新司法試験考査委員ヒアリングからみる
傾向と対策(民法・民訴法)

大大問形式は廃止か

これまでのところ、民事系においては大大問形式が採られてきた。
民法・民訴法について、同一事例を素材にして出題する形式である。
しかし、今年度の出題では、この形式は採られない可能性が高い。
作問する考査委員の方から、もうやめてくれという声が出ているからである。

大大問という出題形式については,昨年も賛否両論の議論があったと思うが,今年は更に出題形式として大大問には限界があるという意見が,圧倒的多数とまでは言えないとしても,相当多数になってきている。
すなわち,大大問の趣旨は,総合的な力を試すことであるが,実際は複数分野の設問の寄せ集めに近い接合問にすぎないのではないか。しかも,どうしても,やや無理をして一つの問題にしていることから,事案が不自然になりがちではないか,と言われている。
それから,大大問の形式では問える内容に大きな制約が加わる。とりわけ問題の後半の設問は,前半の基本部分が固まるまでは詰められない。作問のスタートが遅くなり,作業の効率がかなり悪い。さらに,この点に関しては,民事訴訟法からも述べられると思うが,受験生が,出題されそうな論点に山を張ってくるおそれもある。今回の設問2のような,融合問で出題しにくい問題については,受験生もおざなりな勉強しかしていなかったのではないかという感想・指摘があった。いずれにしても,融合問を続けていくのは問題があるのではないかという意見が多数あった。

今後の出題については,大大問という形式に関しては,民事訴訟法担当の考査委員からは悲鳴に近い声が上がっている。廃止することも検討すべきだという意見もある。その理由は,形式面というよりも内容面からで,法科大学院の修了生の多くは,融合問題を問うだけの水準に達していないのではないか,むしろ,個別分野の重要な制度を確実に理解しているかを試す問題を出題すべきではないかという意見が複数あった。

従って、今年度の民事系第2問は、民法と民訴が別々の事例による設問形式になるのではないか。
その場合、平成19年度のような超長文の事例問題とはならないだろう。
民法と民訴で別の事例を用意しなければならないからである。
個々の事例の長さは、他科目と同程度の分量とならざるを得ない。

新司法試験の問題は、徐々に旧司法試験の問題に近づいてきている。
これは、当初の理念と現実のギャップを埋めていく過程で生じてきている。
「法科大学院の修了生の多くは,融合問題を問うだけの水準に達していない」との指摘が象徴的だ。
そのうち、事例分析以前に基本的法制度の理解が欠けている、そちらの方を重視すべきだという指摘も出てくるだろう。
そして、問題文の短縮化、ひいては基本的な制度を端的に問う形式などが検討されるかもしれない。
その行き着くところは、旧司法試験のような出題形式である。

考査委員は要件事実重視

上記のように、大大問形式が廃止されると、個々の科目の事例は短くなる。
しかし、それでもそれなりの長文が出されることは予想される。
その際、分析のツールとして、要件事実の発想を用いることが有効である。
そして、明示的に要件事実を用いると、考査委員には好印象のようである。

長い問題文を丁寧に読むという出発点において,まだ十分な力がついていない者が多いと思う。それから,設問1は,要件事実そのものを問うているのではないが,要件事実を意識していれば,必要不可欠な事実の拾い出しは,実は容易だったはずである。法科大学院では要件事実の基礎の教育が行われるべきものとなっているが,その点,やはり十分できていないように思われる。今回の問題は,要件事実そのものを問うているものではないが,要件事実の的確な整理や分析を行っている答案には,プラスアルファとして高い評価を与えることとした。しかし,残念ながらそのような答案が非常に少なかった。これが原因の一端となって,読み取りと当てはめの力が足りないように思われたのである。

要件事実には批判もある。
しかし、考査委員は、要件事実を重視しているようである。
「プラスアルファとして高い評価を与える」と明示している。
ヒアリングで、このように明示的に加点すると言っている部分は珍しい。
そうであるなら、論文を書く側としても、要件事実を重視して書いた方がよい。
旧司法試験でも、要件事実を用いて答案構成をする受験生はそれなりにいた。
しかし、答案化するにあたっては、あえて論点ごとに整理する書き方をするのが一般的だった。
旧司法試験では、多くの論点を手際よく処理した方が、評価が高かったからである。
だが、新司法試験ではむしろ、露骨に要件事実を書いた方がよい。
また、平成18年度のように、要件事実を直接絡めた出題も今後考えられる。
要件事実の勉強は、直前期に意識してやっておいた方がよい。
もっとも、頭から要件事実を暗記するのは、無理なのでやめるべきだ。
むしろ、事例問題を答案構成する際に、テキスト等を見ながら要件事実に沿って整理してみる。
何問かやっているうちに、重要なものは何度も参照することになるので、自然に頭に入ってくる。
本番で使うのは、その部分だけにしておけばいい。
無理に全てを要件事実で書く必要はない。
「残念ながらそのような答案が非常に少なかった」とあるように、できなくても合否に直結するわけではない。

