最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷決定平成19年12月13日

【事案】

 覚せい剤取締法違反等の事実により勾留のまま地方裁判所に起訴された被告人につき,第1審裁判所が,犯罪の証明がないとして無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を言い渡し,刑訴法345条の規定により勾留状が失効したところ,検察官の控訴を受けた控訴裁判所において,職権で,被告人を再度勾留(以下「本件再勾留」という。)し,これに対して弁護人が異議を申し立てたものの,棄却されたことから,更に特別抗告に及んでいる事案。

【判旨】

 第1審裁判所において被告人が犯罪の証明がないことを理由として無罪判決を受けた場合であっても,控訴裁判所は,その審理の段階を問わず,職権により,その被告人を勾留することが許され,必ずしも新たな証拠の取調べを必要とするものではないことは,当裁判所の判例(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁)が示すとおりである。しかし,刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である。そして,このように解しても,上記判例の趣旨を敷えんする範囲内のものであって,これと抵触するものではないというべきである。
 これを本件について見るに,原決定は,記録により,本件無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重に検討しても,被告人が,上記起訴に係る覚せい剤取締法違反等の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるとして本件再勾留を是認したものと理解でき,その結論は,相当として是認することができる。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成19年12月13日

【事案】

 上告人は,昭和48年4月28日,郵政事務官として採用され,A郵便局集配課勤務を命じられた。
 上告人は,上記採用前の同47年9月2日,公務執行妨害罪で現行犯逮捕され,その後,起訴されていたが,同48年12月7日,横浜地方裁判所において,同罪により懲役4月,執行猶予2年間の有罪判決(以下「本件有罪判決」という。)を受け,本件有罪判決は,同月21日の経過により確定した。
 上告人は,A郵便局内において,本件有罪判決を受けたことを話さなかった。上告人の任命権者であったA郵便局長は,当時,上告人が本件有罪判決を受けたことを知らず,同郵便局の他の職員も上告人が本件有罪判決を受けたことに気付かなかった。そのため,上告人は,本件有罪判決後も,平成12年11月まで同郵便局に勤務し,郵便集配業務に従事して給与の支給を受けてきた。
 なお,本件有罪判決が確定した昭和48年12月22日以降,上告人が国家公務員法36条1項に定める競争試験又は選考を経たとの主張立証はない。
 関東郵政局は,平成12年9月5日,上告人が昭和45年ころに公務執行妨害罪で逮捕されたことがあるとの匿名の電話を受けた。同郵政局は,平成12年10月3日,横浜地方検察庁に照会し,同月10日,同検察庁から本件有罪判決の謄本を入手した。
 なお,A郵便局長がそれ以前に上告人が本件有罪判決を受けた事実を知っていたとは認められない。
 A郵便局長は,同年11月13日,上告人に対し,国家公務員法76条及び38条2号に該当し昭和48年12月22日に失職した旨の人事異動通知書を交付した。

【判旨】

 所論は,(1) 被上告人郵便事業株式会社において上告人の失職を主張することが信義則に反し権利の濫用に当たる,(2) 上告人が失職事由の発生後も勤務していたことをもって新たな雇用関係が形成された旨をいうのである。
 しかしながら,前記事実関係等によれば,上告人が失職事由の発生後も長年にわたりA郵便局において郵便集配業務に従事してきたのは,上告人が禁錮以上の刑に処せられたという失職事由の発生を明らかにせず,そのためA郵便局長においてその事実を知ることがなかったからである。上告人は,失職事由発生の事実を隠し通して事実上勤務を継続し,給与の支給を受け続けていたものにすぎず,仮に,上告人において定年まで勤務することができるとの期待を抱いたとしても,そのような期待が法的保護に値するものとはいえない。このことに加え,上告人が該当した国家公務員法38条2号の欠格事由を定める規定が,この事由を看過してされた任用を法律上当然に無効とするような公益的な要請に基づく強行規定であることなどにかんがみると,被上告人郵便事業株式会社において上告人の失職を主張することが信義則に反し権利の濫用に当たるものということはできない。また,上告人が失職事由の発生後に競争試験又は選考を経たとの主張立証もなく,上告人が上記のとおり事実上勤務を続けてきたことをもって新たな任用関係ないし雇用関係が形成されたものとみることもできない。以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成19年12月18日

