最新下級審裁判例

広島高裁判決平成19年10月16日

【事案】

 会社の清算人であった被告人が、会社の清算方法を巡って対立していた代表清算人の養父を交通事故を装って殺害することを計画し、養父の頭部を鉄アレイで殴打した上、自己が運転する車の助手席に乗せ、車を高速でコンクリートブロック壁に衝突させて殺害し、保険金詐欺を行った、妻から離婚されると思い、いっそのこと妻を殺害しようと決意し、浴室で妻を湯に漬けて殺害し、その死体を岸壁から海中に遺棄し、妻が誤って転落したと偽って保険金を詐取した等の事案について、原審が言い渡した死刑判決は、量刑が重過ぎて不当であり、憲法に違反するという理由で被告人が控訴した。

【判旨】

 弁護人は,我が国の死刑制度は憲法13条,19条,31条,36条に違反しており,これが合憲であるとする最高裁判所昭和22年(れ)第119号昭和23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁等の判例は変更されるべきである旨主張する。
 しかし,我が国の死刑制度が憲法13条,31条,36条の各規定に違反するものでないことは,確立した判例(所論指摘の判例のほか,最高裁判所昭和24年新(れ)第335号昭和26年4月18日大法廷判決・刑集5巻5号923頁,昭和26年(れ)第2518号昭和30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁)であって,その後の時代と環境の変化や死刑制度に関する世界的な動向等所論指摘の諸点を十分検討しても,国民の感情,犯罪状況,刑事政策を取り巻く諸般の事情を総合すると,現在においても,これが左右されるものではない。
 また,弁護人は,平成9年に臓器の移植に関する法律(臓器移植法)が制定されたことにより,死刑囚が,贖罪のために自己の臓器を提供することが可能になったところ,たとえ死刑囚であっても,その臓器提供の意思は尊重されなければならないにもかかわらず,現行の絞首という執行方法によれば,体内の臓器の損傷が大きく,少なくとも心臓と肺の移植は不可能であるし,その他の臓器についても,果たして移植の対象とし得るか大きな疑問がある上,死刑囚について現実に移植意思を尊重するための制度的保障は全くないことなどを考慮すると,現行の死刑制度は,その執行方法を変更しなければ,「償い方の自由」ともいうべき権利を侵害するものであるから,憲法13条,19条に違反する旨主張する。
 たしかに,臓器移植法2条1項が,生存中に有していた自己の臓器の提供に関する意思は尊重されなければならないと規定していることは,そのとおりである。しかし,同法2条は,あくまで臓器移植の基本的理念,すなわち,移植医療の基本は,臓器提供者本人の人道的な提供意思にあり,移植医療は,本来,その上に成り立つものであることを示しているものと解すべきであり,かかる観点から臓器提供意思の尊重も理解すべきである。そして,刑に服している者は,その執行に必要な限度において,国民が享有する基本的人権に合理的な制限が加えられることもやむを得ないところ,死刑は,人間の存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る刑罰であるから,例え,生前の意思により脳死状態における臓器の提供意思が表明されている場合であっても,その意思を尊重するために死刑の執行方法が左右されることにはならないし,これにより臓器提供ができなくなったとしても,それはやむを得ないというべきである。したがって,この点からしても,現行の死刑制度が憲法13条,19条の各規定に違反するものではない。

 

大阪高裁判決平成19年10月19日

【事案】

 本件は,被控訴人が,処分行政庁である近畿経済産業局長に対して,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づき,エネルギーの使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以下「省エネ法」という。)11条に基づき各事業者から提出された定期報告書の開示請求をしたところ,同局長において,目録1,2記載の情報が記録された行政文書の部分が情報公開法5条2号イ所定の利益侵害情報に該当するとして不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,被控訴人が同決定の取消しを求めるとともに,同不開示部分につき開示決定の義務付けを求めた抗告訴訟である。

