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最高裁判所第二小法廷判決平成20年01月18日

【事案】

 本件は,上告人を貸主,被上告人を借主としていわゆるリボルビング方式の金銭消費貸借に係る二つの基本契約が締結され,各基本契約に基づいて取引が行われたところ,被上告人が,上記取引を一連のものとみて,これに係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金(不当利得)が生じていると主張して,上告人に対し過払金の返還を請求する事案である。最初に締結された基本契約に基づく取引について生じた過払金をその後に締結された基本契約に基づく取引に係る債務に充当することができるかどうかが争われている。

【判旨】

 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年01月18日

【事案】

 宮津市(以下「市」という。)が,丹後地区土地開発公社(以下「本件公社」という。)との間で,土地の先行取得の委託契約を締結し,これに基づいて本件公社が取得した同土地の買取りのための売買契約を締結したところ,市の住民である上告人が,同土地は取得する必要のない土地であり,その取得価格も著しく高額であるから,上記委託契約は地方財政法等に違反して締結されたものであって,これに基づいてされた上記売買契約の締結も違法であると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,上記売買契約の締結時に市長の職にあった被上告人に対し,上記売買契約の代金に相当する額の損害賠償を求めた事案。

【判旨】

 地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は,財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものであるから,当該職員の財務会計上の行為がこれに先行する原因行為を前提として行われた場合であっても,当該職員の行為が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときは,上記の規定に基づく損害賠償責任を当該職員に問うことができると解するのが相当である(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。

 土地開発公社が普通地方公共団体との間の委託契約に基づいて先行取得を行った土地について,当該普通地方公共団体が当該土地開発公社とその買取りのための売買契約を締結する場合において,当該委託契約が私法上無効であるときには,当該普通地方公共団体の契約締結権者は,無効な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである。

 また,先行取得の委託契約が私法上無効ではないものの,これが違法に締結されたものであって,当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有しているときや,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときにも,当該普通地方公共団体の契約締結権者は,これらの事情を考慮することなく,漫然と違法な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成20年01月22日

【事案】

 被告人は,深夜,被害者宅に侵入し,就寝中の被害者が熟睡のため心神喪失状態であることに乗じ,その下着の上から陰部を手指でもてあそび,もって,人の心神喪失に乗じてわいせつな行為をしたが,これに気付いて覚せいした被害者が,被告人に対し,「お前,だれやねん。」などと強い口調で問いただすとともに,被告人着用のTシャツ背部を両手でつかんだところ,被告人は,その場から逃走するため,被害者を引きずったり,自己の上半身を左右に激しくひねるなどし,その結果,被害者に対し,右中指挫創,右足第1趾挫創の傷害を負わせたという事案。

【判旨】

 被告人は,被害者が覚せいし,被告人のTシャツをつかむなどしたことによって,わいせつな行為を行う意思を喪失した後に,その場から逃走するため,被害者に対して暴行を加えたものであるが,被告人のこのような暴行は,上記準強制わいせつ行為に随伴するものといえるから,これによって生じた上記被害者の傷害について強制わいせつ致傷罪が成立する。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成20年01月24日

【事案】

 本件は,Aの相続について,遺留分権利者である上告人らが,Aからその遺産を遺贈された被上告人らに対し,民法1041条1項に基づく価額弁償として,弁償金及びこれに対する相続開始の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案であり,その遅延損害金の起算日はいつであるのかが争われている。

【判旨】

 受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け,遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には,当該受遺者は目的物の返還義務を免れ,他方,当該遺留分権利者は,受遺者に対し,弁償すべき価額に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される(前掲最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決,前掲最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決参照)。また,上記受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解される(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁,前掲最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決参照)。そして,上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である。したがって,受遺者は,遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で,遺留分権利者に対し,適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり,同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決参照),同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。そうすると,民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年01月28日(旧拓銀経営責任追及訴訟ミヤシタルート)

【事案】

 本件は,預金保険法附則7条1項所定の整理回収業務を行う被上告人が,銀行の取締役であった上告人に対し,融資の際に上告人に忠実義務,善管注意義務違反があったと主張して,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)266条1項5号に基づく損害賠償請求をする事案であり,同損害賠償請求権の消滅時効期間が争点である。

