平成19年度新司法試験出題趣旨検討
(刑事系系第2問)

設問1について

論点が少ないため、出題趣旨は中身の書き方に詳細な注文をつけている。

 設問1は,連続的に発生した放火事件を素材として,将来,同一犯人による同種手口の放火事件が発生する蓋然性が高いと認められる駐車場と,犯人である嫌疑が高い被疑者の自宅前公道上におけるビデオ撮影・録画の適法性を問うことにより,「捜査」の意義,任意捜査と強制捜査の区別基準,その区別に即したビデオ撮影・録画の適法性判断基準など捜査に対する法規制に係る最も基本的な事項の理解と具体的事実への法適用能力を試すものである。法解釈の部分では,刑事訴訟法等の関連規定の構造と,これを解釈した最高裁判所の判例の示す「強制」手段の定義や判断基準の背後にある基本的な考え方,―例えば,なぜ「強制」の処分には特別の根拠規定が要請されているのか,また,「強制」に当たらない任意処分であっても常に許容されるわけではなく,具体的状況において一定の限界があり得ると解されている理由や趣旨―を論じた上で,そこから強制捜査と任意捜査の区別基準や,任意手段の必要性・緊急性や相当性等の具体的な適法性判断基準を導き出すことが求められている。基準の結論部分を記述しただけでは法解釈とは言えず,不十分である。
 また,事例への法適用の部分では,自らが論じた判断基準等に従って,本問の事例中に現れた具体的事実関係を的確に抽出,分析して,その該当性を判断することが要求されている。例えば,駐車場におけるビデオ撮影・録画と,被疑者方前公道上におけるそれとは,同じ判断基準を適用しても,その該当性判断において論じるべき具体的事実関係は異なっているので,こうした違いに即して丁寧に分析・検討すべきである。また,事実を事例中からただ書き写して羅列すれば足りるものではなく,それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じることが必要である。例えば,被疑者方前公道上におけるビデオ撮影・録画の必要性を検討する過程で,被疑者に対する犯罪の嫌疑の程度を論じる際には,3件の放火事件が,発生時期,発生場所,放火対象物,放火の態様等において類似していることを示す具体的事実関係を指摘して,これらが同一犯人による連続放火事件である可能性が高いことを的確に論証した上で,各放火事件と被疑者を結びつける個々の事実関係に言及して,その嫌疑の程度を論じることができていれば,極めて優れた分析といえよう。

論点的には、3つ。
「捜査」の意義、任意捜査と強制捜査の区別基準、その区別に即したビデオ撮影・録画の適法性判断基準である。
捜査の意義について、出題趣旨は内容的言及をしていない。
おそらく、将来捜査の可否あたりがこれにあたるのだろう。
だが、出題趣旨で直接言及されていない以上、落としても大して問題なかったはずである。
逆に、全面展開するのは危険である。
任意捜査と強制捜査の区別基準については、出題趣旨が詳細な注文をつけている。

まず、注意したいのは、判例の定義を意識しろと明示してあることである。
旧司法試験の出題趣旨には、「判例」という文言すらほとんど出てこない。
過去5年間で「判例」という文言が使われたのは、3回だけだ。
平成15、16、17年度の商法第1問だけである(商法第1問はその意味で特殊である)。
新司法試験では、公法第1問・民事系第1問・刑事系第1問に、「判例」という文言が登場する。
憲法では法律と条例の部分で、これは誰もが判例を書くところであるから、それほど新しくない。
また、民事系の第1問も、商法であるから、これも、旧司法試験時代と変化が無い。
しかし、刑事訴訟法において、判例を意識しろと明示的に要求していることは、旧司法試験時代と違うところである。
しかも、「学説・判例」ではない。
「最高裁判所の判例」となっている。
敢えてそうしたとすれば、学説で簡単に書いたのでは評価されにくいということになる。

また、出題趣旨は、「背後にある基本的な考え方・・から・・導き出すことが求められている。」
「基準の結論部分を記述しただけでは法解釈とは言えず,不十分である。」とする。
あまりに結論しか書かない答案ばかりだったのだろう。