【判旨】

 情報公開法は,・・・,何人も行政文書の開示を請求することができるとし,その主体を何ら限定していないのみならず,その開示を求める理由・目的,情報の使途等についても制限を加えず(4条),行政機関の長にこれらの点に関する調査権限や開示条件を設定する権限も認めていないため,特定の者に開示された情報であっても,これが一般人,専門家,競業他社,取引先,外国企業等を含む不特定多数人に伝播することもあり得るのであり,いったん企業秘密等の利益侵害情報が開示されると,その性質上,原状回復はほぼ不可能であるといわなければならない。また,同法5条2号イは,利益侵害情報の要件として単に「害するおそれがあるもの」で足りるとしており,不開示の範囲を厳格に限定する規定形式・文言にはなっていない。さらに,上記「害するおそれ」の要件について,行政機関の長に対し,当該文書の個別具体的な文言等から当該法人等の権利が具体的にどのようにどの程度害される蓋然性があるかを主張立証することまで要求することは,実質上,不開示情報の開示を要求することと同様の事態を生じ不合理である上,本件請求の対象である本件数値情報が記載された定期報告書は,省エネ法11条に基づく,定期の報告義務の一環として作成されるものであるが,その主たる目的は,主務大臣に対し,エネルギー使用の合理化計画に係る必要な指示及び命令等を行うための基礎資料を提供するところにあり(同法12条,同条の2),定期報告書の公開制度も導入されておらず,情報公開法に基づく開示は「目的外使用」に当たるという面も否定できない。
 以上の諸点にかんがみると,行政機関の長としては,第三者に関する情報の主体である法人等が意見書(情報公開法13条)において当該情報の開示に反対している場合にあって,当該情報が法人等の事業活動又は生産技術等に関わるものであるなど,その一般的,類型的な性質に照らして当該情報の開示が法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるかどうかを判断し,これに当たると判断した場合には,不開示決定をすることができると解され,また,本件数値情報が利益侵害情報に当たるかどうかは,省エネ法や地球温暖化対策推進法を含めた社会・経済政策の実施と法人等の競争上の地位等の保護との調整という政策的判断を要する事項であることにも照らすと,上記おそれの存否に関する行政機関の長の判断が社会通念上妥当性を欠きその裁量権を逸脱又は濫用したものと認められない限り,同判断は違法となるものではないと解するのが相当である。

 本件各事業者が本件数値情報を記載した定期報告書が公開されると,競業他社,取引先, 専門家等による分析によって,製造コスト等の企業秘密に関する事項が推測され,競争上の地位等が害されるおそれがあるとして公開に反対していることを踏まえ,近畿経済産業局長において,同情報が本件各事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断して不開示決定をしたことには合理的な理由があるというべきであり,同局長において本件数値情報は利益侵害情報に当たるとして上記決定をした判断が,その裁量権を逸脱ないし濫用した違法なものと認めることはできないというほかない。

 本件数値情報は,その性質上,直ちに人の生命,健康,生活又は財産に直接,具体的な危険を及ぼす情報とはいえない上,二酸化炭素を中核とする温室効果ガスの排出規制については,控訴人自身が上記立法政策を講じてその規制・防止対策に乗り出し,また,本件各事業者も上記のとおり自主的に二酸化炭素の排出量を公表しているのであるから,二酸化炭素の排出量に関する情報については,地球温暖化対策推進法に規定する上記の公表制度のほか, 同法に基づき提出された資料について,情報公開法によってその公開を求めればよく(この場合には, 当該情報が,情報公開法5 条2号イの利益侵害情報に該当しないと判断される場合もあり得る。),したがって,省エネ法に基づき提出された情報である本件数値情報は,情報公開法5条2号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」には該当しないというべきである。

 

広島地裁判決平成19年10月26日

【事案】

 本件は,平成5年分から平成7年分までの各所得税に係る更正等の処分(以下「本件更正等の処分」という。)の取消等請求訴訟(以下「前件取消等請求訴訟」という。)を提起し,その一部を認容する確定判決を取得した原告が,

