平成20年度新司法試験論文公法系第1問参考答案

第1.設問1
1.委任立法の逸脱の主張
 フィルタリング・ソフト法(以下、「法」という)は、有害情報(2条2号)の具体的内容を内閣府令に委任しているが、法を受けた内閣府令1条2号ロは、「残虐な殺人、傷害、暴行、処刑等の場面又は殺傷による肉体的苦痛若しくは言語等による精神的苦痛を刺激的に描写し、又は表現しているものであること」を著しく残虐性を助長するものとしている。しかし、客観的に残虐な場面を映した映像を公表するにとどまる行為が著しく残虐性を助長するとはいえないから、法の委任の趣旨を逸脱した規定を設けたものであり、41条に反して違憲である。
2.表現の自由侵害の主張
(1) 検閲禁止違反
 検閲とは、表現行為に先立ち行政権がその内容を事前に審査し、不適当と認める場合にその表現行為を禁止することをいう。そして、表現行為とは、受領も含むと考えると、受領前に審査、禁止する行為も検閲に該当する。従って、法による閲覧規制は、検閲に該当する。そして、検閲は公共の福祉による例外を許さない。よって、法は検閲を禁止する21条2項に違反し、違憲である。
(2) 事前抑制禁止違反
 検閲に該当しないとしても、受領前の審査、閲覧禁止は事前抑制に当たる。事前抑制は表現の自由に対する抑止的効果が大きいことから、原則として許されないところ、例外とすべき特別の事情も無いから、法は21条1項に違反して違憲である。
(3) 限度を超えた制約
ア.制約限度
 表現の自由も公共の福祉(13条後段)の制約は受けるが、目的が正当であり、かつ、目的達成の手段が必要最小限度のものと評価できる場合に限られる。
イ.目的の不当性
 法は、子どもを有害情報から保護し、有害情報にさらされることを希望しない子ども以外の者(以下「非希望者」という)が有害情報にさらされることを防止することを目的とする(1条)。
 確かに、非希望者の利益は、消極的な知る権利として21条1項の保障が及ぶと考えられるから、一応の正当性を認めることができる。
 しかしながら、子どもについては、希望のいかんに関わらず、閲覧が制限される。これは、知る権利の制約であるだけでなく、送り手の表現の自由に対する制約ともなる。有害情報が子どもに与える影響については、未だ実証的な研究は不十分であり、送り手の表現の自由と、子どもの知る権利の双方を制約してまでなされるべきものとはいえない。
 よって、法の目的には正当性がない。
ウ.手段の必要最小限度性の欠如
(ア) 不必要な大人に対する制約
 法の目的によれば、大人は、非希望者を除き、何ら閲覧を制限されないはずである。
 にもかかわらず、法は、インターネット接続電子機器の製造段階等で適合ソフトを搭載させ、購入後に専ら大人が使用する場合で、購入しようとする者から適合ソフトを削除してほしい旨の申出があった場合に初めて適合ソフトを削除する仕組みを採っている。すなわち、適合ソフトの削除請求をするまでは、大人も一般的に制限の対象とされている。
 よって、必要のない範囲に規制が及んでいるから、必要最小限度とは認められない。
(イ) 過度に広範なウェブページへの閲覧制限
 法の目的によれば、有害情報の掲載されていないウェブページについては、閲覧制限をする必要がないはずである。
 にもかかわらず、法は、有害情報の掲載されたウェブページのみならず、これを含むサイト全体をも閲覧規制の対象としている(2条3号4号5号、5条)。すなわち、大半が有害情報を含まないサイトであったとしても、そのごく一部のウェブページに有害情報が掲載されていると、サイト全体が閲覧規制の対象となる。
 これは過度に広範なウェブページへの閲覧制限にほかならないから、必要最小限度とは認められない。
(ウ) 過度に広範な刑罰規定
 法の目的によれば、子ども又は非希望者が有害情報にさらされることを防止できれば足りるはずである。刑罰規定を設けるとしても、上記の具体的危険が生じない限り、処罰の必要性を欠くものというべきである。
 しかるに、法は製造業者及び販売業者に適合ソフト登載義務を課し(8条)、何人も適合ソフト削除プログラムの提供等をしてはならない(16条)とした上で、これに違反しただけで刑事罰を課している(17条)。8条違反については適合ソフト不登載のインターネット接続電子機器が現実に子どもの使用に供されたこと、16条違反については、現実に適合ソフトを削除されたインターネット接続電子機器が子どもの使用に供されたことがなければ、法の目的を害する具体的危険は認められない以上、法は不必要に広範な刑罰規定を定めているといえる。よって、必要最小限度とは認められない。
エ.結論
 以上から、法は21条1項に違反して違憲である。
(4) 適用の違憲性
 仮に法自体に違憲性が認められないとしても、Aに対する法17条及び16条1項2号の適用は、21条1項に違反する違憲な適用である。
 すなわち、本件サイトは平和問題と死刑存廃問題に関するサイトであって、何ら子どもに有害な影響を与えるものではない。確かに、見る人に不快感を与える可能性のある画像も掲載されていたが、そのような画像の表示前に、注意を促す文章を掲げていた。従って、非希望者は、そのような画像にさらされることはない。そして、本件サイトへの意見のほとんどは、平和や死刑の問題を真剣に考えるようになったというのであるから、有害どころか、有益なウェブサイトであったとすらいうことができる。
 にもかかわらず、このようなAを処罰対象として法17条及び16条1項2号を適用することは、Aの表現の自由を侵害する違憲な適用である。
第2.設問2について
1.委任立法の合憲性
 検察官の主張としては、客観的に残虐な場面を映した映像を公表するにとどまる行為であっても、閲覧者において著しく残虐性を助長する効果を有しうることが考えられる。
 子どもの保護という観点から考えるとき、思想性よりも映像そのものによって衝撃を受ける可能性が大きい。また、非希望者との関係で考えても、残虐な映像そのものを見たくないと考えていることが通常と考えられる。
