最新下級審裁判例

千葉地裁判決平成19年08月30日

【事案】

 甲事件は,被告C(フランチャイザー)との間でたこ焼き店のフランチャイズ契約を締結した原告A(フランチャイジー)が,(ア) 被告Cの勧誘方法,営業指導及び店舗改装業者の指定にそれぞれ違法があった,(イ) 被告E建設の店舗改装工事に瑕疵があった,(ウ) 被告C及び被告E建設(以下,両名を併せて「被告ら」という)が共謀して店舗改装費用につき過大請求した,などと主張して,被告らに対し,金員の支払いを求めた事案である。
 乙事件は,被告Cが,原告A及び乙事件被告B(以下,両名を併せて「原告ら」という。)に対し,原告Aに対してはフランチャイズ契約に基づき,乙事件被告Bに対しては連帯保証契約に基づき,連帯して,ロイヤリティ料の未払金42万円及び違約金500万円並びにこれらに対する乙事件訴状送達の翌日である平成17年5月15日から支払済みまで商法所定の年6分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【判旨】

 一般に,フランチャイズ契約は,店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分ではない個人が,フランチャイザーのブランド名及びその指導や援助を期待して契約を締結するものであり,フランチャイザーは,契約締結後,フランチャイジーに対し,ロイヤリティ料を支払ってその営業ノウハウの指導・援助を受けるとともに,フランチャイザーから継続的に仕材や商材の供給を受けていくなど,多大にフランチャイザーに依存していくことが予定された契約形態であることに鑑みれば,フランチャイザーとしては,契約締結に向けた段階においても,既に,フランチャイジー候補者に対し,契約を締結してフランチャイジーになるか否かを判断するに足りる必要かつ十分な情報を適時かつ正確に提供・開示し,同候補者に不測の損害を与えないように配慮すべき義務を信義則上負っているものというべきであり,さらに,上記の義務は,フランチャイジー候補者の判断過程に何ら不当または不適切な影響を与えるなどしていない状況のもとで履行されることが求められるものと解するのが相当である。
 以上にたって本件をみると,前記認定事実によれば,被告Cは,本件面接において,開業費用の他に店舗取得費及び改装費用が別途必要であることは説明したものの,その店舗改装費用としては200万円以上を要することが通常であり,原告Aの自己資金だけでは開業することが困難となるであろうことについては何ら告げず,かつ,初期投資総額の見込額などを記載した文書を交付することも一切せず,その後も,担当者において,店舗取得費及び改装費用が別途必要であることを口頭で告げるにとどまっていたところ,そのような状況のもとで,自営業を営んだこともない一介の主婦であり,自己資金も500万円程度と申告していた原告Aに対し,決して低額とはいえない加入準備金52万5000円を支払うよう誘引し,現にその全額を入金させた後に,上記金員について不返還の条項を定めた本件申込書を送付し,その内容については何ら説明することもなく,さらに,その後,268万円にものぼる加入金の残額等を入金させた後に,上記金員についても不返還条項を定めた本件基本契約書を提示し署名押印させるに至ったものであったところ,以上のような本件フランチャイズ契約の締結に至る経緯を概観するならば,原告Aは,上記のとおり52万5000円を入金した時点において,もしくは,遅くとも,268万円を入金した時点においては,上記被告Cの勧誘方法により,本件フランチャイズ契約の締結を断念する意思を自由に形成することが必ずしも容易にはできない状態になっていたものと認めるのが相当である。
 そうすると,被告Cは,本件フランチャイズ契約の締結の際には,原告Aに対して,本件基本契約書及び本件個別契約書を読み聞かせ,その内容を理解させることに一応努めてはいるものの,既に,それ以前の時点において,自らの勧誘方法により,原告Aに対して不適切な影響を与えていたものと解さざるを得ないから,前記のとおり,契約締結の以前において信義則上フランチャイザーとして求められていた適時かつ正確に情報を開示・提供すべき義務を尽くしたものと評価することはできない。

