最新下級審裁判例

神戸地裁判決平成19年11月01日

【事案】

 覚せい剤取締法違反事件である。弁護人は,被告人の逮捕に至る過程には重大な違法があり,その後の身柄拘束期間中に採取された鑑定書や被告人の供述調書等の証拠は違法収集証拠として排除を免れず,犯罪の証明がないことに帰着すると主張して争った。

【判旨】

 本件では,被告人が任意同行後,緊急逮捕されるまでの約13時間,取調中はもとより,昼食時や移動時も常時警察官が同行しており,いわばその監視下におかれていたもので,客観的に退去が容易な状況とは認められず,また,捜査官においても別件ないし本件に必要な捜査が終了するまで,容易に被告人の退去を許す気持ちがなかったことは,いずれも上記認定のとおりである。このような状況で,なお被告人の留め置きが任意といえるためには,被告人の真摯な同意があることが必要不可欠であるところ,本件で,警察官らは,被告人が要請したEへの連絡をせず,B県H警察署に来署したEらが要請した面会等の希望を被告人に取り次いでおらず,被告人がこれらの事情を知りながら進んで取調べに応じていたとも認められない。そうすると,警察官らによる被告人の警察署等への留め置きは,午後1時15分ころ,DがEらの面会要求を断り,これを被告人に取り次がなかった時点において,任意捜査の限界を超え,実質的な逮捕である違法な身柄拘束であったというほかない。そして,一連の手続に引き続いて行われた採尿手続も,被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものである上,一連の手続によりもたらされた状態を直接利用したものであるから,違法性を帯びるというべきである。

 そこで,次に,この違法な身柄拘束を利用して収集された証拠を排除すべきか否かを検討するに,警察官らは罪証隠滅のおそれがあれば,これを防止するため,任意取調中の被疑者と外部との接触を絶つことが許されるとの認識のもと,被告人にポリグラフ検査実施予定の正確な時刻や,面会希望者の存在を告げないなど,自らの捜査目的が完遂されるまでは被告人の退去を認めない意向で本件の捜査にあたっており,その姿勢には疑問なしとしない。
 しかし,採尿令状執行後は同令状の効力として対象者の意思によらず採取場所への移動が許容されると解すべきところ,逮捕手続によることなく違法に身柄を拘束していた時間は,採尿令状執行まで7時間足らず,同令状発付までであれば4時間余りと,相当時間短縮される。また,被告人の身柄拘束が長時間に及んだのは,警察官らにおいて,ポリグラフ検査実施機関から同検査の実施可能時刻が夕方からと回答されたためであり,採尿令状発付後,その執行が遅れたのは,交通渋滞による同令状到着の遅滞や被告人に任意での尿提出の説得を続けたためで,いずれも偶発的な色彩が濃く,警察官らが当初から令状主義を僭脱する違法な留め置きをする意図を有していたとは認められない。加えて,被告人の身柄拘束に殴打等の強い有形力の行使が用いられているわけではないこと,採尿自体は令状執行下に行われていること,本件及び別件の性質,嫌疑の程度,従前の経緯等に照らし,警察官らにおいて,本件当日中にポリグラフ検査や尿を採取する必要性は高いと考えたこともそれなりに理解できること,被告人は退去の意思を積極的かつ継続的に警察官らに示していたとは認められないことなどの事情も認められる。なお,弁護人は,別件発覚に至る経緯に照らし,別件には捜索や任意同行の必要性がなかった旨の主張もするが,ペンシル銃等の存在はうかがわれるもののその所在が不明であるという当時の捜査機関において,これら捜査の必要性がなかったということはできない。
 これらの事情を総合的に考慮すると,本件一連の手続の違法の程度が重大で,そこで収集された証拠を被告人の罪証に供することが違法捜査抑制の見地から相当でないとはなお認められない。

 

