平成19年度旧司法試験出題趣旨検討
(憲法第1問)

【問題】

 A市では,条例で,市職員の採用に当たり,日本国籍を有することを要件としている。この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有する者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。

【出題趣旨】

 本問は,外国人の公務就任権及び地方議会議員の選挙権について,外国人の人権享有主体性,それぞれの権利の性質,国民主権原理と地方自治との関係などを踏まえて論理的に記述することができるかどうかを問うものである。

定石通りでOK

ポイントは「論理的に記述」という部分だ。
一行比較問題の基本は論理である。
まず、根本的な違いを示す。
そして、そこから結論の違いを導く。
本問はその定石通りで良かったといえる。

内容的には、「外国人の人権享有主体性,それぞれの権利の性質,国民主権原理と地方自治との関係などを踏まえて」となっている。
具体的には、以下のような文脈になると思われる。
すなわち、まず、外国人の人権享有主体性を入リ口とし、性質上可能か否かという基準を示す。
そうすると、権利の性質が問題になる。
では、両者の権利の性質はどう違うか。
その視点が、国民主権との関係、地方自治との関係ということになる。
前者については、選挙権の方がより密接な関係があるといえよう。
後者については、住民自治の捉え方によって色々な解釈ができそうだ。
方向性として、国民主権の影響を地方ゆえに希薄化できるかという視点。
それがあれば、ある程度自由に考えて良いところだと思う。
このあたりを過不足なく書けば、上位になったと思われる。

出題趣旨を見てしまうと、簡単な問題に見える。
しかし、現場では難問だと思った人が多いと思う。
その原因は三つある。
一つは、人権パターンが使えないこと。
もう一つは、判例を書きたくなるが書くと論理性が示しにくくなること。
三つ目は、視点を二つに絞ることに対する不安である。

人権パターンは駄目

通常「人権はあてはめ」とされる。
問題提起から、あてはめまでの処理パッケージ。
それが、いわゆる人権パターンである。
すなわち、ほとんどの問題はあてはめ重視で、人権パターンを使えば解ける。
これは正しい。
もっとも、それは、あくまで原則であって、例外がある。
その例外が本問のような比較問題である。
従って、本問で人権パターンは使うべきでない。

敢えて使うとどうなるか。

第一に、比較がしにくくなる。
人権パターンは入り口から、出口までパッケージ化されている。
1個の人権の処理のために最適化されていると言っていい。
そのため、複数の人権を比較をするためには、どこかでその体裁を崩さなければならない。
そうすると、人権パターンの利点である定型性が失われる。
いつものパターンと違う人権パターンは、もはや人権パターンではない。

第二に、比較には不要な記述が入ってしまう。
人権パターンは、事例処理に最適化されている。
しかし、比較問題では事例処理は直接問われない。
従って、不必要な論述を書いてしまうことになる。
本問で言うと、違憲審査基準とあてはめがその部分となるだろう。
実際に聞かれているのは、人権パターンでは前提部分に過ぎない享有主体性だけである。

判例不要

また、出題趣旨には「判例を意識しつつ」などの記述がない。
今年の新司法試験では、公法系第一問の出題趣旨で、以下のような記述がある。

 条例自体の合憲性に関する主要な問題は,「法律と条例の関係」である。徳島市公安事件上告審判決がポイントとなるが,まず,当該判決を正確に理解していることが求められる。その上で,法律と条例の目的・趣旨・効果をどのように比較するのか,どのような点で法律の範囲内である/ない,という結論を導くのかについて論じることが,必要である。

これと照らし合わせれば、本問で判例に触れる必要はなかったといえる。

最近では、受験生の多くが判例を書かない。
この点を嘆く実務家・学者もいる。
そういう人達は、判例をちゃんと書けと指導している。
確かに、考査委員がこれに不満を抱くことは考えられる。
しかし、不満ならば、それを伺わせる文言を出題趣旨に入れてくるはずである。
今年も、それ以前も、そのような文言は、入って来ない。
むしろ、「論理的に記述すること」を強調している。
そうである以上、無理に判例を挙げる必要は無い。

一般論として、論理重視の問題では判例は不要になりやすい。
事例処理重視の問題は、判例の規範でどうあてはめるか。
これが、出題サイドの問題意識となりやすい。
そうである以上、判例を全く無視するのは危険である。
これに対して、論理重視の問題では、従来判例学説が固まっていない所をどう論理的に説明するか。
これが、出題サイドの問題意識となりやすい。
そうであるなら、判例を挙げても、答えになる可能性は低い。

本問ではどうか。
公務就任権については、管理職任用事件を書きたい。
しかし、本問では市職員の採用自体が問題となっている。
判例では、採用後の管理職昇進が問題となっている。
問題点のポイントが違っている。
本問のポイントである、外国人の公務就任権の肯否については、判例は、直接触れていない。
原審の高裁、そして、金谷・上田意見、滝井反対意見が簡単に触れているだけである。

他方、地方選挙権については、最高裁平成7・2・28を書きたい。
これは、正面から外国人の選挙権の保障を論じている。
従って、この判例はそのまま使えないことはない。
もっとも、使えるのは、自分がそれまで展開した論理に整合的である場合だけである。

憲法の論理は視点が少ない

本問で、国民主権と地方自治の視点に気づくことは容易である。
しかし、それだけで書いていいと決断することは、容易ではない。
国民主権が根本原理とすると、視点自体は地方自治による相対化のみ。
不安になって当然である。
個人的には、ここが一番この問題を難問にしたと思う。

もっとも、憲法の論理はいつもこんな感じである。
過去問を検討するとこれはわかる。
統治の論理などは、下手をすると1ページで終わりかねない場合がある。
従って、過去問検討をしっかりやっている人は比較的安定した精神状態で視点の絞り込みを行えたのではないか。
ただ、本問は人権の比較という過去問でもレアな出題である。
それだけに、迷った人は多かっただろう。

14条は比較の対象外

なお、本問を14条で書いた人もいたようだ。
確かに、判例では14条も挙がっている。
しかし、本問で14条をメインにすれば、評価は低くなる。
それは、出題趣旨に全く触れられていないことからもわかる。

その理由は、本問が比較問題であるという点にある。
そして、その比較の軸は、権利の性質の違いである。
14条では、その比較の軸が全く出てこない。

もし、この問題が事例処理問題であれば、14条で書いても評価される余地はあった。
また、比較であっても、事実評価の差異などがポイントであるなら、評価される余地はあった。
しかし、地方公務就任権と地方選挙権の比較であった以上、平等権を論じることは、筋違いである。

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