新司法試験考査委員ヒアリングからみる
傾向と対策(行政法)

点差が開いた

以前の記事で、公法系のみ、得点調整後よりも、素点ベースの足切り者が多いということを述べた。
その理由として、公法系は、採点のバラつきが大きかったのではないか。
その原因は、行政法にあるのではないか、という仮説を述べた。
どうやら、それはある程度正しかったようだ。
考査委員のヒアリングで、採点した考査委員が述べている、

採点した場合に,かなり点数に開きがあり,私が採点した中で言えば,成績の良い人は80点以上の人もいる一方で,20点台,10点台,あるいはそれ以下といった点数のかなり悪い人もいたわけであり,同様に法科大学院を修了したということを前提に考えるとどうなのかなと思ったところである。実際にそのようにかなり点数の悪い答案もあったということである。

これは、行政法について、傾向を踏まえた対策の重要性が大きいことを示している。

誘導に素直に乗る

行政法の傾向として顕著なことは、どんどん問題文が親切になっているということである。
これに従って、淡々と答案を構成すればいい。
これは、考査委員が意識してやっていることだからである。

回答に当たっては,問題文,それから資料の記載から,事実関係や法令の趣旨,そして入管実務の運用の考え方についてよく理解した上で,説得力のある理由と適切な結論を導くということを期待したわけである。その趣旨で,昨年もそうであったが,出題する側としては,かなり親切に資料を出すという方針をとった。そこでは,入管側の考え方についても,登場する弁護士の口を通して説明をし,その上で,外国人側の立場で主張すべきポイントを示唆するような手掛かりも,会話の中に入れ込んでいる。それをそのほかの資料と結び付けてみれば,かなりの部分を書けるわけであり,相当親切な材料の提供をしていたつもりであった。

昨年度も,それからその前のプレテストでも,出題の際に,とにかく行政法は不安がられる科目であるので,できるだけ手掛かりを与えて,それをきちんと読み取って自分なりにもう一度組み立てなおして答案を作る,そういうやり方でかなり点数が取れるようなものを出そうと常に心がけてきたところである。

そして、受験生の大勢が、これに従って書けている。
ここが第一歩で、そこから先の出来不出来はあっても、ある程度点はもらえるようだ。

総体的な感覚で申し上げると,全体の答案の四分の三程度は,結果的な出来不出来は別として,おおむね出題の意図を受け止めて,それに即した答案にはなっていたと思われる。

四分の三くらいは,出された内容を一応読んで,それを使って答案を作るということができている。そうであれば一応点数を与えられるわけであるが,ただ,その出されたものの基本的な意味や位置づけがきちんと分かっているかというと,そこはかなり怪しげであるということである。

よって、裏を返せば、道を踏み外すと、極端に悪い点数になりうる。
基本的に、資料等で指示されたことだけを、コンパクトにまとめて書いて行く。
これを心掛けるべきである。
「ひょっとしてこれは引っ掛けではないか」「他の人が気付かないことも書かないと受からないのではないか」
というような心配は、無用である。
昨年度の問題でいうと、裁量統制を延々と書くということが、その悪い例だった。

また,設問2で,裁量統制論を延々と論じるものがあった。・・・裁量統制を論じている者が非常に多かったが,法科大学院で必ず教えるのがマクリーン判決であるため,外国人,入管法というと,もうこれは裁量の問題だというふうに思い込んでしまう者が多かったのだと思われる。しかし,本問はそうではなく,問題となっているのは退去強制事由の有無であり,しかもそれが,この本問の事案で言うと,留学生の資格外活動という,それ自体かなり客観的法則性の強い事由にかかわるもので,法律はそれについて刑罰の対象にまでしているというものであるから,およそ行政庁の裁量を論ずるような話ではないはずで,そのようなことを看過していると思われる。

黙って指示に従って書いていれば、こういうことは起こりにくい。

特別法は資料を読んで現場対応

行政法の範囲の法令としては、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法などがある。
しかし、問題になる処分等の根拠法は、これらとは別の法令である。
従って、行政法では、特別法がらみの出題となりやすい。
そのとき、出題された特別法を知らないからといって、慌てる必要は無い。
裏を返せば、そういった特別法の知識を事前に勉強する必要も無いということである。

