最新下級審裁判例

仙台地裁判決平成20年01月31日

【事案】

 堤人形の制作家である原告A及び同人が設立した原告有限会社Bが,被告らの人形制作,販売等の行為によって,原告Aが有している著作権,商標権を侵害し,同時に誤認混同等の不正競争防止法違反行為をしたとして,著作権法,商標法及び不正競争防止法に基づいて製造,販売等の差し止め,侵害組成物廃棄等の請求並びに不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

【判旨】

 著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項1号),ここに創作性は,人間の知的活動の成果として,著作者個人の工夫した表現について認められると解される。
 したがって,既存の著作物に基づいてそのまま機械的に表現した物及び既存の著作物と同一性を保ちつつこれに多少の修正,増減等を加えた物は,著作権法上,既存の著作物を有形的に再製した複製物(同法2条1項15号)に該当するから,これらの物に創作性を認めることはできない。

 商標の本質は,自己の営業に係る商品を他人の営業に係る商品と識別するための標識として機能することにあり,この自他商品の識別標識としての機能から出所表示機能,品質保証機能,広告宣伝機能が生ずるものである。商標法は,「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって,業として商品を生産し,証明し,又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」であれば,前記のような自他商品の識別標識としての機能を有すると否とにかかわりなく,すべて商標である旨定義し(第2条),商標権者は,指定商品について登録商標を使用し(25条),あるいは指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用する者等(37条)に対し,当該商標権に対する侵害として,その侵害の停止等を請求することができる旨規定する(36条)が,同法1条に定める同法の目的,3条の商標登録の要件についての各規定及び前記商標の本質に鑑みれば,同法における商標の保護は,商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し,その本来の機能を発揮できるよう確保することにあると解すべきである。
 したがって,登録商標と同一又は類似の商標を商品について使用する第三者に対し,商標権者がその使用の差止等を請求しうるためには,前記第三者の使用する商標が単に形式的に商品などに表されているだけでは足らず,それが,自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。

 不正競争防止法2条1項1号は,「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し…他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争と規定しているが,同号の趣旨は,人の業務に係る商品の表示について,同表示の持つ標識としての機能,すなわち,商品の出所を表示し,自他商品を識別し,その品質を保証する機能及びその顧客吸引力を保護し,もって事業者間の公正な競争を確保するところにある。
 この趣旨を踏まえるならば,同号の不正競争行為というためには,単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず,それが商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし,そのような態様で用いられていない表示によっては,周知商品等表示の出所表示機能,自他商品識別機能,品質保証機能及び顧客集引力を害することにはならないからである。

 不正競争防止法2条1項2号は,「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示…する行為」を不正競争と規定しているが,同号の趣旨は,著名な商品等表示について,その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに,その出所表示機能及び品質表示機能が希釈化により害されることを防止するところにあり,それ故に,同号は,自己の「商品等表示」として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用する行為を不正競争行為としている。
 この趣旨を踏まえるならば,同号の不正競争行為というためには,単に他人の著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず,それが商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし,そのような態様で用いられていない表示によっては,著名な商品等表示の顧客吸引力を利用し,出所表示機能及び品質表示機能を害することにはならないからである。

 

京都地裁判決平成20年02月29日

【事案】

 トラックと停車中の乗用車の間に挟まれる交通事故によって左足関節開放性脱臼骨折及び肋骨骨折を受傷し,被告が設置する病院に救急搬送されたD(以下「亡D」という。)が,心タンポナーデを発症して死亡したのは,同病院の医師らが,亡Dに心タンポナーデを発症する徴候があったのに,これを見逃し,必要な検査及び処置をしなかった過失,及び,心タンポナーデを発症した後,適切な措置をとらなかった過失が原因であるとして,亡Dの相続人である原告らが,被告に対し,不法行為(民法715条)に基づく損害(亡Dから相続した損害及び原告ら固有の損害)の賠償として,原告Aにつき金3803万0009円,原告C及び原告Bにつき各金1901万5004円,並びにこれらに対する不法行為による損害発生の日(亡Dが死亡した日)である平成17年3月4日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案。

【判旨】

 被告病院医師の過失がなかった場合,亡Dを救命できた高度の蓋然性を認めることはできない。しかし,心停止時間は現実の20分間よりも短くて済んだことは明らかであるから,亡Dが死亡した平成17年3月4日においてもなお生存していた相当程度の可能性はあるというべきである。
 ところで,疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が,その過失により,当時の医療水準にかなったものでなかった場合において,その医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば,患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。(最高裁判所平成12年9月22日第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁参照)
 よって,被告は,民法715条によって,亡Dが死亡の時点でなお生存していた相当程度の可能性を侵害されたことによって生じた損害を賠償する責任がある。

 

福岡地裁小倉支部判決平成20年03月05日

【判旨】

 捜査機関は,j署における同房者からの事情聴取の結果をふまえ,房内での被告人の会話内容をその同房者を通じて聴取する目的で,同房者が再逮捕される機会を利用して,同人を,被告人が勾留されており,また,その収容定員から2人が必然的に同房になるa署に留置勾留するように依頼し,その同房者を,当時弁護人以外の者との接見等が禁止された状態で勾留中であった被告人と意図的に同房にした。
 さらに,起訴後も拘置支所に移監することなく,代用監獄への勾留を続け,意図的に同房状態を継続した。