・本件更正等の処分は同業者比準法に基づき行われたが,

 広島西税務署長においては,本件更正等の処分を行うに当たり,適切な比準業者を選定すべき義務を怠り,業種,業態及び規模の異なる比準業者を選定した

 被告においては,別の国税不服審判所の裁決で比準業者の選定が不合理である旨指摘されていたのに,前件取消等請求訴訟を継続したとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件更正等の処分に係る所得税等を納付するために銀行から借り入れた金銭の利息379万3440円,前件取消等請求訴訟の訴訟追行に費やした弁護士費用等1380万6683円,慰謝料500万円及び本件訴訟の弁護士費用300万円,並びにこれらに対する上記各不法行為の後の日である平成19年1月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,

・前件取消等請求訴訟の確定判決後,本件更正等の処分の趣旨に沿って修正申告していた平成8年分の所得税について,国税通則法71条に基づき増額更正処分を申し立てるとともに,平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税の各修正申告の撤回を申し立て,もって,平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税の減額更正処分を申し立てたところ,広島西税務署長においては,違法な本件更正等の処分により原告に損害が生ずることを防止すべき条理上の義務があるのに,原告の平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税の減額更正処分を行わないとして,この不作為の違法確認を,

・原告の平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税の減額更正処分がなされないことにより,納税のためにした多額の借金の利払い及び返済に追われるなど負担は増すばかりの原告には,重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,前件取消等請求訴訟の判決の確定時点で採ることのできた唯一の手段として国税通則法71条に基づく職権の発動を促したが,広島西税務署長が職権を発動しないため,原告には,その損害を避けるため他に適当な方法がないところ,広島西税務署長が上記減額更正処分をしないことは明らかに違法であり又は裁量権を逸脱ないし濫用するものであるとして,広島西税務署長に対し,上記減額更正処分を義務付けることを,

それぞれ求めている事案である。

【判旨】

 原告は,前件取消等請求訴訟において,違法な本件更正等の処分によって精神的苦痛等の損害を被ったとして慰謝料及び弁護士費用の損害賠償も請求していたところ,この損害賠償請求の訴訟物と,本件損害賠償請求のうち本件更正等の処分の違法に係る部分の訴訟物とは同一である。
 そして,前件取消等請求訴訟の控訴審は,上述の損害賠償請求を棄却する旨の判決をし,上告審が本件更正等の処分の取消請求のうち一部を破棄して広島高等裁判所に差し戻し,その余の上告を棄却する旨の判決を言い渡したことにより,上記請求棄却部分は,確定している。
 そうすると,本件損害賠償請求のうち本件更正等の処分の違法に係る部分については,本件更正等の処分の違法を請求原因とする損害賠償請求権の不存在という,前件取消等請求訴訟の上記請求棄却部分の既判力が及ぶから,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。

 民事訴訟を提起された者が敗訴の確定判決を受けた場合において,応訴が相手方に対する違法な行為といえるためには,少なくとも当該訴訟において応訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,応訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて応訴したなど,応訴が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年 第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
 これを本件についてみるに,・・・,原告主張のとおり,国税不服審判所長は,平成13年3月13日,医療保険業を営んでいた請求人が同族会社に支払った外注費の額が著しく高額であることを理由に所得税法157条を適用し更正処分をした事案につき,用いられた同業者比準には合理性が認められないとして,当該更正処分を全部取り消す旨の裁決をしている。この裁決の事案と前件取消等請求訴訟の事案とが同種であるとみるにしても,基礎となる事実関係が異なる以上,広島西税務署長ないし被告が,この裁決の存在をもって,本件更正等の処分に事実的ないし法律的な根拠に欠ける部分があることを容易に知り得たとは認められない。
 そうすると,広島西税務署長ないし被告が上記裁決を証拠として提出せず応訴を続けたことについては,裁判制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠くとは到底認められず,違法な行為といえない。