【判旨】

 株式会社の取締役は,受任者としての義務を一般的に定める商法254条3項(民法644条),商法254条ノ3の規定に違反して会社に損害を与えた場合に債務不履行責任を負うことは当然であるが(民法415条),例えば,違法配当や違法な利益供与等が会社ないし株主の同意の有無にかかわらず取締役としての職務違反行為となること(商法266条1項1号,2号)からも明らかなように,会社の業務執行を決定し,その執行に当たる立場にある取締役の会社に対する職務上の義務は,契約当事者の合意の内容のみによって定められるものではなく,契約当事者の意思にかかわらず,法令によってその内容が規定されるという側面を有するものというべきである。商法266条は,このような観点から,取締役が会社に対して負うべき責任の明確化と厳格化を図る趣旨の規定であり(最高裁平成8年(オ)第270号同12年7月7日第二小法廷判決・民集54巻6号1767頁参照),このことは,同条1項5号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任が,民法415条に基づく債務不履行責任と異なり連帯責任とされているところにも現れているものと解される。
 これらのことからすれば,商法266条1項5号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任は,取締役がその任務を懈怠して会社に損害を被らせることによって生ずる債務不履行責任であるが,法によってその内容が加重された特殊な責任であって,商行為たる委任契約上の債務が単にその態様を変じたにすぎないものということはできない。また,取締役の会社に対する任務懈怠行為は外部から容易に判明し難い場合が少なくないことをも考慮すると,同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任については商事取引における迅速決済の要請は妥当しないというべきである。したがって,同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償債務については,商法522条を適用ないし類推適用すべき根拠がないといわなければならない。
 以上によれば,商法266条1項5号に基づく会社の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は,商法522条所定の5年ではなく,民法167条1項により10年と解するのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年01月28日(旧拓銀経営責任追及訴訟栄木不動産ルート)

【事案】

 預金保険法附則7条1項所定の整理回収業務を行う上告人が,経営破たんしたA銀行(以下「A銀行」という。)の取締役であった被上告人らに対し,A銀行の株式会社B不動産(以下「B不動産」という。)に対する融資の際に被上告人らに忠実義務,善管注意義務違反があったと主張して,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)266条1項5号に基づく損害賠償の一部請求として10億円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案。

【判旨】

 A銀行は,・・・担保を提供する条件としてB不動産に対する総額20億円の本件追加融資を求められたものであるが,B不動産は,・・・48億4000万円を株の仕手戦等に費消していて,・・・これを返済する見通しがなかった上,資金繰りが悪化して近日中に不渡りを出すことが危ぶまれる状況にあったというのである。本件追加融資は,このように健全な貸付先とは到底認められない債務者に対する融資として新たな貸出リスクを生じさせるものであるから,・・・債権の回収及び保全を第一義に考えるべき被上告人らにとって,原則として受け容れてはならない提案であったというべきである。それにもかかわらず,本件追加融資に応じるとの判断に合理性があるとすれば,それは,本件追加融資の担保として提供される本件不動産について,仮に本件追加融資後にその価格が下落したとしても,その下落が通常予測できないようなものでない限り,本件不動産を換価すればいつでも本件追加融資を確実に回収できるような担保余力(以下,このような担保余力を「確実な担保余力」という。)が見込まれる場合に限られるというべきである。したがって,A銀行の取締役であった被上告人らとしては,本件不動産について,総額20億円の本件追加融資の担保として確実な担保余力が見込まれるか否かを,客観的な判断資料に基づき慎重に検討する必要があったというべきである。
 ところが,・・・,被上告人らは,・・・,安易に本件不動産が本件追加融資の担保として確実な担保余力を有すると判断したものである。そして,・・・,本件追加融資決定時において,本件不動産は,本件追加融資の担保として確実な担保余力を有することが見込まれる状態にはなかったというべきである。

 そうすると,B不動産に対し本件不動産を担保とすることを条件に本件追加融資を行うことを決定した被上告人らの判断は,・・・短期間のうちにその対処方針及び本件追加融資に応じるか否かを決定しなければならないという時間的制約があったことを考慮しても,著しく不合理なものといわざるを得ず,被上告人らには取締役としての忠実義務,善管注意義務違反があったというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年01月28日(旧拓銀経営責任追及訴訟カブトデコムルート)