設問1と設問2は,前者が主として訴訟法,後者が実体法となるが,その両者の出来を見ると,必ずしもぴたりと相関しているわけではないという印象である。前者はよくできているけれども後者はできていない,あるいは逆という答案がある程度あった。これは,一般に行政法の場合,そういう傾向になるのかもしれないが,手続法,訴訟法だと,行政事件訴訟法についての勉強を一通りしていれば一通りの筋道が考えられる。それに対して,設問2の方は,入管法という特定の分野を題材にしてそこで考えるという点で,設問1とは違う。ただ,先ほどから申し上げているように,入管法上どういうことになるのかという点については,資料の会議録の内容をよく理解し,整理して回答すれば十分な正解に至るというところであり,そういうことができた受験者とそうでない受験者の違いがあったのかなということも考えられる。結局,第1問ができた受験者と,第2問の方ができた受験者について,やや比喩的に申し上げるとすれば,それぞれの勉強の仕方,あるいはそこで培った,身に付けた能力のベクトルの方向が違っていたのかなという感じもするところである。

出題する考査委員の方も、その場で資料を読んで答えることを前提に作問している。
その意味では、事前勉強が不十分な受験生でも、資料読解で挽回できる。

救済手段を絞ってあてはめをする

憲法の人権とも重なる部分かもしれないが、あらゆる手段を網羅的に検討することは、個々の論述を薄くする。
これによって点を落とした人が少なからずいたようだ。

設問1については,弁護士としてとるべき救済手段を選択して回答すべきところであるが,解答の中には,様々な,しかも相互に矛盾する複数の手段を羅列しているもの,あるいは重複して提起することに意味のないような訴訟手段を羅列するものもかなりあった。また,行政事件訴訟法の各訴訟手段の要件を挙げるだけで,事案に即した当てはめを全くしていないというものもあった。

実務家の立場から,重複するが,印象を二点だけ申し上げさせていただくと,まず第一点は,設問1の(1)についてであるが,とるべき救済手段について,先ほども話にあったように,複数の手段を相互の関係の検討もしないままに,ただたくさん掲げている。すごい答案になると,五つか六つくらい羅列して書いているという答案があり,このような答案は少なからず見受けられたというところが,残念だった。ベストの方策は何なのか,せいぜい,予備的にどうするか,ぐらいまでだと思うところであるが,ただたくさん羅列しているというところが,実務家としては残念だなと思った。もう一点は事実への当てはめが十分できていない答案があったことである。例えば執行停止の要件も,法律の条文の要件を挙げるだけで,全く本件事案への当てはめをしていないといったものも散見された。この辺はやはり,実務家になるための試験ということを考えると,少し残念だなという印象を持ったところである。

今,補足された点について,さらに,ややしつこいとも思うが,申し上げる。いろいろな訴訟方法を羅列するという点について,今回の設問1の(1)で言うと,普通,行政訴訟であれば,行政処分をつかまえて取消訴訟を起こし執行停止を求めるというのが,実務家的,実務的には当たり前の話である。ただ,それが行き過ぎている面もあって,行政訴訟はもっと多様であるべきではないかと学者は指摘しているところであるし,また,先般の行政訴訟法改正もその方向であった。とはいえ,基本は取消訴訟である。とにかく基本は取消訴訟であるということが分かっておらず,いろいろ新しい,改正行政訴訟法でもって新しく付け加わったものを一つ一つ全部吟味するという,そういったタイプの答案が相当程度あり,これもやはり法科大学院での教え方の一つの問題かなという気がした。

救済手段が網羅的過ぎるということと、あてはめが無いという指摘。
これは救済手段をたくさん書きすぎて、あてはめを書く余裕を失っているということである。
この点は、事前の演習量の差が出るところである。
事前の演習が足りないと、どの手段が本筋かわからず、数打って当てることを狙うしかなくなる。
今の時期にでもできることは、演習書や論文問題集の解答例を読み流すことである。
1問1問解くのは時間的に無理なので、問題を見て即、解答を読むわけである。
これだけで随分、本筋の手段が見えるようになる。
ここで筋違いの手段を検討すれば、配点を丸々落とすことになりかねず、結果酷い点になる。
かといって、網羅的に手段を検討すれば、あてはめができなくなり、やはり酷い点になる。
これが、冒頭で述べた点差が開く原因となっている。

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