新司法試験考査委員ヒアリングからみる
傾向と対策(商法)

今年度は難化か

昨年度の商法は、会社法の典型論点組み合わせと言っていい出題だった。
会社法の改正部分もほとんど入っていなかった。
その意味で解き易い問題だった。
そのあたりは、考査委員もよく認識している。

今年の問題は設問1が新株発行無効事由の存否,設問2が経営判断原則の下での取締役の会社に対する責任の存否という,比較的オーソドックスな問題を中心に問うものであったため,両設問とも,解答のポイントを極めて大きく外れているという答案は余りなかったというのが委員の多数の印象である。この点では,設問の1つの方について,重要なポイントを完全に見落としていた答案が多数あった昨年とは,若干事情が異なっていた。

考査委員も「昨年は比較的オーソドックスな問題だった」と思っている。
そうすると、「今年度はちょっとひねってみよう」と思うのが通常だ。
従って、今年度の商法は、ややひねった問題、解きにくい問題が出そうである。
また、近年の旧司法試験と新司法試験は、改正事項をずっと避けてきた。
もはや、会社法改正の絡まない事項は出尽くした感がある。
よって、今年は、会社法改正がある程度絡んだ部分が出る可能性がある。

論点組み合わせは論点の数、論証の正確さで決まる

昨年度の問題は、基本論点組み合わせ問題である。
その場合、採点は予備校答練に似た評価になりやすい。
すなわち、論点をどれだけ拾ったか、論証は正確かである。

どの点で差がついたかであるが,設問1では新株発行無効事由となるかもしれない瑕疵など,法的な問題点が複数あるので,それをどれだけ見いだしているか,また,それぞれの瑕疵ごとに,何が法的問題かを正確に議論しているかどうかで差がついている。

非常にわかりやすい。
もっとも、前述のように、今年度は単純な論点組み合わせとは一味違った問題が出そうである。
そのため、ちょっと今年度の対策としては参考にしにくいかもしれない。
とはいえ、論点組み合わせがまた出る可能性もないわけではない。
その場合は、予備校答練と同じように、落ち着いて論点を拾い、正確かつコンパクトに論証すれば足りる。
なぜコンパクトか。
それは、多論点問題の場合、一つの論証が長いと、他を書く時間とスペースがなくなる。
それなりに考えて配分すると、結果的にコンパクトにならざるを得なくなるということである。

商法は意外に判例が重要

商法においては、あまり判例を使うという意識を持っている受験生は少ない。
というより、判例を使えるほど理解・記憶している受験生自体が少ない。
だが、商法においては、考査委員の方で判例を重視している感がある。

経営判断の原則については,学説や判例上いろいろな定式の仕方があり,どれか一つの定式を採って議論することが駄目だということではないが,多くの裁判例では,経営判断を下すに至るまでの情報収集分析において尽くすべき注意と,下した経営判断の内容それ自体の合理性という,二つの側面について考えているわけであり,そういう定式を採ることを支持するかどうかはともかく,そういうことについて何らかのあいさつはされていることは必要とされているのではないかと思う。ところが,単に経営判断の原則で取締役の裁量の幅は広いと,単にそのことだけを言っている答案も少なくなく,判例の列挙が十分ではないと感じた。

ポイントは最後の部分、「判例の列挙が十分ではない」という部分である。
他の科目のヒアリングにおいて、判例の列挙を要求しているものはない。
これは、珍しいことである。
実は、商法とりわけ会社法については、旧司法試験の頃から判例が重視されていたようである。
その根拠は、旧司法試験の出題の趣旨にある。
他の科目では、「判例」という文言自体、ただの一度も出てこない。
しかし、商法第1問の出題趣旨には、たびたび「判例・学説の状況を理解した上で」の文言が出てくる。

(平成15年度旧司法試験商法第1問出題趣旨)

本問は,株式会社の行う取引又は取締役の行為について,取締役会の決議を要求する商法規定の適用範囲に関する問題である。具体的には,事例として挙げられている取引・行為が,多額の借財その他の重要な業務執行(商法第260条第2項),取締役・会社間の利益相反取引(同法第265条)又は取締役の競業取引(同法第264条)に該当するか否かについて,各規定の趣旨,適用対象に関する判例・学説の状況を理解した上で,整合的に論述することが求められる。

(平成16年度旧司法試験商法第1問出題趣旨)

本問は,株式会社において違法な新株発行が行われた場合に,不利益を受ける旧株主には,商法上どのような救済手段が存在するかを問う問題である。具体的には,株主総会の特別決議を経ることなく,株主以外の者に対し特に有利な価額で新株が発行された場合に,旧株主は,当該新株発行の効力を争うことができるか,関係者の民事責任を追及することができるか,当該新株発行事項の公示がされていなかった場合はどうかについて,判例・学説の状況を理解した上で,整合的に論述することが求められる。

(平成17年度旧司法試験商法第1問出題趣旨)

本問は,取締役・監査役の報酬等に関係する株主総会の決議について,どのような法的問題があるかを問うものである。具体的には,退職慰労金の支給に報酬規制が及ぶか否か,取締役と監査役の報酬規制の違い,任期途中に職務内容に変更が生じた取締役の報酬額変更の可否,新株予約権の有利発行規制と報酬規制の関係等について,制度の趣旨と判例・学説の状況を理解した上で論述をすることができるかどうかを見る点に主眼がある。

「判例・学説」とあるが、学説の優先順位は判例よりも低いはずである。
従って、考査委員としては、少なくとも判例は押さえて欲しいと思っているはずだ。
その意味では、判例をしっかりと押さえ、答案で列挙できればそれなりに評価は上がるだろう。
しかし、そこまで準備できる受験生はほとんどいない。
また、紙幅の面からいっても、判例をいくつも列挙するなど無理だろう。
現に、旧司法試験の商法でも、結果的に判例を書いたかどうかはそれほど合否に影響していないように思われる。
従って、ムキになって判例を覚えたりする必要は無い。
ただ、会社法は判例が意外と重要だということを、頭の片隅において勉強しておく。
それくらいでいいだろう。

資料は全部使う

新司法試験になって最も旧司法試験と変わったのは、詳細な資料が付いていることだ。
当然のことながら、考査委員は無駄な資料をわざわざ添付したりしない。
従って、解答する側も、全部使って当然である。
しかし、実際にはそれが出来ていない受験生が多かったようだ。

資料に付けた意見書と報告書については,一見したところ,取締役の経営判断の合理性を肯定する方向と否定する方向の相反する方向を向いているので,両方をそれぞれ正確に分析した上で,両方を総合するとどういう結論になるのか,ということが議論される必要がある。しかし,それぞれの資料の分析がそもそも正確ではなかったり,一方の資料だけに基づいて結論を出している答案などが少なからずあり,そのあたりで差がついていたように思う。

この手の評価資料を使うポイントは、粗い要約から詳細な分析という手順を踏むことだ。
まずは、全体を一言で言うとどういう表現になるか。
そこから、少しづつ詳しく肉付けをしていく。
そして、答案のスペースを考えて適度な量になれば、それを答案に書く。
資料分析の苦手な人ほど、いきなり詳細な分析をし始める。
そうすると、ああでもないこうでもないと、自分の頭の中で評価が二転三転することになる。
まずは全体を大掴みにすることを意識すべきである。
来年度もほぼ間違いなく資料が付いてくる。
資料分析が苦手な人は、練習が必須といえる。

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