民事系の方でも書いたが、理由もしっかり書かないとダメである。
そして、多くの場合、理由には、制度趣旨=「背後にある基本的な考え方」を用いる。
これは、旧司法試験時代から、そうである。
とりわけ、刑事訴訟法については、背後の基本原理を書くことが特に重要な科目である。
「プチ憲法」と呼ばれる所以でもある。
その代表的なものとしては、伝聞法則の趣旨がある。
ある程度実力が付くと、呪文のように目をつむっても書けるようになる。
これを予備校の弊害のように言う人もいる。
しかし、こういうところを全然書いていない人が、新司法試験から参入した受験生には多いのである。
暗記して書ける人、理解して書けない人。
評価されるのは、前者の方である。
暗記して書けるようになる前提には、理解が必要である。
理解しているが書けなかったという人のほとんどは、実は理解が足りていない。
出題趣旨でかなりの文字数を割いて記述してあることから、十分な対策を要する。

対策としては、近年批判されがちなブロックカードのようなものを使うと良い。
基本原則は、問題によって内容が変化する事はない。
いつ聞かれてもスラスラ答えられるよう事前に準備しておく事は、有益である。

本問のメインは、適法性基準のあてはめだろう。
「事例への法適用の部分では,」以下の部分が、これにあたる。
重要な事は、事実を引用した後、必ず評価を加える事である。
「事実を事例中からただ書き写して羅列すれば足りるものではなく,それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じることが必要である。」とするのは、そういう趣旨である。
出題趣旨では、わざわざ例示まで挙げて、詳しく説明している。
出来ていない受験生が多かったのだろう。
ただ、これはわかっていても現場で簡単に出来るものではない。
実際、考査委員に答案を作成させたとして、時間内に的確に論述できるかというと、疑問である。
これは、そうとうにテクニカルな能力を要する。
事例問題を繰り返し解いて、少しづつ身についてくる能力である。
知識的な部分以上に、そうした訓練をどれだけしたかが、新司法試験の合否を分けるといえる。

設問2について

出題趣旨は以下のようになっている。

 設問2は,被告人の前科に関する事実を,被告人が被告事件の犯人であることの認定に用いることが許されるかを問うものであり,前科に関する事実を公訴事実の認定に用いる場合に生じ得る問題点や弊害についての基本的な理解を踏まえて,事例中に現れた被告人の前科に関る事実を犯人であることの認定に用いる際の推認の過程を具体的に検討し,この事実を認定に用いることの可否を論じる必要がある。すなわち,被告人に前科があるという事実から,被告人が犯罪を犯すような悪性格をもっていることを立証し,こうした悪性格の立証を介して,被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程と,特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目し,そこから被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程の違いを明確に意識して論じることが必要である。
 いずれの問題点についても,法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく,事例中に現れた具体的な事実関係を指摘しつつ,それらの事実関係がどの要件の存否を基礎付けているのかを的確に論じることが要請されている。

論点的には、前科で犯人と被告人の同一性を認定できるかという一点に尽きる。
単一論点で訊かれた場合は、通常の論述よりも丁寧に書く必要がある。
ここでいう「丁寧に」ということの意味は、理由付けの数を増やすということではない。
論理の道筋をなるべく端折らずに書くという意味である。

前科で犯人であると認定する事が認められないという原則論はどのような論理なのか(悪性格立証の非客観性・不合理性)。
例外的に認定可能な場合とは、その論理に照らしてどのような場合なのか(客観性・合理性のある場合)。
そして、本問は原則論が妥当する場面なのか、例外論が妥当する場面なのか(あてはめ)。
これを論理の手順を踏んで答案に書くことができれば、自動的に出題趣旨の要求を充たす事ができる。
これも、答練等で、日頃から訓練することで自然にできるようになる。
逆に言えば、知識が十分にあっても、現場でいきなりやれと言われてできるものではない。
ローでは答練を自粛する傾向にあるので、自分で訓練の機会を作っていく必要がある。

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