 本件フランチャイズ契約の内容からすれば,フランチャイジー自身も独立の経営者として自らの責任において経営を行うことが求められるのが当然というべきであるから,原告Aにおいても,自己の努力によりフランチャイズ契約を締結すべきか否かを判断する情報を収集し分析することが求められていたこと,原告Aは短大を卒業して10年以上社会人として稼働し,本件フランチャイズ契約を締結するか否かを判断する能力を有していたこと,本件フランチャイズ契約の内容についても原告Aにおいて熟慮する期間が与えられていたこと,本件フランチャイズ契約の締結に際しては,もともと原告A自身が積極的であったものであり,夫や両親の度重なる反対を押し切って契約締結に至っていること,原告Aは,開業費用として店舗取得費用及び店舗改装費用が別途必要になることは比較的早い段階で聞かされており,その総額については,自ら被告Cに照会することにより容易に知ることが可能であったことなど,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,原告Aについて,7割の過失相殺を認めるのが相当である。

 本件フランチャイズ契約に基づくフランチャイザーとしての義務,殊に営業指導義務を誠実に果たしておらず,原告Aは本件フランチャイズ契約から本来享受し得た利益を十分に享受できていないといわざるを得ないから,信義則上,被告Cが本件フランチャイズ契約に基づくロイヤリティ料を受けとることも認められないというべきであり,それゆえ,上記解除前であっても,原告Aに対し,ロイヤリティ料の請求をすることは認められないと解するのが相当である。

 

広島地裁判決平成19年09月11日

【判旨】

 本件の告訴状(原審検察官請求証拠番号甲1)と起訴状とを対比し,原審第1回公判期日における検察官の釈明も合わせると,被害者は,被告人が,被害者方のタイル塀および車庫のシャッター,門灯,防犯カメラに緑色の塗料をスプレーで吹き付けて落書きし,もって被害者所有の器物を損壊したという事実で告訴したのに対し,検察官は,被告人が,被害者方の外壁,シャッター,門灯および防犯カメラに緑色の塗料を吹き付けて汚損させたという事実で公訴を提起し,このうち外壁およびシャッターについては建造物損壊罪に,門灯および防犯カメラについては器物損壊罪にそれぞれ当たる旨主張しており,所論指摘のとおり,器物損壊罪の告訴を受けて,その一部については建造物損壊罪として起訴したものである。
 しかし,捜査の結果等を踏まえて,告訴状に示された罪名と起訴する際の罪名とが異なることは,当然あり得ることであって,実務上もしばしば経験するところである。本件において,器物損壊罪と建造物損壊罪のいずれで起訴するかの判断は,告訴事実と同一の事実関係を前提として,損壊の客体が「建造物」であるのか「器物」であるのかという法的評価の判断に委ねられる問題であるから,検察官が,器物損壊罪の告訴事実について,建造物損壊罪と器物損壊罪とで起訴したことに,何ら違法不当な点はない。

 原判決が,本件公訴事実の「外壁,シャッターに緑色の塗料を吹き付けて汚損させ,もって他人の建造物を損壊し」という部分を「外壁およびシャッターに容易に除去することができない緑色の合成樹脂塗料を吹き付けて,その美観を著しく害し,もって他人の建造物を損壊し」と認定しており,訴因変更手続を経ないで,被害者方の外壁およびシャッターに対する損壊行為の態様について,訴因と異なる事実を認定したことは,所論指摘のとおりである。
 しかし,原判決が説示するとおり,「美観を著しく害する」とは,本件における基本的な事実関係に照らし,「汚損する」という訴因について,より具体的かつ明確に摘示したと解することができる上,「緑色の塗料を吹き付けて」という訴因に対して,「容易に除去することができない緑色の合成樹脂塗料を吹き付けて」という事実を認定したことは,訴因に掲げられた塗料の性質や種類を,より具体的に認定したに過ぎないというべきものであって,実質的には訴因と異なる事実を認定したものではないから,このような場合,訴因を変更することを要しないというべきである。

