最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成19年12月26日

【事案】

 川口市長が,参加人からの申請に基づき,参加人に対し,参加人建築予定の分譲マンションにつき,建築基準法59条の2に基づく総合設計許可(本件処分)を行ったところ,同マンション建築予定地の近隣に居住する原告らが,本件処分は違法であるとして,その取消を求めた事案。

【判旨】

 建築基準法59条の2が容積率の制限をこえる建築物の建築につき,一定規模以上の広さの敷地を有し,かつ敷地内に一定規模以上の空地を有すること等の要件を満たす場合に容積率の制限を緩和するとしているのは,当該建築物及びその周辺の建築物における日照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするとともに,地震,火災等により当該建築物が倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた場合,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにするためである。したがって,同法は,建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全など及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきであり,総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者は,総合設計許可の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者として,取消訴訟における原告適格を有するというべきである。

 本件処分は,建築基準法59条の2に基づくものであるが,同条は,特定行政庁が計画建設物に対する容積率,斜線制限等を緩和するについて,@その敷地内に政令で定める空地を有し,かつ,その敷地面積が政令で定める規模以上の建築物であること,A交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がなく,かつ,その建築面積の敷地面積に対する割合,延面積に対する割合及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認められることという要件を課している。

 Aの要件は,「総合的な配慮」,「市街地の環境の整備改善に資する」という抽象的な文言を含むものであり,その有無の判断については,特定行政庁に比較的広範な裁量権が与えられていると解されるところ,川口市は総合設計許可準則に定める許可基準及び総合設計許可準則に関する技術基準に準拠して川口市総合設計許可基準を定めている。そうすると,川口市総合設計許可基準(以下、「許可基準」という。以後、許可基準という場合は、総合設計許可準則及び総合設計許可準則に関する技術基準も含むものとする。)が法59条の2の趣旨に照らして合理性を有するものであり,かつ,本件建築物が同許可基準の各規定に適合している場合には,特段の事情のない限り,特定行政庁である川口市長のした本件処分は,裁量権の範囲内にあるものとして適法というべきである。

 法59条の2のいわゆる総合設計許可制度は,土地の有効利用を図る一方,オープンスペースを確保することにより,都市環境の整備改善を図ろうとした制度と解されるところ,許可基準は,容積率制限緩和に関しては,敷地についての要件を加重したうえ,一般の用に供することのできる公開空地の提供を条件に,その空地の割合に応じて容積の割増を認めているものであって,その基準は,上記の趣旨に照らし,合理性を有するものということができる。
 この点,原告らは,上記許可基準は,接道に関し,その幅員を要求したのみで接道の長さにつき何ら規定しておらず,合理性がないと主張し,同許可基準には接道の長さの定めを置いていないことは原告らの主張のとおりであるが,同許可基準がこれについては規定を置いていないのは,特定行政庁の健全な裁量に委ねたものと解されるのであって,接道の長さを特定行政庁の裁量に委ねたことが直ちに同許可基準の合理性を失わせるものということはできない。

 許可基準によれば総合設計許可による容積率の緩和を受けるためには,その敷地が原則幅員6メートル以上の道路に接しているものであること,また,準工業地域である本件敷地については6メートル以上の道路に接していることが必要とされ,例外的に敷地周辺の道路の状況等を勘案し,交通上,安全上,防火上,及び衛生上支障がないと認められる場合はこの限りではないと規定されている。
 この点,許可基準には,道路,幅員についての定義が何らおかれていないが,総合設計許可制度が建築基準法に基づく制度であることからすれば,道路とは建築基準法上の道路を指していると解すべきである。
 そして,建築基準法42条1項の道路には,未だ道路としての供用が開始されていない計画道路も含まれることからすれば,接道すべき道路の現実の幅員が6メートル以上であることまで許可基準が要求しているとは認めがたい。また,許可基準が容積率の緩和にあたって接道要件を課したのは,幅員の小さい道路は,自然発生的な線形の悪いものが多く,将来とも現状のままで固定してしまうことが望ましくないこと,細街路まで高容積の建築物が立地すれば,道路交通等の面で環境悪化をもたらすおそれがあることによると解されるところ,道路法上の認定幅員が許可基準で要求する幅員(本件においては6メートル)を超えていれば,高容積の建築物の建設が許可されることにより,将来的にも幅員の小さい道路が現状で固定化してしまうおそれはない。そうであれば,許可基準は,敷地の接する道路の幅員の認定にあたって,道路法上の認定をもとに判断すれば足りるとし,それ以上の要件を課していないとみるべきである。

