最新最高裁判例

最高裁判所第一小法廷決定平成20年03月13日

【事案】

 抗告人を再生債務者とする民事再生手続における再生計画について,民事再生法(以下「法」という。)174条2項3号等の不認可事由の有無が争われた事案。

【判旨】

 法174条が,再生計画案が可決された場合においてなお,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものであると解される。そうすると,法174条2項3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である(法38条2項参照)。
 @抗告人の債権者のうち相手方Y2,相手方Y1及びBにとっては,抗告人が民事再生手続を利用する方が抗告人につき破産手続が進められるよりも抗告人に対する債権の回収に不利であり,抗告人が再生手続開始の申立てをして本件再生計画案を提出しても,届出再生債権者のうち抗告人の代表取締役であるA及び同人が代表取締役を務めるCの同意しか得られず,本件再生計画案は可決されないことが見込まれていたこと,A抗告人が再生手続開始の申立てをする直前に,抗告人の取締役であってそれまで抗告人に対する債権を有していなかったDが,回収可能性のないFのCに対する債権及び抗告人に対する保証債務履行請求権を譲り受け,その一部を同じく抗告人の取締役であってそれまで抗告人に対する債権を有していなかったEに譲渡したこと,BDとEは,それぞれ,債権譲渡を受けた抗告人に対する債権を再生債権として届け出て,本件再生計画の決議において,その有する議決権を本件再生計画案に同意するものとして行使したこと,CDとEによる上記議決権の行使がなければ議決権者の過半数の同意を求める法172条の3第1項1号の要件が充足することはなかったが,上記議決権の行使により同要件が充足し,本件再生計画案が可決されたことが明らかである。
 そうすると,本件再生計画案は,議決権者の過半数の同意が見込まれない状況にあったにもかかわらず,抗告人の取締役であるDから同じく抗告人の取締役であるEへ回収可能性のない債権の一部が譲渡され,抗告人の関係者4名が抗告人に対する債権者となり議決権者の過半数を占めることによって可決されたものであって,本件再生計画の決議は,法172条の3第1項1号の少額債権者保護の趣旨を潜脱し,再生債務者である抗告人らの信義則に反する行為によって成立するに至ったものといわざるを得ない。本件再生計画の決議は不正の方法によって成立したものというべきであり,これと同旨をいう原審の判断は是認することができる。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成20年03月17日

【事案】

 宮城県の住民を構成員とし,同県の区域内に事務所を有する権利能力のない社団である上告人が,平成6年度及び同7年度における宮城県警察本部総務室総務課(以下「総務課」という。)の事務連絡又は業務視察を目的とする県外出張に係る旅費の支出について,これらの出張は架空のもの又は業務上必要のないものであり,同県は上記旅費相当額の損害を被ったとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,上記旅費を受領した職員等に対し,同県に代位して損害賠償を求める事案。

【判旨】

 本件各出張に関しては,第1次開示において,支出負担行為兼支出命令決議書につき支出負担行為日,支出命令日,支払日,旅費額等が,旅行命令(依頼)票につき旅行命令日,旅行者氏名,旅行期間,旅行内容,目的地,旅費の支給額及び受領月日等が,復命書につき作成日付,出張者の職及び氏名,用務,用務先,旅行期間等が,それぞれ墨塗りされて開示されず,平成14年5月24日の第2次開示において初めてこれらの事項が開示されたというのである。そうすると,第2次開示によって本件各出張ないし本件各出張に係る旅費の支出について具体的な内容が明らかにされる以前の段階では,上告人において,本件各出張が架空のものであるかどうか,また,業務上必要のないものであるかどうかを判断することは困難であったものというべきである。この段階において原審が掲げる諸事実を根拠として本件各出張が架空のものであるなどと主張したとしても,その主張は単なる憶測の域を出ないものとならざるを得ない。
 そうであるとすれば,第2次開示によって本件各出張ないし本件各出張に係る旅費の支出について具体的な内容が明らかにされる以前の段階では,上告人において本件各出張に係る旅費の支出に違法又は不当な点があると考えて監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたと解することはできず,第2次開示において本件各出張の旅行期間,目的地,用務等に関する情報が記録された部分が開示されてから1か月後に,本件各出張に係る旅費の支出につき本件監査請求がされたことについては,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成20年03月24日(袴田事件再審請求)

【事案】

 本件再審請求の対象は,住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火の事実を認定して申立人に死刑を言い渡した第1審判決(以下「確定判決」という。)である。この判決に対しては,申立人が控訴,上告を申し立てたが,いずれも棄却されて確定したものである。。