 a署における同房者の事情聴取に当たっては,7月16日の最初の事情聴取時に,同房者に対して被告人には内密にするように依頼し,同房者が了承した上で,以後ほぼ連日同房者から事情を聴取している。実際にも,同房者は被告人から聞いた内容を捜査官に伝えていることを被告人に知らせていない。
 捜査側は,同房者からの事情聴取にあたって,同房者に対して質問依頼をしたり,捜査情報を与えたりしないよう配慮しているが,同房者は,その供述によれば,同房者自ら被告人に質問して被告人の犯行告白を聞き出したというのであり,その供述する会話の状況からは,日ごとに積極的に被告人に働きかけ,時には自ら聞き出した内容のメモを作成し,被告人に「殺した事実はまちがいありません」等の文章をメモに記載させるなど,同房者の事情聴取に当たった警察官をしても,被告人に対して何らかの働きかけをしていくことは余り望ましくないとの感想を持つ程に,積極的に捜査に協力したと評価できる。
 このような同房者の態度は,偶々同房になった者が吐露した犯行告白を聞いたというような状況とは異なり,捜査側の意を酌んで,聞き出した内容を捜査側に伝えることをあらかじめ意図して,しかも,被告人にはその意図を秘したまま,積極的に質問して被告人の「犯行告白」を得たものといえる。しかも,先に指摘したとおり,同じ房に留置して強制的に二人切りとなる状況を作出した上,その状態を相当な期間継続して,いわば必然的に会話を交わすようにしむけた状況の下で,同房者を捜査側に協力させて,被告人から話を聞き出させたということができる。そして,同房者からの事情聴取を担当する専従班を作り,事情聴取する態勢を取ってほぼ連日事情聴取を行い,同房者を介して,被告人の房内での様子を詳細に把握した。
 逮捕勾留が被疑者の取調べのために存するとの立場によっても,身柄拘束を不当に犯罪捜査に利用することを許容するものでないと考えられるが,本件では,上記に指摘したとおりの状況にあり,被告人は房内での留置時においても自らはそれと知らされないまま,同房者を介して捜査機関による取調べを受けさせられていたのと同様の状況に置かれていたということができ,本来取調べとは区別されるべき房内での身柄留置が犯罪捜査のために濫用されていたといわざるを得ない。

 前記同房者は,捜査側の意図を酌んで,房内において被告人に発問するなどし,その結果,被告人から犯行告白を含む自己に不利益な事実を聞き出し,その内容は,同房者を介して調書化され,同房者が公判廷で供述する事態となった。
 被告人の側からすれば,房内で同房者を信じて話をするにあたり,その話した内容が将来犯罪事実認定の証拠となり得ることなど全く想定しておらず,むしろ,捜査側には伝わらないことが前提となっていて,自己に有利か不利益かを考慮した上で話すような状況になく,当然のことながら,話をする際に黙秘権や供述拒否権を告知されるようなことはない。

 上記のとおり,捜査官にそのまま伝達するという意図を隠して同房者により聞き出された犯行告白に果たして供述の任意性があるのか疑問である上,同房者を捜査協力者とし,同人を介して,当該被疑者の房内での犯行告白を得るという捜査手法によって得られた供述には虚偽が入り込む危険が高いと言わざるを得ない。すなわち,犯行告白を聴取する同房者は一私人であって,捜査官のような事情聴取能力や聴取した事情を把握する能力に裏付けがあるわけではなく,同房者も逮捕あるいは勾留によって身柄を留置され,捜査機関の捜査を受け,捜査機関に自らの処分を委ねている立場にあるから,無意識的にであれ,捜査機関に迎合するおそれが内在していることは否定できない。本件についてみても,同房者は,窃盗及び覚せい剤取締法違反の被疑事実で勾留され,余罪がどれくらい立件されるか等について捜査機関に委ねられている状況にあったが,先の認定事実によれば,同房者は,捜査側から質問要望を受けたり,捜査情報の提供を与えられたことはなかったにしろ,同房者自ら捜査側の意を酌んで積極的に捜査に協力する姿勢をみせており,弁護人指摘のとおり,その全体的な供述は捜査機関が客観的な証拠を有している部分についてのみ不自然に詳細であるようにも見え,同房者が公判廷で述べる被告人の不利益供述が全てそのとおりされたものであるか否かには疑いが残る。
 したがって,被告人の犯行告白には供述の真実性を担保する情況的な保障がなく,むしろ虚偽が入り込む危険性が指摘できる。

 検察官は,同房者が被告人から犯行告白を受けた行為には,被告人に暴力,あるいは脅迫や偽計を行い,または利益を提示するなどして犯行告白を迫ったといった事情は一切認められず,あくまでも同房者は被告人との私人間の会話の中で,被告人からその自由意思により犯行告白を受けたものに過ぎず,私人間の会話であれば,供述の強制の排除を目的とする黙秘権の保障や自白法則は問題とならない旨主張する。
 しかし,検察官の主張は,形式的に同房者は捜査官ではないといっているに等しく,先に指摘したとおり,本件では,捜査機関が身柄拘束を利用して2人を同房にし,捜査側から要望したり捜査情報を提供したことはないにしろ,捜査側の意を酌んだ同房者が,捜査側に伝える意図を被告人には隠して,被告人から自白に相当する犯行告白を得ているといえるのであって,捜査機関が身柄拘束を利用して私人間の会話に名を借りて被告人の自白を獲得したと評価でき,本件を私人間の会話と同視することはできない。

 当裁判所も,同房となった者から,その者が体験した容疑者との会話内容など,容疑者に関する事情を参考聴取すること自体は,任意捜査として許されるものであると考えるし,その有用性を否定するものでもない。しかし,本件のそれは同房者からの参考聴取といえるものではなく,被告人の告白を直接同房者を通じて得ようとする捜査手法であり,先に指摘した諸点に照らすと,被告人の告白が真実であることの情況的保障がなく,虚偽自白を誘発しかねない不当な方法であって,その結果得られた犯行告白に任意性を認めることはできない。のみならず,本件の捜査手法は,身柄留置を犯罪捜査に濫用するものであり,他の捜査手法を用いることが困難であったということもできないから,適正手続の観点からも捜査手法としての相当性を欠くといわざるを得ない。そもそも本件捜査においては,被告人と犯行を直接結びつけるような客観的な証拠がなく,いきおい被告人の自白がほとんど唯一の証拠となりうる事案であり,その任意性の担保について捜査上特段の留意を払うべき事案であると考えられ,現に,被告人が窃盗容疑で逮捕されて以来,弁護人から別件逮捕であるとの主張や,余罪取調べの違法など種々の申立がされており,検察官は捜査指揮に当たって慎重な配慮を要する事案であったと考えられるのに,本件のような捜査手法を選択し,被告人の犯行告白を得て,同房者供述によってそれを立証しようというのであって,その証拠能力を認めることは,将来における適正手続確保の見地からしても相当でないと考える。
 以上のとおり,同房者供述のうちa署で被告人から聞いたとする犯行告白部分については,任意性に疑いがあり,その証拠能力を認めることはできない。