 許可基準によれば,許可申請にあたり,本件敷地の含まれる2号地区においては建築物の高さが45メートルを超える場合,風害による影響が実行可能な範囲内で回避され,又は低減されていることを明らかにすることが必要とされている。
 確かに,盛土をした後の地盤面を前提に「建築物が周囲の地面と接する位置」と認定できるとすると,建築主は,地盤の造成を行うことにより,「建築物が周囲の地面と接する位置」を自由に操作することができ,建築物の高さに基づく法の規制を容易に潜脱できることになる。そこで,このような脱法行為と認められる場合には,これを前提とした地盤面を「建築物が周囲の地面と接する位置」と認定すべきでない。
 他方,建築基準法19条は建築物の衛生,排水を考慮し,建築物の地盤面はこれに接する土地より高くなければならないと定めていることからすれば,敷地の形状,周囲の状況を勘案し,敷地からの排水経路・避難経路の確保,基礎の保護等のために一般的に必要な高さを著しく超えた場合に限り,脱法行為として「建築物が周囲の地面と接する位置」の認定にあたり,これを除外した適切な位置を設定できると解すべきである。

 

仙台地裁判決平成19年12月27日

【事案】

 被告の従業員である原告らが,宿泊先の施設内で飲酒したことを理由として,被告から懲戒処分を受けたことから,被告に対し上記懲戒処分の無効確認を求めるとともに,この懲戒処分をした被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

【判旨】

 原告らに対し,本件A懲戒及び本件B懲戒(以下,両者を併せて「本件懲戒処分」という。)が行われ,それが未だに執行されていない状況が継続していること,原告らは本件懲戒処分の効力を争っており,本件懲戒処分が執行されれば賃金及び賞与が減額されるという不利益を受ける可能性があることが認められるのであるから,原告らは,訴えをもって本件懲戒処分の無効を確認する法律上の利益を有するというべきである。

 被告は,バス事業を営むものである(前記前提事実)から,多数の乗客の安全のため,バス事業に従事する従業員としては,バスに乗務中はもちろん,乗務の直前等その業務と密接に関わる時間帯に飲酒することがないように努めることは,被告から特段の指示がなされなくても守るべき当然の義務であると解される。しかし,原告Aの本件行為は,バスに乗務する10時間以上前に食事をしながら若干の飲酒をしたというものであり,業務と密接に関わる時間帯に飲酒をしたとは言い難い。また,原告Bの本件行為も,バスに乗務する9時間以上前に食事をしながら中程度の飲酒をしたというものであり,やはり業務と密接に関わる時間帯に飲酒をしたとは言い難い。したがって,原告Aの本件行為や原告Bの本件行為を,本件懲戒規程5条4号「諸規程,規則に重大な違反をし,その情状が重いとき。」に準ずる不都合な行為があったとして同条8号に該当する懲戒処分の対象とするためには,これらの行為(行先地における飲酒)が全面的に禁止されていることを職務上の指示・命令として発するか又は被告の規則として定めた上,その内容を従業員全員に周知徹底することが必要であると解するのが相当である。

 原告Aの本件行為及び原告Bの本件行為がなされた平成16年3月及び同年6月当時,被告から本件マニュアル部分及び本件決議に基づき行先地や宿泊地における飲酒の全面禁止が指示されていたとは認め難く,原告Aの本件行為及び原告Bの本件行為をもって,本件就業規則3条3項及び17条1号に違反したものとして,本件懲戒規程5条4号「諸規程,規則に重大な違反をし,その情状が重いとき。」に準ずる不都合な行為があったことにつき同条8号に該当すると認めるのは困難というほかない。そうすると,本件懲戒処分は,客観的に合理的と認められる理由を欠くものといわざるを得ないから,懲戒権を濫用するものとして無効というべきである。

 被告は,原告らに懲戒に値する事由がないにもかかわらず,本件懲戒処分を行ったのであるから,この行為は原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。

 

