平成20年度旧司法試験択一の感想

全体について

5月11日、旧司法試験短答式試験が実施された。
問題は、法務省HPにて公開されている

印象としては、ここに来て出題傾向が変わったな、という感じである。
出題形式自体は旧来からのものである。
しかし、出題内容でこれまでは訊いて来ないようなものが散見された。
最初は新司法試験に合わせた傾向かとも思った。
だが、新司法試験の傾向とも違う。
知識問題は異常に細かく、勉強をしていても取れない問題。
論理問題は、肢を利用すると簡単に解ける問題。

これは、かつて丙案が導入された頃の傾向に似ている。
当時の意図は知識は無いが要領のいい若手を採ることにあった。
今年についても、同じような趣旨に基づくものかもしれない。
旧司法試験受験生は高齢化してきている。
普通に試験をすると、合格者年齢が異常な高齢となりかねない。
そこで、かつての丙案時代のノウハウを用いて、高齢化に歯止めをかけようとしたのではないか。

しかし、これは逆効果となる可能性が高い。
なぜなら、旧司法試験受験生には丙案時代からの受験生も多いはずだからである。
また、今の予備校は、細かい知識問題、肢をうまく使う論理問題などを多数答練で出題している。
長期受験者は、これらの問題を飽きるほど解いている。
従って、高齢の受験者ほど、今年の出題傾向には驚かず、高得点が取れた可能性が高い。
むしろ、今年初受験の学部生などは、「何なんだこれは」と衝撃を受けたはずである。

憲法について

受験生にとっては嫌な問題が多かった。
まず、穴埋め問題。
これは憲法独特の穴埋めである。
特徴は、穴と選択肢の数が多いこと、肢を使うと解きやすくなることである。
憲法の穴埋めは、刑法のように後ろの文章から論理的に埋めるものではない。
先に解答肢に挙がっている語句をチェックし、それを入れてみて不自然かを判断するものである。
そのように解くと、挙がっている語句群の数が多くても、実はあまり関係がない。
また、解答肢に挙がっていない穴は、埋める必要がない。
そして、解答肢に挙がっている語句群の中には、その穴を埋めるにはおよそ不適当なものも少なくない。
例えば、今年度の第2問の(F)に、ニの「委任」が入ることはあり得ない。
「委任革命」などという言葉はないからである。
従って、解答肢の1の(F)ニの部分は誤りということになる。
また、第5問の(I)の穴につき、解答肢5では、サ違憲無効が挙がっている。
しかし、それを入れると、「違憲無効として無効」となる。
これでは、「腹痛が痛い」と同じである。
形式的に入り得ない。
こういった手がかりをうまく使えば、かなり短時間で解ける。
もっとも、今年に関しては「最も多く含む組み合わせ」を選ばせる問題だった。
そのため、すぐには肢を切れない。
受験生にとっては気分の悪い問題だっただろう。
肢をうまく使えなかった人は、時間不足になって解き易い刑法を落とす原因を作ることになる。

そして、知識問題が解きにくかった。
恒例の個数問題が5問。
心理的には、これだけでも嫌である。
さらに、内容的にも難しかった。
裁判官弾劾法の知識や、9条・安全保障の政府見解の知識を個数で訊いてきた。
9条絡みの政府見解については、平成19年度の新司法試験短答式公法系第13問でも問われていた。
しかし、過去の旧司法試験において、このような政府見解の知識を問う問題は出題されていない。
しかも、全ての個数問題の肢の数が5つ。
例年だと、4つのものがあり、これはそれなりに取ることができた。
今年に関しては、個数問題は内容的にも形式的にも全て難問である(第13問はそれでも拾いたいが)。
従って、受験生の出来は相当悪いはずで、これらの問題は合否を左右しない。
とはいえ、受験生はこうしたところで動揺する。
むしろ、これらの問題を気にせずに、次の問題を平常心で解けたかが、合否に影響する。

全体的に、受験生を精神的に揺さぶる出題だったといえる。
そして、これは、かつての丙案時代の手法である。
すなわち、要領の悪い人は最初に解く憲法でショックを受ける。
そして、後半の刑法をボロボロ落とす。
この手法を知っている受験生は、後ろから解いたりする。
古くからの受験生はそうやって今年も刑法から解き、優位に立った可能性が高い。