 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものである(最高裁平成18年(あ)第2197号平成19年3月20日第一小法廷決定・刑集61巻2号66頁)。
 これを本件についてみると,2(1)で認定したとおり,本件外壁は,門扉西側外壁も門扉東側外壁も,その南端において本件建物の一部である北側外壁ないし支柱状の外壁と全面的に接合しており,その接合部分を取り壊さない限り,本件外壁を分離させることは困難である上,支柱状の外壁および北側外壁と材質も全く同一であることに照らすと,本件外壁は,構造上も外観上も,本件建物と一体化しているというべきである。そして,本件外壁は,玄関ポーチを外界から遮断し,玄関ポーチおよび玄関アプローチの防犯,防風等の機能を果たしているのみならず,本件建物の出入口として,本件建物の顔ともいうべき玄関の構えの一部を構成して,外観ないし美観の点からも一定の機能を有している。
 したがって,門扉東側外壁および門扉西側外壁は,構造上も外観上も本件建物と一体化しており,その接合の程度は極めて強く,上記のとおり,本件建物において一定程度の重要な機能を果たしていると評価すべきであるから,刑法260条前段にいう「建造物」の一部であると認めるのが相当である。
 また,2(1)の認定事実によれば,本件シャッターは,本件建物の北側外壁に密着して取り付けられており,その構造に照らし,容易に取り外すことができず,本件建物との接合の程度は強いと認められること,本件シャッターは,居宅兼車庫として建築された本件建物の1階部分に設けられた車庫の出入口であり,居宅ないし車庫と外界との遮断,防犯,防風,防音等の重要な機能を果たしていると認められることなどを総合すると,刑法260条前段にいう「建造物」の一部であると認めるのが相当である。

 刑法260条前段にいう「損壊」とは,建造物の本来の効用を滅却あるいは減損させる一切の行為をいい,物理的に建造物の全部または一部を毀損する場合だけではなく,その外観ないし美観を著しく汚損し,かつ,原状回復に相当の困難を生じさせ,建造物の効用を滅却ないし減損させたといえる場合には,そのような行為は「損壊」に当たると解するのが相当である(最高裁平成16年(あ)第2154号平成18年1月17日第三小法廷決定・刑集60巻1号29頁参照)。
 これを本件についてみると,本件建物は,一般住宅が集った閑静な住宅街にある居宅兼車庫であるから,人の住居にふさわしい外観ないし美観を備えているべきものとして建築されたと考えられる。しかも,捜査状況報告書(原審検察官請求証拠番号甲5)および実況見分調書(同甲13)によれば,本件建物は,一定の風格のある堂々とした外観を有していることが認められ,関係証拠によれば,本件建物は注文建築であり,その価格も相当高額であったことが認められることにも照らすと,本件建物は,外観ないし美観にある程度こだわって建築されたことが窺われる。
 本件落書きは,このような建物に緑色のスプレー式塗料を吹き付けたもので,本件外壁および本件シャッターの色が淡い色であるため,くっきりと目立っており,北側市道および東側市道からよく見える状態であったこと,本件落書きをした箇所は,本件建物の正面であり,しかも,外観ないし美観の観点から,最も重要な場所ともいうべき玄関に近い門扉付近であること,被害者らは,2(1)ウのとおり,ひどい落書きがされた自宅を近所の人に見られるのが恥ずかしく,変な噂が近所に流れたら大変だなどと思い,深夜であるにもかかわらず,家族総出で約1時間半もかけて本件落書きを消す作業をしたものであり,本件落書きが,本件建物の居住者である被害者らにとって,そのまま放置して居住することが心理的に耐えられない程度のものであったと認められることなどを総合すると,本件落書きは,その範囲自体はそれほど大きいとはいえないものの,本件落書きによって,住居である本件建物が本来備えていた外観ないし美観が著しく損なわれたと評価するのが相当である。そして,本件落書きは,水洗いなどで落とすことはできないものであり,落書き落としのスプレー,除光液,雑巾等を使い,4人がかりで約1時間半もの作業を要したのに,それでも完全に落書きを落とし切ることができず,目地に染み込んだ塗料を全部落として完全に原状回復するためには,タイルを張り替えることなどが必要であることなどに照らすと,原状回復に相当の困難を生じさせたものであると認めるのが相当である。
 以上により,被告人が本件落書きをした行為は,本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し,かつ,原状回復に相当の困難を生じさせたものであると認められ,本件落書きは,本件建物の効用を減損させたものというべきであるから,刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当である。

 

京都地裁判決平成19年09月19日

【事案】

 本件建物の賃借人である原告が,賃貸人である被告に対し,民法606条1項の修繕義務に基づき,別紙建物耐力補強工事目録記載の各工事(以下「本件工事」という。)の施工を求めた事案。