 

福岡高裁判決平成20年03月12日

【事案】

 本件は,一審被告のバス運転士として雇用されていた一審原告が,乗客の遺留したバスカードの領得等を理由に懲戒解雇されたことにつき,一審原告が,一審被告による巡視,事情聴取及び懲戒解雇は違法であると主張して,一審被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,459万0029円(逸失利益219万0029円,慰謝料200万円,弁護士費用40万円)及び内419万0029円に対する懲戒解雇の意思表示があった平成17年□月□日から,内弁護士費用相当額40万円に対する本訴状送達日の翌日である平成18年□月□日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。
 原審は,懲戒解雇は解雇権を濫用した違法なものであると判断して,一審原告の請求を289万0029円(逸失利益219万0029円,慰謝料50万円,弁護士費用20万円)と遅延損害金の限度で認容したが,その余は失当として棄却した。そこで,当事者双方がこれを不服として控訴した。

【判旨】

 本件非違行為@,Aは,就業規則60条3号の「上長の職務上の指示に反抗しもしくは会社の諸規程,通達などに故意に違反しまたは越権専断の行為をしたとき」に該当し,さらに同行為@は11号の「会社の現金,乗車券その他有価証券もしくは遺失物処理規則に定める遺失物を許可なく私用に供しまたは供そうとしたとき」に当たるということができる。本件非違行為@については,乗客の遺留物を領得するというチャージに類似する悪質な事案であり,その後,乗客からの申し出があり,本件1万円バスカードは乗客に返却されたものの,W2課長らにより非違行為の確認がされた結果にすぎず,乗客からの届け出が遅れていた場合には,一審被告の信頼喪失につながったともいえるのであり,これを軽視することはできない。
 また,本件非違行為Aについても,敢えて「乗務の手引」等の処理に反する行為をしたともいえるものであって,結果的には乗客や一審被告に実害が生じていないとしても,いずれも一審原告の運転士としての適格性を疑わせる服務規律違反というべきである。他方,一審被告の運行する路線バスはワンマンバスであって,会社の監視の目が届かないため,運転士が乗客から受け取る運賃やバスカードを着服する,いわゆるチャージ事件が発生しており,一審被告においては,これを撲滅するため,労使双方による適正化委員会を設置したり,入社時教育や業務常会で指導・教育を行ったり,チャージ事件の発生時には運転士に文書でこれを周知させるなどの対策を講じ,また,チャージ事件を起こした運転士に対しては,懲戒解雇という厳しい処分で臨んでいたこと,一審原告は,入社時教育や業務常会への参加等を通じて,一審被告がチャージ事件については被害額が少額であっても懲戒解雇とする方針でありこれを実行していたことを知っていたこと,一審被告では,労使間で締結した労働協約において,懲戒解雇は労使協議会で決定する旨を規定しているところ,一審被告労働組合は,本件非違行為@,Aを理由に一審原告を懲戒解雇することを承認していること,以上の事実が認められ,これらの事実をも併せ考えると,一審被告が一審原告に対して懲戒解雇に及んだことには合理的理由があり,本件解雇は社会通念上相当として是認することができ,解雇権を濫用したものということはできない。したがって,本件解雇をもって違法ということはできない。

 労働基準法20条1項は,解雇予告の除外事由として労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合を規定するところ,本件非違行為@,Aは重大な服務規律違反ないし背信行為ということができるから,本件解雇は一審原告の責に帰すべき事由に基づく解雇に当たり,即時,解雇の効力が生じたというべきである。ところで,同条3項,19条2項は,解雇予告の除外事由について行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受けなければならないと規定するが,これは,行政監督上の見地から行政官庁が行う事実の確認手続にすぎず,除外認定の有無・内容は解雇の効力に何らの影響も及ぼさないと解すべきである。そうすると,本件解雇につき除外認定がなかったからといって,本件解雇が違法無効となるものではない。

 

札幌高裁決定平成20年03月12日

【判旨】

 相続人が数人あり,その者らが限定承認をした場合,家庭裁判所は,相続人の中から相続財産管理人を選任しなければならないとされる(民法936条1項参照)。その場合の相続財産管理人は,相続人のために,これに代わって,相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をすると定められている(同条2項参照)から,相続財産に関して訴訟を提起しようとする場合であっても,特に家庭裁判所の許可を得る必要がない(なお,上記の相続財産管理人は,同条3項において準用されている926条2項,918条2項によって相続財産の保存に必要な処分を命じられた同条3項の相続財産管理人ではないから,民法28条,103条による制限を受けない。)。

 