【判旨】

 刑訴法435条6号の再審事由といえるためには,新たな証拠等により,確定判決において詳しく認定判示されたところの一部について合理的な疑いを生じさせることでは足りず,そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至るものでなければならないというべきである(最高裁平成7年(し)第49号同10年10月27日第三小法廷決定・刑集52巻7号363頁参照)。
 この観点から所論の援用する新証拠をみると,5点の衣類が犯人の着衣であると認められるかどうか及びこれらが申立人のものであると認められるかどうかという点に関するものについては,これらを旧証拠と総合評価することにより,確定判決の認定に合理的な疑いが生じると認められるならば,「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるということになろう。しかし,本件において,この点に関する新旧全証拠を総合しても,申立人の犯人性を認定する旧証拠の証明力が減殺されたり,情況証拠による犯人性の推認が妨げられるものとは認められない。
 この点につき,所論は,5点の衣類をはじめとする申立人の犯人性を支える旧証拠は,捜査機関等によりねつ造されたものである疑いがあるなどとも主張する。しかし,5点の衣類及び鉄紺色ズボンの共布と認められる端布の発見の経過は,記録によれば,・・・各証拠の発見,押収等の過程は,格別不自然なものではなく,そこに作為を介在させる余地も乏しいのであり,その他,記録を精査しても,証拠ねつ造等をうかがわせる事情は見当たらない。所論は,合理的な根拠があるものとは認められず,採用することはできない。
 また,所論は,確定判決の犯人性認定が申立人の自白に依拠しているとの前提に立ち,新証拠によれば,逃走経路等,重要な点で申立人の自白には真実に反する点があって信用できず,この自白を除外すれば申立人の犯人性認定に合理的な疑いが生じると主張する。しかし,確定判決は,自白を罪となるべき事実を認定する証拠とはしておらず,自白を除いた証拠のみによって申立人の犯人性が認定できるとしているのであるから,所論は,そもそも再審事由の主張として失当である。
 なお,所論は,申立人の真実に反する自白は,真犯人ならば必ず知っているはずの事実を知らないという意味で,申立人が「犯行についての無知」な者であって,積極的に無実であることを示しているとする趣旨の心理学者作成に係る鑑定書及び同補充書等を援用し,真実に反する自白それ自体が犯人性を否定する証拠であるとも主張する。しかし,同鑑定書等において真実に反する自白等として指摘されている点をもってしても,申立人の自白が信用性に乏しく,これに依拠して事実を認定することができないという限度を超えて,それ自体で積極的に無実であることを示しているとまでいうのは,論理に飛躍があるというほかはないし,この点をおくとしても,本件における客観的証拠による強固な犯人性の推認を妨げる事情とはなり得ない。
 以上によれば,申立人が本件住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火事件の犯人であるとした確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じる余地はなく,本件につき刑訴法435条6号所定の再審理由は認められないとした原決定は相当である。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成20年03月27日

【事案】

 上告人の従業員であったA(以下「A」という。)の相続人である被上告人らが,Aが急性心筋虚血で死亡したのは,上告人がAの健康状態に対して十分な注意を払わずにAをして宿泊を伴う研修に参加させたことなどが原因であるとして,上告人に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求めている事案。控訴審になってからの過失相殺規定の類推適用の主張が許されるかが争点である。

(本件訴訟の経過)

 上告人は,第1審の第8回口頭弁論期日に陳述した平成16年3月31日付け準備書面において,Aは,死亡した当日,墓の手入れのためにスコップを持参して地面を掘り起こす運動を行って心臓に激しい突発的な負荷をかけたものであるとし,Aの死亡については,Aの自己健康管理保持に著しい過失があり,また,Aがスコップを持参して墓の手入れに行くことを制止しなかった被上告人らにも過失がある旨主張したが,同期日において,これは過失相殺を主張する趣旨ではない旨釈明した。その後,第1審において,上告人から本件につき過失相殺をすべきである旨の主張がされたことはなかった。
 なお,第1審において,Aが家族性高コレステロール血症にり患していること又はその疑いのあることを示す文書が書証として提出されていたが,被上告人らが提出したその訳文では,家族性高コレステロール血症を示す略語である「FH」が脂肪肝と誤訳されたり,当該部分の翻訳が省略されたりしていた。第1審において,Aが家族性高コレステロール血症にり患していた旨の主張は,上告人からも被上告人らからもされることはなかった。
 第1審判決は,上告人の不法行為責任を認め,上告人に対し被上告人ら各自に3314万1886円及びこれに対する遅延損害金を支払うよう命ずる限度で被上告人らの請求を認容したが,その理由中において,Aにつき動脈硬化に関する遺伝的素因等を具体的に認めるに足りる的確な証拠が見当たらない旨述べており,過失相殺については何ら言及しなかった。
 上告人は,控訴理由を記載した平成17年5月11日付け準備書面において,Aが家族性高コレステロール血症にり患していたことを指摘し,また,同年6月27日付け準備書面(原審第2回口頭弁論期日に陳述)において,予備的主張として,Aが陳旧性心筋梗塞の合併症を有する家族性高コレステロール血症にり患していたことなどから,過失相殺に関する規定を類推適用して上告人が賠償すべき金額を減額すべきである旨主張した。