京都地裁判決平成19年11月07日

【事案】

 株式会社ユニホーは,別紙物件目録記載2の各土地(以下「本件敷地」という)上に別紙物件目録記載1。の建物(以下「本件建築物」という。)を建築することを計画(以下「本件建築計画」という。)し,平成17年7月29日,京都市長より開発行為非該当確認(以下「本件開発行為非該当確認」という。)を受け,京都市建築主事より建築確認(以下,「本件建築確認」という。)を受けた。
 本件は,本件敷地の周辺の不動産を所有し,あるいは周辺に居住する原告らが,本件建築計画は開発行為を伴うので,本件開発行為非該当確認は違法な処分であり,これを前提として,都市計画法29条1項に基づく開発行為の許可を経ずになされた本件建築確認は違法であるとして,本件開発行為非該当確認及び本件建築確認の取消しを求めると共に,本件開発行為非該当確認につき原告らを含む申立人らの申立てを却下した京都市開発審査会の裁決(以下「本件開発審査会裁決」という)及び。本件建築確認につき原告らを含む申立人らの申立てを却下した京都市建築審査会の裁決(以下,「本件建築審査会裁決」といい,本件開発審査会裁決と併せて「本件各裁決」という。)が違法であるとしてその取消しを求める(以下,併せて,「本件各取消請求」という)事案である。
 平成18年9月25日,本件建築物につき建築基準法7条5項の規定による検査済み証が交付された。これを受けて,原告らは,平成18年12月19日,第5回口頭弁論期日において,訴えの追加的変更を行った。原告らが追加した訴えは,同法9条1項に基づき,本件建築物の所有者である株式会社ジョイント・コーポレーションに対して,本件建築物の一部を除却せよとの命令(以下「本件除却命令」という。)を京都市長がすることを求め,同法9条1項あるいは都市計画法81条1項に基づき,前記株式会社ユニホー,本件建築物を建設した株式会社麦島建設及び前記株式会社ジョイント・コーポレーションに対して,都市計画法33条1項7号の要件を満たす擁壁並びに同法33条1項3号及び7号の各要件を充足する排水施設を設置せよとの命令(以下,それぞれ,「本件擁壁設置命令」,「本件排水施設設置命令」という。)を京都市長がすることを求めるもの(以下,併せて「本件各義務付け請求」という。)である。

【判旨】

 建築確認は,それを受けなければ当該工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから,当該工事が完了した場合においては,建築確認及びこれについての裁決につき,その取消しを求める訴えの利益が消滅したといわざるを得ない(最高裁昭和58年(行ツ)第35号同59年10月26日第2小法廷判決・民集38巻10号201169頁,最高裁平成3年(行ツ)第46号同5年9月10日第2小法廷判決・民集47巻7号4955頁参照)。
 前記基礎となる事実によると,本件建築物について,工事が完了し,平成18年9月25日に建築基準法7条5項の規定による検査済証が交付されたというのであるから,本件建築確認及びそれについての裁決の取消しを求める訴えについては,訴えの利益を欠く。
 また,本件においては,本件建築計画が開発行為に該当しないことを前提として本件建築確認がなされ,それに基づく本件建築物の工事が完了して,前示のとおり検査済証が交付されたというのであるから,本件開発行為非該当確認及びそれについての裁決の取消しを求める訴えについても,その行政処分性について判断するまでもなく,同様に訴えの利益を欠くというべきである。
 そうすると,その余について判断するまでもなく,本件各取消請求に係る訴えはいずれも不適法であり,却下を免れない。

 本件各義務付け請求は,行政事件訴訟法3条6項1号の規定による,いわゆる「非申請型義務付け訴訟」であると解され,一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り(同法37条の2第1項),かつ,行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り(同条の2第3項),提起することができる。

 建築基準法9条は,同法又は同法に基づく命令等を実効あらしめるため,特定行政庁に警察行政上の措置として違反建築物について措置命令等を発する権限を認めたものである。そうすると,上記是正命令等を発する権限を行使すべきか否かの判断において考慮の対象となる損害とは,是正命令権限の行使によって保護されることが法律上予定されている利益,すなわち建築基準法が定める各種の規制によって法律上保護されていると解される利益に係る損害に限られるものと解すべきである。
 そして,同法は,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする(1条)ものであるところ,建築基準関係規定等においても,景観利益を住民個々人の個別的な利益として保護していると解することは困難である。
 そうすると,原告らが景観利益を有するか否かはさておき,景観利益の侵害が本件除却命令がなされないことにより生ずる重大な損害であるとは認めがたく,また,原告らが本件除却命令を求めるにつき法律上の利益を有するとも認めがたい。