 よって、法を受けた内閣府令1条2号ロは、委任の趣旨を逸脱して違憲となるものではない。
2. 表現の自由との関係
(1) 検閲・事前抑制との関係
 検察官の主張としては、法による閲覧制限は、発表後になされるということが考えられる。
 検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することをいい、公共の福祉による例外を許さない絶対的禁止であるとするのが判例である(税関検査事件判例)。
 21条2項が1項と別に特に検閲の禁止を規定したことから、絶対的禁止と解すべきであり、そう考える以上、ある程度狭義に捉えることも止むを得ない。従って、判例の見解が妥当である。
 そうすると、法は発表後に内閣総理大臣の指定によって閲覧制限がなされるものとしている(法5条)以上、検閲には当たらない。
 また、事前抑制が原則として禁止される趣旨は、発表前の事前審査であるために、濫用の危険及び萎縮的効果が大きいという点にある。そうである以上、事前抑制にあたるためには、発表前審査であることを要するというべきである。
 そうすると、法の閲覧制限は事前抑制にも当たらない。
(2) 規制の限度を超えているか
ア.制約の限度
 検察官の主張としては、法の定める閲覧制限は、子どもを対象としたものであり、大人一般に対するものではないから、表現の自由一般に対する制約とは異なり、必要最小限度性を要しないことが考えられる。
 表現の自由は、一般に、民主制の根幹をなし、不当に制約されれば民主制の過程で瑕疵を回復することが困難であることから、厳格な審査基準をもってその適合性を判断すべきである。
 もっとも、子どもが受領することを制限するために、付随的に表現行為が一部制約されるにとどまる場合には、厳格な審査基準によって判断することは適切でない。なぜなら、子どもは適切な判断能力を有しないから、自己加害を防止するための制約が許容される一方で、子どもは憲法上民主制の担い手ではなく(15条3項)、民主制の過程の瑕疵が生じることは考えにくいからである。
 よって、そのような規制についての合憲性の判定については、目的が正当であり、目的達成手段に合理的関連性が認められることを要し、それで足りる。
イ.目的の正当性
 検察官の主張としては、有害情報が子どもに悪影響を与えることは、社会共通の認識であることが考えられる。
 この点、確かに、有害情報が子どもにいかなる悪影響を与えるかは、必ずしも明らかになってはいない。
 しかし、立法は民意を基礎になされる以上、立法目的の正当性は社会通念に従って判断すべきところ、今日において有害情報が子どもに悪影響を及ぼすであろうことは、社会共通の認識となっているといってよい。その意味で、有害情報から子どもを保護することには正当性がある。
 よって、立法目的は正当といえる。
ウ.手段の合理的関連性
 検察官の主張としては、大人に対しても一定の制約が及ぶこと、有害情報の掲載されていないウェブページも閲覧できなくなること、及び具体的危険が生じていない段階で刑事罰が課されることは、いずれも受忍限度のものであって、合理的関連性を欠くものではないことが考えられる。
 まず、大人に対する制約としては、適合ソフトの削除請求を自ら行わなければならないことにとどまる。他方、フィルタリング・ソフトの認識が極めて低い現状にあっては、製造段階等であらかじめフィルタリング・ソフトを搭載させておくことは、フィルタリング・ソフトの普及に資する。これを考慮すると、合理的関連性を欠くとまではいえない。
 また、有害情報の掲載されていないウェブページであっても、有害ウェブサイトに含まれていると閲覧できなくなる点については、有害ウェブページの含まれるサイトは、子どもの健全な成長を阻害する情報を含むおそれが高いと考えられるから、これも含めて閲覧制限を設けることが合理的関連性を欠くとはいえない。
 そして、適合ソフト登載義務違反及び適合ソフト削除プログラムの提供等の禁止違反につき、直ちに刑事罰を課している点については、適合ソフトの不登載のインターネット接続電子機器や削除プログラムの流通は、一度それが生じると、その流通状況の把握は極めて困難であって、現実に子どもが利用しているかを確認していては実効性が保てないことを考えると、合理的関連性を欠くものとはいえない。
エ.結論
 以上から、法は21条1項に違反しない。
(3) 適用の合憲性
 検察官の主張としては、本件サイトが内閣府令1条2号ロにあたり、有害情報を含むものとして本件サイト全体が有害ウェブサイトとして指定されたこと、Aが法17条及び16条1項2号の罪を犯したことは明らかであるから、何ら法適用に違憲性はないことが考えられる。
 確かに、本件サイトは平和問題と死刑存廃問題に関するサイトであって、Aには何ら子どもに有害な影響を与える意図は無かったものといえる。また、見る人に不快感を与える可能性のある画像が表示される前に注意を促す文章を掲げている。さらに、遮断される以前に本件サイトに寄せられていた意見のほとんどは、画像を見てショックを受けたが、平和や死刑の問題を真剣に考えるようになったという。
 しかし、ウェブページは運営者の意図とは異なる目的で閲覧する者がいる。残酷な画像を欲する子どもが閲覧する場合もありうる。そのような子どもにとって、注意喚起の文章は無意味である。また、本件サイトの画像によって平和や死刑の問題を真剣に考えるようになったという者が多かったとはいえ、画像にショックを受けたことも事実であり、精神的に重大な衝撃を受ける子どもが生じるおそれは十分ある。
 以上を考慮すると、合憲的な法解釈の枠を超えた違憲な適用とまではいえない。
3.以上から、本問の法とその適用は合憲である。

以上

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