平成20年度新司法試験論文式の感想(民事系)

全体について

今年は、民法が単独問題、商法と民訴が融合問題となった。
意外な出題である。
融合問題については、ヒアリングで民法・民訴の考査委員からもうやめようという声が挙がっていた。
今年は、商法の考査委員がそれならということで頑張ったのかもしれない。
ただ、この出題はあまり何度も使えないと思う。
商法と民訴の融合分野は限られている。
そうなると、午前で民法が出た段階で、休み時間に午後のヤマを張られてしまう危険が大きいからだ。

民法について

非常に淡白な問題である。
問題文は旧司法試験よりちょっと長い程度。
特別な資料もない。
民法の考査委員は手を抜いたなという感がある。

内容的にも、論点を個別的に指示して書かせるだけのものだ。
設問1の(1)については、解除における「第三者」の範囲、善意・対抗要件の要否。
(2)については、解除による賃貸人の地位の移転の肯否、対抗するための登記の要否、賃借人の承諾の要否、賃貸終了に基づく返還請求の名宛人。
(3)については、信頼関係理論のあてはめ。
設問2については、賃貸不動産の共同相続と遺産分割による賃料の帰属である。

設問1については、ほとんど典型論点である。
若干問題がありそうなものは、設問2の部分である。
問題文に、「どのように相続財産の範囲を考えるかという問題や,遺産分割の効力との関係などの問題に言及するとともに,上記の見解に対する評価も示しなさい」という指示がある。
「相続財産の範囲」とは、相続後の賃料を含めるかという問題である。
「遺産分割の効力との関係」とは、遡及効(909条本文)との関係である。

賃貸不動産は共同相続された場合、共有となる(898条)。
そうすると、賃料債権は遺産分割されるまで、可分な金銭債権として相続人間に分割帰属することになる(427条)。
本問でいうと、BCに45万円ずつ分割帰属する。
では、遺産分割によりこれが変更されるか。

相続後の賃料が相続財産に含まれないと考えると、遺産分割の遡及効が及ばないと考えることができる。
そうすると、分割後もBCに分割帰属したままであるから、Bは45万円しか支払い請求できないことになる。
この場合、判例を支持することになる。
他方、相続後の賃料も相続財産に含まれると考えると、遺産分割の遡及効が及ぶと考えることができる。
そうすると、分割後はBに賃料全部が帰属することになるから、Bは90万円の支払いを請求できることになる。
この場合、判例は支持できないことになる。

もっとも、相続後の賃料が相続財産に含まれないとしても、賃料は賃貸不動産の果実である。
賃貸不動産が遡及的にBの単独所有となれば、果実たる賃料発生時に賃貸不動産はBの単独所有だったことになる。
そうすると、やはり賃料はBに帰属する、とも考えうる。
また、相続後の賃料が相続財産に含まれると考えても、遺産分割におけるCの意思は賃料に及んでいないと考える余地がある。
そうすると、やはり賃料は遡及効の影響を受けない、と考えうる。

以上のような論理性を示して、結論を述べればよいと思われる。

商法について

昨年はオーソドックスな典型論点組み合わせ問題だった。
今年は典型論点もあるものの、応用度は高い。
検討すべき問題点や法的手段が見えにくい問題文になっている。

設問1については、保証債務履行請求の可否と、株式交換の問題点が問われている。
前者については、保証が「多額の借財」にあたるか、保証契約が利益相反取引(間接取引)にあたるか。
また、それぞれについて取締役会の承認を欠いた場合の効力はどうなるか、といった論点を書く。
丙社の善意悪意については、Fの対応について具体的事実があるので、これを使ってあてはめる。
なお、保証債務の成立にあたって、主債務たる甲社の債務の成立も検討した方がいいように思える。
しかし、「甲社の資金繰りは悪化し,同年5月上旬からは,丙銀行に対する利払いが継続して滞る事態に陥った」とある。
すなわち、甲社債務の成立については争いなく支払いがされている。
従って、この点はあまり検討を要しないと思う。
後者については、株式交換無効事由を論じることになる。
具体的には、債権者保護手続の不遵守が無効事由となるか、不公正な対価が無効事由となるかを検討する。