事例処理の訓練をしておく

事例問題の処理が出来るようになるには、要件事実等の知識だけでは足りない。
事例処理の訓練が必要不可欠である。
現状、法科大学院生はこれが不十分である。

文書が箇条書きのようにぶつ切りで,論理に脈絡のないものもあり,また,誤字が非常に多かったり,極めて読みにくい略字を使ったり,あるいは走り書きになっている答案もあった。およそ他人に読んでもらう文章を書くという試験以前の常識に欠けている答案が少なくないと感じており,このことは非常に大きな問題である。

上記のようなことが起きるのは、分析不十分のまま見切り発射で答案を書いたからである。
自分でよくわからないまま書いているときというのは、字も雑になる。
さらに、その都度考えながら書かなければならないため、時間不足になって、殴り書きになる。
これは、事例処理の訓練不足が原因である。
この訓練方法としては、事例問題をたくさん解くのが一番良い。
旧司法試験の問題でいいので、出来る限りたくさん解く。
その際は、答案構成までにとどめるべきだ。
いちいち答案を書き上げていては、数をこなせない。
1問15分くらいを目安にして、答案構成をどんどんこなしていく。
時間切れになったら、そこで答えを見て、何を見落としていたか確認し、すぐ次の問題にかかる。
これは、直前期に数日やるだけでも、十分効果がある。

民訴〜理由付けとあてはめを意識的に

民訴については、理由がないという指摘が多い。

採点の結果は,やはり芳しくなく,何の理由付けもなしに,この場合のXは本書の成立の真正の立証負担を免れるとするものが多数を占めていた。

採点実感であるが,「支払済みの200万円は返してもらう」旨のXの発言は,主要事実であるとする立場を採用するものが多数を占めていたが,なぜそういう立場を取るのかを論じることなく,当然の前提として答案を書いているものがかなりあった。

自白の当事者拘束効,撤回禁止効については,その根拠に論及するものは,むしろ少数であった。

昨年度の民訴法は、結果的に基本論点が訊かれていた。
しかし、その基本論点を書けば大丈夫なのか、やや判断に迷う問題文だった。
(考査委員にはどうもその意識はなかったようであるが。)
そのため、手探りで答案を書いていくことになり、結果として理由付けが落ちたのではないかと思う。
とはいえ、論文式試験の鉄則は、「理由+結論」である。
基本形は、「〜から、〜と考える」という形式。
それを念頭においていれば、手探りであっても、制度趣旨などのキーワードでだましだまし理由付けはできたはずである。
たとえば、自白の当事者拘束効・撤回禁止効については、「禁反言」の一言でも最低限理由付けできる。
理由は書いたか書いていないかでかなり差が付くので、この点は意識的にやるべきだろう。
普段の勉強において、論点の理由付け・制度趣旨を一言で言うと何かということを考える習慣をつけるとよい。

それから、あてはめができていないという指摘がある。

設問2(2)については,一般的・抽象的なところはかなり書かれていたわけで,その点ではまずまずという出来栄えだったが,やはり,事例に即して論じるということについては,物足りないものが多かったように思う。
これは昨年の試験もそうであったと記憶しているが,法科大学院で勉強する際に,一般的・抽象的に説かれる理論を具体的事例に適用しながら理解するという姿勢を持ちつつ指導を受けるという基本姿勢に欠けるところがあり,それが原因ではないかと思う。
この点は授業を担当する者としては注意しなければならないと自戒しているところである。

これについては、民訴法特有の事情があるかもしれない。
旧司法試験において、民訴法は1行問題の出題が多い。
事例問題も出題されるが、実質単一論点問題であることが多い。
事例処理・あてはめを主眼とした出題は少ない。
演習書等もそういう傾向がある。
そのため、民訴で事例処理を練習する素材は少ない。
しかし、新司法試験では事例処理・あてはめが民訴でも問われている。
そうである以上、答練・問題集等で事例処理型の問題があれば、意識的にやっておく必要がある。

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