 国税通則法23条1項1号は,納税申告書を提出した者は,当該申告書に記載した税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合には,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,その申告に係る税額等につき更正をすべき旨を請求することができることを定めている。この規定は,納税申告書を提出した者の権利利益の救済を図りつつ,更正の請求をすることができる期間を限定し,その申告に係る税額等をめぐった租税法律関係の早期安定を図る趣旨のものであるところ,このような趣旨にかんがみれば,この期間を経過した後は,同条2項各号所定の事由に当たらない限り,納税申告書を提出した者の側から課税処分を争うことを許さないものと解すべきである。また,更正の請求並びにそれに続く審査請求及び取消訴訟には相当の時間,費用,労力等を要するが,課税処分等に沿った納税をする一方でこれらの手続を継続することもできる上,前件取消等請求訴訟が提起されていた本件においては,なおさら,これらの手続を採ることが十分に期待できたものである。
 そして,原告の平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税(法定申告期限はそれぞれ平成7年,平成8年及び平成9年の各3月31日・消費税法45条1項)については,更正の請求をすることができる期間を既に経過しているところ,本件義務付けの訴えのうち各消費税に係る減額更正処分の義務付けを求めることを内容とする部分は,国税通則法23条1項1号の上記趣旨にかんがみ許されるものではない。ましてや,平成8年分の所得税については,更正の請求及び審査請求までなされており,それらの手続においてないしその後に取消訴訟を提起して,前件取消等請求訴訟と同様の主張をする機会もあったところ,結局はそれをしなかったというのであるから,これを今さら争い得ないことは明らかである。したがって,本件義務付けの訴えは,その余の点を判断するまでもなく,不適法である。

 法定抗告訴訟としての不作為の違法確認の訴えは,「法令に基づく申請に対し」(行政事件訴訟法3条5項),行政庁が処分等をしないことの違法の確認を求めるものであり,法令に基づく申請権のあることにより原告適格が基礎付けられる。
 原告は,・・・,平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税について,更正の請求をすることができる期間を経過するなどし,広島西税務署長に対して減額更正を求める権限を失っており,上記原告適格を有していないから,かかる減額更正をしないことの違法の確認を求める本件違法確認の訴えは,法定抗告訴訟たる不作為の違法確認の訴えとしては,不適法である。

 抗告訴訟については,行政事件訴訟法3条2項以下に類型が個別的に法定されているが,同条1項が行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟を抗告訴訟として包括的に定義していることからすると,本件違法確認の訴えがいわゆる無名抗告訴訟として許容される可能性が,完全に否定されるものとは解されない。
 もっとも,行政事件訴訟法は,公権力の行使につき,原則として行政庁に一次的判断権を留保しつつ,公権力の行使によって生じている違法な状態を排除する手段として抗告訴訟を位置付けているのであるから,本件違法確認の訴えが無名抗告訴訟として許容されるためには,行政庁の作為義務が法令上一義的に明確で,行政庁の一次的判断権を留保する必要性の認められない場合であって,行政庁の不作為によって国民に重大な損害ないし危険が切迫しており,かつ,他の適切な救済方法がないといった事情があることを訴訟要件として満たす必要があると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,平成8年分の所得税及び平成6年ないし平成8年の各課税期間の消費税の減額更正処分がなされないことによる原告の損害の重大さはさておき,かかる損害は,上記所得税及び各消費税について原告がそもそも更正の請求をしなかったことにより自ら生じさせたもので,広島西税務署長の不作為によるものではない。
 そして,・・・,国税通則法23条1項1号につき,同項所定の期間を経過した後は,納税申告書を提出した者が課税処分を争うことを許さないものと解すべきことをも考え合わせると,本件違法確認の訴えは,無名抗告訴訟としての訴訟要件も欠いており,不適法である。