大阪地裁判決平成20年03月18日

【事案】

 都市型立体遊園複合施設フェスティバルゲート内の飲食店舗用賃貸区画を賃借して飲食店舗を経営している原告が,(1) 賃貸人であり,本件施設を実質的に運営管理していた被告らに対し,原告経営の飲食店舗の収益が上がらず損失を被ったところ,これは,被告らが,賃貸借契約締結の際,本件施設は成算の見込みがなかったのにその旨の告知を怠り,誇大な広告等で詐欺的勧誘をしたことや,本件施設の開業後においても,過大な警備費の支出を漫然と継続して,遊戯施設の更新等の営業努力を怠り,本件施設の営業日や営業時間を短縮したり,空き店舗を放置し,残存店舗の立ち退きを求めたりするなどの背信的運営を行ったことによるものであるとして,共同不法行為ないしは賃貸借契約上の債務不履行に基づき,連帯して,原告経営の飲食店舗に係る,@当初投下費用合計3億8977万5287円及びこれに対する不法行為後の日(賃貸借契約を締結した日の翌日)である平成9年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(請求1項),A 累積赤字1億6247万4448円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(請求2項)の支払を求めるとともに,(2) 被告大阪市に対し,B 被告大阪市が申立てをした原告賃借区画の明渡しを求める調停事件や仮処分命令申立事件の際に,名誉ないし信用を毀損されたとして,不法行為に基づき,慰謝料1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求3項)と謝罪広告の掲載(請求4項)をそれぞれ求めている事案。

【判旨】

 契約関係に入ろうとする者は,信義則上,互いに相手方に不測の損害を生ぜしめることのないように配慮すべき義務を負い,賃貸借契約に際しては,賃貸人になろうとする者は,賃借人になろうとする者が当該物件を賃借するか否かを判断する上で重要な考慮要素であって,賃貸人になろうとする者が知っていたか,又は容易に知り得た事実については,賃借人になろうとする者に対し説明・告知すべき義務を負うと解するのが相当である。
 本件のような商業ビルの賃貸借契約において,賃借希望者の最大の関心は,賃借物件における営業によりどの程度の収益を得ることができるかという点にあり,賃貸人の事業との相乗効果を期待するのが通常であるといえるから,契約締結の際,賃貸人が賃借希望者に対して提供する事業内容等に関する情報は,賃借希望者が契約を締結するか否かを判断するための重要な情報の一つというべきである。特に,本件施設は,単なる事務所ビルや商業ビルとは異なり,遊戯施設を集客の核とし,そのシャワー効果で物販店及び飲食店舗が潤うという構造の複合的商業ビルであることからすれば,遊戯設備と物販店や飲食店が有機的に一体として設計されており,賃借人は,本件施設全体の収益活動の一部として活動することが予定されているということができる。
 また,本件賃貸借契約書及び本件営業管理規によれば,賃借人は,営業日・営業時間を変更することができず(本件営業管理規則8条4項),本件施設建物内及びその敷地の指定する箇所,場所,方法以外に商号,店名,その他の表示,広告・案内板を設置したり,事前の承認なしに本件施設内で行事・催事及びフェスティバルゲートの名称を使用する広告を行ったりすることができない一方で(本件賃貸借契約書16条6項,本件営業管理規則9条,11条2項),運営管理会社や本件施設が行う共同の行事・催事・広告については,運営管理会社の決定に従い,必ず参加しなければならない上に(本件営業管理規則11条),開業協力金や販売促進費等を支払わなければならないこと(本件賃貸借契約書10条)になっていることが認められることからすると,賃借人は,独自の営業活動を制限されるため,本件施設の集客力に依存せざるを得ないばかりか,一方的に本件施設の事業に協力する義務までも負っているのであり,各賃借人の収益は本件施設の運営及び集客力による影響を避けられない関係にあるということができる。
 このように,本件のような複合遊戯施設においては,賃借人にとって,遊戯施設全体の集客力及び収益性が自らの営業活動に直結するにもかかわらず,こうした情報は賃貸人側に集中している点や,遊戯施設全体の収益性は賃貸人の事業内容や営業努力等により容易かつ大きく左右される点に特殊性があり,賃貸人が十分な情報を提供しなかった場合には,出店の可否に関する経営判断について賃借人に全責任を負わせることは当事者間の公平を著しく害するものといわざるを得ない。
 さらに,本件施設の敷地が被告大阪市が信託した市有地であって,本件施設の事業目的が被告大阪市の交通事業の経営の安定に資することなどにあることからすれば,条理上,受託銀行らには,本件施設を経済的合理性に基づき運営することが期待され,そのような期待を前提に本件施設の賃借を希望する者に対し,本件事業の概要や実績等本件事業の収支に関連する事項について十分に説明することが要請される。
 このような,本件施設の目的や性質,構造,運営実態,当事者の能力の格差等に照らせば,受託銀行らには,出店希望者に対し,本件事業の計画や実績など受託銀行らが有する情報であって,出店者の収支予測に重大な影響を与えるものを十分に説明・告知し,出店希望者が出店の可否の判断を誤ることのないように配慮すべき信義則上の義務があるというべきである。

 本件施設におけるような店舗の賃貸借契約においても,賃貸人である受託銀行らと賃借人である原告は,基本的にはあくまで主従関係の存在しない独立した事業体であり,賃借人は,本来,自己責任に基づく判断と営業努力により経営を行うものであって,賃借人になろうとする者が,施設全体が経済的な合理性をもって運営されるであろうと信頼していたとしても,それは賃貸人の事業の反射的効果にすぎないから,賃貸人は,そのような信頼関係から賃借人に対する関係で,直ちに法的な意味での営業努力義務を負うとまではいえない。
 ・・・この点について,原告は,東京地裁平成10年9月30日判決を引用し,賃貸借契約における賃貸人の義務は,一義的には目的物件を使用収益させることであるが,単に賃借人の使用を容認すれば足りるというものでなく,目的物件を賃貸借契約によって定まった使用収益に適した状態におく義務を負うことを前提にした上で,本件施設内の店舗(とりわけ飲食店舗)は,全体としてアミューズメント施設として,遊戯施設・機器と融合し一体性を持つことなどを理由に,黙示的にあるいは信義則上,営業努力義務や営業日・営業時間維持義務を負う旨の主張をする。
 しかし,賃貸借契約における賃貸人の本来的義務は,目的物件を賃借人に引き渡し,第三者が賃借人の使用収益を妨害していれば,これを排除するという消極的な義務に止まるものと解するのが相当であるところ,東京地裁平成10年9月30日判決の事案は,本件と事案が異なるばかりか,そこで示された賃貸人の義務とは,各貸室に至る共用通路や階段,エレベーター等の移動経路についても,貸室への出入りが常時支障なくできるようにするという内容であって,上記のような賃貸人の本来的義務の延長線上にとどまるものといえる。逆に,原告の主張は,実質的には,賃貸人に,目的物件での賃借人の経営を成り立たせ,利益を上げさせる義務を負わせるに等しく,上記のような賃貸人の本来的義務からは外れるものといわざるを得ない。

