【問題】
運送業を営むA株式会社は,小規模で同業を営んでいるB株式会社に自らの業務の一部を委託していた。B社では,これまで自らの商号によってその事業を行ってきたものの,仕事を得ることが難しくなってきた。そこで,A社は,B社の代表取締役Cに対し,「A社副社長」の肩書を付した名刺の使用を許諾し,さらに,B社は,事務所にA社の商号を表示した看板も掲げて事業を行うようになった。
その後,B社は,次第に資金繰りが悪化し,事業の継続が事実上困難となってきたが,Cは,上記の名刺を用いて,DからB社の事業に用いている自動車の部品を100万円で購入し,Dは,B社の上記事務所において,相手方をA社と誤認して,当該部品を引き渡した。しかし,その代金は,Dに支払われなかった。
Dは,A社,B社及びCに対し,それぞれどのような責任を追及することができるか。
【出題趣旨】
本問は,役員である旨の肩書の付与により他社の商号の使用の許諾を受けた株式会社の代表取締役が第三者と取引を行って損害を与えた場合について,当該他社,当該株式会社及び当該代表取締役がそれぞれどのような根拠で第三者に対して責任を負うかを問うものである。解答に際しては,当該他社の名板貸人としての責任,当該株式会社の契約責任及び当該代表取締役の第三者に対する責任について,整合的な論述をすることが求められる。
書くべき論点
出題趣旨に論点は列挙されている。
A社、B社、Cのそれぞれについて、一つずつ論点が割当てられていたようだ。名板貸人としての責任は、A社の責任である。
会社法9条の適用の可否ということになる。
黙示の許諾を認定するか、類推でもいいだろう。
ただ、出題趣旨は、「役員である旨の肩書の付与により他社の商号の使用の許諾を受けた」としている。
従って、名刺の使用がそのまま商号使用許諾にあたるという認定を想定していたようである。当該株式会社の契約責任は、B社の責任である。
Cの代表行為がBに帰属しているかを検討することになる。
CはB社のためにする表示、すなわち顕名をしていない。
その点を指摘し、商事代理(商法504条本文)で処理できればいいだろう。当該代表取締役の第三者に対する責任は、Cの責任である。
会社法429条1項の検討ということになるだろう。
表見代表取締役類推はいらなかった
意外だったのは、会社法354条類推適用が全く挙がっていない事だ。
本問の事案は、浦和地判平成11年8月6日金商1089号45頁に類似している。
裁判例では、表見代取類推論が検討され、結論的には否定されている。
裁判例を知らなくても、「A社副社長」の肩書付き名刺など、いかにも書いて欲しいという印象を受ける。
当然、本問でも書くべき論点、しかもメインの論点になるのではないかと思われた。
しかし、出題趣旨に全く挙がっていない。実際、表見代取類推に触れなくてもAになっている。
また、逆に表見代取類推を書いても、名板貸を落としたりすると、かえって評価を下げているようだ。
出題趣旨からも、役員肩書付きの名刺は、商号使用許諾の認定に使うべきだったことがわかる。これまでも、新判例や細かい裁判例を素材にした答練問題などが的中すると危険ということが言われてきた。
当該判例等でメインとされた論点を大展開すると、かえって酷い点になるという傾向があったからだ。
本問についても、それがあてはまるようだ。ただ、現場でこれを判断しろというのは無理がある。
一応短く書いておくという選択を取るのが無難だろう。
特に、商法は一つの論点を大展開するケースはあまり無い。
浅く広く拾うというスタンスでいいと思う。
「整合的な論述」の内実
気になるのは、「整合的な論述」というところだ。
これは、明らかに論理を訊いている。
ただ、その内実は、全く述べられていない。おそらくは、Cの代表行為の効果帰属先と、B社とCの責任との論理的関係を言っているのだろう。
すなわち、以下のような論理関係がある。商事代理から、B社に帰属するとした場合、B社は不法行為責任ではなく、契約責任を負うことになる。
そして、Cは無権代表者ではなく、間接損害としての429条責任の問題となる。一方、Cの無権代表行為であると考えた場合はどうか。
B社は、代表者の不法行為による責任(350条)を負うが、契約責任は負わない。
そして、Cは無権代表者として、履行責任・損害賠償責任を負う(民法117条1項)。以上のような論理関係と矛盾した構成を採ると、評価を下げたように思う。
なお、商事代理を成立させた上で、表見代表取締役類推を検討することは、矛盾ではないかという問題もある。
すなわち、有権代理にもかかわらず、無権代理の一類型である表見代理を成立させることは矛盾だという発想である。
だが、今回の評価を見る限り、その点はあまり点数に影響していない感じである。
「類推」である以上、矛盾とまではいえないということなのかもしれない。