 なお,原告は,本訴提起後,平成8年分の所得税の修正申告は錯誤に基づく無効なものであるとして,この修正申告に基づき納付した税額と平成8年分の所得税の期限内申告の納付すべき税額との差額を不当利得として返還することを求める旨の訴えの追加的変更を申し立てている(以下「本件訴えの変更」という。)。
 ・・・本件訴えの第1回口頭弁論期日は,平成19年2月21日に開かれ,本訴請求の判断を基礎付ける主張ないし証拠関係は,同年6月29日の第2回口頭弁論期日までにほとんど全てが現れていたところ,原告が,この第2回口頭弁論期日において,国税通則法23条1項1号の適用を前提とした本件違法確認の訴え及び本件義務づけの訴えについての主張並びに国家賠償請求に係る主張を同年8月20日までに補充する意向を示したため,当裁判所は,原告の意向を容れ,同月31日に弁論を終結する予定であることを告げて,弁論を続行したものである。そうであるのに,原告は,同月28日になって本件訴えの変更を求める訴えの変更申立書を提出し,同月31日の第3回口頭弁論期日においては,国家賠償請求に係る主張は補充したものの,国税通則法23条1項1号の適用を前提とした主張の補充を怠りながら,本件訴えの変更を申し立てているものである。原告は,唯一の手段であると考えて本件訴えを提起したものの,本件違法確認の訴え及び本件義務づけの訴えが不適法であるとの主張が被告からなされたため,やむを得ず本件訴えの変更を予備的に申し立てたというが,そうであるならば,被告が上記主張をした同年5月8日の第1回弁論準備手続期日の次の期日である同年6月29日の第2回口頭弁論期日までに本件訴えの変更をするはずである。このような経緯からして,本件訴えの変更を許すこととなれば,追加に係る訴えの適否及び請求の当否を判断するため,被告をして,新たな事実上ないし法律上の主張立証を尽くさせなければならなくなるものであり,本訴請求の当否を判断するだけであれば必要のない期日を重ねなければならない事態が生ずることは明白である。
 そうすると,本件訴えの変更については,これにより著しく訴訟手続を遅延させることとなるものというべく,許されない。

 

名古屋高裁判決平成19年10月31日

【事案】

 中部電力(中部電力株式会社)に勤務していた被控訴人の夫であるAがうつ病に罹患して自殺をしたことが,業務に起因するものであるとして,被控訴人が,控訴人に対して,本件各処分(労災保険法〔労働者災害補償保険法〕に基づき被控訴人が遺族補償年金及び葬祭料の支給請求をしたのに対して控訴人がした不支給処分)の取消を求める事案。