大阪地裁判決平成20年01月23日

【事案】

 @ 原告A及び原告Bを除く原告ら(以下「原告子どもら」という)が,被告高槻市による多。文化共生・国際理解教育事業(当初,在日韓国・朝鮮人教育事業であったものを名称変更等したもの。以下「本件事業」ということがある。)の縮小・廃止によりマイノリティーとしての教育を受ける権利を侵害され,精神的損害を被ったとして,被告高槻市に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ10万円の慰謝料の支払いを求め,A原告Aが,被告らによる虚偽告訴と不当な配転命令により精神的苦痛を被ったとして,被告高槻市に対して国家賠償法1条1項に基づき,被告C,被告D及び被告Eに対して民法719条及び710条に基づき,連帯して100万円の慰謝料の支払いを求め,B 原告Bが,被告高槻市による雇止めは不当な目的に基づく無効なものであるとして,同市に対し,地位確認と雇止め以降の賃金毎月13万1957円及び国家賠償法1条1項に基づく慰謝料100万円の各支払いを求めた事案。

【判旨】

 自由権規約27条は,「種族的,宗教的又は言語的少数民族が存在する国において,当該少数民族に属する者は,その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」と規定する。
 ・・・自由権規約27条は,その文言から,締約国に対し,本条の定める権利を侵害しない義務を課したものと解され,それ以上に,国家による積極的な保護措置を講ずべき義務まで認めたものとは解しがたい。

 国連総会決議であるマイノリティ権利宣言は,条約とは異なり,一方的な行為にすぎないから,我が国に対して法的拘束力を持つものではないし,そのコメンタリーも,国連内部に設置された人権教育促進擁護小委員会が活動の一環として作成したものにすぎず,これに法的拘束力を認めることはできない。
 また,一般的意見23は,自由権規約の締約国の履行状況に関する報告を検討する機関である自由権規約委員会により策定されたものであること,その目的は,規約の実施の促進,締約国への注意喚起などであって,自由権規約の実施に当たって参考とされることが求められているにすぎないことに照らしてみれば,一般的意見自体が我が国に対して法的拘束力を有するものではないと解される。
 なお,一般的意見23は,6(1)で「締約国は当該権利の存在と行使を,その否定と侵害から保護することを確保する義務を負う。」とし,(2)で「マイノリティのアイデンティティを保護し,またその構成員が,その集団の他の構成員とともに,自己の文化や言語を享受しかつ発展させ,自己の宗教を実践する権利を保護するための,締約国による積極的措置も必要である。」と定め,前者を締約国の義務とする一方で,後者は必要性を確認するにとどめており,後者に属する積極的措置を締約国の義務として認めたものでもない。

 社会権規約13条1項は,「この規約の締約国は,教育についてのすべての者の権利を認める。」「締約国は,教育が,すべての者に対し,‥‥(中略)‥‥諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容及び友好を促進すること‥‥(中略)‥‥を可能にすべきことに同意する。」と規定する。
 しかし,この条項は,締約国において,すべての者の教育に関する権利が,国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,締約国がこの権利の実現に向けて積極的に政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは,同規約2条1項が締約国において「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めていることからも明らかである。したがって,社会権規約13条から直ちに,原告子どもらが主張するマイノリティの教育権という具体的な権利が保障されていると認めることはできない。

 児童の権利条約30条は,「種族的,宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者が存在する国において,当該少数民族に属し又は原住民である児童は,その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」と規定する。
 この条項の文言は,自由権規約27条と同様のものであって,国家に積極的な作為を求める権利を保障するものではない。

 人種差別撤廃条約は,2条2項で,「締約国は,状況により正当とされる場合には,特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため,社会的,経済的,文化的その他の分野において,当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。」と規定し,5条で,「締約国は,特に次の権利(教育及び訓練についての権利)の享有に当たり,人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。」と規定する。
 人種差別撤廃条約2条2項は,その規定の仕方からして,締約国が当該権利の実現に向けた積極的施策を推進すべき政治的責任を負うことを定めたにすぎず,この規定から直ちに,マイノリティの教育権という具体的な権利が保障されていると認めることはできない。

 憲法26条1項は,教育を受ける権利を保障しており,これに基づく旧教育基本法3条1項は,「すべて国民は,ひとしく,その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって,人種,信条,性別,社会的身分,経済的地位又は門地によって,教育上差別されない。」と規定する。
 これにより,国は,国民の教育を受ける権利が現実に保障されるよう教育制度を維持し,教育条件を整備すべき法的義務を負うものであるが,これらの規定が,直ちに原告子どもらの主張するようなマイノリティとしての教育を受ける権利までを想定して規定しているとはいえず,また,憲法26条1項及び旧教育基本法3条1項は,国の責務について,いずれも理念を掲げるにすぎず,これらの規定が,原告子どもらが主張するようなマイノリティの教育権という具体的な権利を直接保障していると認めることも困難である。