 本件施設は,遊戯設備と物販店や飲食店が有機的に一体として設計されているといえ,賃借人は,本件施設全体の収益活動の一部として活動することが予定されている。また,賃借人は,独自の営業活動を制限されるため,本件施設の集客力に依存せざるを得ないばかりか,一方的に本件施設の事業に協力する義務までも負っているのであり,各賃借人の収益は本件施設全体の運営及び集客力による影響を避けられない。
 このように,本件のような複合遊戯施設においては,賃借人にとって遊戯施設全体の収益性が自らの営業活動に直結するにもかかわらず,こうした情報は賃貸人側に集中している点や,遊戯施設全体の収益性は賃貸人の事業内容や営業努力等により容易に,かつ大きく左右される点に特殊性がある。
 また,本件施設の敷地である本件土地が被告大阪市が信託した市有地であって,本件施設の事業目的が被告大阪市の交通事業の経営の安定に資することなどにあることからすれば,条理上,受託銀行らには,本件施設を経済的合理性に基づいて適正に運用することが期待される。
 したがって,事業内容に関する情報を把握している賃貸人が,事業計画が杜撰であり,事業成績が不振であるにもかかわらず,これらを秘して漫然と運営を継続したことにより,賃貸人の営業の影響を受ける賃借人が,賃貸人の営業状況を随時的確に把握することができない結果,退店の判断を含む経営判断を誤り,損害を受けたような場合には,賃貸人は賃借人に対し不法行為に基づく損害賠償責任を免れないというべきである。

 民法719条の「共同の不法行為」とは,行為の客観的関連共同性があれば足りると解されるところ,客観的関連共同性とは,結果の発生に対して社会通念上全体として1個の行為と認められる程度の一体性があることが必要であり,かつこれを以て足りるというべきである。

 調停や仮処分命令の申立てが,相手方に対する違法な行為といえるのは,当該申立てにおいて申立人の主張した権利や法律関係が事実的,法律的根拠を欠くことが明白である上,申立人がそのことを知りながら,または,通常人であれば容易にそのことを知り得たのに敢えて申し立てたなど,当該申立てが制度の趣旨や目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
 また,調停や仮処分命令の申立て等における主張立証行為は,その中に相手方の名誉や信用を毀損するような部分があったとしても,それが訴訟における正当な弁論活動と認められる限り,違法性を阻却されるものと解すべきであり,当初から相手方当事者の名誉を毀損し,又は相手方当事者の信用を害する意図で,ことさら虚偽の事実又は当該事件と何ら関連性のない事実を主張する場合や,あるいはそのような意図がなくとも,相応の根拠もないままに,訴訟追行上の必要性を超えて,著しく不適切な表現で主張し,相手方当事者の名誉を害し,又は相手方当事者の信用を毀損する場合などには社会的に許容される範囲を逸脱したものとして違法性を帯びるものというべきである。

 

京都地裁判決平成20年03月25日

【事案】

 原告が被告らに対し,被告Aは,平成17年8月3日当時,被告京都市において勤務し,その職務執行に際して原告の婚姻歴を知ったことから,同日,原告の元妻であるBに原告の婚姻歴を漏洩したが(以下「本件漏洩行為」という。),原告はこれによって合計780万円の損害を被ったとして,被告京都市に対しては国家賠償法1条1項に基づき,被告Aに対しては不法行為に基づき,上記損害のうち300万円及びこれに対する本件漏洩行為の日である平成17年8月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案。

【判旨】

 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて・・・」と規定し,職務執行要件を国家賠償責任の要件としている。そして,同条は公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも,客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって,他人に損害を加えた場合には,国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて,ひろく国民の権益を擁護することをもって,その立法の趣旨とするものと解すべきであり(最高裁昭和29年(オ)第774号同31年11月30日第二小法廷判決・民集10巻11号1502頁),また,その職務執行の外形を備える行為とは,職務執行行為及び職務執行行為と一体不可分な行為とともに,職務執行行為を契機とし,社会常識上これと密接な関連を有すると認められる行為も含めるのが相当である(民法715条に関する最高裁昭和44年(オ)第580号同年11月18日第三小法廷判決・民集23巻11号2079頁,最高裁昭和44年(オ)第743号同46年6月22日第三小法廷判決・民集25巻4号566頁,最高裁昭和45年(オ)第528号同48年2月16日第二小法廷判決・民集27巻1号132頁各参照)。
 ところで,本件漏洩行為は,被告Aがその職務を終えて自宅に帰宅した後にBに電話をかけて行った行為であり,被告Aの被告京都市における職務と時間的・場所的関連性が乏しく,少なくとも,職務と時間的・場所的に密接に関連しているといえないことは明らかである。
 また,被告Aが本件漏洩行為を行ったのは,被告AとBとの個人的つきあいを背景としてなされたというべきであり,本件漏洩行為の動機,原因と被告Aの被告京都市における職務との関連性は認められない。
 なお,原告は,被告Aは,被告京都市の職務において原告のプライバシーにかかる事項を知った点を強調する。しかし,公務員が違法な行為をなすに至った動機やその原因となった背景事情が職務を契機とするものではなく,単に,職務における情報を利用したというにとどまる場合には,それはまさに行為者と被害者の間の個人的紛争にすぎず,その間で解決されるべき法律関係といえる。したがって,被告Aが被告京都市の職務において原告のプライバシーにかかる事項を知った事実をもって,被告Aの本件漏洩行為が職務執行行為を契機とするものであるなどと評価することはできない。