【判旨】

 労災保険法に基づいて遺族補償年金及び葬祭料を支給するためには,業務と疾病との間に業務起因性が認められなければならないところ,業務と疾病との間に業務起因性があるというためには,単に当該業務と疾病との間に条件関係が存在するのみならず,業務と疾病の間に相当因果関係が認められることを要する(最高裁判所昭和51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁参照)。そして,労働者災害補償制度が,使用者が労働者を自己の支配下において労務を提供させるという労働関係の特質に鑑み,業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に,使用者に何ら過失はなくても労働者に発生した損失を填補する危険責任の法理に基づく制度であることからすると,当該業務が傷病発生の危険を含むと評価できる場合に相当因果関係があると評価すべきであり,その危険の程度は,一般的,平均的な労働者すなわち,通常の勤務に就くことが期待されている者(この中には,完全な健康体の者のほかに基礎疾病等を有するものであっても勤務の軽減を要せず通常の勤務に就くことができる者を含む。)を基準として客観的に判断すべきである。
 したがって,疾病が精神疾患である場合にも,業務と精神疾患の発症との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては,何らかの素因を有しながらも,特段の職務の軽減を要せず,当該労働者と同種の業務に従事し遂行することができる程度の心身の健康状態を有する労働者(相対的に適応能力,ストレス適処能力の低い者も含む。)を基準として,業務に精神疾患を発症させる危険性が認められるか否かを判断すべきである。
 また,本件のように精神疾患に罹患したと認められる労働者が自殺した場合には,精神疾患の発症に業務起因性が認められるのみでなく,疾患と自殺との間にも相当因果関係が認められることが必要である。
 うつ病発症のメカニズムについては,いまだ十分解明されてはいないが,現在の医学的知見によれば,環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,ぜい弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側のぜい弱性が小さくても精神障害が起こるし,反対に個体側のぜい弱性が大きければ,ストレスが小さくても破たんが生ずるとする「ストレス−ぜい弱性」理論が合理的であると認められる。そうすると,結局,業務と精神疾患の発症との相当因果関係は,このような環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,ぜい弱性(個体側の要因)を総合考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上客観的に見て,前記ア(管理人注:第1、第2、第3段落のこと)に示した労働者に精神疾患を発症させる程度に過重であるといえるかどうかによって判断すべきである。
 ところで,判断指針(「心理的負荷による精神的障害等に係る業務上外の判断指針について」)は,「ストレス−ぜい弱性」理論を基礎として心理的負荷(ストレス)による精神障害等と業務との関係を検討し,心理的負荷による精神障害に係る業務上外の認定を図るために策定されたものであり,精神医学,心理学,法律学等の専門家によりまとめられた専門検討会報告書に基づき,医学的知見に沿って作成されたものであるから,精神障害が業務上の心理的負荷に基づくものであるか否かの判断において一定の合理性があり,多数の労災事件を客観的かつ画一的に,迅速に処理する上で行政手続上有益なものであると認められる。
 もっとも,判断指針は,上級行政庁が下部行政機関に対してその運用基準を示した通達に過ぎず,裁判所を拘束するものでないことは言うまでもないし,その内容についても批判があり,現在においては未だ必ずしも十全なものとは言い難い。
 そこで,業務起因性の判断に当たっては,判断指針を参考にしつつ,なお個別の事案に即して相当因果関係を判断して,業務起因性の有無を検討するのが相当である。

 

青森地裁判決平成19年11月16日

【事案】

 本件は,青森県弘前市の住民である原告が,合併前の弘前市(以下,合併前の弘前市に係る部分を「旧弘前市」と表記し,合併後の弘前市に係る部分を「弘前市」と表記する。)情報公開条例(以下「本件旧条例」という。)に基づく開示請求に係る公文書の不存在を理由として旧弘前市議会がした公文書不存在通知に対する異議申立てにおいて弘前市議会から諮問を受けた弘前市情報公開・個人情報保護審査会が開示すべきであるとの答申(以下「本件答申」という。)を行った「会派代表者会議記録メモ」と題する文書(以下「本件会議記録メモ」という。)について,弘前市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき,その実施機関である弘前市議会に対し,改めてその開示請求(以下「本件再開示請求」という。)をしたところ,弘前市議会が再びその不存在を理由としてこれを不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,その取消しを求めたという事案である。
 その中心的な争点は,本件会議記録メモが,本件条例の適用対象である旧弘前市から承継された本件旧条例所定の「公文書」に該当するかどうかである。

【判旨】

 本件旧条例2条2号本文は,「公文書」について,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう」と規定しているところ,ここにいう「職務上作成し,又は取得した」とは,「実施機関の職員が,法律,命令,条例,規則,規程,通達等により与えられた任務又は権限の範囲内において作成し,又は取得した場合」をいい,また,ここにいう「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」とは,「作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該実施機関において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のもの」を意味するものと解される。

 本件会議記録メモは,実施機関の職員が地方自治法138条,同市議会事務局設置条例及び同市事務局処務規程により与えられた任務又は権限の範囲内において作成した文書であり,本件旧条例2条2号の規定する「実施機関の職員が職務上作成し…た文書」であると認めるのが相当である。