設問2については、手形が出てくるが、手形の論点は全く無い。
出題の意図は、子会社が親会社に財産を流出させた場合の子会社債権者の保護だろう。
大きく分けて、流出した財産を取り戻す手段と、乙会社役員の責任追及という二つの方法を検討すべきである。

前者としては、まず、取引の無効を主張して、債権者代位権を行使する方法がある。
問題となるのは、利益相反取引による無効の会社債権者による主張の可否。
それから、代表権濫用による効果不帰属の会社債権者による主張の可否である。
いずれも否定することになるだろう。
次に、財産移転が乙社への利益供与(120条)ではないかという点。
さらに、分配可能額を超える乙社への財産流出は、違法な剰余金の配当とみなしうる余地がある。
この場合、丁社は債権者代位権を用いることなく、乙社に返還請求できる(463条2項)。
また、法人格否認の法理も考えられる。
ただ、書くとしてもなるべく短く収めたい。

後者としては、429条に基づく対第三者責任の追及を検討することになる。
具体的には、同条の法的性質との関係で、間接損害の賠償の可否、任務懈怠の内容を検討する。
ABの任務懈怠は容易に肯定できるが、Dについてはやや慎重に検討したい。

なお、問題文には、「債権侵害の不法行為」を検討しなくてよいとある。
429条は、これに含まれないか気になる。
だが、おそらく429条を書くなという意味ではないと思う。
民法の解釈論は書かなくてよいという程度の趣旨だろう。

民事訴訟法について

今年の民訴はあてはめ・事例分析よりも、論理重視の出題だった。

設問3については、判例自体を批判して否定するという方法もある。
しかし、それは出題意図からは外れるだろう。
判例の見解を前提にして、併合を認める論理を検討すべきである。
まず、判例が適用されない場合にあたるかを検討する。
判例は訴訟係属後について述べている。
従って、訴訟係属が生じていなければ、判例の適用外である。
そこで、訴訟係属の有無を検討する。
送達があるので、これは肯定することになろう。
次に、判例の例外として認める余地を検討する。
判例が指摘する弊害は本問の場合には生じないという主張である。
さらに、判例によって本問の主観的追加的併合が否定される場合の手続の検討がある。
本問の追加申立てを、新訴の提起と併合請求に読み替えることが考えられる。
この場合、解任請求が固有必要的共同訴訟であることから、裁判所に併合義務があると解しうる。
それも認められない場合には、当初の訴えを取り下げ、改めて併合提起することも考えられる。
しかし、それは迂遠であるから、当初の訴えの補正を認めるべきということになるだろう。

設問4の(1)については、4つの説を比較検討する。
比較であるから、論理ということになるだろう。
比較の視点としては、裁判長と修習生の会話の中で誘導がある。
以下の2点である。

●当事者が文書提出命令に従わないことで,申立人,相手方,裁判所にとって,どういう影響があるか
●命令に従わなかったことによって生じる不都合の解消手段として適切か

申立人の立証負担を重視すると、その解消手段としては軽減説、転換説となりやすい。
相手方の信義則違反を重視すれば、解消手段としては制裁としての擬制説につながりやすい。
命令不服従の評価はあくまで裁判所の自由心証に委ねるべきだと考えれば、心証説になりやすい。

(2)については、通常は、1項でア、3項は主要事実をどう考えるかにより、イ又はウということになると思われる。
ただ、本問では、「(1)で採用した考え方を前提に論じなさい」となっている。
従って、(1)で選択した説から論理的に説明できればよいのではないか。
どの説を採っても、論理必然的に結論が決まるところではないように思われる。
立証負担を重視した軽減説・転換説からだと、当該書証で立証しようとした範囲となりやすい。
制裁を重視した擬制説からは、制裁の必要性に応じて範囲を考えることになりそうだ。
心証説からは、弁論の全趣旨として広い範囲に及ぼすことも可能と思われる。

(3)については、合一確定の必要性から、結論的にはBにも224条3項の効果が及ぶということになるだろう。
問題は、提出命令違反をしていないBの手続保障との関係である。
擬制説以外の立場からは、Bにも主張立証の機会があることを強調すればよいだろう。
擬制説からは、少なくとも本問ではBは甲社の取締役であるから、同じ制裁を受けてもやむを得ないと説明すればよいと思われる。

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