【事案】

 学校法人である上告人に雇用され,その設置する私立学校に勤務する教職員である被上告人らが,上告人は平成14年度及び同15年度の各12月期の期末勤勉手当(以下「本件各期末勤勉手当」という。)をいずれも一方的に減額し,一部しか支払わなかったと主張して,上告人に対し,本件各期末勤勉手当の残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

 上告人の期末勤勉手当の支給については,給与規程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまるというのであって,具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから,前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれない本件においては,期末勤勉手当の請求権は,理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべきである。
 ・・・本件各期末勤勉手当の支給額については,各年度とも,5月理事会における議決で,算定基礎額及び乗率が一応決定されたものの,人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたというのであるから,5月理事会において本件各期末勤勉手当の具体的な支給額までが決定されたものとはいえず,本件各期末勤勉手当の請求権は,11月理事会の決定により初めて具体的権利として発生したものと解するのが相当である。したがって,本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の11月理事会の決定が,既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し又は変更するものであるということはできず,同決定がこの観点から効力を否定されることはないものというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成19年12月18日

【事案】

 本件は,(1) 第1審判決別紙映画目録記載の映画「シェーン」(以下「本件映画」という。)の著作権者である上告人X1(以下「上告人X1」という。)が,本件映画を収録したマスターフィルムを製造し販売する被上告人Y1及びこれを基に本件映画を複製したDVD商品を製造し販売する被上告人Y2に対し,本件映画の複製権及び頒布権の侵害を理由に,上記マスターフィルム及びDVD商品のそれぞれの販売等の差止め及び廃棄を求め,(2) 我が国における本件映画の独占的利用権を有する上告人X2が,被上告人らに対し,上記利用権の侵害を理由に,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。これに対し,被上告人らは,本件映画の著作権は存続期間の満了により消滅したと主張している。

【映画の著作物の保護期間に関する我が国の法令の概要】

 旧著作権法(明治32年法律第39号)は,映画の著作物の保護期間を,独創性の有無(22条の3後段)及び著作名義の実名,無名・変名,団体の別(3条,5条,6条)によって別異に取り扱っていたところ,本件映画のように団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の保護期間は,公表(発行又は興行)後33年間とされていた(22条の3,6条,52条2項)。
 旧著作権法は,昭和46年1月1日に施行された現行の著作権法(昭和45年法律第48号。以下「現行著作権法」ということもある。)により全部改正された。現行著作権法(下記ウの改正前のもの)は,映画の著作物の保護期間を原則として公表後50年を経過するまでと定める(54条1項)とともに,附則2条1項において,「改正後の著作権法・・・中著作権に関する規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法・・・による著作権の全部が消滅している著作物については,適用しない」旨の経過措置を定めた。
 なお,旧著作権法及び現行著作権法を通じて,上記保護期間の終期を計算するときは,公表された日の属する年の翌年から起算するものとされ(旧著作権法9条,現行著作権法57条),その年から所定の年数を経過した年の末日の終了をもって当該期間は満了することとなる(民法141条)。
 映画の著作物の保護期間の延長措置等を定めた著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号。以下「本件改正法」といい,その改正を「本件改正」という。)が,平成15年6月12日に成立し,平成16年1月1日から施行された。これにより,映画の著作物の保護期間は,原則として公表後70年を経過するまでとされることとなった(本件改正後の著作権法54条1項)。なお,本件改正法附則2条は,この保護期間の延長措置の適用に関し,「改正後の著作権法・・・第54条第1項の規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」旨を規定している(以下,この規定を「本件経過規定」という。)。
 本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,旧著作権法上の保護としては,公表後33年を経過するまで,すなわち昭和61年12月31日までの保護期間が予定されていたところ,昭和46年1月1日の現行著作権法の施行に伴い,公表後50年を経過するまで,すなわち平成15年12月31日まで保護されることとなった。そして,本件映画が本件経過規定にいう「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」として本件改正後の著作権法54条1項の適用が認められるとすれば,その保護期間は平成35年12月31日まで延長されたことになるのに対し,本件経過規定にいう「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物」として本件改正後の著作権法54条1項の適用が認められないとすれば,保護期間は延長されず,その著作権は既に消滅していることになる。