 人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条は,「地方公共団体は,基本理念にのっとり,国との連携を図りつつ,その地域の実情を踏まえ,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,及び実施する責務を負う。」と規定する。
 同法は,人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について,国,地方公共団体及び公民の責務を明らかにするとともに,必要な措置を定め,もって人権の擁護に資することを目的として(同法1条),地方公共団体の責務を抽象的に定めたにすぎず,この規定から直ちに原告子どもらが主張するようなマイノリティの教育権という具体的な権利が保障されていると認めることは困難である。

 このようにマイノリティの教育権に具体的権利性が認められない以上,本件事業の廃止・縮小による権利侵害を観念できず,本件事業の廃止・縮小の違法をいう原告子どもらの主張には理由がない。

 原告Bは,非常勤の嘱託員(地方公務員法3条3項3号)であり,就業要綱で委嘱期間を1年と定め,委嘱期間が経過したときは任期満了により当然に退職する職員として任用されたものである。
 このように被告高槻市における原告Bの地位が,公法上の任用関係に基づくものである以上,その内容は任用行為によって決定され,それ以外の事情によって,その地位が決定されたり,変更されたりすることはない。
 原告Bは,公法上の法律関係においても権利濫用ないし権限濫用の禁止に関する法理が適用され,原告Bに対する任用更新は拒絶できない旨主張するが,非常勤職員に新たな任用を求める行政処分を要求する権利を認めた法規はないし,権利ないし権限の濫用として非常勤職員の地位を認めるとすれば,法に何ら規定がないにもかかわらず,行政処分としての任用行為を要求する権利を付与することになるのみならず,任命権者の任用行為が存在しないのに実質的に雇用期間の定めのない非常勤職員を生み出す結果をもたらし,相当といい難い。
 そして,原告Bは,平成15年4月1日に,委嘱期間を1年間として任用更新され,平成16年3月31日に委嘱期間の経過による任期満了によって退職したのであるから,原告Bが,任期満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない。

 

熊本地裁判決平成20年01月25日

【判旨】

 原告は,被告熊本県知事がAの病院調査を実施するまでに,認定申請から約21年を要したことは極めて異常な事態であり,救済法上の認定制度の根本意義を喪失せしめるものであるから,本件認定申請手続の遅れはそれ自体が悪質かつ重大な違法であり,このような手続的瑕疵の存在を前提とすれば,もはや被告熊本県知事がAに対する認定申請について棄却処分を行う権限はすでに失われているとして,Aが水俣病に罹患しているかについての実体判断をするまでもなく,本件処分は取り消されるべきであり,かつ,Aを救済法上の水俣病であると認定することが義務付けられるべきである旨主張する。
 確かに,Aが認定申請を行ってから,Aの生存中には検診が完了せず,Aの死後に病院調査が実施されるまでに約17年もの年月が経過し,申請から21年後に処分がなされるという事態は,認定申請の手続経過としては通常ではないことは明らかといえる。原告がそのことに強い不満を示し,納得できないと考えることは無理からぬことである。
 しかしながら,都道府県知事が救済法もしくは補償法上の疾病の認定申請に対する処分を行うまでに長期間を要した場合,長期間を要したこと自体から直ちに処分権者にはもはや棄却処分を行う権限が失われるとの主張は,法理・法律上の根拠は見出し難い上,どれだけの期間の経過をもって棄却処分を行う権限が失われるとするのかは実際上判断が困難であり,長期間を要したことを手続上の瑕疵の一般的基準として採用することはできない。
 そこで,次に,本件処分における調査・検査手続や処分の遅れにおいて,原告主張のような認定制度の根本意義を喪失せしめるような悪質かつ重大な違法が存在したかについて検討する。

 ・・・被告熊本県知事がAに関する資料を故意に隠滅したとか,意図的に病院調査を放置したと認めることはできず,また,被告熊本県知事が意図的に認定処分を遅延させたと認めることもできないから,本件処分に認定制度の根本意義を喪失せしめるような悪質かつ重大な違法があったということはできない。
 したがって,Aが水俣病に罹患しているかについての実体判断にかかわらず,申請から本件処分までに長期間を経過したことをもって,棄却処分を取り消して救済法上の水俣病と認定すべきとの原告の主張は採用できない。