【事案】

 預金保険法附則7条1項所定の整理回収業務を行う上告人が,経営破たんしたA銀行(以下「A銀行」という。)の取締役であった被上告人らに対し,A銀行のB社に対する融資の際に被上告人らに忠実義務,善管注意義務違反があったと主張して,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)266条1項5号に基づく損害賠償の一部請求をする事案。

【判旨】

 第1融資は,B社の発行する新株を引き受ける予定の関連企業に対し,引受予定の新株を担保としてその引受代金を融資し,弁済期に当該株式を売却した代金で融資金の弁済を受けることを予定したもので,保証人となるDの資産も大部分はB社の株式であったから,第1融資に係る債権の回収は専らB社の業績及び株価に依存するものであったということができる。・・・,銀行が融資先の関連企業の業績及び株価のみに依存する形で195億7000万円もの巨額の融資を行うことは,そのリスクの高さにかんがみ,特に慎重な検討を要するものというべきである。しかも,・・・新株発行後のB社の発行済株式総数に占める担保株式の割合等に照らし,融資先が弁済期に担保株式を一斉に売却すれば,それによって株価が暴落するおそれがあることは容易に推測できたはずであるが,その危険性及びそれを回避する方策等について検討された形跡はない。一般に,銀行が,・・・情報を十分把握した上で,成長の可能性があると合理的に判断される企業に対し,不動産等の確実な物的担保がなくとも積極的に融資を行ってその経営を金融面から支援することは,必ずしも一律に不合理な判断として否定されるべきものではないが,B社については,第1融資を決定する以前の昭和60年調査及び昭和63年調査において,その財務内容が極めて不透明であるとか,借入金が過大で財務内容は良好とはいえないなどの報告がされていたもので,このような調査結果に照らせば,・・・,あえて第1融資のようなリスクの高い融資を行ってB社を支援するとの判断に合理性があったとはいい難い。
 そうすると,第1融資を行うことを決定した被上告人らの判断は,・・・,当時の状況下において,銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし,著しく不合理なものといわざるを得ず,被上告人らには銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務違反があったというべきである。

 第3融資は,大幅な債務超過となって破たんに瀕したB社に対し,もはや同社の存続は不可能であるとの認識を前提に,G事業が完成する予定の平成5年6月まで同社を延命させることを目的として行われたものである。
 ・・・第3融資はその大部分につき当初から回収の見込みがなかったことは明らかである。もっとも,A銀行は,既にG事業のために多額の資金を融資し,その大部分が未回収となっていたから,G事業が完成した後に独立して採算を得られる見込みが十分にあったとすれば,第3融資を実行してでもG事業を完成させ,そこから債権を回収することによって,短期的には損失を計上しても中長期的にはA銀行にとって利益になるとの判断もあながち不合理なものとはいえない。しかし,・・・,G事業自体の採算性について大きな疑問があり,中長期的にも,G事業を独立して継続させることにより第3融資に見合う額の債権の回収が期待できたということはできない。

 また,・・・,被上告人Y1及び同Y3は,関連企業の連鎖倒産を避ける必要があること,Bグループに巨額の資金を貸し付けているI 組合が破たんするおそれがあることなどを考慮して,B社の延命のために追加融資を行うとの方針を決めたというのである。しかし,第3融資は,B社を再建,存続させるためのものではなく,もはや同社は存続不可能との前提でその破たんの時期を数か月遅ら
せるためのものにすぎなかったというのであるから,・・・関連企業の連鎖倒産を回避できたとも,I 組合の破たん及びA銀行に対するその支援要請を回避することができたとも考え難い。したがって,関連企業の連鎖倒産のおそれやI 組合の破たんによりA銀行にその支援要請が来るおそれがあったことをもって,第3融資を行うとの判断に合理性があるということはできない。
 そうすると,第3融資を行うことを決定した被上告人Y1及び同Y3の判断は,当時の状況下において,銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし,著しく不合理なものといわざるを得ず,被上告人Y1及び同Y3には銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務違反があったというべきである。

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