現場であの長文から適切に取捨選択するには、相当に訓練を要する。
さらに、自分の想定する筋書きに乗せて論述していくのも、事前に練習しなければできない。
事例問題を素材にしてあてはめの練習をする必要がある。

小問以外の点について

当然だが、出題趣旨は小問以外の論点も検討するよう要求している。

 さらに,甲の罪責として,50万円の費消行為をどう考えるかについては,成立が考えられる犯罪についての構成要件該当性を具体的事実に基づいて論述する必要がある。
 いずれの問題点についても,論点に関する法解釈論を抽象的に論じるにとどまることなく,事例に示された具体的な事実関係を分析した上,論点の解決にとって必要な事実を抽出し,的確に法的評価をすることが求められている。

小問のみに答えた人は、ここを丸々落とした。
だが、それでも合格している人は多い。
配点的には、小問の比重が相当大きかったのだろう。
それは、出題趣旨の分量の比重からも窺える。
出題趣旨は、この点については、抽象的なことしか言っていない。
小問については、具体的な考慮要素まで言及していたことからすると、力が抜けている。

論点は、「50万円の費消行為をどう考えるか」である。
Bに対する横領を検討すれば十分だろう。
具体的な事実関係の分析を要する部分は、他人性要件の部分である。
この点は、それなりに丁寧にあてはめる必要があったものと思われる。

なお、ヤミ金に借金させた点については、全く触れられていない。
何ら検討する必要はなかったのであろう。
新司法試験では、今のところ、論点は絞った方が良いという傾向である。
気になっても、さほど問題でなさそうなところは無視してよさそうだ。

特に刑事系は他の科目に比べると練れていない感が強い。
本問冒頭の交通事故について、あそこまで詳細に書いてある必要はないだろう。
来年以降も無意味な事実の記述があるかもしれない。
その場合、無理に全部使うという発想はしない方が良い。

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