 本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において,当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」において,「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」に該当する。かかる義務付けの訴えは,「当該法令に基づく申請を棄却する旨の処分がされた場合において,当該処分が取り消されるべきものであることに該当するときに限り,提起することができる。」と定められている(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)。
 そして,処分にかかる取消訴訟に併合して提起された義務付けの訴えにおいては,その処分の取り消しが認容されることが訴訟要件となるものと解される。前記のとおり,本件処分はこれを取り消すべきものとはいえないから,併合して提起された本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2号に定める場合に当たらないことになり,訴訟要件を欠くものとして却下すべきである。

 

さいたま地裁判決平成20年01月30日

【判旨】

 民法235条1項は,「他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側を設ける者は,目隠しを付けなければならない。」と規定するところ,同条の趣旨がプライバシーの保護を目的とすることからすると,「他人の宅地を見通すことのできる窓」とは,他人の宅地を観望しようと思えば物理的にいつでも観望できる位置,構造の窓をいうものと解すべきである。

 民法235条1項がプライバシーを保護するとともに,互譲の精神から相隣接する不動産相互の利用関係を調整しようとしている趣旨に鑑みれば,・・・目隠しを設置しないことによって・・・被る不利益が重大とは認められず,原告・・・の目隠設置請求は,権利の濫用として許されないものと認めるのが相当である。

 

山形地裁判決平成20年02月12日

【事案】

 中華人民共和国の国民であり,第二次世界大戦中に中国華北地方から日本に強制連行され被告酒田海陸運送株式会社(以下「被告会社」という。)の下で強制労働に従事させられたと主張する者(原告A,同B,同C,亡D,亡E,亡F。以下「本件被害者ら」という。)が原告(なお,亡Dについては,D’1,D’2,D’3及びD’4が,亡Eについては,E’1,E’2,E’3,E’4及びE’5が,亡Fについては,F’がそれぞれ訴訟承継した。)として,被告らに対し,被告国が中国人労働者を日本国内に移入する政策を決定し,被告会社とともに本件被害者らを過酷な条件の下で強制労働に従事させたものであるから,被告らの行為について不法行為又は安全配慮義務違反が成立するなどと主張して,謝罪広告の掲載及び損害賠償を請求した事案。

【判旨】

 除斥期間や消滅時効等の問題はあるものの,原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の発生自体は認められるところ,以下に述べるように,それらは,日中共同声明5項に基づく請求権放棄の対象となるものであり,裁判上訴求することはできない。

 サン・フランシスコ平和条約は,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを前提として,日本国は連合国に対する戦争賠償の義務を認めて連合国の管轄下にある在外資産の処分を連合国にゆだね,役務賠償を含めて具体的な戦争賠償の取決めは各連合国との間で個別に行うという日本国の戦後処理の枠組みを定めるものであり,この枠組みは連合国48か国との間で締結されこれによって日本国が独立を回復したというサン・フランシスコ平和条約の重要性にかんがみ,日本国がサン・フランシスコ平和条約の当事国以外の国や地域との間で平和条約等を締結して戦後処理をするに当たっても,その枠組みとなるべきものであった。
 そして,日中共同声明5項は,「中華人民共和国政府は,中日両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」と述べているところ,日中国交正常化交渉において,中華人民共和国は,復交三原則に基づく処理を主張し,日中共同声明には平和条約としての意味を持たせる必要があり,戦争の終結宣言や戦争賠償及び請求権の処理が不可欠なものとし,一方,日本国政府は,中華民国政府を中国の正統政府として承認して日華平和条約を締結したという経緯から,日中戦争の終結,戦争賠償及び請求権の処理といった事項に関しては,形式的には日華平和条約によって解決済みという前提に立たざるを得なかったが,結果として,いずれの立場からも矛盾なく日中戦争の戦後処理が行われることを意図して,共同声明の表現が模索され,その結果,日中共同声明前文において,日本国側が中華人民共和国政府の提起した復交三原則を「十分理解する立場」に立つ旨が述べられ,そして,日中共同声明1項の「日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は,この共同声明が発出される日に終了する。」という表現は,中国側からすれば日中戦争の終了宣言と解釈できるものであり,他方,日本国側からは,中華人民共和国政府と国交がなかった状態がこれにより解消されたという意味に解釈し得るものとして採用されたものであり,このような日中国交正常化交渉の経緯に照らすと,中華人民共和国政府は,日中共同声明5項を,戦争賠償のみならず,請求権の処理も含めてすべての戦後処理を行った創設的な規定ととらえていることは明らかであり,また,日本国政府としても,戦争賠償及び請求権の処理は日華平和条約によって解決済みであるとの考えは維持しつつも,中華人民共和国政府との間でも実質的に同条約と同じ帰結となる処理がされたことを確認する意味を持つものとの理解に立って,その表現について合意したものと解される。以上のような経緯を経て発出された日中共同声明は,中華人民共和国政府はもちろん,日本国政府にとっても平和条約の実質を有するものにほかならないというべきである。
 したがって,日中共同声明は,サン・フランシスコ平和条約の枠組みと異なる趣旨のものではなく,請求権の処理については,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを明らかにしたものというべきである。
 そして,ここでいう請求権の「放棄」とは,請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく,当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまるものと解するのが相当である。