【判旨】

 賃貸借契約における賃貸人は,目的物を賃借人に使用収益させる義務を負い(民法601条),その当然の結果として,目的物が契約によって定まった目的に従って使用収益できなくなった場合には,これを修繕すべき義務を負う(同法606条)。
 そして,この修繕義務の内容は,当該契約条件のもとであるべきものとして契約内容に取り込まれていた目的物の性状を基準として判断されるべきであり,仮に目的物に不完全な個所があったとしても,それが当初から予定されたものである場合には,それを完全なものにするべき修繕義務を賃貸人は負わないというべきである。

 原告は,本件建物について,耐震性能の見地から,また建物自重・積載荷重を支える通常の支持性能向上の見地からも修繕・補強の必要性があると主張し,被告に対し,本件工事の施工を求めている。
 しかし,前提事実記載の本件賃貸借契約成立に至る経緯からすると,原告は,本件建物の持つ古い和の雰囲気を特に気に入り,被告に対し,本件建物を建て替えることなく,改装して,本件建物のイメージを壊さずにブライダルレストラン事業を行いたいとの申出をし,営業委託を経て,レストランクラブ「C」をオープンさせたもので,その後,平成14年5月8日成立の調停で,本件建物について本件賃貸借契約を締結したものである。
 してみると,原告は,本件建物が,古い部分は築80年を超えており,全体として,建築基準法3条2項にいう既存不適格建物であることは,当然認識していたと認められ,本件建物が既存不適格建物であって,同法が定める基準に適合する建物と同等の耐震性能を有していないことは,本件賃貸借契約締結時に当然に前提とされていたものと認めるのが相当である。
 したがって,被告に,本件賃貸借契約に基づく修繕義務として,本件建物に建築基準法20条が定める構造耐力を備えさせるべき義務があるとは認められない。

 

大阪地裁判決平成19年09月28日

【事案】

 刑事被告人として勾留により大阪拘置所に収容されていた原告が,同所に収容されていた間,朝日新聞の自費による定期購読を許可されなかったのは違憲,違法であるなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料200万円と弁護士費用20万円との合計220万円及びこれに対する上記不許可処分の日である平成17年1月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案。

【判旨】

 未決勾留は,刑事訴訟法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであるから(同法60条,207条),勾留により拘禁された者は,その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず,上記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のために必要かつ合理的な範囲において,それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり,このことは,未決勾留そのものの予定するところである。また,監獄は,多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり,施設内でこれらの者を集団として管理するに当たっては,内部における規律及び秩序を維持し,その正常な状態を保持する必要があるから,この目的のために必要がある場合には,未決勾留によって拘禁された者についても,この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは,やむを得ないところというべきである。そして,この場合において,これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは,上記目的のために制限が必要とされる程度と制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである(最高裁昭和45年判決,最高裁昭和58年判決)。
 新聞紙の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは,思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や,表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨,目的から,いわばその派生原理として当然に導かれるところであり,また,すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。
 しかしながら,このような新聞紙の閲読の自由も,その制限が絶対に許されないものとすることはできず,一定の合理的制限を受けることがあるといわざるを得ないのであって,未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙の閲読の自由が逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか,前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために一定の制限を加えられることもやむを得ないものというべきである。もっとも,未決勾留は,前記刑事司法上の目的のために必要やむを得ない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり,他方,これにより拘禁される者は,当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては,原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから,監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙の閲読の自由を制限する場合においても,それは,上記目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。したがって,上記制限が許されるためには,当該閲読を許すことにより上記の規律及び秩序が害される一般的,抽象的なおそれがあるというだけでは足りず,被拘禁者の性向,行状,監獄内の管理,保安の状況,当該新聞紙,図書等の内容その他の具体的事情の下において,その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり,かつ,その場合においても,上記制限の程度は,上記障害の発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和58年判決)。
 この点について,監獄法31条2項は,「文書,図画ノ閲読ニ関スル制限ハ法務省令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し,監獄法施行規則86条1項は,「文書図画ノ閲読ハ拘禁ノ目的ニ反セズ且ツ監獄ノ紀律ニ害ナキモノニ限リ之ヲ許ス」と規定し,同条2項は,「文書図画多数其他ノ事由ニ因リ監獄ノ取扱ニ著シク困難ヲ来タス虞アルトキハ其種類又ハ箇数ヲ制限スルコトヲ得」と規定するところ,・・・監獄法31条2項の規定は,具体的事情の下において,在監者に対し新聞紙,図書等の閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められるときに限り,上記障害の発生の防止のために必要かつ合理的な範囲内でのみこれらの閲読の自由を制限することができることを定めるとともに,その制限の具体的内容を命令(法務省令)の定めに委任したものと合理的に解することができるから,同項による命令への委任が一般的,包括的白紙委任であるということを理由に同項が憲法41条に違反する旨の原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。