個数問題を全部落とすとして15点。
他をあと1問落とすとして、14点。
このあたりが合否を分ける防衛ラインになりそうな数字である。

民法について

民法も丙案時代を思わせる。
冒頭の第21問がいわゆる「地雷」問題である。
ちゃんと考えると解けそうにみえるだけに、時間をロスしがちだ。
人間の心理として、最初の問題を飛ばすのは抵抗がある。
それを利用した問題配置といえる。

この問題は、一見すると共同抵当と代位かと思う。
しかし違う。
債権が複数で、抵当不動産の競売代金が足りない場合の競売代金の配当の問題である。
これを解くには、最判昭和60・5・23最判平9・1・20及び最判平17・1・27を知らないと厳しい。
アは、9年判例から正しい。
イは、60年判例から誤り。
ウは、17年判例から正しい。
エは、60年判例と9年判例から誤り。
オは、9年判例と17年判例から正しい。
考えて解ける問題では、ないのである。
けれども、何となく考えさせる問題ではないか、現場思考問題ではないかと思わせる作りになっている。
この問題で時間をロスし、結局間違えた受験生は多かったのではないか。
なお、最判平17・1・27は、当サイト作成の平成17年度司法試験最新判例ノートに収録していた。

その他の問題も非常に細かい知識を訊く問題が多かった。
また、第32問のように一見何を訊いているのか分かりにくい問題もあった。
第32問は要するに事務管理を訊いている。
インコがしゃべったのは、野生ではないことが明らか、すなわち、当初から「他人のために」の要件は充たすという趣旨だろう。
そして、701条による650条3項の不準用から、エが誤り。
オはBの意思を知っており、「他人のために」を欠くことから正しい。
この時点で1か4に絞られる。
あとは、アとウの比較で、アの方が誤りだろう。
そういう形で、4が正解ということになると思う。
事務管理に気づかないと、訳が分からなくなる。

民法も難易度が高かった。
憲法から民法という通常の順番に解いていた人は、かなり動揺したはずである。

その中でも、確実に取りたいのは、24、25、26、27、28、31、33、37の8問。
何とか取りたいのは、22、29、32、35、38、39、40の7問である。
14点は死守したいところだ。

刑法について

最後の刑法。
これが易しかった。
しかし、ここにたどり着くまでに時間と集中力を使い果たしてしまった場合、厳しくなる。
それなりに現場で考える必要はあるからだ。
逆に、刑法から解き始めた人は、余裕を持って解けたはずである。

今年は、いわゆるαβ問題、すなわち複数論点をクロスさせた問題が再び出題された。
47、48、49、54がそうである。
第49問と第54問では、αβという記号が使われなかったが、実質はαβ問題である。
ただ、その難易度は低かった。
過去のαβ問題は、論点間の論理性まで問われていた。
すなわち、一つの論点である立場を採ると、必然的に他の論点で特定の立場を採れなくなるという部分である。
しかし、今年に関してはそれはなく、単に学生の会話を見て、あてはめればそれで足りた。
引っかかるとしたら、全ての学生が異なる立場に立つという前提を見落としている場合くらいだろう。
特に対策をしなくても、解けて当然の内容だった。

穴埋めも、45、50、59のように、頭から埋まってしまうような問題があった。
刑法の穴埋めは、後ろから論理的に逆算して埋めるから、意味がある。
頭から埋まってしまうのでは、ほとんど問題としての体をなしていない。
その意味で、これまでになく易しい問題だったといえるだろう。

そういう内容だっただけに、できれば満点を取りたい。
最低でも17点。
これを切るようだと厳しいだろう。

合格点は45くらいか

そうすると、合格推定点は、14−14−17=45点くらいということになる。
昨年の合格点が47点。
昨年よりは憲法・民法が難化しているから、2点くらいは下がって当然と思われる。
合格者数が減る分、合格点は上がるのではと思う人もいるだろう。
しかし、以前の記事で書いた通り、競争率は昨年とほぼ同じである。
合格者数減に対応して、受験者数も減るような形になっているからだ。
45点前後だと精神的に辛いかもしれないが、全力で論文の勉強をすべきである。

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