 

名古屋高裁判決平成20年02月20日

【事案】

 福井県(以下「県」という。)の住民である被控訴人らが,県の平成6年4月から平成9年12月までの旅費の支出について,公務出張の事実がないのにされた違法なものがあり,これにより県が損害を被っているとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの,以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時,上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令につき法令上本来的な権限を有する県知事の職にあった控訴人に対し,16億9806万7220円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日の平成10年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。

【判旨】

 県においては,福井県事務決裁規程,福井県財務規則及び福井県出先機関事務決裁規程により,本庁における旅費に係る支出負担行為及び支出命令に関する事務は課(室)長補佐が専決により,出先機関における旅費に係る支出負担行為及び支出命令に関する事務は,出先機関の長に委任された上で出先機関の庶務担当課長等が専決により行うものとされているところ,本件旅費に係る支出負担行為及び支出命令は,いずれも公務出張の事実がないのにされたものであるから,違法である。
 財務会計上の行為を行う権限を委任又は専決させた場合において,受任者又は専決者が財務会計上の違法行為を行ったときは,長は,受任者又は専決者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により受任者又は専決者が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。そして,この長の賠償責任は,長が自ら当該財務会計上の非違行為を行ったのと同視し得る程度の指揮監督の懈怠がある場合に限り,認められるものと解するのが相当である(最高裁平成2年(行ツ)第137号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照,最高裁昭和62年(行ツ)第148号平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁参照)。
 そこで,当時の県知事であった控訴人が,故意又は過失により,上記受任者又は専決権者の違法な支出負担行為及び支出命令を阻止すべき指揮監督上の義務に違反していたといえるか否かについて検討する。

 ・・・地方公共団体の長である控訴人には,平成9年12月3日に県監査委員事務局職員のカラ出張の報道がされるまでは,県において架空の旅費支出がなされていることにつき,一般的・抽象的な予見可能性は認められるものの,これを超えて,・・・,架空の旅費支出の有無・状況についての調査やこれを予防・阻止するための具体的な指揮監督上の措置を必要とするような具体的な予見可能性があったものとは認められないというべきである。そして,長が,財務会計上の行為を行う権限を委任又は専決させた場合において賠償責任を負うのは,前記判示のとおり,自ら当該財務会計上の非違行為を行ったのと同視し得る程度の指揮監督の懈怠が認められる場合に限られるのであるから,本件事案においては,県における架空の旅費支出の有無・状況の調査やこれを予防・阻止するための具体的指揮監督措置を必要とするような具体的な予見可能性があった場合にはじめて,控訴人に上記指揮監督の懈怠が認められるというべきであり,したがって,前記カラ出張の報道がなされるまでの間は,控訴人には,上記指揮監督の懈怠は認められないといわなければならない。また,控訴人は,上記報道後には,県のすべての部局における旅費の調査を実施するよう直ちに指示しているから,やはり上記指揮監督の懈怠は認められないというべきである。

 