 

神戸地裁判決平成19年11月13日

【事案】

 控訴人は,貸金業者である被控訴人に対し,利息制限法所定の上限の利率(以下「上限利率」という。)を超過して支払った利息(以下「超過利息」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,主位的に,不当利得の返還として,93万7440円及びうち79万4973円に対する平成2年9月6日から完済まで年6分の割合による金員の支払を,予備的に,不法行為による損害の賠償として,93万7440円及びうち79万4973円に対する平成2年9月6日から完済まで年5分の割合による金員の支払を求める訴えを提起した。
 原審は,平成19年3月16日,控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決をしたため,控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。

【判旨】

 利息制限法の各規定が強行規定であることは,その体裁上明らかであり,貸金業者である被控訴人は,当然そのことを認識していたと認められる。また,利息制限法1条2項及び4条2項に関し,判例(最判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁及び最判昭和43年11月13日民集22巻12号2526頁)が,同法所定の上限利率を超える利息及び損害金が支払われた場合に,その超過利息等は元本に充当され,元本が完済された後に支払われた弁済金については,不当利得として返還を求めることができるとの規範を採用し,それが法規範として通用していることも貸金業者にとっては公知の事実であると認められる。
 そして,本件取引には貸金業法が適用されないこと(これも,被控訴人は当然に認識していたというべきである。)に照らせば,被控訴人が,本件取引において,支払われた超過利息を利息ないし損害金として適法に保持する余地はなく,適法な営業を前提とする限り,残元本があれば超過利息は元本に充当し,元本完済後の弁済金は不当利得とする以外の計算を行うことは,およそ観念できなかったのである。
 したがって,被控訴人は,本件取引にあっては,超過利息が支払われても,それを利息制限法所定の利率に引き直して債権管理を行うべきであったといわざるをえない。そうすると,被控訴人は,法人としては,元本完済後の弁済金(本件取引にあっては昭和60年6月26日以降の弁済)についても,不当利得として返還せざるを得ないものであることも認識し,あるいは当然に認識すべきであったといえる。
 しかるに,被控訴人は,原判決別紙取引履歴一覧表記載のとおり,元本完済後も約定利率に従った利息の支払を求め,超過利息を受領し続けていた。債務者が,元本が完済されているのに,なお弁済として金員を支払おうとする場合は,元本の完済を認識していないと考えるのが通常であるし,それが利息制限法等の法令に通暁していないことに起因することもまた明らかである。
 以上によれば,被控訴人がした過払金となる弁済金の受領行為は,債務者である控訴人の無知に乗じ,適法に保持し得ない金員を収受するものというべきであるから,社会的相当性を欠く違法な行為といわざるを得ず,民法709条所定の不法行為を構成する。

 

名古屋高裁判決平成19年11月15日

【事案】

 被控訴人が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」又は「法」という。)3条に基づき,中部経済産業局長(以下「処分庁」という。)に対し,エネルギーの使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以下「省エネ法」という。)11条に基づいて各事業者が提出した平成15年度の定期報告書の開示を請求したところ,処分庁からその一部分を不開示とする決定を受けたため,同決定の取消しを求めるとともに,不開示部分の開示決定の義務付けを求める抗告訴訟である。なお,処分庁は,上記決定後に,その一部を変更して,原判決別紙2記載の各行政文書の不開示部分を開示するとの決定をした。
 原審は,原判決別紙1記載の各行政文書の不開示部分が法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとは認められないとして,上記不開示部分に係る被控訴人の請求をいずれも認容し,原判決別紙2記載の各行政文書の不開示部分に係る被控訴人の訴えについては,これを却下した。そこで,控訴人がその敗訴部分につき控訴をした。

