最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷判決平成20年02月15日

【事案】

 上告人が,被上告人Y2に対しては,重要な事項について虚偽の表示があり又は重要な事実の表示が欠けている目論見書その他の表示(以下「虚偽記載のある目論見書等」という。)を使用して有価証券を取得させた者の損害賠償責任を定めた証券取引法(平成16年法律第97号による改正前のもの。平成18年法律第65号により法律の題名が「金融商品取引法」と改められた。以下「法」という。)17条に基づき,被上告会社に対しては,その代表者であるBが法17条の責任を負うとして,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,本件証券の取得代金相当額30億円のうち1億円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

 法は,何人も有価証券の募集又は売出しのために法定の記載内容と異なる内容を記載した目論見書を使用し,又は法定の記載内容と異なる内容の表示をしてはならないと定めていること(13条5項),重要な事項について虚偽の記載があり又は重要な事実の記載が欠けている目論見書を作成した発行者の損害賠償責任については,法17条とは別に法18条2項に規定されていることなどに照らすと,法17条に定める損害賠償責任の責任主体は,虚偽記載のある目論見書等を使用して有価証券を取得させたといえる者であれば足り,発行者等に限るとすることはできない。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成20年02月18日

【事案】

 家庭裁判所から選任された未成年後見人である被告人が,共犯者2名と共謀の上,後見の事務として業務上預かり保管中の未成年被後見人の貯金を引き出して横領したという業務上横領の事案。

【判旨】

 刑法255条が準用する同法244条1項は,親族間の一定の財産犯罪については,国家が刑罰権の行使を差し控え,親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき,その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず,その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年(れ)第1284号同年12月12日第三小法廷判決・刑集4巻12号2543頁参照)。
 一方,家庭裁判所から選任された未成年後見人は,未成年被後見人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項),その権限の行使に当たっては,未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず,善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条,644条),家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また,家庭裁判所は,未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは,職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように,民法上,未成年後見人は,未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく,等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
 そうすると,未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,家庭裁判所から選任された未成年後見人が,業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に,上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成20年02月19日(メイプルソープ写真集訴訟)

【事案】

 上告人が渡航先からの帰国の際に携行していた写真集について,被上告人東京税関成田税関支署長(以下「被上告人税関支署長」という。)から関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの。以下,特に断らない限り同じ。)21条1項4号所定の輸入禁制品に該当する旨の通知(以下「本件通知処分」という。)を受けたのに対し,同号の規定は憲法21条等に違反して無効であること,上記写真集は風俗を害すべき物品に当たらないこと等から,本件通知処分は違法であるとして,被上告人税関支署長に対しその取消しを求めるとともに,被上告人国に対し国家賠償法1条1項に基づき慰謝料等の支払を求めている事案。

【判旨】

 関税定率法21条1項4号に掲げる貨物に関する税関検査が憲法21条2項前段にいう「検閲」に当たらないこと,税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制が同条1項の規定に違反しないこと,関税定率法21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等とは,わいせつな書籍,図画等を指すものと解すべきであり,上記規定が広はん又は不明確のゆえに違憲無効といえないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁)とするところであり,我が国において既に頒布され,販売されているわいせつ表現物を税関検査による輸入規制の対象とすることが憲法21条1項の規定に違反するものではないことも,上記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