【判旨】

 本件経過規定中の「・・・の際」という文言は,一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることもあり,「・・・の際」という文言だけに着目すれば,「この法律の施行の際」という法文の文言が本件改正法の施行日である平成16年1月1日を指すものと断定することはできない。しかし,・・・本件文言の一般用法においては,「この法律の施行の際」とは,当該法律の施行日を指すものと解するほかなく,「・・・の際」という文言が一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることがあるからといって,当該法律の施行の直前の時点を含むものと解することはできない。
 本件経過規定における本件文言についても,本件文言の一般用法と異なる用いられ方をしたものと解すべき理由はなく,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」とあるのは,本件改正前の著作権法に基づく映画の著作物の保護期間が,本件改正法の施行日においても現に継続中である場合を指し,その場合は当該映画の著作物の保護期間については本件改正後の著作権法54条1項が適用されて原則として公表後70年を経過するまでとなることを明らかにしたのが本件経過規定であると解すべきである。そして,本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成19年12月18日

【事案】

 相手方の所属弁護士会が相手方に対してした業務停止3月の懲戒処分に対して,相手方が申し立てた審査請求を棄却する裁決に対する取消請求訴訟であるところ,本件執行停止決定がされない場合には,同訴訟が通常の進行速度で審理されるときには,上記業務停止期間内に審理を終結することは著しく困難であり,同訴訟係属中に上記業務停止期間が経過し,相手方は上記懲戒処分の効力のすべてを受けることになるという事情があった。

【判旨】

 相手方は,その所属する弁護士会から業務停止3月の懲戒処分を受けたが,当該業務停止期間中に期日が指定されているものだけで31件の訴訟案件を受任していたなど本件事実関係の下においては,行政事件訴訟法25条3項所定の事由を考慮し勘案して,上記懲戒処分によって相手方に生ずる社会的信用の低下,業務上の信頼関係の毀損等の損害が同条2項に規定する「重大な損害」に当たるものと認めた原審の判断は,正当として是認することができる。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成19年12月25日

【事案】

 被告人は,平成19年2月5日,更に同年3月5日,偽造通貨行使の事実で東京地方裁判所に起訴され,これらの弁論は併合された。
 同月16日,上記被告事件の第1回公判期日が開かれた。被告人は,罪状認否において,手元にあった旧1万円札を共犯者とされる者に渡したことはあるが,それが偽札とは思っていなかったなどと陳述した。事件は期日間整理手続に付され,公判期日は追って指定とされた。
 検察官は,「犯行動機,犯行に至る経緯等」を立証趣旨として,被告人の供述書,警察官に対する供述調書各1通を証拠請求した。
 弁護人は,上記証拠を不同意とし,任意性を争い,公判期日においてすることを予定している主張として,警察官による自白を強要する威嚇的取調べ,利益提示による自白の誘引等を明示した。弁護人は,上記主張に関連する証拠として,刑訴法316条の20第1項に基づき,「被告人に係る警察官の取調メモ(手控え)・取調小票・調書案・備忘録等」の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)。
 本件開示請求に対し,検察官は,請求に係る取調べメモ等は,本件証拠中には存在せず,取調べメモ等は,一般に証拠開示の対象となる証拠に該当しないと回答した。
 検察官は,平成19年8月29日の第9回期日間整理手続において,「被告人の取調状況等」を立証趣旨として,上記被告人の供述書,警察官に対する供述調書作成時の取調官であるとともに,後記被告人の警察官に対する供述調書5通作成時の取調官でもあるA警部補を証人請求し,また,同年9月12日の第11回期日間整理手続において,「犯行状況等」を立証趣旨として,新たに被告人の警察官に対する供述調書5通を証拠請求した。弁護人は,上記供述調書5通を不同意とし,任意性を争った。
 平成19年10月9日,弁護人は,刑訴法316条の26第1項に基づき,本件開示請求に係る証拠の開示命令を請求した。

【判旨】

 公判前整理手続及び期日間整理手続における証拠開示制度は,争点整理と証拠調べを有効かつ効率的に行うためのものであり,このような証拠開示制度の趣旨にかんがみれば,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含むと解するのが相当である。

 犯罪捜査規範13条は,「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」と規定しており,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,同条により備忘録を作成し,これを保管しておくべきものとしているのであるから,取調警察官が,同条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができる。これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である。

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