 

大阪地裁判決平成20年03月27日

【事案】

 原告が被告らに対して,所有権に基づいて別紙明渡目録1〜4各記載の建物の明渡しを求めるとともに,占有権原を喪失した日の次の日である平成19年4月1日から上記各明渡済みまで不法行為に基づいて損害金(被告部落解放同盟大阪府連合会A支部につき使用料相当額月額5万4116円,その消費税相当額月額2705円,光熱費相当額月額5802円の月額合計6万2623円,被告部落解放同盟大阪府連合会B支部につき使用料相当額月額5万2063円,その消費税相当額月額2603円,光熱費相当額月額5243円の月額合計5万9909円,被告部落解放同盟大阪府連合会C支部につき使用料相当額月額5万9055円,その消費税相当額月額2952円,光熱費相当額7699円の月額合計6万9706円,被告部落解放同盟D支部につき使用料相当額月額7万1553円,その消費税相当額月額3577円,光熱費相当額6252円の月額合計8万1382円)の支払を求める事案。

【判旨】

 地方自治法(平成18年法律第53号による改正前のもの。)238条の4第1項は,行政財産は,同条2項に定めるものを除くほか,これを貸し付けたり,これに私権を設定することはできないとし,同条3項は,これに違反する行為を無効としている。したがって,仮に原告が,大阪府連及び被告らとの間で,行政財産である本件各事務室部分を被告らに継続的に貸し付けることを内容とする本件各合意をしたとしても,それは上記各条項に違反する無効なものであり,本件各合意は,占有権原にはなり得ない。

 地方自治法244条2項は,「公の施設」について,普通地方公共団体が正当な理由のない限り,住民の利用を拒んではならないと規定するが,これは,住民がその所属する普通地方公共団体の提供する役務をひとしく受ける権利を有すること(同法10条2項)に鑑み,行政財産のうち,住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供された公の施設について,住民の自由な利用を保障した点にあると解される。
 この趣旨に照らせば,同法244条2項の規律に服するのは,住民の利用に供するための施設を,その設置目的に基づいて使用する場合に限られ,それ以外の場合には,同法238条の4第7項の目的外使用許可の問題として処理するのが相当である。そして,公の施設の設置及び管理権限は普通地方公共団体の長にあり(同法149条7号),公の施設に関する事項は,原則として条例で定めるとされている(同法244条の2第1項)ことからすれば,当該施設が住民の利用に供されるためのものか否かは,当該施設に関する条例の規定や当該施設の使用・管理の実情などを考慮して判断すべきであり,この判断は,当該施設のある建物(本件では,本件各センター)全体についてではなく,当該施設(本件では,本件各事務室部分)ごとに行うべきである。

 地方自治法238条の4第1項は,行政財産は,原則として,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し又はこれに私権を設定することができないとし,同条6項は,これに違反する行為を無効とする。その一方,同条7項は,行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるとし,行政財産の目的外使用許可の制度を定めている。
 目的外使用許可の制度が定められた趣旨は,行政財産が,本来,公益を増進するという行政目的を達成するために用いられるべきものであることから,その使用による行政目的の達成を確保するとともに,他方で,行政財産によっては,本来の用途又は目的外に使用させても,その用途又は目的を妨げないばかりか,場合によっては,行政財産自体の効用を高めることもあることから,当該目的以外の使用に供しても本来の使用目的が阻害されない例外的な場合に,当該行政財産の効率的な利用を可能にしようとした点にあると解される。
 このような目的外使用許可の制度が定められた趣旨に加えて,行政財産が,本来,行政目的達成のために使用されるものであり,地方自治法も目的外使用許可について具体的な要件を定めることなく,「その使用を許可することができる。」(同法238条の4第7項)とし,同条9項は,行政財産の目的外使用許可をした場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたときは,これを取り消すことができるとしていることからすれば,普通地方公共団体の長は,当該行政財産につき目的外使用許可の申請があったとしても,これを許可すべき義務を負うものではなく,当該行政財産の性質,これにより達成しようとする行政目的の内容,公用又は公共用に供する必要の生ずる見込み,当該許可をした場合に予想される支障の程度及び当該許可の相手方が享受する利益の性質など諸般の事情を総合的に考慮してその可否を判断することが予定されていると解すべきである。
 そして,これを判断するに当たり,普通地方公共団体の長には要件及び効果の双方において広い裁量があるというべきであり,目的外使用の不許可処分が違法となるのは,普通地方公共団体の長がかかる裁量権を逸脱濫用した場合に限られ,裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解すべきである。

 

大阪地裁判決平成20年03月27日

【事案】

 西大阪鉄道の施行する都市計画事業(本件事業)に係る事業計画予定地の近隣住民である原告らが,本件事業認可(都市計画法59条4項)には,その前提となる都市計画決定に騒音に関する環境影響評価その他の手続等に誤りがあるほか,本件事業認可そのものにも実体的,内容的な瑕疵があるから違法であるとして,その取消しを求めた事案。

【判旨】

 処分の取消しを求める訴えを提起できるのは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られるが(行政事件訴訟法9条1項),このような法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させることなく,これが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟の原告適格を有するものというべきである。
 そして,処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものといえるか否かは,根拠法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮しなければならず,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,被侵害利益の内容及び性質並びに害される態様及び程度も勘案しなければならない(同条2項)。
 ・・・都市計画法の規定及び環境基本法,環境影響評価法,本件府条例,本件市条例等の各規定の趣旨及び目的を考慮すれば,都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は,そのような事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とし,違法な事業に起因する騒音,振動等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益を保護しようとするものと解される。上記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この利益は一般的公益の中に吸収,解消させることが困難なものといわざるを得ない。よって,都市計画法及び関係法令の規定を通じて,都市の健全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益的見地から都市施設の整備に関する事業を規制するとともに,騒音,振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される。
 したがって,都市計画事業の事業地の周辺に居住又は勤務する者のうち,当該事業が実施されることにより,騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し,その取消訴訟について原告適格を有するというべきである(最高裁大法廷平成17年12月7日判決・民集59巻10号2645頁参照)。