 監獄法施行規則86条2項は,監獄において取り扱うべき新聞紙,図書等の数が多数であるなどの事由により,監獄の取扱いに著しく困難を来し,監獄内の規律及び秩序の維持上放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合に,上記障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲内において,閲読を許すべき新聞紙,図書等の種類又は個数を制限することができる旨を定めるとともに,新聞紙,図書等の閲読を許すことによって監獄の取扱いに著しく支障を来し監獄内における規律及び秩序の維持上放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存するかどうか,及び上記障害の発生を防止するために新聞紙,図書等の種類又は個数についてどのような内容,程度の制限措置を講じることが必要かつ合理的かについては,監獄内の実情に通暁し,直接その衝に当たる監獄の長による個々の場合の具体的状況の下における裁量的判断に待つべき点が少なくないことにかんがみ,その判断を監獄の長の合理的裁量にゆだねたものと解される。

 そこで,監獄法施行規則86条2項の規定に基づき,本件規程,本件通達及び本件細則によって定められた本件購読規制が,在監者の新聞紙の閲読の自由に対する制限として許容されるものかどうかについて検討する。・・・一般に,未決拘禁者全員に対し,その希望する通常紙の購読を無制限に認めた場合,監獄において取り扱う通常紙の紙種が多大となるだけでなく,その部数も膨大なものとなり,そのため,新聞購入手続,部数確認,本件規程3条及び本件細則3条による内容審査,同審査により閲読が不適当と認められた場合の当該部分の抹消又は切取り,在監者への新聞の交付,閲読後の回収及び廃棄といった在監者の通常紙の購読に係る事務に多大な時間と労力とを要することは,容易に推認することができる。なお,原告は,通常紙について内容審査をすることは違憲である,又は通常紙について内容審査をする必要はないといった趣旨の主張をするところ,・・・通常紙であっても,その記事の具体的内容,被拘禁者の性向,行状,その時々の社会情勢等いかんによっては,当該記事の閲読を許した場合,拘置所内の静穏が攪乱され,所内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるものとして,上記障害発生を防止するため,必要かつ合理的な範囲においてその閲読を制限されることもあり得ると認められるから(最高裁昭和58年判決参照),原告の上記主張は,採用することができない。そうすると,未決拘禁者全員に対し,その希望する通常紙の購読を無制限に認めた場合,国家予算等に由来する当該施設の人的,物的制約の下においては,在監者の通常紙の購読に係る事務処理が遅滞し,在監者に対して新聞の発行後速やかにこれを交付することができず,新聞紙閲読の自由の保障の趣旨が没却される事態となり,そのような事態を避けようとすれば,上記事務以外の事務に充てられる時間と労力とが著しく限定され,その結果上記事務以外の事務に重大な支障を生じ,ひいては,監獄内の規律及び秩序維持に放置することができない程度の障害が生ずることも,十分考えられるといわざるを得ない。
 この点について,原告は,通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に制限するのはやむを得ないとしても,本件購読規制は,その記事に政治的,社会的意見の傾向の違いが反映されている通常紙について,購読することができる通常紙の紙種を2紙に制限する点において,被拘禁者の新聞の閲読の自由に対する必要最小限度を超えた重大な制限となるといった趣旨の主張をするものと解される。
 確かに,通常紙とはいえその記事が編集者の政治的,社会的意見が多少とも反映された内容となっていることは,公知の事実ということができ,また,購読する新聞の選択においてその者の思想,信条ないし政治的意見が多少とも影響していることも容易に推認されるところである。その点からすれば,監獄内において被拘禁者が購読することのできる通常紙の紙種を特定の紙種に限定することにより被拘禁者が被る新聞閲読の自由に対する制約は,・・・その程度が著しく軽微であると直ちに断ずることはできない。