【判旨】

 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度等に照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患をしんしゃくすることができる(最高裁昭和63年(オ)第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁参照)。このことは,労災事故による損害賠償請求の場合においても,基本的に同様であると解される。
 また,同項の規定による過失相殺については,賠償義務者から過失相殺の主張がなくとも,裁判所は訴訟にあらわれた資料に基づき被害者に過失があると認めるべき場合には,損害賠償の額を定めるに当たり,職権をもってこれをしんしゃくすることができる(最高裁昭和39年(オ)第437号同41年6月21日第三小法廷判決・民集20巻5号1078頁参照)。このことは,同項の規定を類推適用する場合においても,別異に解すべき理由はない。
 Aが急性心筋虚血により死亡するに至ったことについては,業務上の過重負荷とAが有していた基礎疾患とが共に原因となったものということができるところ,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)にり患し,冠状動脈の2枝に障害があり,陳旧性心筋梗塞の合併症を有していたというAの基礎疾患の態様,程度,本件における不法行為の態様等に照らせば,上告人にAの死亡による損害の全部を賠償させることは,公平を失するものといわざるを得ない。
 原審は,上告人は,第1審において過失相殺を主張しない旨釈明しているところ,控訴審において過失相殺に関する規定の類推適用を主張することは,著しく信義に反するものであり,また,第1審の軽視にもつながるものであるとの理由により,上告人が原審において過失相殺に関する規定の類推適用を主張することは訴訟上の信義則に反するものとして許されないというのであるが,そもそも,裁判所が過失相殺に関する規定を類推適用するには賠償義務者によるその旨の主張を要しないことは前述のとおりであり,この点をおくとしても,本件訴訟の経過にかんがみれば,第1審の段階では上告人においてAが家族性高コレステロール血症にり患していた事実を認識していなかったことがうかがわれるのであって,上告人の上記主張が訴訟上の信義則に反するものということもできない。
 そうすると,上告人の不法行為を理由とする被上告人らに対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する規定(民法722条2項)の類推適用をしなかった原審の判断には,過失相殺に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成20年03月27日(KSD事件)

【事案】

 被告人Aは,参議院議員在職中の平成8年1月ころ,いわゆる職人を育成するための大学(以下「職人大学」という。)の設置を目指す財団法人の会長理事で,中小企業の社会的・経済的な発展向上を目的とする政治団体の実質的主宰者であるCから,参議院本会議において内閣総理大臣の演説に対して所属会派を代表して質疑するに当たり,国策として職人大学の設置を支援するよう提案するなど職人大学設置のため有利な取り計らいを求める質問をされたい旨の請託を受け,さらに,同年6月上旬ころ,他の参議院議員を含む国会議員に対しその所属する委員会等における国会審議の場において国務大臣等に職人大学設置のため有利な取り計らいを求める質疑等の職人大学設置を支援する活動を行うよう勧誘説得されたい旨の請託を受けた。そして,被告人Aは,これら各請託を受けたことなどの報酬として供与されるものであることを知りながら,また,被告人Bは,被告人Aが上記勧誘説得の請託を受けたことなどの報酬として供与されるものであることを知りながら,被告人両名は,共謀の上,Cらから,同月から平成10年7月まで前後合計26回にわたり,被告人Aが実質的に賃借して事務所として使用しているビルの部屋の賃料相当額合計2288万円の振込送金又は交付を受けた。さらに,被告人Aは,平成8年10月2日ころ,同様の趣旨でCから現金5000万円の交付を受けた。

【判旨】

 以上のような事実関係によれば,被告人Aは,その職務に関し,Cから各請託を受けて各賄賂を収受したものにほかならないのであって,これと同旨の原判断は相当である。

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