 都市計画法は,都市計画事業認可の基準の1つとして,事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから(61条1号前段),都市計画事業認可が適法であるためには,その前提となる都市計画が適法であることが必要である。
 都市計画法は,都市計画について,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条),都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず,当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書),都市施設について,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号,こ) のような基準に従って都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに当たっては,当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると,このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって,裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法とすべきものと解するのが相当である(最高裁第一小法廷平成18年11月2日判決・民集60巻9号3249頁)。

 

青森地裁判決平成20年03月27日

【事案】

 有限会社A(以下「A」という。)に対して名義貸しを行ったことを理由として,青森県知事から青森市域外における産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可の取消処分(以下「本件各先行許可取消処分」という。)を受けた上,本件各先行許可取消処分を受けたことにより,青森市長からも同市域における一般廃棄物収集運搬業の許可の取消処分並びに同市域における産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可の取消処分(以下,両取消処分を併せて「本件各後行許可取消処分」という。)を受けるとともに,同市域における特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更(以下「本件事業範囲変更」という。)の不許可処分(以下「本件変更不許可処分」という。)を受けた原告が,原告がAに対して名義貸しを行った事実がなく,これを認定するに足りる証拠がないにもかかわらず,青森県知事が違法に本件各先行許可取消処分をし,青森市長がこれに基づき違法に本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分をしたなどと主張して,青森県知事がした本件各先行許可取消処分の取消しを求める(2号事件)とともに,青森市長がした本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分の各取消し並びに同市長に対する本件事業範囲変更の許可の義務付けを求めた(4号事件)という事案。

【判旨】

 行政行為が段階的に連続して行われる場合であっても,行政上の法律関係をできるだけ早期に確定させてその安定を図る要請があることからすると,行政行為の瑕疵はそれぞれ独立して審理判断されるべきものであって,仮に取消訴訟の対象となり得る行政処分に瑕疵があったとしても,それが取り消されない限りはこれを有効なものとして取り扱い,原則として,先行している行政行為の違法(瑕疵)は当然には後行の行政行為に承継されないものと解するのが相当である。
 しかしながら,後行の行政行為の処分行政庁において,先行の行政行為の適否を審査する権限がなく,先行の行政行為に拘束されて後行の行政行為をすることを義務付けられているなど特段の事情がある場合には,例外的に,先行の行政行為の違法性が後行の行政行為に承継されるものと解するのが相当である。

 

名古屋高裁金沢支部判決平成20年04月07日

【事案】

 本件は,白山市長であるAが同市の職員を同行して白山ひめ神社御鎮座二千百年式年大祭(以下「本件大祭」という。)の奉賛会発会式に出席し白山市長として祝辞を述べたところ,白山市の住民である控訴人が,上記行為(以下「本件行為」という。)は,特定の宗教を助長,援助,促進する効果があり,政教分離原則に違反し違憲であり,これに伴う公金支出は違憲・違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,白山市の執行機関である被控訴人に対し,Aに対して,上記支出額相当の損害賠償金1万5800円及びこれに対する平成18年3月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を白山市に対して支払うよう請求することの義務付けを求めた住民訴訟の控訴審である。原審は,控訴人の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

【判旨】

 憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。そして,ある行為が「宗教的活動」に該当するかどうかを検討するに当たっては,当該行為の主催者が宗教家であるかどうか,その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則ったものであるかどうかなど,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意義の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁参照)。
 これを本件についてみると,白山ひめ神社は,宗教団体に当たることが明らかであり,本件大祭は,平成20年に白山ひめ神社の鎮座2100年となることを記念して行われる祭事であって,同神社の宗教上の祭祀であることが明らかである。また,大祭奉賛会は,会員から志納された奉賛金等を白山ひめ神社に奉納して,上記の本件大祭の斎行及びこれに伴う諸事業(本件事業)を奉賛することを目的として,白山ひめ神社が中心的に関与して結成され,同神社内に事務局を置く団体であり,その目的としている本件事業は,上記祭祀(本件大祭)自体を斎行することであるとともに,これに併せて,禊場,齋館,手水舎等,上記神社の信仰,礼拝,修行,普及のための施設を新設・移設し,同神社の神社史を発刊することを内容とするもので,同神社の宗教心の醸成を軸とし,神徳の発揚を目的とする事業とされているのであって,かかる本件事業が宗教活動であることは明らかであるし,これを目的とする大祭奉賛会が宗教上の団体であることもまた明らかというべきである。
 そして,本件発会式で,大祭奉賛会会長が「崇敬者の総力を結集して,奉賛事業が遂行されるよう」との挨拶を述べ,宮司も「崇敬者各位の協賛によって諸事業が完遂され,本件大祭が盛大に奉仕できるように協力を賜りたい」旨の言葉を述べ,参会者一同が,事業達成のため尽力することを誓い合い,本件発会式を祝ったことが認められるのであるから,本件発会式は,上に判示した大祭奉賛会の本件事業を遂行するため,すなわち,本件大祭を奉賛する宗教活動を遂行するために,その意思を確認し合い,団体の発足と活動の開始を宣明する目的で開催されたものであると認めるのが相当である。
 そうすると,白山市長であるAが来賓として本件発会式に出席し,白山市長として祝辞を述べた行為(本件行為)は,白山市長が,大祭奉賛会が行う宗教活動(本件事業)に賛同,賛助し,祝賀する趣旨を表明したものであり,ひいては,白山ひめ神社の宗教上の祭祀である本件大祭を奉賛し祝賀する趣旨を表明したものと解するのが相当であるし,本件行為についての一般人の宗教的評価としても,本件行為はそのような趣旨の行為であると理解し,白山市が,白山ひめ神社の祭祀である本件大祭を奉賛しているとの印象を抱くのが通常であると解される。また,Aは,大祭奉賛会及び本件発会式が前記趣旨・目的のものであることを認識,理解していたものと認められ,したがって,同人は,主観的にも,大祭奉賛会が行う本件事業を賛助する意図があったものと推認され,ひいては,本件行為が白山ひめ神社の祭祀である本件大祭を奉賛するという宗教的意義・効果を持つことを十分に認識,了知して行動したものと認めるのが相当である。
 もっとも,本件発会式は,白山ひめ神社の境内ではなく,同神社外の一般施設で行われたものであり,また,それ自体は,神道の儀式や祭事の形式に基づいていたものではなく,宗教的な儀式とはいえないと解されるけれども,これらの点を考慮に入れても,上記認定判断は左右されないというべきである。また,一般に,市長が,上記説示のような発会式に出席し,市長として祝辞を述べる行為が,時代の推移によって宗教的意義が希薄化し,慣習化した社会的儀礼にすぎないものとなっているとは到底認められないし,一般人が社会的儀礼の一つにすぎないと評価しているとも到底考えられない。
 以上によれば,本件行為は,本件事業ひいては本件大祭を奉賛,賛助する意義・目的を有しており,かつ,特定の宗教団体である白山ひめ神社に対する援助,助長,促進になる効果を有するものであったといわなければならない。