【判旨】

 法5条2号イにいう「おそれ」があるとするためには,法が国民主権の理念から行政文書について公開を原則としている(1条,5条柱書き)ことからすれば,当該法人や処分庁の主観的な危惧感だけでは足りず,競争上の地位その他の正当な利益が害される蓋然性があると客観的に認められることを要するというべきである。

 本件数値情報が公表されても,これにより,本件の各事業者に不利益が生ずる可能性は,一般的に見ても,また,本件の各事業者の個別事情を踏まえて検討しても,さほど大きいものではなく,未だ,抽象的な危惧感の域を出るものではないと評価すべきである。したがって,本件数値情報が製造原価等を推計する手がかりとなり,また,一般に,本件数値情報が開示されることにより,上記推計の精度が,その開示がなかったときと比べて,その程度はともかく,相対的には高まる場合が多いと考えられるからといって,直ちに法5条2号イにいう正当な利益が害される蓋然性があると客観的に認めることはできない。

 また,・・・国内外(特に,国外)の競業他社との競争や価格交渉その他の点において,本件数値情報が公表されることによって本件の各事業者が不利益を被るおそれが他と比べて格別に高いとまで評価することはできない。

 控訴人は,不開示とされた情報に基づく推計の精度や,それによる不利益がどの程度の確率をもって生ずるかというような具体的,数量的な主張,立証を要求することは,結局,当該情報を開示するのと同様の結果となり,情報公開訴訟の特質上,不可能を強いることになり,相当でないと主張する。そこで,検討するに,前述のとおり,法5条2号イにいう「おそれ」があるとするためには,当該法人や処分庁の主観的な危惧感だけでは足りず,競争上の地位その他の正当な利益が害される蓋然性があると客観的に認められることが必要である。このように解さなければ,客観的な裏付けを伴わない当該法人や処分庁の主観的な危惧感に基づいて上記「おそれ」の存在が肯定され,ひいては,開示の可否が専ら当該法人の意向によって決せられることになりかねず,行政文書について原則的な開示を義務付け,不開示情報を例外的なものとして位置付けた法の趣旨が没却されることになるからである。
 そして,本件における不開示理由として,本件数値情報が公表されると,製品当たりの製造コストの推計が可能になることが挙げられているが(甲1),これが単なる主観的な危惧感にすぎないのか,それとも,正当な利益が害される蓋然性があることが客観的に裏付けられているのかを峻別する必要があり,その際の考慮要素の一つとして,推計の精度の程度を検討することには,前示(原判決書26頁5行目から同頁9行目まで)の情報公開訴訟の特質を考慮してもなお,十分な合理性があるといえる。したがって,情報公開訴訟の審理において,推計の精度を考慮することが許されないとすることはできない。

 

さいたま地裁判決平成19年11月16日

【事案】

 英語学習塾を経営する被告に外国人正社員英語講師として雇用されていたものの被告から解雇された原告が,被告に対し,解雇が無効であるとして,引き続き雇用関係が存在することの確認を求めるとともに,原告・被告間の雇用契約に基づき,解雇が行われた日以降月額25万円の賃金及び半年ごとに15万円の賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から年6分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案。

【判旨】

 本件は,普通解雇の有効性を争う事案であるから,客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められなければ,解雇は無効となる。そして,被告は,その合理的理由としては,(ア)適格性欠如,(イ)整理解雇,(ウ)適格性欠如と整理解雇の両方という主張をしている。ここで,整理解雇については,人員整理の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続的適正という4つの要件を備えなければならないという見解もあるが,あくまでも整理解雇は普通解雇の一類型なのであって,客観的に合理的理由を欠かず,社会通念上相当であれば解雇は有効というべきであるのであるから,上記4つの事情等を総合考慮することにより,その有効性を判断すべきと解する。

・適格性欠如による解雇の有効性
 原告については,日本人講師との協調性を欠いていて,それ故に授業中にもペアが良好な関係で授業を行わないなどの影響が生じることがあったということはできるが,授業そのものは外国人講師として提供すべき水準を満たしていないとは認められないから,原告が正社員外国人講師としての適格性を欠いているとまではいうことができないといわなければならない。