 しかしながら,・・・購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,・・・,購読に係る通常紙の部数が増加することは容易に推認することができる。そして,紙種及び購入部数の増加に伴って,前記のような在監者の通常紙の購読に係る事務により多くの時間と労力を要することになることはいうまでもなく,とりわけ,上記事務のうちの内容審査(及び同審査により閲読が不適当と認められた場合の当該部分の抹消又は切取り)に係る事務においては,・・・,慎重な検討を要するのであり,前記のとおり通常紙といえどもその掲載する記事の種類やその具体的内容に多少とも相異が存する以上,紙種の制限の撤廃に伴う取扱い紙種の増加に伴って必然的に招来される内容審査に要する時間と労力の増加の程度は軽視し難いものがあるというべきである。国家の設営する刑事収容施設としての監獄における物的設備及び人員配置がその時々の国家予算等の制約を受けることはもとより憲法の予定するところということができるのであり,監獄においては,所与の物的,人的制約の下で,刑事収容施設としての設置目的を達成するために,その事務を適切かつ効率的に処理することが求められるのであって,被拘禁者に対する新聞紙,図書等の閲読の許可に係る事務についても,上記のような観点からの制約は免れないものというべきである。そうすると,後記のとおり事実の正確かつ迅速な報道をその主な目的とする新聞紙(通常紙)について,刑事収容施設としての監獄の設置目的を損なわず,かつ,被拘禁者の新聞紙閲読の自由の保障の趣旨を没却することなくその購読に係る事務を処理するとすれば,自ずから購読の対象とし得る紙種を限定せざるを得ないということができるのであって,本件規程16条1項が未決拘禁者が閲読することができる通常紙の紙種を2紙に限定しているのも,上記のような監獄における事務処理の実情を踏まえたものであると推認することができる。
 他方,在監者が購読し得る通常紙の紙種が制限されたとしても,当該選定された紙種の通常紙を購読することは可能であるところ,通常紙は,・・・,少なくとも,事実の報道に関する限り,その性質上,記事内容や報道の正確性及び迅速性に著しい差異はないものということができ,また,一般的に公共性が高いと考えられる事項については,紙種によって報道の有無ないし報道内容にも大差がないと考えられる。これを通常紙を閲読する側からみれば,・・・通常紙に掲載された記事のうち事実の報道に係る部分については,時系列に従って即時に摂取することが・・・重要な意義を有すると考えられるのに対し,事実に対する編集者その他の意見ないし論評にわたる部分や事実の報道以外の記事については,それらに関する情報を即時に摂取することが必ずしも上記のような事実の報道と同程度の重要性を有するとまでいうことはできないと考えられる。そうであるとすれば,・・・少なくとも,時系列に従って迅速に摂取することが重要な意義を有すると考えられる公共の利害に関する事実に係る報道については,その紙種によって摂取し得る情報の内容に大差がないと考えられるのであり,また,そのような事実の報道こそが通常紙の主な目的ということができる。これに対し,報道の対象とされた事実に対する編集者その他の意見,論評や事実の報道以外の記事については,その摂取の機会を全面的に制約するのならばともかく,少なくとも,差入れ等の方法によりこれを摂取するみちが制度上認められている限り,即時摂取の機会まで保障されなくても,上記のような通常紙の目的,性格に照らしてやむを得ないものというべきである。
 以上検討したところによれば,通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に限定する取扱いを前提としても,購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,・・・監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認めざるを得ない。他方で,購読することができる通常紙の紙種を2紙に制限することにより被拘禁者が受ける不利益は,・・・被拘禁者の通常紙の閲読の自由に対して加えられる制限の態様並びに制限される自由の内容及び性質にかんがみても,上記閲読の自由に対する制限の程度はさほど重大であるということはできない。そうであるとすれば,特段の事情がない限り,監獄の長が本件規程16条1項に基づいて未決拘禁者が購読することができる通常紙の紙種を2紙に制限することは,上記のような障害を防止するために必要かつ合理的な範囲内の措置として,監獄法施行規則86条2項により監獄の長に付与された裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものということはできない。そうであるところ,大阪拘置所における購読の対象となる通常紙2紙の選定手続は,前記認定のとおりであり,大阪拘置所における収容者の閲読傾向の把握において当該閲読傾向が故意にゆがめられるような手続がとられたことをうかがわせるような証拠もないから,前記認定事実の下においては,本件購読規制に係る大阪拘置所長の措置が監獄法施行規則86条2項により監獄の長に付与された裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものということはできない。
 以上説示したところによれば,本件購読規制は,在監者の新聞紙の閲読の自由に対する制限として許容されるものというべきである。

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