 地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上,当該地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において,長又はその他の執行機関が各種団体等の主催する会合に列席するとともにその際に祝金を主催者に交付するなどの交際をすることは,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,上記事務に随伴するものとして許容されるというべきである。そして,地方公共団体が住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていることなどを考慮すると,その交際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったからといって,直ちに許されないこととなるものではなく,それが,地方公共団体の上記の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,当該地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されると解するのが相当である。しかしながら,長又はその他の執行機関のする交際は,それが公的存在である地方公共団体により行われるものであることにかんがみると,それが,上記のことを目的とすると客観的にみることができず,又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には,当該地方公共団体の事務に含まれるとはいえず,その費用を支出することは許されないものというべきである(最高裁平成18年12月1日第二小法廷判決・民集60巻10号3847頁参照)。
 これを本件についてみると,本件行為は,上記の長のする交際としての行為に該当するところ,本件行為の意図,目的は,宗教活動である本件事業ひいては本件大祭を奉賛,賛助する意義・目的を有していたものと認められるから,地方公共団体がその役割を果たすために相手方との友好,信頼関係の維持増進を図るという目的からは逸脱するものであったことが明らかというべきである。また,市長が特定の宗教団体の宗教上の祭祀を奉賛する事業遂行のための組織の発会式に出席し,祝辞を述べ賛同・賛助を表明する行為は,宗教的意義が希薄化し,慣習化した社会的儀礼にすぎないものとなっているとは到底いえず,社会通念上儀礼の範囲を逸脱しているというべきである。

 以上判示したところを総合すれば,白山市長であるAが来賓として本件発会式に出席し,白山市長として祝辞を述べた行為(本件行為)は,その目的が宗教的意義を持ち,かつ,その効果が特定の宗教に対する援助,助長,促進になる行為であると認めるべきであり,これによってもたらされる白山市と白山ひめ神社とのかかわり合いは我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであって,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たり,許されないものというべきである。

 本件各財務会計行為のうち,控訴人が違法な支出であると主張するのは,「白山市長の報酬費,随行秘書課長の給料,公用車運転職員の給料,公用車燃料等の費用」の各支出であるところ,同各支出の当時,報酬,給料,職員手当及び燃料費に係る財務会計行為の権限を法令上本来的に有していたのは,白山市長の職にあったAであったが,白山市においては,報酬,給料,職員手当,需用費・燃料費に関する支出命令は,いずれも主務課長に専決させることとされ,主務課長が専決により上記各支出に係る支出命令をしたと認められる。
 上記のように,Aは,自己の権限に属する上記各財務会計行為を補助職員に専決により処理させたのであるから,その指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により違法な財務会計行為を阻止しなかったと認められる場合に限り,白山市に対し違法な公金支出によって白山市が被った損害を賠償する義務を負うことになると解すべきである(最高裁平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照)。
 しかるところ,Aは,宗教団体である白山ひめ神社の宗教上の祭祀である本件大祭を奉賛するために開催された本件発会式に来賓として招かれ,白山市の職員を伴い,同市の公用車を使用して出席し,白山市長として祝辞を述べ,賛同・賛助を表明した(本件行為)もので,その行為は憲法20条3項に違反するという重大な違法性があり,かつ,Aは,上記行為が本件大祭を奉賛,賛助するという宗教的意義・効果を持つことを十分認識,了知しながら本件行為に及んだものと認められるのであるから,同人は,上記の本件行為に関して公金を支出することは違法であることを認識し,あるいは,認識し得たものであって,これに係る財務会計行為・公金支出がなされることのないよう専決権者等を指揮監督すべき義務を負っていたというべきである。しかるに,Aは,上記指揮監督上の義務に違反して,故意又は過失により,専決者が上記財務会計行為をすることを阻止しなかったものと認めるのが相当であるから,同人は,白山市に対し,上記義務懈怠によって白山市が被った損害として,本件行為に伴う違法な支出金相当額を賠償する義務を負うというべきである(なお,仮に,Aが,本件行為は政教分離原則に違反しないと信じていたとしても,それについては過失があったと解するのが相当であるから,上記判断を左右するものではない。)。

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