・整理解雇による解雇の有効性
 解雇回避努力は不十分な点がなくはないものの,人員整理の必要性及び人選の合理性が強く,手続的適正もあるから,本件解雇は整理解雇として有効である。

 

さいたま地裁判決平成19年11月16日

【事案】

 原告が,被告らとの間で預貯金契約や信託契約(以下「本件預金契約等」という。)を締結したが,被告らが預貯金や信託金の支払に応じないとして,被告らに対し,本件預金契約等に基づき,預貯金や信託金の支払を求めた事案である。

 被告ら補助参加人(B寺。以下「参加人寺」という。)は,さいたま市a区b町c丁目d番地に主たる事務所を置き,包括宗教団体を宗教法人天台宗とする宗教法人である。

 原告は,参加人寺の管理保全を目的とし,参加人寺の檀信徒を会員とする,参加人寺住所地であるさいたま市a区b町c丁目d番地に事務所を置く社団である。Aは,参加人寺の檀徒である。

 被告さいたま農業協同組合(旧名称大宮市農業協同組合。以下「被告農協」という。)は貯金業務等を業とする組合,被告株式会社東日本銀行(以下「被告東日本銀行」という。)は預金業務等を業とする法人,被告中央三井信託銀行株式会社(合併前の商号は三井信託銀行株式会社。以下「被告中央三井信託」という。)は信託業務等を業とする法人である。

【判旨】

 原告は,団体としての組織を備えており,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているのであるから,原告は,いわゆる権利能力なき社団に当たるということができる。そして,Aは,通常総会において原告の代表世話人に選出されており,本件訴訟の提起及び追行について,原告の総会において決議され,書面による総会議案意思表明により承認されているのであるから,Aが原告の代表者として本件訴訟を追行する権限を有することは明らかである。

 被告中央三井信託は,原告の規約には総会の決議によって訴訟追行権限を授権できる旨の定めがなく,最判平成6年5月31日・民集48巻4号1065頁が判示した授権手続を経ていないから,Aは原告の代表者として本件訴訟を追行する権限を有しないと主張する。そこで検討するに,最判平成6年5月31日は,権利能力のない社団である入会団体が当該団体の構成員の総有に属する不動産についての総有権確認請求訴訟に敗訴した場合,その判決の効力は構成員全員に及ぶから構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすこと,入会団体の代表者の有する代表権の範囲は団体ごとに異なり,当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられないことから,当該団体の代表者が上記訴訟を当該団体の代表者として追行するには,当該団体の規約等において,上記不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要する旨判示したものである。しかるところ,同判決は,団体個別の事情にかんがみ,判決の効力を受ける構成員全員の権利保障のために必要十分な授権手続を要するとの見地から,授権の根拠が規約等の明確な形式で示されることを要するとするものであって,必ずしも,総会の決議によって訴訟追行権限を授権できる旨の規約がなければ授権できないとしたものではないと解される。これを本件についてみると,上記のとおり,原告の通常総会において,Aに対し,本件訴訟の追行につき賛成多数で授権する旨の議決がなされてその旨の議事録が作成されており,しかも,上記通常総会に参加していない原告の構成員も大多数が総会議案に対する意思表明という形で書面で同様に賛成しているのである。そうすると,Aに対する原告の代表者として本訴の提起及び追行権限の授権手続はこれらをもって足りるというべきである。したがって,被告中央三井信託の上記主張は採用できない。

 本件預金契約等にかかる預貯金債権及び信託債権の債権者は,当該契約の契約当事者は誰かという観点から決せられるべきものであり,契約当事者の事実認定に当たっては,定期預貯金契約・普通預貯金契約・信託契約の別は問わず,契約行為者(口座開設者),契約行為者の法的地位(預貯金・信託金の出捐者と契約行為者との関係),契約の相手方である金融機関に表示された名義及び名義人に関する情報,通帳や届出印の保管状況,入金及び払戻しを行った者等を総合的に考慮することが相当である(最判平成15年2月21日・民集57巻2号95頁,同平成15年6月12日・民集57巻6号563頁参照)。

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