青森地裁判決平成20年02月28日

【事案】

 原告が被告鉄道に対し,被告鉄道の踏切内の除雪が不十分であった上,非常警報ボタンが雪に埋もれていたことなどから,踏切内で原告運転の自動車が立ち往生して被告鉄道の特急列車に衝突され,原告自動車が大破する損害を受けたなどと主張し,民法709条又は717条に基づき,上記事故により原告が受けた損害金の支払を求めたほか,原告に安全運転義務違反の過失があるとして被告鉄道から支払請求を受けていた被告鉄道の損害に係る賠償債務の存在しないことの確認を求めたところ,被告鉄道が原告に対し反訴としてその本訴の債務不存在確認に係る不法行為損害賠償金の支払を求めているという事案。

【判旨】

 本件踏切の軌道施設は,これと一体となる保安設備である非常警報ボタンも含めて,民法717条にいう土地の工作物に当たると認められる。
 そして,本件事故発生の直近の除雪時刻である平成17年2月27日の早朝(午前2時から午前7時ころまで)から本件事故時である翌28日の午後10時ころまで約1日半以上の時間が経過し,その間の天気予報によると本件事故現場付近には相当な降雪が見込まれ,被告鉄道は2月27日夜及び28日朝にも原告から除雪を求める電話要請を受けていたのに本件踏切の除雪を実施せず,実際に本件踏切内には自動車で通行する際に立ち往生を余儀なくされるほどの積雪があった上,自動車が立ち往生したときにこれを列車に知らせる非常警報ボタンも積雪のため上下線ともに雪に埋もれて使用困難な状況にあったというのであるから,このような本件踏切の状態は,民法717条にいう土地の工作物の保存の瑕疵に当たるというべきである。したがって,被告鉄道は,原告に対し,民法717条1項に基づき,本件踏切の占有者としてその保存の瑕疵に起因して発生した本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

 

大分地裁判決平成20年03月03日

【事案】

 東京証券取引所マザーズ(以下「東証マザーズ」という。)に株式を上場していた被告C株式会社(以下「被告C社」という。)が,平成16年10月,同社に粉飾決算の疑惑があることを公表し,それを契機として同社の株価が下落したことについて,同社の個人株主であった原告A及び同Bが,被告らは粉飾決算に基づき虚偽の業績を公表した上で,原告らに株式を取得させ,その取得価額あるいは上記疑惑公表前の株式の取引価額と,最終売却価額との差額分の損害を被らせたと主張して,原告Aは,被告D及び同Eに対して,民法709条及び平成17年法律第87号による改正前の商法(以下,単に「商法」という。)266条の3第1項,2項に基づき,被告C社に対して,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,その損害賠償金及び訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を求め(甲事件),原告Bは,被告Dに対して,民法709条,商法266条の3第2項,平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「証取法」という。)24条の4,同条の5第4項,22条に基づき,同E及び同Fに対して,商法266条の3第1項,2項,証取法24条の4,同条の5第4項,22条に基づき,被告C社に対して,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,その損害賠償金及び訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を求めている(乙事件)事案。

【判旨】

 被告らは,原告らが損害とする株価の下落は,会社に損害が生じたことによって発生したいわゆる間接損害であり,商法266条の3は株主の間接損害には適用されないから,被告E及び同Dは同条に基づく責任を負わず,被告C社も商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づく責任を負うことはない旨主張する。
 しかしながら,本件は,原告らが株主であった時期に取締役の行為によって会社に損害が生じた結果株主である原告らに損害が生じたものではなく,被告C社の粉飾決算を知らない第三者の原告らが被告C社の株式を購入したために損害を被ったという事案であるから,その損害は第三者に発生した直接損害というべきであり,被告らの主張は採用できない。