 @本件会議記録メモが,平成16年8月31日に開催された会派代表者会議に関し,当時の旧弘前市議会事務局次長によって職務上作成されたものであること,A本件会議記録メモは,開催日時,開催場所,開催時刻,散会時刻,出席議員の氏名及び出席職員の氏名が列記されている上,発言者の氏名とその発言内容が要約もされずにそのまま記載されており,作成者及び議事録署名者がないだけの文書であること,B本件会議記録メモが,現在も弘前市議会事務局長室において保管されていることが認められ,これらの事実に照らせば,本件会議記録メモは,「作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該実施機関において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のもの」であり,本件旧条例2条2号の規定する「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」であると認めるのが相当である。
 そして,本件会議録メモは,その保管状況等に照らせば,被告がこれを旧弘前市から承継したものと認めるのが相当である。

 以上によれば,本件会議記録メモは,本件条例の適用対象である被告が旧弘前市から承継した本件旧条例2条2号所定の「公文書」に該当すると認められるから,本件再開示請求に係る公文書が不存在であることを理由として弘前市議会が原告に対して行った本件不開示決定は違法であるというべきである。
 これに対し,被告は,旧弘前市議会の会派代表者会議が開催された場合に作成された「会派代表者会議記録メモ」が,同市議会事務局内において決裁・回議されることもなく,署名者もいない文書であることや,保存義務について何ら定めがなくいつでも処分することが可能な文書であることなどを指摘して,本件会議記録メモが本件旧条例2条2号の規定する「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」ではなく,「公文書」には該当しない旨を主張する。
 しかしながら,ある文書が本件旧条例2条2号の規定する「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」に該当するかどうかを判断をするに当たっては,当該文書が組織としての共用文書の実質を備えた状態にあるかどうかが重要であるところ,本件会議記録メモの記載内容や本件会議記録メモが現に弘前市議会事務局内において保管されていることなどに照らせば,本件会議記録メモは同市議会において組織的に用いることが可能な状態に置かれているということができるのであって,被告が指摘する諸事情があるからといって,本件会議記録メモが上記のような共用文書としての実質を欠いているものと認めることはできない。

 

青森地裁判決平成19年12月07日

【事案】

 本件は,青森県三沢市の住民である原告が,三沢市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき,その実施機関である同市長に対し,同市立三沢病院建替基本設計業務委託(以下「本件業務委託」という。)の入札における落札予定価格,低入札基準価格及び失格基準価格に関する市長決裁文書について開示請求をしたところ,同市長が,予定価格書の全部を不開示とする決定をするとともに,決裁文書のうち「設計額,配当額,配当残額」の部分を不開示とする決定をしたため,原告が上記各不開示決定(以下「本件各不開示処分」という。)の取消しを求めたという事案である。
 その中心的争点は,本件各不開示処分に係る上記不開示部分が本件条例所定の不開示情報(「開示することにより,当該事務若しくは将来の同種の事務の実施の目的が損なわれ,又はこれらの事務の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」)に該当するかどうかである。

【判旨】

 「入札又は見積に付する名称」については,契約事務1件ごとに付される単なる管理上の名称にすぎないから,これを開示することにより,将来における本件業務委託に係る入札事務と同種の入札事務の公正や円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの(本件条例10条8号所定の不開示情報に当たるもの)と認めることはできない。