 本件各写真は,いずれも男性性器を直接的,具体的に写し,これを画面の中央に目立つように配置したものであるというのであり,当該描写の手法,当該描写が画面全体に占める比重,画面の構成などからして,いずれも性器そのものを強調し,その描写に重きを置くものとみざるを得ないというべきである。しかしながら,メイプルソープは,肉体,性,裸体という人間の存在の根元にかかわる事象をテーマとする作品を発表し,写真による現代美術の第一人者として美術評論家から高い評価を得ていたというのであり,本件写真集は,写真芸術ないし現代美術に高い関心を有する者による購読,鑑賞を想定して,上記のような写真芸術家の主要な作品を1冊の本に収録し,その写真芸術の全体像を概観するという芸術的観点から編集し,構成したものである点に意義を有するものと認められ,本件各写真もそのような観点からその主要な作品と位置付けられた上でこれに収録されたものとみることができる。また,本件写真集は,ポートレイト,花,静物,男性及び女性のヌード等の写真を幅広く収録するものであり,全体で384頁に及ぶ本件写真集のうち本件各写真(そのうち2点は他の写真の縮小版である。)が掲載されているのは19頁にすぎないというのであるから,本件写真集全体に対して本件各写真の占める比重は相当に低いものというべきであり,しかも,本件各写真は,白黒(モノクローム)の写真であり,性交等の状況を直接的に表現したものでもない。以上のような本件写真集における芸術性など性的刺激を緩和させる要素の存在,本件各写真の本件写真集全体に占める比重,その表現手法等の観点から写真集を全体としてみたときには,本件写真集が主として見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難といわざるを得ない。
 これらの諸点を総合すれば,本件写真集は,本件通知処分当時における一般社会の健全な社会通念に照らして,関税定率法21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等に該当するものとは認められないというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年02月22日

【事案】

(1) 被上告人は,砂の採取及び販売等を目的とする有限会社法の規定による有限会社であったが,現在,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条1項に基づき,会社法の規定による株式会社として存続している。Aは,被上告人の代表取締役である。

(2) 上告人は,平成6年7月26日当時第1審判決別紙1物件目録記載1及び2の不動産(以下「本件不動産」という。)を所有していた。

(3) 本件不動産には,佐賀地方法務局唐津支局平成6年7月26日受付第8690号をもって,原因を平成3年5月7日金銭消費貸借平成6年7月26日設定,債権額を5000万円,債務者を上告人,抵当権者を被上告人とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)の設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)がされている。

(4) 本件本訴は,上告人が被上告人に対し,本件不動産の所有権に基づき,本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるものである。本件反訴は,被上告人が上告人に対し,主位的請求として,被上告人は平成3年5月7日上告人に1億円を貸し付けたと主張して,残元本9498万4440円及び遅延損害金の支払を求め,予備的請求として,被上告人は前同日Bに1億円を貸し付け,上告人がBの債務を連帯保証したと主張して,主位的請求と同額の金員の支払を求めるものである。被上告人は,本件抵当権の被担保債権は反訴請求に係る債権であると主張している。

(5) 上告人は,平成17年11月1日の原審第1回口頭弁論期日において,反訴請求に係る債権につき商法522条所定の5年の消滅時効が完成しているとして,これを援用した。

【判旨】

 会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条),会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。
 本件貸付けは会社である被上告人がしたものであるから,本件貸付けは被上告人の商行為と推定されるところ,本件貸付けがAの上告人に対する情宜に基づいてされたものとみる余地があるとしても,それだけでは,1億円の本件貸付けが被上告人の事業と無関係であることの立証がされたということはできず,他にこれをうかがわせるような事情が存しないことは明らかである。
 そうすると,本件貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権に当たり,同債権には商法522条の適用があるというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成20年02月26日

【判旨】

 会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者(以下「役員権利義務者」という。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実(以下「不正行為等」という。)があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。
 同条は,解任請求の対象につき,単に役員と規定しており,役員権利義務者を含む旨を規定していない。
 同法346条2項は,裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者(以下「仮役員」という。)を選任することができると定めているところ,役員権利義務者に不正行為等があり,役員を新たに選任することができない場合には,株主は,必要があると認めるときに該当するものとして,仮役員の選任を申し立てることができると解される。そして,同条1項は,役員権利義務者は新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有すると定めているところ,新たに選任された役員には仮役員を含むものとしているから,役員権利義務者について解任請求の制度が設けられていなくても,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる。
 以上によれば,株主が訴えをもって役員権利義務者の解任請求をすることは,法の予定しないところというべきである。

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