 まず,被告Dの不法行為(民法709条)の成否について検討するに,被告C社は,原告Bが株式を購入した平成16年6月29日や原告Aが株式を購入した同年7月2日以前の平成15年1月期の中間決算から粉飾決算を行い始め,それに基づく財務情報の情報開示を行っていたところ,M管理部長は前渡金管理表を作成してこれを被告Dに報告していたし,被告Fは被告Eの指示に基づき前渡金を外注費に振り替えていたものの,平成15年には,被告Fらから前渡金の増加が問題であること及び利益目標を達成するにはさらに前渡金が増加することになると訴えられたことに対し,被告Dが,次回決算までは前渡金の計上を続けるが,その後は前渡金を処理できる見込みがあると説明して,これを退けており,平成16年9月7日の被告F・被告D間のメールのやりとりの内容に照らせば,被告Dは,被告Eが供述しているように,当初から粉飾決算を行うことを被告Eを介して指示していたか,少なくとも同粉飾決算が行われていることを知りながらこれを容認する姿勢を示していたことが認められる。
 そうすると,粉飾決算が行われた場合には,後にそれが発覚し,本件のような経過を辿って株価が下落し,監理ポスト割り当ての措置を取られ,さらには上場廃止となることにより,それを知らずに株式を購入した者に対して損害を与える可能性があることは十分予見し得るというべきであるから,これを止めずに,かえって粉飾決算を行うことを指示していたか,あるいはこれを容認していた被告Dには,少なくとも過失があると認められる。
 したがって,被告Dは,粉飾決算がなされていることを知らずに被告C社の株式を購入したことにより発生した原告らの損害を賠償すべき不法行為責任を負うというべきである。
 また,被告Dはその職務を行うについて上記不法行為を行ったものであるから,被告C社も,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,原告らに対し不法行為責任を負うことになる。

 まず,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任の成否について検討するに,株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから,取締役会を構成する取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役の業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば,取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するものと解すべきである(最高裁昭和48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁参照)。
 そうすると,被告Eは,最初に前渡金を資産計上することになった8月26日の取引に関する請求書及び納品書の作り替えを依頼するM管理部長からのメールを受け取っており,また,被告Fに対し,前渡金として処理する支払及び前渡金を外注費に振り替える指示を行っていたし,被告Fから前渡金の問題について疑問を投げかけられていたこともあり,被告FやM管理部長とともに,被告Dに対して,前渡金の増加が問題であり,利益目標達成のためには前渡金がさらに増加することになると訴えていたのであるから,前渡金の増加が粉飾決算になるとの認識を持っていたか,少なくともそのおそれがあるとの認識を持っていたと認められる。
 そうすると,被告Eが供述するように,それが被告Dの指示によるものであったとしても,被告Eは取締役としての代表取締役の業務執行を監視・監督する職務を懈怠して,前渡金増加に伴う決算上の問題点を取締役会に諮り,それを是正するなどの措置を取ることなく,被告Dの指示に従い,故意に,そうでなくとも重大な過失に基づき,被告Fに対し,前渡金増加(粉飾決算)となる外注費振り替え時期の指示を行っていたのであるから,原告らに対して,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うといわざるを得ない。

 被告Fが取締役に就任したのは平成15年10月であるから,平成16年1月期中間決算における決算書類及び半期報告書並びに財務状況に関する情報開示について,被告Fが商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うか否かについて検討するに,被告Fは,経費に振り替えられず前渡金のまま計上される金額が増額していくことにより,経理上のスルー取引における売上げと原価の対応関係について不自然な状態が生じており,同スルー取引における被告C社の利益率が異常に高くなることや前渡金の額の大きさなどに疑念を持ち,M管理部長や被告Eに対し,そのことについて説明を求めていたし,被告Dに対し,前渡金の増加が問題であって,利益目標達成のためにはさらに前渡金が増加することになると訴えていたのであり,平成16年9月7日の被告F・被告D間のメールのやりとりの内容に照らせば,被告Fは,前渡金の増加が粉飾決算になるとの認識を持っていたと認められる。
 そうすると,被告Fは,粉飾決算をやめるよう進言していたものの,取締役としての代表取締役の業務執行を監視・監督する職務を懈怠して,粉飾決算を止めるために,取締役会に諮りそれを是正するなどの措置を取ることなく,被告D及び同Eの指示に従って,故意に粉飾決算の会計処理を行っていたのであるから,原告Bに対して,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うといわざるを得ない。

 それが後に発覚すれば株価が下落して監理ポスト割り当ての措置を取られ,ときには上場廃止となって,それを知らずに株式を購入した者が損害を被ることとなる粉飾決算に関わる被告らの行為が存在したために,被告C社に粉飾決算がなされ,それを知らない原告らが被告C社の株式を購入したところ,後に粉飾決算が発覚して,株価が下落し,監理ポスト割り当ての措置を取られたため,原告らが上記株式を売却せざるを得なくなって,株式取得価格と売却によって得た金額との差額相当の損害を被ったものであるし,原告らの上記購入及び売却の経過は通常の経過を辿っているといえるので,原告らに発生した損害は,被告らの粉飾決算に関わる各行為によって通常発生する損害であり,その間に相当因果関係があるといえる。

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