 「予定価格」及び「低入札価格調査失格基準価格」については,これらが実質的には地方公共団体の行う競争入札において契約を受注するための上限及び下限を画する金額であること,「低入札価格調査基準価格」については,これが低入札価格制度において調査手続が必要となるか否かの基準となる価格であることからすれば,これらを入札前に事前に開示した場合には,当該入札に際し,入札参加者において独自に見積をしなくても,「予定価格」と同額又はこれに極めて近似した金額で入札することや,低入札価格制度に基づく調査を受けることのない金額で入札することが可能となる一方で,確実に落札したいと考えた場合には「低入札価格調査失格基準価格」と同額又はこれに極めて近似した金額で入札することによりほぼ確実に落札することが可能となることから,これらの価格を事前に開示した場合には,本件業務委託に係る入札事務の公正や円滑な執行に支障が生ずるおそれが全くないとはいえない。
 しかしながら,既に実施された過去の入札における予定価格等が事後的に開示された場合においては,開示された予定価格等をその後に実施される工事の入札における予定価格等を予測するための参考にしようとしても,・・・,その予測には自ずから限界があるのであって,入札参加者において見積努力を行う必要がなくなるものではないと考えられるから,本件業務委託に係る予定価格等を事後的に開示することにより,将来の同種業務委託に関する入札事務において,入札参加者の見積努力を損なわせることになるものとはいえない。また,入札参加者らによる談合は,予定価格等の開示とは別の要因によって生じている問題であると考えられる上,予定価格等の事後的開示が定着すると入札価格と予定価格等との不自然な一致又は近似が公表されてしまうことから談合業者らに対する談合抑止の効果も生じ得るのではないかと期待されるし,予定価格等の事後的開示はその積算過程に対する事後的な検証を通じて予定価格等の適正さを担保することにもなると考えられることからすると,本件業務委託に係る予定価格等を事後的に開示することにより,将来の同種業務委託に関する入札事務において,業者同士に談合の余地を与えるとか,落札金額の高止まりを招くなどということになるとはいえない。
 したがって,「予定価格」,「低入札価格調査基準価格」及び「低入札価格調査失格基準価格」については,これらを事後的に開示することにより,将来における本件業務委託に係る入札事務と同種の入札事務の公正や円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの(本件条例10条8号所定の不開示情報に当たるもの)と認めることはできない。

 「入札書比較価格」,「低入札価格調査基準比較価格」及び「低入札価格調査失格基準比較価格」については,これらが「予定価格」,「低入札価格調査基準価格」及び「低入札価格調査失格基準価格」から消費税相当額を除いた金額であるため,上記「入札書比較価格」等を知ることができれば上記「予定価格」等を容易に推測することができることとなるものである。また,「予算額又は設計額」については,「予定価格」を決定する上で基礎となる金額であって,「予定価格」と同額あるいはこれと極めて近似した金額となっているものである。
 しかしながら,これらの「入札書比較価格」,「低入札価格調査基準比較価格」,「低入札価格調査失格基準比較価格」及び「予算額又は設計額」の各情報の開示が実質的にみれば予定価格等を開示することと同視できるとしても,予定価格等については前記説示のとおり本件条例10条8号所定の不開示情報に該当するものとは認め難いのであるから,これらの情報を事後的に開示することにより,将来における本件業務委託に係る入札事務と同種の入札事務の公正や円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの(本件条例10条8号所定の不開示情報に当たるもの)と認めることはできない。

 被告は,「設計額」については「予定価格」を決定するための基礎となる金額であることを理由として,「配当額」については「設計額」を基に算出された「予定価格」に極めて近似した額が記載されており,「予定価格」と同等の意味を持つことを理由として,「配当残額」については本件の契約済額が0円であり,「配当額」と「配当残額」が同額となることを理由として,いずれの情報も本件条例10条8号所定の不開示情報に該当する旨主張する。
 しかしながら,被告の上記主張は,「予定価格」が本件条例10条8号所定の不開示情報に該当することを前提とした上で,上記各情報の開示を「予定価格」の開示と実質的に同視することができることを不開示情報該当性の根拠とするものであるところ,前記説示のとおり,「予定価格」は本件条例10条8号所定の不開示情報に該当するものであるとは認めることができないのであるから,被告の上記主張はその前提を欠くものであり,採用することができない。
 したがって,本件業務委託に係る決裁文書に記載された「設計額」,「配当額」及び「配当残額」については,いずれも本件条例10条8号所定の不開示情報には該当しない。